アンダーワールド前半編です。
完全に蛇足編で薄味なので、読まなくても大丈夫です。
でも許されるなら感想は欲しいです(強欲)
「聞こえるか! 騎士長! あんたの副官が死んじまうぞ! 元老長とやらでもいい! 聞こえてたら、降りてきて助けろよ!!」
キリトは、叫んでいた。
見知らぬ世界に身一つで投げ出され、その孤独を癒してくれる新たな友と出会い、しかし今、一人の女性が自分の手にかかり死にかけているということに大いに取り乱して。
「キリト。その前に僕も助けてほしいな。双子に盛られた毒の影響?いや、違うか。だって牢屋で目が覚めたときからこの姿だもんね。これ…治るのかな」
そんな弱気な自分を気遣う
ここは地獄だ。
ユージオも壊れてしまった。
あるいは自分の脳がもう壊れてしまったのかもしれない。
だってそんなはずない。
禁忌目録に違反して牢屋で目が覚めたら『ユージオがちんちんの化け物になってるなんて』あり得るはずがない。
これは悪い夢だ…痛みもあるし吐き気もするけど。
夢であってくれないと困る。
「誰でもいい……まだいるんだろう、整合騎士! 仲間を助けに来いよ! 司祭でも、修道士でも……誰か来てくれよ!!」
ついでにこの場を冷静に処理してくれる誰かも来て欲しかった。
「あのさ、キリト。どうしよっか。つーかどうしてくれようか。僕の姿どうするのこれ、やばいよ」
巨大なちんちんにユージオの顔が生えてる。
そんな化け物の横で崩れ落ちるキリトの叫びに応えたのは、しかして心の底で望んだような、手を差し伸べてくれるような優しい存在ではなかった。
「───おやおやァ、なにやら騒がしいと思って来てみれば…何をやってるんですゥ…あなたたち」
丸い頭に真っ白な顔。
赤白の道化服を着た雪だるま、という表現が一番正しいのだろう。
後ろに護衛なのか一人の騎士を侍らせ、付き従わせている。
その騎士は…金髪の、美しい顔立ちで。
同時に、変な目の模様のついたアイマスクをつけ、ナイトキャップを被り、だらしないジャージ姿だった。
唯一騎士らしさは剣くらいのもので、キリトたちを学園から連行したときに見かけていなければ、騎士と理解することもできなかっただろう。
「誰だ…?」
「すごいやキリト。あいつには話しかけて僕は無視ってことは、僕今あいつより見てられない姿ってことだよね?やばくない?どうなってるのこれ。鏡もないから自分の姿見えないんだよね…」
「ホホッ、ホホォー!反逆者風情が…アタシに名前を聞くなど!!恥を知りなさぁいぃいいいい!ホホホホォォォオオオオオ!ホ〜!」
「ホホホーホ・ホーホホ」
あと金髪の騎士アリスが記憶の封印以外にも致命的な精神汚染の類を受けていることも間違いなかった。
「チュデルキン…!剣士同士の誇りと覚悟をかけた戦いに入ってくるな!」
「……?誇り?覚悟?敗北者に価値はないんですよねェ。敗北射精には得難い快感がありますがァ…ホホッ、それにそもそもォ斬った相手を助けてくれなんて懇願するような戦いに覚悟なんてありませんよねええええええ!」
「なんだとぉ…」
歯軋りをする騎士に手早く傷を塞ぐ処置をしてみせるその男に、キリトは喉が震え、瞳が揺れるのを感じていた。
「くっ、そうまで言いながら…なぜ助ける…」
「お前たちは最高司祭猊下の貴重なリソースなんですよォ。最近はお前たちバカクズうんち騎士どもも半分くらい減りましたからねェ」
減らず口に、悪態。
他者の心を踏みにじることに躊躇のない悪辣さ。
だが、この場において。
最も優れた実力者は、悔しいことにこの邪悪雪だるまだった。
「つまりこれはオナ禁ということですよォ」
「元老長。だんだんロールプレイが雑になってきてます」
「えぇーマジかよ。1年も続けてるともうよくわかんねえんだよな。つーかそもそも一人称アテクシであってたっけ」
「さぁ?拙者とかおいどんとかじゃなかったですか?」
「…あれー?アリスちんってそんなバカだった?壊れた?」
「失礼、神マミった」
「替えどきかぁ…」
というかこんなとこにいるネットミーム使いとか一人しか知らなかった。
アリスとの会話も、もはや聞き馴染みしかない。
「アリス・シンセシス・サーティ…!お前もなぜこんな男に従っている!騎士の誇りはないのか!?」
「私だってここにはきたくなかったんですよ。休暇なのに…せっかく自室でだらだらしてたのに…クソ上司…今日は風呂も入らずに1日惰眠を貪るつもりだったのに…」
「なぁ…ゆ…ユージオ。あの女の子本当にアリスなのか?」
「…あ、ようやく僕と話す気になった?」
「ごめんって。カーディナルにもどうにもできなかったんだから切り替えるしかないだろ…」
あられもない姿のユージオはさておき。
ユージオは何かを思い出すようにしばし唸り、しかし首(意味深)を横に振った。
「ないね。いくら記憶を封じられててもアリスがあんなにだらしないわけないもの」
「そっか…」
「アリスはもっと儚くて、だけど陽だまりみたいな光の体現者だったからね」
「そこの男…失礼ですね。どう見たって私は儚いでしょう。明日にはもう会えないし、幼い頃に連れ去られてそうでしょうが!」
「笑えないジョークやめてくれないか?」
たぶん記憶を封じられているであろう彼女の身の上を考えると本当に笑えなかった。
なんにせよ。
「静空………お前何やってんの?」
「おっはーキリト。元気してた?」
長ネギ丸。
あるいは、北原静空。
キリトの幼馴染が、変わり果てた姿でそこに居た。
いるとは思っていた。
この世界の貴族が使う奇妙な剣術。
随所で聞こえてくる、旅人の噂。
こいつはわかりやすく痕跡を残して回っていたから。
───雪だるまがそのテクスチャを脱ぎ捨てると、見慣れた金髪の少女のような少年が顔を見せる。
「とにかくキリキリ説明してくれ」
「キリトだけに?」
「は?殺すぞ」
「キリト?」
2年の孤独が急に癒されたせいか。
あるいは命が目の前で繋ぎ止められて一気に安心したからか。
急速に素の桐ヶ谷和人に戻りつつあるキリトに、かつてユージオだった何かが心配そうな顔をしていたが、一旦無視。
「やー、どのエリアに知り合いが来てくれるかわかんないからとりあえずあらゆる地域でミーム汚染を繰り返してたくらいで…別に大したことはしてないって…たぶん」
「私たち整合騎士相手に『埋められない沼に整合騎士埋めてみた。最終的に全部抜く。』とか、『渡れない激流に整合騎士流してみた〜デス桃太郎編〜』とかしてましたよねクソバカ上司」
「記憶にないなぁ…」
「魂の形が反逆者すぎない?スパルタクス?」
「いやいや、僕は単にちょっと禁忌目録ビリビリに破いてただけなんだよ!なのにあいつらが…僕が悪いって言うから!僕は何も悪いことしてないのに!それに勝手に壊れたんだよ僕は悪くねぇ!」
「あと最高司祭が眠ってる部屋で全裸になって焼肉したり卓球大会開いたりしてましたよね」
「犯罪者…」
ちなみに、あとから知った事実ではあるが。
このバカは『僕たちレッドガンは壁越えを果たす…』とか宣ってとりあえず初手でダークテリトリーに侵入し、整合騎士から追われる身となり、何度も返り討ちにした挙句住民たちを洗脳し魔改造して回り、国中にアドミニストレータの変顔を貼り付けまくるとかいう叩けば埃が出るどころか、余罪多数といった有様だった。
『誰も禁忌目録が破れない?なら世界全体の主観をずらしちゃえばいいんじゃね?(ミーム汚染)』
なお、この平和で停滞した世界でバカみたいな量の負荷は想定外だったのか、整合騎士の871ロックはあえなく破壊された模様。
「お前はこの世界の人のことをなんだと思ってんだよ!!」
「えー…たまごっちみたいなもんだろこいつら」
「たまごっちは殺し合いさせねえんだわ…」
「それはそう。ちなみにお前の後ろにいる化け物はなんなの?ダークテリトリーの住民?それとも閃光さんのかわり果てた姿?」
「ぶっ殺されるぞお前」
そういやこいつカスだったな、と。
キリトは2年ぶりのバケツカスの言動に安心感すら覚えていた。
「禁忌目録に違反したらとんでもないことになってんだよ。お前どうにかできたりしないか?」
「あー…もしかしてあれか。僕が命令して牢屋に仕掛けさせたランダムで罪人をちんちんにするシステムか…」
「人の心とかない?」
「最近ATМ使ってなくてさ。持ち合わせがね」
「50%の確率で発動するように完璧に調整できたと自負しています。そして牢屋の景観を損なわないようにする。会心の出来です。…まぁ、その設置の際に一人整合騎士が猥褻物になったので失踪ということにして処理しましたけど」
「アリスちん優秀だねぇ」
「むふん。最近は罪人もいなくて退屈してましたからね。発動してよかったです」
最初の犠牲者はサーティワンアイスクリームみたいな騎士だった。
「うん、アリスが喜んでるならいっか」
「ユージオさん?お前ちんちんにされて許すのはもう寛容とかじゃないぞ?わかるか?ちんちんにされてんだぞ!?」
「キリト…急に卑猥な言葉を連呼しないでよ。どれかしらの禁忌目録に抵触してんじゃないの?」
「あれ、この世界って俺の味方いない感じ?」
「あはは、そんなのいるわけないよ。だってどうせこのあとキリトがアリス寝取る展開が来て僕が闇落ちするんでしょ?知ってんだから…いいよそういうの。鞘当役なんて勘弁してほしすぎるんだよね」
「鞘当役っていうか…竿役っていうか…」
「やめてよね。卑猥な言葉バトルしたら僕が君に勝てるわけないじゃないか」
「やめてよねは俺のセリフなんだが。帰ってきてくれユージオ…ユージオオオオオオオオオオオ!!」
「うるさいよキリト」
まるでリアルの友達に紹介しようとか浮かれてたら次のエリアで敵としてその友人立ち塞がり、覚悟を決めながら呼びかけ続ける、みたいな迫真の表情のキリトをよそに、諸悪の根源はあくびを一つ。
アリスと2人揃ってあくびをして、頭をかく姿が完全にシンクロしていた。
…改めて見ると。
まるで兄妹と言われても信じてしまいそうなほど似通った2人だった。
「これは…どういうこと…?」
そんな、緊張感のない空間に、一人の女が降り立った。
アドミニストレータ。
あるいはクィネラ。
年中寝まくりのクソビッチオブ・ザ・イヤー受賞。
停滞を望み支配に飢えた、極限まで若作りしたド級のロリババア…ドリババアは、それはもう大層お怒りだった。
●
「あいつは…」
「キリトが会いたかったっていうこの国のトップ」
「なんで全裸なんだ…?」
「さぁ。趣味なんじゃない?」
空中に浮かぶ女は全裸だ。
一年くらいチュデルキンに変装して間近で観察していたが、服着てるところ見たことないんだよな。
「美しさは罪っていうけどそういう意味じゃあの人は無罪なんだよな」
「性格ブスですもんね」
「2人揃ってむちゃくちゃ言うじゃん…」
「───よっぽど死にたいのね、あなた。この期に及んで挑発なんて」
「怒らないでくださいね。1年間側付きの中身が入れ替わってることにも気づけない哀れな裸の王様を恐れるなんてバカみたいじゃないですか」
「忌憚のない意見ってやつです」
「それにアリスちゃんまで唆して。判決は死刑よ」
僕のあとに続くアリスちんの言葉にいよいよ持って限界が来たのか。
殺意マシマシで僕を睨みつけ、今にも暴れ出しそうな雰囲気のアドミニストレータさん。
AIでもやっぱホンマのこと言われたら腹立つんやな(鼻ほじ)。
「それにしても…最高司祭様の隣にいるのはなんなんでしょう…わかりますか?」
「あー…ゴーレム君かぁ」
身体の全てを剣で構成された不出来な造形。
そんなゴーレムがアドミニストレータの後ろで浮遊している。
「知ってるんですか兄さ…カス上司」
知ってるも何も。
驚いたねぇ…奇しくも同じ構えだって感じ。
「…あのゴーレムはヒューマンユニットをざっと三百くらい物質変換したら出来る兵器だよ。ちなみにこの三百っていうのは僕の実験の成果と比較して算出したものだから誤差はあるかもね」
「……ん、ちょっと待ってください…それって…」
まさか。
そんな顔をするアリスに構わず、僕は嬉々として指を天に掲げた。
「甘いぞ遊戯!僕は場に伏せていた魔法カードを発動!自分のデッキ外からゴーレムを召喚するぜ!」
僕の呼びかけに応えるように、壁をぶち破って似たような見た目のゴーレムが飛び込んでくる。
黒くて、剣ではなく槍で構成されたそのゴーレムは、アドミニストレータの用意したそれをソードゴーレムと呼ぶならさしずめランスゴーレムだろうか。
「おおい、実験っておま…自分もやってんじゃねえか!!!この悪魔!人でなし!カスバケツ!」
「ふふっ、うれしいわ。そうよね。
「見損ないましたよクソ上司。速やかに腹切ってください」
非難轟々だなぁ。
「おいおい他人使わなきゃ何も無せねえみたいに言われたくねーな。なんだね君たち。僕をあんな無能と一緒にしないでくれる?」
「なにっ!?」
「僕は単に自分のフラクトライトをコピーしただけだし」
「…は?……え?…ば〜〜〜〜〜〜〜っかじゃねえの!?」
まぁ、僕のしたことを知ったカーディナルくんちゃんはドン引きしてたけど。
『完全に同一存在のコピーだと言うのに何の障害もなく自立している…消滅しない…お主化物か?いや、わしはわかっておったぞ。やはりな…人間ではなかったか…』
『僕自身がゴーレムになることだ…!』
『そんで自分自身を躊躇なく物質変換する、と。人間怖ぁ…』
追撃で自己認識とか壊れてらっしゃる?アイデンティティとか存在しない感じ?実は自分大嫌いだったりする?みたいな罵倒がとんできたわけだけど知ったこっちゃあない。
僕は僕だ。
コピーでも本物でも、そこは変わらない。
いいじゃん僕が二人三人いたってさ。
───や、ぶっちゃけほんとに名前なんてどうでもいいんだけどね。僕が僕であれば、記憶が消えようが名前が消えようが、このあと死んで生まれ変わろうがやること変わんないし*1。
というか可愛い美少年が増えてんだからお得だろうが。
全部ゴーレムにしたけど。
コピー静空たちも喜んで協力してくれてたしいいじゃんか。
「途中ゴーレムの合成に使った自分がコピーのほうか本物のほうか分かんなくなったりしたけどまぁセーフでしょ」
「おい全然大丈夫に聞こえないんだが!?」
「大丈夫だって、たぶん僕が本物だって安心しろよ〜」
「適当!」
「…たかが同じ性能のゴーレムが増えたくらいであなたたちと私の間にある差は埋まらないわよ」
「ちなみに」
僕は壊れた壁の外から追加で城内に侵入してくる9体のランスゴーレムに顔を青ざめさせるアドミニストレータに向かって手を振りながら笑いかける。
「おかわりもあるぞ───さぁ、お仕置きの時間だぜ。300対30000。戦争しようや世界最強」
なお、決まり手はU字O字。
またの名をおちんちん型トマホークマークIIだったことをここに明記しておく。
僕が牢屋に仕掛けたのは罪人を巨大なちんちんに変えて、アドミニストレータにぶち当てるためのミサイルに変える仕掛けだったのだ。
アドミニストレータは罪人を直接シンセサイズしようとする。
その時に罪人自身を武器にしてしまえばその隙をつけるっていう、罪人が全然来ないことを除けば完璧な作戦だ。
「ちょ、嘘でしょ!?せめて見た目は剣にしてくれない!?」
「やだよ剣にしたら金属判定になって攻撃とおらないかもしれないし」
「思ったより理由があるのムカつくんだけど!」
うるさいミサイルだなぁ。
巨大なちんちんの根元からとんでもない勢いで炎が出てるバカみたいな絵面のくせに。
「罪人ユニットなら幾ら使い捨てても心は痛まないかなって」
「元から
「おちんちんミサイル発射!いけー!淫売の男!やれー!貫け〜!」
「ユージオが!!!」
「勝った!!アンダーワールド編完!!」
爆発する巨大なちんちんと撃墜されるアドミニストレータ。
床にべちゃ、と落ちたちんちんの抜け殻にキリトの顔面は蒼白になったりして。
「大丈夫だって。あのちんちんの皮防爆性だから。ギガスターと同じくらいあるから」
「無駄に高性能なのやめてくれ」
「ただいまキリト。ふぅ、戻れないかと思ったよ」
───結果としてアドミニストレータは消滅したのはいいが、最終的に僕とキリトはメインコンソール操作中に振り注いだ極光に飲み込まれることになる。
どうやら、このアンダーワールドでの生活はもう少しばかり続くらしかった。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
アンダーワールド編の後半がいつ出るかは不明です。
読み返すのに時間がかかりすぎるからです。
ちなみに、ブラック・ブレット新刊発売に触発された小説をハーメルンの場末に置かせていただいてるので、もし良ければそちらも暇つぶしに見ていって頂けると幸いです。
●【悲報】ちんちん改造したのに戦争に負けるw
https://syosetu.org/novel/432252/