何も起こらないはずもなく…という話。
本日2話目の投稿です。
途中でクラインというプレイヤーが話しかけてきて合流したこと以外、特に大きなイベントはなく、僕とキリトは無事に買い物を終えてフィールドについた。
「俺の名前はクライン!そっちのイカしたあんたもよろしくな!」
「おお…いい人だ!よろしく!僕の名前は長ネギ丸!好きでも嫌いでもないのは消しゴムかなぁ」
「必要か?その情報」
「キリトお前、自己紹介素人か?いるいらないじゃない。自分を知ってもらうってのが大事なんだよ」
「なにを知れるんだよ好きでも嫌いでもないものを聞いてよ」
「まともに自己紹介できないやつってことが伝わるんでしょ」
「あーうん。じゃあ完璧だわ」
「でしょ?」
やらかしたキャラクリをバカにするでもなく、普通に受け入れてくれたクラインはきっといいやつだ。
僕の好感度が50くらい上がった音がする。
僕は満面の笑みでクラインの手を握った。
さて、ひとしきり自己紹介した後に行われた、僕とクラインという初心者に対するキリト先生のソードスキル初心者講座は恙無く進行したと言えるだろう。
たぶん。
きっと。
おそらく?
「ぬお…とりゃ…!うひぇぇぇ!」
「だははは!ぶははは!だっせぇぇぇえああああ!?ぶげら!」
奇妙な掛け声と共に適当に武器を振り回すクラインがイノシシことクレイジーボアに股間をかち上げられるのを見て爆笑していた僕は、ケツからイノシシに追突され坂を転げ落ちる。
「おいおい大丈夫か?クライン、もうちょっとモーションを意識して構えたらどうだ?長ネギ丸は余所見しすぎ」
「ってて…にゃろう」
「うるせー!生意気に先輩風吹かせてんじゃねーよ!キリトも無様な姿を見せろよくそったれー!!」
「やなこった」
がばり、と立ち上がった僕は手元の槍を適当にバトンのようにくるりと回すと、僕のケツを掘った猪に向かって弓を引き絞るように構える。
大事なのはイメージ。
そう、衛宮士郎も言っていた。
イメージするのは常に最強の自分だと。
「はぁぁぁぁ!ほおおおおおお!ほわたあああああ!」
スキルの立ち上がりを感じると共に、そのアシストに逆らうことなく僕はゲームに体を任せ───
「ゲイ・ボルク───ッ!」
槍を思いっきりぶん投げた。
明後日の方向へ。
「ぶも」
「ぐわぁぁぁぁ!」
スキル後のクールタイムで硬直し、その隙にイノシシ先輩の容赦ない追い打ちでさらに坂を転げ落ちていく僕の方を見ようともしないキリトは、やる気のない拍手をしてくる。
「…そうそうそんな感じ」
「何処が?突き刺すつもりの僕の槍が消えたんだけど?おいおい、僕の初期費用叩いて買ったちょっと高い槍がなくなったんですけど!」
槍はもう見えない。
なんか外周から落ちていくのが見えたから、回収は不可能だった。
今更ながら。
ソードスキルとは、このゲームにおける醍醐味で、魔法のないSAOでは、メイン火力となる攻略の要でもある。
ソードスキル以外にも潜伏や投擲といった戦闘を補助するスキルから、釣りや鍛冶料理など様々なスキルがあるらしい。
生活もできるとかなので、たぶん何に使うかわからないようなネタスキルもあるのだろう。
楽しみだ。
●
ソードスキル講座も一段落ついて。
僕たちは場所を移動することなく、普通に駄弁っていた。
「しっかしよ…こうして何度見回しても信じられねえな。ここがゲームの中なんてよう」
「俺たちの脳が、目や耳の代わりに直接見たり聞いたりしてるだけだけどな。ナーブギアから送られてくる情報を」
「それだけ聞くと味気ねぇなぁ…」
そんな会話を尻目に、僕はせっせと床に向かって槍を振り下ろしていた。
ちなみにこの槍は二代目だ。
キリトに借金して買ってもらった。
「…で、何してるんだお前は」
「いや床抜けできないかなって。ほら!」
僕は手で土を引っ付かんでキリトに見せつける。
「…なんだよ」
「素手なら土を掬えるんだよね。だけど槍だと弾かれる。この違いはなんだろね?オブジェクト毎に設定してるの?それとも土側に特別な設定があるのかな?気にならない?」
「全然」
「私気になります!」
「あそう」
こいつ、マジで白けた顔しやがって。
…まぁ僕もそれほどシステムに興味がある訳じゃない。
というかそもそもプログラミングからしてよくわかんないし。
C言語?えふこーど?
それはギター?
機械さんサイドはもっと人間に寄り添ってわかりやすい言語で話して欲しい。
とはいえ、これでもし床抜けとかできたらこの何層にも連なるアインクラッドと言う城を降りれるかもしれないのだ。
そんな程度の好奇心でせっせと土を掘り返すのはバカの所業だったが普段からにたような行動を僕がとっているのを分かっているキリトは、スルーすることにしたらしい。
そんな梨の礫な態度を取られるとこちらとしてもやる気は萎えてくるもので、僕は土を放り捨てると大人しく座り込んだ。
「…まぁいいや。それで、なんの話だっけ」
「ここがゲームの中とは思えないって話だよ。そりゃキリトの野郎は慣れてるだろうけど」
「うーんそれはそう。だけど僕も慣れてるっちゃ慣れてるしなぁ。楽しい遊び場なのは間違いないけど」
会話を完全に聞き流していた僕みたいなバカにも優しく話してくれるクラインはやはりいい男だった。
性別が違ったらさぞいろんな男にモテたことだろう。
「へー?SAOの前にもなんかナーブギアでゲームしてたのか?」
「いや、AV。これがすごいんだよマジで!もちろん外れもあるけど、あれはあれで面白いよ。上半身が捻れてる人が話しかけてきたときは思わずスクショしたもん」
「おい」
「おお!そういうのもあるのか。今度おすすめ教えてくれ!」
「いいよ。おすすめはねぇ、緊縛調教師タクヤン〜千年血戦篇〜」
僕とクラインが盛り上がるのとは対照的に、キリトのテンションは駄々下がりだ。
モテるくせになぜこうも初心なのか。
…いやあるいは、初心だからこそモテるんだろうか。
モテない男筆頭の僕にはわかるはずもなかった。