薄暮。
低く垂れ込める雲を、傾き始めた太陽が薄い黄色に染めている。
久しぶりのモブ狩りも湧きが良かったのもあってかなりの実入りとなった。
だが、帰り道にひたすらだらだら歩いてると必然集中力は切れてくるもので、一団の雰囲気はかなりまったりしたものになっている。
ゆるキャン△って感じ。
そう思うと、隣で歩いてる戦闘服でレーザー銃を見せびらかしてる男がシマリンに見えてくるから不思議だ。
僕の隣でミニガンを担いでそれを隠すように分厚いコートを着てる暑苦しい筋肉漢はなでしこってところか…。
アホな想像してたら吐き気がしてきたな、やめよ。
「そういやお前、またあくどいことやったらしいじゃん」
「あくどいってそんな人聞きの悪い…つーかどれの話?番組出演前のゼクシードを鼻フックで市中引きずり回しの系にして晒し者にして泣かせたやつ?それともゼクシードのケツに花火突っ込んで泣くまで空に打ち上げたやつ?」
「その後死んだんだよね…?なんで笑い話にできる?じゃなくて、なんかほら、すごい稼ぎがでたらしいじゃん」
「あー…あれか」
すごい稼ぎと言われて思い出すのは、先日の一件。
家凸どころか今遊んでいるゲーム内でまでからまれるようになってイラッとした僕は、普通にピトフーイを蹴散らしたのだ。
結果として、あいつはかなりレアな武器を落とし『へー?そんなに死にたいんなら死ねば?死ぬためのまともな舞台も物語も用意せずに自殺したいならすればいいじゃん。僕はこの武器売ってうまい飯食べに行くぜぷげら。ゴチになりまーすw』と煽った結果、自殺を防いだなんて話はどうでも良くて。
「単にストーカーから巻き上げたレア銃と店でカスみたいな値段で売ってる初期装備のパンツをセットでオークションにかけただけだよ」
「うわ…」
ここにあるのはピトフーイから強奪した銃と(そこら辺の店で買った激安の殿堂の)パンツです、と言ってオークションに持ち込みしたらすごい勢いで金が入ってきて笑ってしまった。
ゲーム内コインを現金に変えれば当面アルバイトはしなくていいだろう。
懐かしいなぁ。
アインクラッドでエギルさんのタンクトップをリズベットの使ってたやつだと偽ってバカ儲けしたのを思い出すぜ。
「このゲームって硬派気取りの女日照りのやつ多くて最高だよな!」
その点まだSAОではカップルがちらほらいた気がする。
色んなところに黒いやつがチラつくけど。
「最低すぎない?」
「こんなに愛してるのにこの言われよう」
《ガンゲイル・オンライン》。
通称GGО。
日本で唯一プロがいるゲームであり、全VRMMO中で唯一、《ゲームコイン現実還元システム》…通称リアルマネートレードを採用しているゲームでもある。
そのせいなのか、どいつもこいつも荒廃した世界観と同じくらい荒々しい目線と言動をしていて、他人への嫉妬を隠さず、躊躇なく他人を殺して奪い取る機会を狙っている。
荒みきった世界観とプレイヤーなのに、何処か皆生き生きとしているこのゲームのことが僕は最高に好きだった。
「ちなみに僕はこの商売のことをリアルマネートレードシステムにあやかってFPTって呼んでる」
「FPT?」
「FAKE PANTS TRADE」
「詐欺じゃん」
インターネットってぇ、嘘を嘘だと見抜けないほうが悪くってぇ。
そんな風に雑談していたところ、黄色い空の向こうでキラリ、と何かが光る。
───狙撃だ、と理解するよりも早く僕は前に出て銃弾を切り落とした。
確かな手応えと、耳をつんざくような金属音とともに爆風が起こり、砂ぼこりが舞い上がった。
スコープはなく、銃剣として光剣を取り付けたド変態カスタムのモシン・ナガンを握る両手が甘く痺れ、その殺意に僕は歓喜の笑みを浮かべる。
「うっひょー!すげえ迫力!どうやらお仕事の時間みたいだなぁ!」
「相変わらずラインもない狙撃の初撃を見切れるのイカれてるよな…人間として切るんじゃねえよ銃弾は」
待ち伏せをしなくてはならないスナイパーの不利を覆すために、GGОでは位置がシステムに認識されていないスナイパーライフルでの初撃は、予測線が表示されない作りとなっている。
他にも引き金に指をかけず、バレットサークルというシステムアシストを使わなければ位置がバレていても予測線が表示されなかったりするシステム外スキルがあったりするが、今は置いておこう。
とりあえず、そんなとんでもスキルを使うストーカーの下僕を撃退するために、反応速度ではなく動体視力と聴力を鍛えに鍛えてもはや反射で銃弾を切れるように僕はなっていた。
「フォースを信じたら誰でもできるのに…」
「シスの暗黒卿がなんか言ってやがる…とりあえずいつも通り当たりは強く、あとは流れで」
「おーけー!」
僕は今、護衛としてモブ狩りスコードロンに雇われていた。
なんでも前回襲われた時にやたらと煽られたのが相当頭に来たらしく、GGОのトップ層の僕とベヒモスのコンビに声がかかったというわけだ。
コンビって言ってもそんな頻繁に遊ぶわけじゃないけど。
まぁそこはそれ。
チームねぎモスはそれなり有名だった。
「この迫力は対物ライフルかなぁ?ってことはシノンかぁ!」
初撃を防がれたことへの苛立ちを示すように2発ほど狙撃が飛んできていたが、当たるコースの一発だけ切り落とす。
「さぁ、スナイパー対決と行こうぜ!」
そして、狙撃に合わせて飛び出すつもりだったであろう3人の男たちが放つやけくそ気味な銃弾の嵐を、光剣つきライフルを槍のように振り回して切り落としながら、彼らに向かって走り出すのだった。
「あいあむしもへいへーい!へいへいほー!!」
え、ゴリゴリの近接?
いやいや、スナイパーライフル使ってんだから僕もスナイパーでしょ。
「やべーぞバケツだ!」
「なんでお前がこんなところにいる!」
「そのバケツの下の綺麗な顔吹き飛ばしてやるぜ!!」
このあと普通にボロ勝ちした。
銃弾無効のタンクユニットと回避ほぼ無効のミニガン使いのコンビに勝てるはずがないのだよ。
「気に障ったら謝ります、どうもすみませんでした。でも…”チンコ”じゃないですよね?」
「そうだよ!?むしろなにに見えてんだよお前はあばー!?」
「バカは引っ込んでろぐえー!」
「こんなふざけた奴にぐわー!」
●
「───よーシノン。ヘカートII返してほしかったらこのあと一狩り行こうぜ。あ、もちろんアイテムは33-4で」
どうして、この男には安心してしまうのだろう。
まるで、人でなしの自分を超えた何かのような。
それこそ本当に、《白い死神》なのではないかと思うのは。
その理由をきっと、朝田詩乃は知っている。
何も知らないのに、理解していた。
長ネギ丸は人殺しだ。
その真っ白な装いと見た目をしたその男はいつだって。
どんなに柔らかい笑顔でも。
───血の匂いが染み付いているのだから。
「悪いけど、私学校があるから」
「空手の稽古だぁ?今日は休め。そんなのサボればいいだろ」
「ふぅん、成績落ちて留年したら責任取ってくれるの?あと空手の稽古ってなに…?」
「うるせぇ!!!行こう!!」
「ゴリ押しやめてくれるかしら…」
ふてぶてしくも、愛銃を人質に交渉を迫る悪魔は笑う。
「そもそも僕責任って言葉がこの世で一番嫌いでぇー。というかそうやって退屈な顔ばっかしてたら普通に笑えなくなるぞリアルでも。ゲームでくらい笑って泣こーぜ」
「それは…」
「それに、僕のうなじと太ももをそんなにやらしい目で見てるのに説得力ねーって。思春期男子か?」
その瞳にいつも通り抗えず、結局私は寝不足になる。
そんなことをもう2ヶ月は繰り返していた。
もちろんあくまでクエストをクリアしてて遅くなったってだけで、そのあともんもんというかなんかムラついて寝れなかったなんて事実は一切ない。
たまに家庭教師の真似事のようなことをしてもらって勉強を教わった時に、秘密裏に通話を録音して作った音声データで遊ぶ(意味深)なんてそんなことは、私はしていないのだから。
「だ、だ、誰があんたのことなんかエロい目で見るってのよ!別に首絞めながらぶち犯したいなんて思ってるわけ無いでしょ!?」
「こわぁ…犯罪者じゃん…」
「だから違うって言ってるでしょ!だいたい何を根拠に!そんな…!」
「はいはいクエストいきますよーいくいく。レアドロ出たら好きな服なんでも着てやるってそんなに言うなら」
「何してるの早く行くわよ!!ちんたらしない!!」
「手のひらがドリル通り越してハウザーインパクト?」
このバカとこのGGОってゲームはすごく相性がいいなと思った作者です。
あと作者のメンタルのために是非皆様におかれましては感想とか感想とかよろしくお願いします。