変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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もう始まってる!な話。
本日3話目です。


ゲームスタートの巻。

 

 

その後も下らない話題が二転三転しながらも三人で盛りあっていた僕たちは、クラインの提案で一度解散することになった。

 

「へークラインの夕飯はピザか。僕は昨日の残り物のシチュー」

 

「二人とも準備万端だなぁ」

 

「そのシチュー誰かの手作りなのか?」

 

「クレアおばさん」

 

「じゃあお前じゃん」

 

シチューは今、冷蔵庫で冷やされている。

僕とクラインとは違って実家暮らしのキリトは呑気なものだ。

好きなときにゲームから落ちて食卓へいけば、家族が用意してくれた夕飯が用意されている勝者の余裕と言えるだろう。

 

「二人とも飯作ってくれる相手がいないとも言う」

 

「やめろよ」

 

「でもね、モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ。これはね、決して強がりではないんだ…」

 

僕は現在、一人暮らしだ。

そして日曜日に夕飯をピザで頼むような男の家に、料理を作ってくれる誰かがいるとは思えない。

恋人がいても別々に暮らしているだろうし、なんならそんな浮いた話すらない可能性がある。

 

悲しい話だ。

 

「あ、んで、オレそのあと、他のゲームで知り合いだった奴らと《はじまりの街》で落ち合う約束してるんだよな。どうだ、紹介すっから、あいつらともフレンド登録しねえか? いつでもメッセージ飛ばせて便利だしよ」

 

「え……うーん」

 

たぶん思いつきなのだろう。

そして、もっと仲良くなりたいというクラインの意思表示でもある。

 

たが、それに待ったをかけるのがキリトという男だ。

 

「ほい、これ紹介用のID」

 

どうせクラインとうまく言ってるけど友達の友達と仲良くできるかはまた別だしな、とか考えているのだろう。

仮にも幼馴染の僕に言わせてみれば、キリトは基本善人から嫌われる人柄ではないし、この神的にいい人なクラインの友人が悪人ということもないだろうから、普通にうまくいくだろう。

 

ま、ここで強引に連絡先の交換をさせたところでどうにもならないのは知っているから、僕は気にしない。

 

「…ってそれ俺のじゃねーか!」

 

「あ、バレた?」

 

「バレるわ!つーか承認するかどうかは俺なんだからな!申請来ちゃったら拒否できないだろ気まずくて!やめろ!」

 

「お友達は増やしたほうがいいわよ?母さん心配」

 

「こんな世紀末な見た目の母親は願い下げだよ」

 

「願い下げセール中だよ。買ってく?」

 

「買わない」

 

「…ぷっ、はははは!いや、もちろん無理にとは言わねえよ。そのうち、紹介する機会もあるだろうしな」

 

「……ああ。悪いな、ありがとう。長ネギは許さないけど」

 

「僕のことは嫌いになっても長ネギは許してやれよ。食わず嫌いか?」

 

「丸、丸な!」

 

「丸?なに言ってんの?国語力ゼロか?やれやれ、僕に甘えていつまでも人とコミュニケーション取らないからこうなんだよ。反省しな?」

 

「長ネギ丸うぜえええええええええ!」

 

とはいえここまでなら笑い話。

笑えないのはここからだ。

 

「あれっ、なんだこりゃ。ログアウトボタンがねえよ」

 

「ボタンがないって、そんなわけないだろ。よく見てみろ」

 

「やっぱどこにもねぇよ。おめぇも見てみろって、キリト」

 

「だから、んなわけないって……」

 

「……ねぇだろ?」

 

「………うん、ない」

 

ログアウトボタンがないということは、つまりはSAOに能動的に脱出する方法が失われたことを意味する。

それを理解するまでにキリトやクラインが焦ったように会話をしていたが、僕はもう会話に参加する気にもならなかった。

 

だってそうだろう?

クラインはピザの配達で誰かが家を訪れる。

キリトは家に人がいる。

つまりこの2人は誰かが外からナーブギアをはずしてくれると言う可能性を持っているという訳だ。

 

だが、僕にはいない。

誰もいない。

両親は現在アメリカだ。

こないだ日本に帰ってきてはいたが、僕の期末テストと大学受験の結果を見たあと仕事でアメリカに飛んだ。

そして、家に遊びに来るような友達もいない。

普通に遊ぶ友達も別にいない。

配達も頼んでいない。

 

───おいおい、家を出れなくて終わったわ。

 

風が逆風すぎて困っちゃうな…。

 

そして、自主的なログアウトが不可能であることに気付いたその直後、転移させられて茅場晶彦から持たされた宣言は、僕達プレイヤーを絶望に叩き落とした。

 

『(前略)これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である。(中略)…今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。』

 

茅場晶彦の校長先生並みの長い演説が終わり、辺りはにわかに騒がしくなる。

 

僕?

僕は話の途中で理解を諦めて、あとでキリトに聞こうと思って待機していた。

話が一段落したらしいので、とりあえずキリトに要約を頼む。

 

「つまりどういうコトだってばよ」

 

「…This is デスゲーム。クリアするまで帰れません。ゲームの中でのHPがお前の命だ。わかったか?」

 

「なるほどなぁ…」

 

なんか手鏡を渡されて、現実の姿に戻ったことで、あのアホなキャラクリから解放されたと喜んだのもつかの間、キリトの説明でようやく現実を認識した僕は、とんでもない事実に気づいた。

 

「つまり、僕の大学合格もなかったことになる…ってコト!?僕の薔薇色のキャンパスライフはどうなる?まさか出来るはずの彼女とのデートやスケベなことは、全部できないって?」

 

「夢見すぎだろ…」

 

「…茅場許せねええええ!こんなに沢山の人を巻き込んで、命を何だと思ってやがる!クズが!僕が絶対許さないからなぁ!地獄に落ちろっ!ドブカスがぁ!死ねえええええええええ!」

 

「なんだろうな。誰よりもキレてんのに温度差が違うんだよな」

 

「よーし、スッキリした。やるか」

 

「緩急こわ…」

 

そんなこんなで、あんなこんやで。

まさかまさかのデスゲーム(神ゲー)が開幕した瞬間だった。

途方もない時間をかけて、僕達はこの城を攻略していくことになる。

 

 

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