変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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(黒歴史になるけど)覚悟はあるか、みたいな話。


覚悟はあるかの巻。

 

───偵察隊全滅。

 

ラフコフのリーダーと黒鉄宮に囚われるという名の逃亡をかました奴ら以外の残党を殲滅し、AIのミスによって出現したクソダンジョンを攻略することで隠蔽して、ユイちゃんの送別会をして、という。

 

そんな休暇と言うにはあまりにも濃い一週間を乗り越え、攻略を再開した僕たち攻略組が手にしたのは、そんな報告だった。

 

「まさか…脱出不可能なんて…。有り得ていいのか?そんな理不尽…」

 

「まぁ結晶無効化空間は予想通りだったけどなぁ」

 

そんな報告を僕から聞かされるキリトの顔は、苦しそうだ。

 

「うんちでも我慢してる?」

 

「空気ってやつがさぁ…」

 

呆れるキリトはさておき、 聞けば、偵察隊が突入した瞬間扉がしまったらしい。

扉の前で待機していた後詰め用の部隊がありとあらゆる手段を扉に施したが、びくともせず。

そして、おそらく全滅と同時に扉は再び開いた。

後発隊が見たのは、空っぽのボス部屋。

そこには死体もボスも存在しなかったという。

 

「まさかセックスしなきゃ出れない部屋とは思わなかった」

 

「……セッ…?ばっ、何いってんだよ!」

 

「ボス戦なんて実質セックスだろ。つーかお前あんだけ閃光さんとしといて今更かまととぶってんじゃねーぞコラ」

 

「うっごめ…いやいや、一瞬謝りかけたけどやっぱり意味分かんないわ」

 

「やっぱり?まぁ、下ネタ言いたかっただけだし当たり前なんだけど」

 

殺すか殺されるか。

ボス部屋はそういう場所になったらしい。

楽しくなってきたな、なんて思うのは僕とヒースクリフくらいのものだろう。

 

「おそらく、脱出不可能なギミックはクォーターポイントである75階層だけだとは思う」

 

「どっちでもよくない?だって戦い始めないとどっちなのかはわからないし。要は、今後ボス戦は初見オワタ式になるわけだろ」

 

「気が重いな」

 

「重いのはお前の竿だろ」

 

「む…」

 

僕がそういった瞬間、ぐいっなんて生ぬるい勢いでキリトの垂らしていた釣り竿が思いっきり引っ張られる。

ぶいいいいん!って感じ。

 

「ぐううう、何度やっても重いなこいつ…!」

 

「閃光さんの体重と比べたらどれくらい?」

 

「お前…!デリカシーとかさぁ!?」

 

「ないよ…あでっ!あ、やばいやばい!落ちる!」

 

すこーん、と遠方で見守るすっかり新婚さん気分の閃光さんからの投擲物が頭にヒットして、湖に落とされる僕がいるのは、現在22階層。

ちょっと前、キリトが近場の住人と釣り上げたという湖の主モンスター。

気分転換にその味確かめてみようぜ!と僕とキリトは二人揃って湖に釣り糸を垂らしていた。

閃光さんはなんか遠くから見守ってる。

 

釣り上げた主の総数は既に15。

出るのは毎度釣り竿で、正直食材アイテムはでない疑惑はあったがそれならそれで良かった。

これは気分転換であり、キリトにもう一度前線に戻る覚悟があるのかを確認したかっただけなのだし。

 

「また釣り竿だ」

 

「やっぱダメかぁ」

 

釣り上げた肺魚をサクッと三枚下ろしにしたキリトは、ドロップしたアイテムを確認して肩を落とす。

とりあえず、釣果が見込めない以上あまり無駄な時間を過ごすのも悪い。

お邪魔虫はさっさと帰るとしよう。

 

僕は湖から這い上がると、濡れた服を変更し、釣り竿やら椅子やらアイテムをストレージにしまうと、閃光さんに中指を立てて、あっかんべーをしながら立ち上がる。

あ、閃光さんがめっちゃ笑顔で鉄球構えてる。

でも甘い甘い。

くるとわかってたら回避余裕なのよ。

 

「じゃーなキリト、伝えることは伝えたから」

 

「…ああ。わざわざ悪いな」

 

キリトの顔色は悪い。

怖いのだろう。

いや、当たり前のように鉄球を人にぶん投げる閃光さんがじゃなくて。

初めて出来た好きな人を失うことも、好きな人を残して死ぬことも。

それが悪いことだとは思わない。

むしろ当たり前の反応だ。

なんせキリトはまだ高校生。

それも、中学生の時に巻き込まれた子どもだ。

 

僕やヒースクリフのようにデスゲームエンジョイ勢なわけでもない。

 

なら、他の大人たちと一緒に最前線から離れて暮らすのも悪くないのだろう。

休暇に入る前、責任の話をキリトにしといてなんだけど、ボス部屋から逃げれないなら話は別だ。

 

「…キリト」

 

「なんだよ」

 

「逃げていいぞ。むしろ、逃げてくれると僕もヒースクリフもあとを任せる相手ができて安心するしな」

 

偵察隊の人たちには申し訳のないことをした。

結晶無効化空間だとしてもドアの外に人員を配置しておけばいいと考えていたのは僕で、そう指示したのはヒースクリフだ。

だから、次に死ぬべきなのは僕とヒースクリフだ。

まぁ、仮に死んでもゲームバカ二人がゲームに負けて消し飛ぶだけだ。

どうせ僕らは最後まで笑顔でボスと戯れてることだろうし。

 

「静空」

 

「……」

 

「静空、おい静空…おいってば!お前まさか自分の名前忘れてんじゃないよな!?長ネギ丸お前だよお前!いや、あ~みたいな顔で手をぽんとするな!ほんとに忘れてたのか!?」

 

「ツッコミがくどい。20点」

 

「やかましいわ!」

 

そういや僕そんな名前だったわ。

1話の冒頭くらいにちょろっと出た本名とか誰が覚えてんだよ。

 

「で、なんだよ桐ヶ谷和人くん」

 

「なんでフルネーム?」

 

「いや本名の認識って大事だなって」

 

「ほんとに忘れてたのかお前…」

 

「だって今の僕、長ネギ丸だもん。現実の北原静空くんとはなんの関係もないフィクションだし」

 

「開き直り方がえげつないな…」

 

「や、ぶっちゃけほんとに名前なんてどうでもいいんだけどね。僕が僕であれば、記憶が消えようが名前が消えようが、このあと死んで生まれ変わろうがやること変わんないし」

 

「いやお前それ…はぁ、もういいや」

 

それで、なんだけど。

とキリトはやけにもったいぶったように口を開いた。

 

「ぶっちゃけ俺は怖い。アスナに死んでほしくないし死にたくない」

 

「おん」

 

「でも、死んでほしくないのは長ネギ丸。お前もなんだ」

 

「…はぁ?」

 

僕の怪訝な表情に気がついたのか、キリトの顔が一瞬赤面するが、咳払いで誤魔化して話を続けるらしい。

 

「あんたは、昔から俺の目標だった。無茶苦茶だけどいつも楽しそうだし、友達は多いし、俺が怖がって出せない一歩目を先に踏むし、いつだって背中を押してくれた」

 

「そうかなぁ…なんか美化されてないか…?」

 

「あんたはデスゲームエンジョイ勢なんて言いながら、いつだって自分は他人と違うからって一線引いてきたよな。きっとこのゲームを楽しめる自分はおかしいからって。だから、そんな風に自己肯定感が低いんだ」

 

「いや、それに関しては僕の自己肯定感が低いって言うより周りが持ち上げ過ぎだと思うんだよな」

 

僕は自分が楽しければそれでいいエゴイストの殺人鬼。

その価値観を他人に押し付けないように気をつけてはいるが、同時にどうしようもない溝があることは明白だった。

僕は決してヒーローではない。

 

「ゴドフリーも、ディアベルも、エギルもクラインも。アスナもリズベットもシリカもヒースクリフも、サチも、他の攻略組の全員。あんたには感謝してんだ」

 

「まぁ、先陣切ってるやつがよく見えるのは認めるけどさ、そうはいってもじゃない?」

 

「うるさい」

 

「いや、うるさいって。えぇ…お前僕のこと好きすぎでしょ」

 

「俺の幼馴染は、自分を優先してるつもりで他の人のことを誰よりも率先して守ってるすごい人だ!俺達に手を汚させないためにラフコフに一人で殴り込みに行ったり!人の痛いとこを指摘して、自分を悪者にして、そうやって人を変えてきた!」

 

「…………」

 

「普段はクズでゴミで天邪鬼でうざくてイカれてて周りを振り回してるけど!」

 

「おお、よくわかってんじゃん」

 

「それでも、俺にとって大事な幼馴染で、尊敬してる人なんだよ…!軽々しく死んだらとか、言わないでくれ!」

 

そう叫ぶキリトの目は至って真剣で、同時に大粒の涙が次第に溢れてきて───

 

「…だぁ、もう泣くなってもう!わかったわかった!もうちょっと他人からの評価も受け入れるし、もうちょっと自分の命を大切にするって!それでいいな!?急にこんな路線に変更されても困るんだよ!やめろ!これお涙頂戴物語とかじゃねーから!どうせ普通にこのあと僕とヒースクリフの3分クッキングでボス処理すんだからさぁ!」

 

なんか前もこんな事あったな、と思いながら僕はキリトの目元を自分の服でぐしぐしと拭ってやる。

今の格好がふんどしバケツ装備じゃなくて良かった本当に。

最悪の絵面になってたわ。

ふんどしバケツ装備の変態の前でなく少年。

…うーん控えめに言っても事案ですね…。

 

そんな風に半ば現実逃避していたら、ようやく落ち着いたキリトが口を開く。

 

「…なんだよ、照れてんのか?」

 

「うぜええええええええ!おげええええええ!」

 

「キレながら吐くなよ汚えな」

 

「なんだコイツ!ムカつくんですけどぉ!?」

 

「あははは!」

 

「情緒不安定かよお前」

 

泣いたり、笑ったり。

聞けば、キリトの覚悟はどうやらもう決まっていたらしい。

閃光さんと既に話し合って、現実の体にタイムリミットがあることや、現実でちゃんと付き合って結婚したいなんて甘酸っぱい理由で、前進することを決めていたのだとか。

ヒースクリフにも伝えていたらしい。

 

いや、じゃあこれまでの会話なんだったんだよ。

と思ったけど、どうやら今回ばかりは僕がはめられる側だったらしい。

最近無茶しがちな僕に、今一度ブレーキを思い出してもらうための。

 

そんな無茶してたっけ。

いや、まぁたしかに。

最初の頃なら、ヒースクリフだけじゃなく、キリトやら軍の人やら連れて未知のダンジョンに突入してたか。

してたか…?

ぶっちゃけ目的が隠蔽だからしかたなくない?

 

キリトの話そっちのけで、困惑する僕に向かってキリトはキリッとした顔で宣言した。

 

「俺も参加する。だから死なないでくれよ」

 

「いや死なねーよ端から。舐めんなこちとらエンジョイ勢だぞ。百層辿り着く前にくたばるかよ」

 

「ああ、知ってる」

 

「…ったく。心配性ちゃんめ。…とりあえずこの限定品釣り竿使って別の階層の釣り成果が変わるか確認しに行こうぜ」

 

「いいな。今日は魚パーティーか」

 

「シェフは閃光さんで」

 

「一人にやらせるつもりか?」

 

「うん。だって僕のことはめたんだし。あ、サーシャさんでもいいよ」

 

「やめてやれよ!あの人もうちゃんと料理できるようになっただろ!お前がバケツカレー事件の話蒸し返すたびに半泣きになるんだぞ!」

 

「もっかい酔わせたらバグんないかな」

 

「人の心とかないんか?」

 

「あるわけねーだろどこ見てんだよ」

 

「見てるから、あるのは知ってるんだよなぁ」

 

「キリト。悦に浸ってるとこ悪いけどそのスタンス今のうちにやめときな?黒歴史になんぜ?」

 

「やっぱ照れてるだろ」

 

「いや、これはマジの忠告」

 

後日。

というかSAОクリア後。

この会話を録音していた僕と、自称親子のユイちゃんによって死ぬほどからかわれ、黒歴史を闇に葬るべく頭を壁に何度も打ち付ける黒の剣士が現実で目撃されるわけだが。

まぁ、完全に余談だろう。

 

だから言ったのに。

 

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