変態バケツエンジョイ勢。   作:ひつまぶし太郎

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無限に会話が転がってくせいで文字数が膨大になりました(六千字)。
途中で分割することも考えたんですけど、もう間違って一瞬投稿しちゃったので、全部投げます。


生きてる実感感じるんでしたよね?の巻。

 

 

 

早朝。

まだ眠気でうまく回らない頭をコーヒーで無理矢理叩き起こし、かといって特にすることもないからか、意味もなくテレビなんかをつけたりして、キリトは寛いでいた。

 

世間的にはもう大晦日。

 

ここ1年半ほどはSAOにいたが、そもそもそれ以前は妹の直葉との関係もギクシャクしており、幼馴染の北原静空も北海道にいた。

 

だから、本来こういう誰とも何の予定もない大晦日というのは慣れっこなはずだったのだが、あの濃すぎる1年半はキリトに少しだけ人恋しい気持ちを思い出させていた。

あと最近は普通に長ネギ丸かアスナがキリトの周りにおり、人恋しさとは無縁だったせいで余計にそう思うのだろう。

 

端的に言って寂しかった。

じゃあ誘えよ、という無慈悲な幼馴染の声も聞こえてくるが、それができるなら長年ソロをこじらせたネットゲーマーなんかしていない。

 

いや、予定はあるのだ。

夕方くらいに。

それまで暇を持て余してるだけで。

 

「お兄ちゃん、これ見て」

 

「ん?」

 

そんな風に黄昏れていたキリトは、直葉に話しかけられて顔をあげる。

 

差し出されたタブレットにはいくつかのネットニュースが並んでおり、メインはおそらく国内最大のVRMMORPG情報サイト《MMOトゥモロー》のニュース記事なのだろう。

 

「お、また長ネギ丸がなんかやらかしたのか。…へーアインクラッドのボスを単独攻略ねぇ。いきなり何やってんだあいつ…?」

 

「違う違う。それはそれで私も一回読んだけどそれじゃなくてその下」

 

「あ、これか?長ネギ丸プロデュースのユナってARアイドルプレイヤーと超有名シンガーソングライターの神埼エルザの炎のプロレスデスマッチ…」

 

「違うって。いや、そのデスマッチのチケットは一瞬で完売したらしいけども!」

 

なんでこないだまで賞状の授与式を見届けるついでにアメリカに里帰りしてたというのに、こんなにも話題が尽きないのか。

 

だん、と。

思いっきり叩かれたテーブルがみしっという嫌な音を立てたことを努めて無視して、キリトはようやくそれらしい記事にたどり着いた。

 

…最近アスナも力加減が壊れてるんだよな…俺も鍛えてるはずなんだけど…。

 

「…あーエクスキャリバー見つかったんだ…うん。そっか」

 

「反応薄っ!…いや、他のニュースが変すぎるだけだって!」

 

なんか最近あいつ、リアルアバターの北原静空の方でもニュースになってたな、と。

 

キリトと直葉は脳裏に過ったニュースを無理矢理頭から追い出した。

 

ノーベル賞ものの発見をしたとかなんとか。

静空がなんかできたンゴー、という舐めた態度で提出した成果物をVRを利用して多角的な検証をしてどうたらこうたらとかでうんちゃらかんちゃらで。

VRと組み合わせた未来の医療の可能性がちんちんマキシマムドライブみたいな。

 

発見した本人がよくわかってないせいで、キリトたちもなんかよくわかんないけどすごいことが起こったんだな、という浅い理解に留まっている。

これが勃起の力だ、とドヤ顔をするバカを見ていると世の中ってもう壊れてるんだなと諦めもつくあたり、世も末もいいところだった。

 

「まぁ見つかっただけとは言え…誰かのものになるかもと言われるとムズムズするな…」

 

「取りに行っちゃう?」

 

「行っちゃうかぁ…」

 

元より大晦日の夕方に意味もなくみんなで集まろうという話もしていたわけだし。

 

運が良ければ全員早めでも集まれるかもしれない。

 

「確か静空兄がトンキーに取り付けるサドル見つけてくれたから、上限は2人増えて9人だよね?」

 

「まぁいつメンか」

 

「あ、でもその静空兄から返信こないってアスナさんが言ってたっけ…」

 

「あー…」

 

アスナへの返信の最後は、大晦日の夕方の予定の参加不参加ではなく『うわ鼻の穴でか』だったか。

 

多分まともにメールを読んでないのだろうけど鼻の穴がでけーのはお前のせいだよ。

 

「どうかなーあれに関しては静空兄の言い分もわかるけど…」

 

「くっ…」

 

「静空兄が関東に戻ってきてはしゃぐ気持ちはわかるけどさぁ…普通彼女の手料理とは比較しないよ」

 

「だからってチョコボールはダメだろ!あれで1週間鼻の穴もどんなかったんだぞ…!あんなのでかいの入れといてそれから音沙汰ないし!やるだけやってさぁ!」

 

「その言い方が気持ち悪いよ…」

 

「そんなことないだろ…!」

 

しらーとした直葉の目線から逃れるようにキリトは立ち上がり、食器を抱えて洗い場に向かう。

 

「とりあえずメッセージだけ送っといたら?」

 

「そうだなー…まぁ気づいたら返信すぐ来るだろうし」

 

「意外とマメだしね。シノンさんからのメッセージとか寝てなきゃ即帰ってくるらしいよ」

 

「遅れたらシノンが病むからだろそれ…甘やかしてんなぁ」

 

結局既にVRにダイブしてるらしい長ネギ丸に連絡がつくことはなく、当てがあるというアスナの紹介の一人といっしょに、エクスキャリバーに挑戦することに相成った。

 

 

なお、あくまで余談ではあるのだが。

長ネギ丸の恋人への返信の8割は『おちんちんぴろーん』とか『うんちぷり』とかいう脳を介さない発言ばかりであり、それに喜ぶシノンはシノンでバカをかなり甘やかしているということをここに明記しておく。

 

…罪からの逃避で始まったにしては健全な雰囲気で付き合っている二人に嫉妬する青春生き遅れお姉さん(ピトフーイ)と、アメリカへの里帰りにストーカー(神埼エルザ)がついていったことを知ったシノンの束縛ボイスという鞘当が行われていたとしても、間に挟まれている本人が一切気に留めていないせいで、一見すると平和な日常が過ぎ去っていた。

 

 

 

 

 

 

その人の第一印象は、結構最悪なものだった。

 

最近仲良くなった友人にそんな話をしたら、鈴の鳴るような笑い声と共に同意される。

 

「あはは!うんうん、わかるよー…私もそうだったし」

 

「へー」

 

…本当に、これが勉強のプレッシャーとストレスで母親の胸を引きちぎろうとした女の子なんて、誰が信じるのだろう。

 

「いや違うから…あれは唆されただけだから…私はまともなの。信じて?」

 

「まともだったらお母さんの胸を引きちぎろうとしないと思う…」

 

「違うの、まともじゃない人に背中押されちゃっただけなの!あと引きちぎろうとしたんじゃなくてちょっと掴んだらお母さんが見たことない顔して悲鳴あげただけで…!全てはそう…私が強かったせいなの…!」

 

「あはは…うん、そうだよね…アスナはまともだよ、うん。ボクはわかってるから…力、強いんだね。ボクの手握るのやめてくれる?怖いから」

 

「やだ」

 

「ひぇ」

 

まさにぴぴっと来た、という表現が正しいのだろう。

 

あっという間に懐いたボクは、趣味がゲームという点まで同じなことが嬉しくて、パーティを組んでる友だちの話や楽しかったクエストの話、最近あったことなんかを思いつくままに口にしていた。

 

『…それがさぁ…いや、ボクも悪いんだけどあんまりにも退屈そうにボクと他の人のデュエル見てるのが腹立ってきちゃってさ!ボクとのデュエル中より負けた人を煽ってるときのほうが心底楽しそうなのもあって、ちょっと困らせてやろうって思ってね』

 

『……うん?』

 

『だから、次の対戦相手来るまでに暇つぶしにバレーしよーなんて言って、わざとその人に向かってボールをそらしたらさ…その人が食べてたシュークリームだめにしちゃって…』

 

『うぅ───ん?あれ?』

 

『そしたらひどいんだよ!デュエルで普通にボコボコにされて、装備剥かれて変なモンスターいっぱいいるダンジョンに閉じ込められてさ!!そういうのが趣味の変態なのかと思ったけど別に見てるわけでもないし!出てきたらなんかみんなで準備してクリアしようとしてたボスは攻略されてるし!なんなのもー!』

 

『…最後は顔面ドロップキックされてサーフィンされた?』

 

『…あれ、この話ボクがするの2回目だった?』

 

『……ごめん、別の人から聞いたことあって…』

 

『嘘でしょ広まってるの!?』

 

『あ、大丈夫…聞いたのは本人からだから』

 

『本人ってそれボクのことじゃ……あー!えー!?アスナってバケツさんの知り合いなの!?あ、だからか!

 

『今私のこと類友扱いした?』

 

まさかの繋がりに思わず声を張り上げてしまったけど、アスナから聞くバケツの人の話もまた、大概最悪だった。

 

でも、真面目に頑張るアスナの横でいつも横道にそれていくその人の話は酷い話なのに何故か面白くて。

 

…アスナがモンスターの罠にはめられてパンモロになった話は、普通に笑ってしまった。

 

「基本的にあの人カスでねー…昔のほうがもうちょっと幼い口調でまともだった気がするんだけど」

 

「まー1年半もあのゲームにいたら変化無しは無理だよね…」

 

気付けば、アスナがSAO生還者なことも知っていた。

 

「変化なのか化けの皮が剥がれたのかはわからないけどね」

 

「どっちもじゃない?」

 

『───こんな神ゲー楽しまないなんて損でしょ!』

 

あの世界を震撼させたデスゲームで、その発言を虚勢でも何でもなく言えるその人のことを、軽蔑した数と同じくらい尊敬してると、アスナは笑っていた。

…それはきっと、彼のおかげで。

 

絶対に忘れられない、素敵な思い出になったのだ。

あの城に囚われ、死ぬかもしれない恐怖に毎日苛まれて、それでも。

 

『またなんか同じゲームすることあったらよろしく!』

 

そうやって、いっしょに遊びたい相手として扱われることが、どれほど楽しいことなのか。

 

「いいなぁ…」

 

「ふふ」

 

思わず溢れた言葉に、はっとしながら思い出す。

 

ボクの顔を容赦なく踏んづけて、楽しそうに笑うバケツの人の笑顔を。

 

『妖精の国へようこそ!!!』

 

せっかく準備してたボス戦はできなくて、でも煽り散らかすバケツの人をみんなで追いかけてるうちに全部がどうでもよくなって。

 

『なーにが一回きりの思い出だよ。残り100層全部自分たちの名前で埋めるくらいの気概でないと』

 

気付けば、全部のフラグを無視して次の層のボス部屋の前にたどり着いていた。

 

『来いよ、ゲームは遊んだもん勝ちだぜ』

 

まぁそのあと普通にぼっこぼこにされて全滅したんだけど。

 

『やばいやばいやばい!死ぬぅ!スイッチスイッチスイッチ!!』

 

『わー!まだ回復終わってないのにこっち来ないでよ!さっきまでキメ顔してたくせに!だっさー!カッコ悪ーい!』

 

『うるせーぞメスガキ!こっちは回避前提の火力特化ビルドなんじゃい!やってられっかこんな無差別範囲攻撃ボス!火力出してほしきゃタンクしろよ下手くそが!』

 

『うわー人のせいにしてる!幻滅だなー、がっかりだなー?というか君それでよくボスの単独撃破とかやったよね』

 

『ぶっちゃけちょろかったよ?ハメ技あったし。あのボスならたぶんパーティ一つだけでもクリアできたな〜めっちゃチャンスだったのにご愁傷さまでやんす!ザマァ!!うききー!ちょけぷりぃー!べろべろばぁぁあああ!!!』

 

『最低!!!無駄に煽りにバリエーションつけないでよ!煽り顔差分とかいらないから!』

 

『二人とも後ろ後ろ!』

 

『何だよそこは志村だろうがわかってねえな…』

 

『ホントだよね、お約束ってやつがさぁ…』

 

『君等ほんとは仲良しだろ!?じゃなくてボスが!後ろに!』

 

『『あばー!?』』

 

このゲームにみんなで遊びに来てよかったと、心の底からそう思ったのだ。

 

まだまだ遊んでいいんだと、みんなとこれからも遊んでいいんだって。

 

ボクの人生はこっからなんだって、ようやく実感できて。

 

「…あ、メール。…ふーん?ねぇ、ユウキ」

 

「なに?」

 

アスナが、いたずらっぽい笑みを浮かべている。

 

「あの人の代わりに、楽しいことしよっか」

 

ボクの新しい友だちとの冒険が、始まった。

 

 

「えー!?嘘でしょ、バケツの人がボクの恩人…!?」

 

「うん、そうなんだよね…残酷な話なんだけど」

 

「そんなぁ!白馬の王子様みたいな…メガネの似合う素敵なイケメンがいいなって思ってたのに!恩人さんと思わぬ再会をしてそこから恋に発展するみたいなヒロインルートは?」

 

「実際は性格カスなバカだし、あの人一応彼女持ちだね」

 

「…もしかしてパンモロで笑ったの怒ってる?」

 

「うん!」

 

「めっちゃ笑顔だ!わー、ごめんって!ちょ、笑顔のまま近づいてくるの怖いんだけど…?」

 

「ふふ、何もしないよー、何もー」

 

「あははは!くす、くすぐったいって!あはははは!ごめんって!!!」

 

 

 

 

 

 

「い…っくし!!」

 

「風邪かね?」

 

「噂されてんじゃない?」

 

「まぁ君と私の噂は事欠かないだろうが…」

 

「よう。世界で一番ホットな犯罪者」

 

「ふっ、殺人鬼を自認できる救世主に言われると照れくさいな」

 

僕は現在、いわゆるヨツンヘイムと呼ばれるクソ寒いエリアに来ていた。

 

ナビゲーションピクシーヒースクリフと共に。

 

まぁそれ自体は珍しいことでもないし、GGOとか別のゲームでも遊んでたりするので、そこまで久しぶりな感じもしない。

 

にしても、だ。

容赦なく吹き付ける吹雪は、僕の顔の前で飛んでいるヒースクリフにも平等に襲いかかり、結果として僕はひたすらヒースクリフのパンモロを見せつけられ続けていた。

全然楽しくない。

なんだこの罰ゲーム。

 

…というかヒースクリフがそんなんだから『ナビゲーションピクシーをあえておじさんに見えるようにカスタムして連れ回してるド変態』という普通に裁判すれば勝てるだろってレベルの名誉毀損を僕がされるんだよな。

 

「その格好寒くない?着替えたら?」

 

「鍛えてるからな。問題はない」

 

「鍛えないでほしいなぁ…グロいから」

 

女装にハマってきてんじゃないだろうなこいつ。

なんで頑なに妖精姿なんだよ。

キリトの娘がこないだお揃いなのが嫌って泣いてたぞ。

 

つーかシステム的にどうこうとかじゃないのかそこは。

というか電子幽霊がどうやってムキムキになってきてんだ。

 

電子プロテインさ

 

「なるほど麻薬か」

 

「違う、合法だ」

 

通報したらギリ勝てそうだなぁ…。

 

「ふむ、キリトくんからメッセージが来てるようだがどうする?」

 

「えー…まぁいいでしょあとで。せっかくのお祭り騒ぎに乗り遅れちゃうし」

 

「まぁ確かに。現状我々はなかなか忙しい……よし、うまく話をそらせたな」

 

「パリィ失敗してんぞ神聖剣」

 

「なん…だと…!?」

 

前より絶対アホになってるヒースクリフがナビゲーションピクシーらしいセリフをほざいてるが、気にしなくていいだろう。

なにせ現在ヨツンヘイムどころかアルンすら巻き込む大きなクエストがこの世界では進行していて、僕らはそれに参加中なのだ。

 

構ってちゃんの相手をしてる場合ではない。

 

動物型邪神みたいなモンスターがこのフィールドから一匹残らず狩られてしまえば、世界が滅びるという、まさに大晦日にふさわしいお祭り騒ぎ。

 

乗るしかない、このビックウェーブに。

 

「…あん?ていうかキリトもログインしてんじゃん。ならなおさらいらんでしょ返信」

 

「その心は?」

 

「こんな楽しい状況で合流できないのは嘘でしょ」

 

「ふっ、それもそうだな」

 

「それに恋人がノーベル賞受賞したってのに、大晦日の夕方までは友だちと過ごそうとしてるやつに既読無視云々は言われたくねーや」

 

「耳が痛いな」

 

「心も痛ませてね」

 

僕は一度槍の調子を確かめるように肩を回し、そしていよいよ見つけた獲物に狙いを定める。

 

クソ寒いエリアをわざわざこうして歩き回っていたのは、すべてこのため。

外は寒いが、エンジンはもう全開だ。

 

「…それじゃあまぁ」

 

「盛大に始めるとしようか」

 

僕とヒースクリフは、最近似てきたあくどい笑みを浮かべて、最大速度で駆け出した。

 

 

「───おらおら!弱いものいじめしてんじゃねーよ滅ぼすぞこら!!!お前らが滅ぼすのが先か!僕が先か!タイムアタック勝負だおい!!」

 

 

マンモスなのか象なのか。

ナウシカのオームに無駄な足し算したみたいなデザインのモンスターを襲うプレイヤー集団に襲いかかりながら、僕は久しぶりの大騒ぎを存分に楽しんでいた。

 

 

「悪い子はいねーか!魔王と勇者のお通りだぜ!」

 

「魔王と魔王だろお前らは!!」

 

「変態がでたぞー!!」

 

「ヴォエ!なんだあのグロ妖精!?」

 

裸装備でバケツ頭の蛮族と女装ムキムキ妖精おじさん。

あえて一番非効率な方法でクエストを進めようとする変態たちのコラボが、ヨツンヘイムで始まった。

 

 

「「さぁ、祭りの時間だ!!!」」

 

 

 

 

 





なんかアスナとユウキが元気に会話してるとそれだけでエモいですよね。
まぁ、明確にバカからの汚染されてるんですけど。
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