仕事でGGОに来たら、最近ALОへのイン率が下がっていた長ネギ丸がいた。
それはいい。
別に幼馴染が何をするのも自由だし、コンバートしてきた直後に性別の勘違いを利用して道案内してもらった道中で、それらしき名前の噂を何度も耳にしたからキリトも僅かながら予想はしていた。
やれ、スナイパーライフル使って近接戦闘をしている馬鹿がいる、とか。
やれ、意味のわからないスキルを取得していてわからん殺しされてムカつく、とか。
やれ、女性プレイヤーのパンツを競売にかけてGGО内で過去一番の金額の変動があった、とか。
やれ、バケツで隠れたアバターの顔が女の子みたいな見た目なのに容赦なくて興奮する、とか。
噂だけじゃない。
キリトの性別を勘違いして道案内をしてくれたシノンの口からもそれらしき話はあったのだ。
『…手前のゲートから入って、奥のNPCガンマンの銃撃をかわしながらどこまで近づけるか、っていうゲームだね。3カ月前までは最高記録が3分の2くらいだったんだけど…』
『だけど?』
『スパイダーマンのコスプレしたバカがフォースのトレーニングとか言いながら目隠しでクリアしちゃって…』
『へぇ…なら、クリアできるゲームってことですよね?』
『そう。誰もがあいつにクリア出来たんだから俺にも出来るだろうって思ったのよ、あなたと同じように。まぁ結局誰もクリア出来なくて、ガンマンに触れたらキャリーオーバーされる金額がすごいことになっててるんだけど…。今は…65万*1…か…』
『す、すごい金額ですね…』
『クリアできる奴がいたからって、そのゲームが簡単になるわけじゃないのにね』
あれもこれも全部長ネギ丸のことだったということへの驚きは、そんなに大きくはなかった。
白い髪に白い肌。
リアルの静空から色を抜いただけのようなそのアバターを女の子と見間違うのも無理はない。
なんせリアルの静空が普通に女の子に間違えられてナンパされるくらいなのだから。
…じゃなくて。
「「…えっと…」」
「ようキリト、久しぶりじゃん。元気してた?股間の剣ばっかりハッスルしてたらいつか刺されるぜ」
長ネギ丸は笑っていた。
…毒を吐いてるのに花が咲いたような笑顔を浮かべていることに、キリトの中で嫌な予感が広がっていく。
ほんの少し前に、ミニゲームをクリアした金額で光剣が『2本』買えた!なんてはしゃいでいたのが遠い昔のようだ。
現在のキリトは、シノンの前に立っていた。
───装備フィギュアの一括除装ボタンを押し、機能素材っぽい光沢を持つ、小面積の下着のみになったシノンの前に。
「長ネギ丸!?な、なんで当たり前のように入ってきてるのよ…!」
「いやーSAОとおんなじでパーティ解除してないと宿屋とかこういう場所の鍵って空くんだなぁ…勉強になるぅ↑」
「………………」
にやぁ、という顔になった長ネギ丸となぜかまんざらでもなさそうな顔を赤らめるシノン、そして顔を青ざめさせるキリトという三人の空間に訪れた沈黙を破ったのはやはり長ネギ丸だった。
「ところでシノン、いつの間に男の前で脱ぐようなキャラになったんだ?いくら現実とは別人になりたいって願望があるからってやりすぎじゃない?」
「わー!わーおま、ちょ!待てよ!?」
「なんだよキムタクの物真似か?似てねえからやめたほうがいいぜ」
「ちょっと、何で当たり前のように居座ってるのよ!出てってよお願いだから!!」
「あーまぁ、出てくよ。その前に…シノン」
「何よ…!これ以上居座ろうってんなら…あ、あんたを脱がすわよ!?」
「さ、させるかああああ!うおおお!唸れ俺の光剣!!!」
直感と、長い付き合いによる経験則。
もはや条件反射に等しいか。
長ネギの口を塞ぎ隠蔽工作をするべく、ベルトから強く引っ張ることで抜刀し、フォトンソードのスイッチを親指でスライドさせる。
余談だが、アインクラッドにおいて最も優れた反応速度を持つ人間が二刀流を授かるらしい。
そんなキリトをもってして最高速度だったというその一撃を、長ネギ丸もまた経験則と、GGОというホームグラウンドとも呼べるくらい精神的に相性のいいVR空間というバフによる反射で躱し、カウンター気味にパンチが入る。
顎にいいのをもらったキリトがシノンの方へと倒れ込み、流れるように彼女を押し倒した。
「───そいつ、男だぜ?」
「は?」
「くそ…間に合わなかった…!」
「つーか当たり前のように押し倒すなよまったく……キリトってよく考えたら贅沢な名だよな。お前は今日からリトだよ!ブラッキーじゃなくてラッキースケベハーレムマンがよ」
「待ってくれよ湯婆婆!」
「人を老人扱いするな殺すぞ」
キリトは激怒した。
事態をよりややこしくして話を聞かずに放火してくる幼馴染は必ずこの世から除かねばならぬと激怒した。
こいつは許しておけないカスだ(他責思考)。
というかそもそもこの状況だって勘違いを利用したとはいえ、キリトが女だと嘘をついたわけでも語尾を女らしくしたわけでもない。
それに着替えるなら同性相手でも一声かけてほしい。
いや、シノンの怒りはご尤もだけども。
「うそ…………お、男…………? そのアバターで………………?」
キリトは全力でシノンの上から飛び退きながら、弁明するべく口を開く。
「その!騙すつもりはホントになくて…!」
「じゃ、ごゆっくりー」
「あ、待てよ長ネギ丸!爆弾投げ込むだけ投げ込んで逃げるんじゃねえ!!」
「待てと言われて待つバカがいるかよっ! いきり立つもう一つの剣が邪魔で、走りにくいんじゃないの?よっ憎いね!さすが二刀流の剣士様!まだ昼なんだから夜の50連撃は使っちゃだめだぜ!ヒャーハッハッハ!!」
「噂から察してたけどお前このゲーム楽しみすぎだろ!?」
爆笑しながら立ち去る長ネギ丸の後を追うように、シノンによる高速ビンタでキリトも更衣用ロッカールームから弾き出されるのだった。
●
デスガンとやらの調査でGGОにコンバートしてきたらしいキリトが、何やら光剣二刀流でアサルトライフルを無効化してるのと同時刻、僕は僕で無双していた。
「くそ!チート野郎が!」
「僻む前にやれること全力でやればいいのに」
マシンガンの銃弾全てを斬り落とされ、マガジンの交換を強いられた相手プレイヤーの嘆きに僕は顔をしかめる。
チートじゃないんだけどな。
ビーター呼ばわりされてたキリトじゃあるまいし。
そもそもキリトと僕では、同じ銃弾斬りにしても理屈が違う。
言いたくはないが、僕にキリトのように反応速度だけでバレットラインを見てから銃弾を切るなんて芸当は少し難しい。
キリトと同じように、目線で次の攻撃が飛んでくる場所がわかってなお、だ。
やってやれないことはないが、成功率は八割くらいってところだろう。
なら、僕はどうしているか。
それはたった一つ、たった一つの
…ひたすら練習して、身体に覚え込ませる。
僕はこの『練習あるのみ』という全ゲームの基本をやりきったにすぎない。
煽り散らかした結果襲撃頻度の増したストーカーの下僕の使う『ラインなし狙撃』対策に目隠しをして、GGО内にある最高難易度のミニゲーム『Untouchable!』に挑み続けて三日三晩。
手始めに目隠しなしで挑んだときは普通にクリア出来たのに、目隠しをした途端難易度半端ねーの。
当たり前だけど。
挑戦料として金が溶けていく恐怖にも、後ろゆびをさされバカにされてもめげることなく挑み続けた僕は、ついに耳だけで銃弾の軌道を読めるようになり、さらには予測線なしの狙撃すらも切り落とせる次元へと到達した。
『はいダメ~!はいっはいっ、敗北者!敗北者って知ってるかぁい!?敗北魂!敗北者のここがすごい!そりゃ僕はトナカイだし…敗北者になりたいけど、弱いやつなんかの味方じゃねえんだ…(カス)!はい、はいっ、敗北魂!敗北者のここがすごい!』
『悔しいーー!!また負けたぁああ!!次は絶対ぶち殺して一緒に死んでもらうんだからね…!ほらM*2も何踏まれて煽られて気持ちよくなってんの!また作戦一から練り直すよ!』
『うっ、ふぅ……………………………………………なるほどこれが寝取られ…』
『かみしめてんじゃねーよ。つーか僕とピトが寝てから言えよ。…この寝てから言えよってセリフって普通立場が逆だと思うんだよな。寝取った側が寝取られた側に言うセリフっていうか…僕はまず寝てねーんだわ』
『じゃあ今からオフ会する?』
『しない』
『うっ…ふう…』
『今のはなにに対してのナニなんだよ…』
『いえ、ピトが無碍に袖にされるとそのあとの八つ当たりが激しいので…』
『未来予想で気持ち良くなるとかきしょ(直球)カップルのプレイに僕を巻き込まないでほしい』
『ベネ…!』
『ちょっと!なんで私よりМとの方が仲良くなってるの!?』
『僕自慢じゃないけど男友達のほうが多いタイプなんだよね。モテないから』
『ほんとに自慢じゃなかった…よしよし。お姉さんが慰めてあげるからね。いろんな意味で』
『やー心揺れなくはないけどマジで他の男がちらつく人無理なんだよな。浮気してるみたいで萎える。あと好きな人とがいいし…』
『そういう無駄に潔癖なところがあるからいつまでも童貞なんじゃない?』
『それを言ったら戦争だろうが…!』
具体的にはマズルフラッシュと発砲音、その他銃弾が空を切る実際の音から予測線を予測し…もはや反射でその全てを切り落とせるようになったのだ。
反応速度が足りないなら、反応とかするよりも早く身体が動くようにすればいい。
脳を介さずに身体が動けばそれが最速。
実に簡単で一部の隙もない完璧な理論だ。
GGОでの僕はもはやキリト以上の早さがあると言っていい。
…まぁ光剣が一本しか買えなくて、片方が拳銃なんていう状況ならまだしも、普通に光剣二刀流のキリト相手だとどうなるかわからないが、経験の差で勝ちきれるだろう。
たぶん。
ゲームのプレイヤーとして操作が上手いのはキリトだ。
それは間違いない。
だが、自慢じゃないが、僕はゲームをクリアする執念だけは他の追随を許さないのだ。
死んでリトライできるなら尚のこと。
ゲーム内のシステム上で、再現性がある現象なら僕はそれを必ず習得してみせる。
「練習して天才相手に完璧に勝つ♣。これがゲームで一番気持ちいいってそれ昔から言われてっから」
「はぁ!?」
「古事記にもそう書いてあるしゴンもそう言ってた。つまりHUNTER×HUNTERは日本書紀ってわけなのだよ」
「い、意味がわからん…!」
僕は対策しすぎて逆に普通にラインなし狙撃できるようになった自分に笑いながら、マシンガンを持ったプレイヤーのどたまをぶち抜いて予選第一試合を危なげなく勝ち進むのだった。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
うちの主人公って予測線見てからなら八割くらいで銃弾切れるし、無くても脳を介さずに音への反射だけでマシンガンの銃弾切り落とせる凡人でトナカイらしいです(意味不明)。
書く感想がなかったら、なるほどこの主人公は完璧に世界観とマッチしてるんだな、って褒めてください。
あとここすきも前回含めいっぱいください(強欲)