変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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お待たせしました。
アインクラッド完結編です。
エピローグを書くかは未定です。


さらばアインクラッドの巻。

 

 

戦いは一時間にも及んだ。

無限にも思えた激闘の果てに、ついにボスモンスターがその巨体を四散させた時も、誰一人として歓声を上げる余裕のある者はいなかった。

皆倒れるように黒曜石の床に座り込み、あるいは仰向けに転がって荒い息を繰り返している。

 

「うっひょー!これ骨の数だけ武器ドロップしてんじゃねえの!?すげー!これでまたリズベットに3轍くらいさせりゃお釣りが来るなぁ!!」

 

いや、一人だけ元気な奴がいたが。

HPは小石で躓いたらそのままポリゴンとなって消えそうな勢いの1。

もはやバーの赤い色すらあるのかないのかわからないくらいの極小HPを前に、奴は何も見えてないかのように振る舞っていた。

 

この世界ではHPが自分たちの命だ。

だからHPバーが赤どころか黄色に入ることすら避け、入った場合は泡を食ったように回復を飲む。

それは、この世界で強者とされるキリトだって変わらない。

 

なのに、長ネギ丸は嬉々としてHPを赤にする。

彼をこのゲームで生きている、と表現する人間は多い。

ヒースクリフもその一人だ。

 

だが、キリトはそう思わない。

むしろ長ネギ丸は誰よりもこのゲームを『ゲームとして楽しんでいる』。

あいつにとって、SAОはどこまでいってもゲームでしかないのだ。

HPバーはただの数値でしかなく、自分の命のゲージとしては全く認識していない。

 

長ネギ丸を通して、キリトとヒースクリフは真逆にいる。

キリトは現実の世界からの付き合いで、現実でゲームを遊ぶのと変わらない態度に見えている。

ヒースクリフはこの世界からの付き合いで、現実にいるのと同じように考えて行動している長ネギ丸が、この世界で生きているように見えるのだろう。

 

「うわ!うんこだ!え、うんこだ!?嘘だろあいつうんこすんの!?骨なのに!?」

 

どちらが正解かなんて、キリトにはわからない。

 

たかが1年半だ。

されど1年半だ。

この世界に囚われて、たったの1年半。

その程度で何かをわかった気になるなんて傲慢が過ぎる。

 

「見て見てキリトうんこ!おい、なんだよシカトか?おーい?うんこ顔につけんぞこら」

 

「だぁああ!うるさいな!こっちはハードなボス戦あとで疲れてんだよ!」

 

「えー?めっちゃ楽しかったの間違いだろ?ストレスにならないくらいの敵の防御力と体力!だるいディレイもねぇ!だけどまともに受けたら即死するかもしれないひりつき!デカい敵!やっぱSAОって最高だな!」

 

「お前精神状態おかしいよ…」

 

初見ボスで犠牲者ゼロ。

その功労者がうんちではしゃぐ様に思わずため息が出る。

 

「というかHP回復しろよ、ヒヤヒヤするから」

 

「オー、まぁ確かに…うーん…回復回復…」

 

視線の先では、ネギと同じくこの作戦の功労者であるヒースクリフが毅然と佇んでいる。

そのHPバーは他のプレイヤー同様()()()()()()()()()

 

最強無敵伝説の男も、機械ではない。

その事実に、そっと胸をなで下ろし、キリトは目線を外そうとして…HPを回復していないバカがうんちを片手に駆け出したのが見えて目を見開く。

 

「おーいヒースクリフも見てくれよ!うんち!!!」

 

「ちょ、おま!」

 

「うわあああ足首をくじきました!うんちいいいいい!」

 

「流れるように!」

 

キリトの嫌な予感そのままにそのままヒースクリフの顔面へと『スカルリーパーのうんこ』が叩き込まれた。

 

 

…そこまでなら、ただの平和な一幕だった。

 

 

長ネギ丸の影響でシステム的不死を解除していたヒースクリフがその正体がバレることもなかっただろうし、犠牲者も出なかったことで攻略組全体の空気も悪くはなかった。

バカがバカやるのだっていつものこと。

 

問題は、顔面にうんこをたたきつけられたヒースクリフにバカがタオルと一緒に『デスゲームが始まったあの日に配られた手鏡』を差し出したこと。

 

結果。

 

「私が一体何をしたって言うんだ…」

 

「いや色々やっただろ大犯罪者」

 

うんこまみれでガリガリ研究職な顔をした茅場晶彦が、白銀の鎧と盾と剣を持った状態で、この世界に爆誕した。

 

ついでに勢い余ってズボンが脱げて丸出しだった。

 

大事故である。

 

 

 

 

「えぇ…おま、うんこで身バレっておま…ラスボスがフルチンっておま…」

 

「君のせいなんだがね…」

 

「えー?ここでSAОのネタバレ食らうかぁ…うわぁ、最後までやりたかったなぁ…ええー!もったいなぁぁぁ!スカルリーパーのうんこのせいで…!ちくしょう…!」

 

「君のせいなんだがね?」

 

僕はあまりの衝撃に目眩を起こしていた。

 

こんなこっから面白くなること確定してるSAОがここでエンディングかと思うと、残念でならない。

え、ヒースクリフの正体?

いや別にどうでもいいかな…。

ヒースクリフはヒースクリフだ。

僕の変な遊びに付き合ってくれたり、遊んでたら無理矢理迷宮攻略に参加させられたり、仲のいい友達でしかない。

 

とはいえ。

 

「まぁ、こうするしかないわけだが」

 

「だよなぁ」

 

SAОはここで終わりだ。

 

「どうだろう。私はゲームマスターとして正体にたどり着いた人間に報酬があってしかるべきだと思っている」

 

「私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできるって?」

 

「そうとも」

 

もう何度目になるだろうか。

ヒースクリフとデュエルするのも、もはや慣れたものだ。

 

勝って負けてまた勝って。

しょーもないことからボス攻略の作戦まで、とにかくなんでもデュエルで解決してきた僕たちの戦歴は、ホビーアニメのキャラたちと遜色ない。

 

「ご立派ァ!な建前はいいや。本音は?」

 

「顔にうんこつけてきてズボン脱がしてきた悪友をしばくのに理由がいるかね?」

 

「はっ、そうだよなぁ!」

 

槍で肩を叩きながら僕は首をほぐす。

ボス戦のあととか関係ない。

いつでもどこでもデュエルができてこそ一流。

たまに寝起きに突撃してきて迷宮攻略に参加させられたこともあるし、逆に残業終わりのヒースクリフを僕が襲撃して女装させて一緒にダンスしたこともあった。

 

どれもこれもいい思い出だ。

 

「…長ネギ丸…」

 

「なんだよキリト。もうこの先SAО遊べねーんだからせめてラスボスと遊ばせてくれ」

 

周りの人間達が麻痺になり、僕とヒースクリフだけが武器を構えて向かい合う。

 

あとはいつも通り、ヒースクリフとデュエルするだけ。

それだけなのに、やけに心配を込めた目線が背中にいくつも突き刺さって思わず笑ってしまった。

 

「…別に、今戦わなくたって…」

 

「やだね。この世界が僕だけならまだしも、そうじゃねーだろ」

 

この世界は楽しい。

最高だ。

いつまでも遊んでいたい。

 

それでも、僕だって別にずっとここにいたいわけじゃない。

同じゲームを周回するのだって嫌いじゃないし、何度だってはじめからを選択して遊ぶのも楽しいだろう。

 

だけど、外の世界には他にもたくさん面白いことに溢れている。

キャンプもしたいし、海で泳ぎたいし、そろそろ銃を撃つゲームもしたいし、海外への旅行もしたい。

それは一緒に遊んでくれた人がいるからこそだし、だからこそ、僕はこのゲームは一度終わるべきだと思っていた。

 

「ここでこの喧嘩買わなかったらクリアまであと何年かかんだよ」

 

「それは…」

 

「それに最初に言ったろ?僕は向こうに帰ったら薔薇色のキャンパスライフが待ってんだよ。(ケツ)身長(タッパ)のデカい彼女とのデートやスケベなことしなきゃだし…」

 

「はは…やっぱ夢見すぎだろ…」

 

「あと茅場殺しゃ俺は英雄よ?そりゃもうモテまくり勝ちまくりの未来確定だろ最高だよな!」

 

「倫理観って知ってる?」

 

「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたい。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも解んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い」

 

「それいつだったかお前がボコボコにしたロザリオのセリフ!」

 

「いいセリフだよな、感動的だ」

 

「カスがよ…」

 

「そんなカスに救われるんだぜお前らは。つーか這いつくばってるお前らの姿、最高だぜぇ〜!」

 

「ヤバいお前がむかつきすぎて今ならこのGM権限の麻痺解除できそう」

 

 

さて。

キリトと遊ぶのもこれくらいでいいだろう。

僕は改めてヒースクリフと向き合うと、笑った。

 

 

「ま、なんだ。最後に言っとくか」

 

「…聞こうか」

 

「楽しかったぜ、SAО!神ゲー作ってありがとよ!!!でもデスゲームにしたのは普通に許せねえから死ね!」

 

「はは!恨み言ではなく感謝とは!!かかってきたまえ!」

 

音も予兆もなく槍が走り、その不意打ちを当たり前のように盾が防ぐ。

その隙を狙うように剣が振り下ろされ、今度は僕の小盾が弾き返した。

 

僕が地面に振り下ろされた剣を足場に飛び、さらには大盾にすら足をかけて脳天に槍を突き出せば、それをヒースクリフが片耳を犠牲に回避し、続け様に振り上げた剣が僕の左足に傷をつける。

 

お互いのクセは承知の上。

ソードスキルのモーションへの理解もたぶんお互いアインクラッドで一番ある。

 

ゲームを知り尽くした開発者と、ゲームを遊び尽くしたプレイヤー。

これはその、互いのゲーム愛のぶつかり合いだ。

 

「思い出すなぁ、長ネギ丸くん!」

 

「何がだよ!」

 

「君のせいでアスナくんに叱られた日とかだ!」

 

「どれだよありすぎてわかんねえな!モンスターの罠にはめたらなぜかパンモロみたいになって殺されかけたやつのことか!?」

 

「あの時もこうして互いの全霊をかけて責任をなすりつけあったっけな!」

 

「結局決着つかなくて昼寝してたキリトに全部の罪なすりつけ難を逃れたよなぁ!」

 

「ははっ!そうだったな!」

 

少しずつ、ヒースクリフの盾が間に合わなくなってきている。

少しずつ、僕の身体がダメージエフェクトで埋まってきている。

 

決着は近い。

 

「お前はいつもどこか一歩引いてたよなぁ!それがムカついた!だからお前と友達になれて最高の気分だよ僕は!」

 

「君はいつもこの世界を遊び尽くしていた。この世界を未知として楽しめる君が羨ましかったよ。だから友人となり交流を深めるうちに、いつしか私もGMではなくプレイヤーでいることができるようになった…」

 

「はは!だとするなら最後まで僕の勝ちだ!ヒースクリフ!」

 

「君はまだその名前で呼ぶか───!?」

 

突如、僕の口から放たれた毒霧がヒースクリフの盾を抜いて身体にかかる。

 

「一週間おじさんの尻を吸い続けるとかいう頭のおかしくなりそうなスキルの習得クエスト、知ってる?」

 

「それは…深夜テンションで作ったはいいが普通にボツにしたデータのはず…」

 

「カーディナルくんが過労死してバグったせいだろうな。この『毒霧』ってスキルがこの世界には確かに存在すんのさ」

 

「くっ…!」

 

ヒースクリフの本気で悔しそうな顔が見れて、僕は満足だ。

 

「発動までの溜め時間の割に効果は1秒!こんなクソスキルあっても誰も取らないと思ってたろ!?じゃあ〜ねぇ〜んで〜したぁあああ!」

 

麻痺毒により動きが完全に停止したヒースクリフの土手っ腹に僕の引き絞った槍が突き刺さる。

 

「SAОを遊び尽くしてた僕の勝ちだ、ヒースクリフ!!あばよ!!!」

 

「───見事…!」

 

一瞬の静寂のあと。

聞きなれたオブジェクト破砕音が一つ。

 

それらにかぶさるように、無機質なシステムの声が響き渡った。

 

 

ゲームはクリアされました──

 

ゲームはクリアされました──

 

ゲームは……

 

 




このあとALО編をやるのかどうか、昔考えていた通りGGОの番外編のピトとかレンとかと絡ませるのかとか、色々やってみたいことはありつつもとりあえず更新を止めてしまっていた作品を一区切りつけることができて安心しています。
読者の皆様におかれましては、こんな中身のない作品でありながらだらだら間を空けてほんとにすみませんでした。

一区切りまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
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