【執事は生殺与奪の権をお嬢様に握られているんだ】   作:クロアブースト

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腹黒系女子よりも恐ろしい漂白系女子なお嬢様に生殺与奪の権を握られている執事のお話。

※人の命がティッシュより軽いレベルで飛んでいくので、スタイリッシュ外道とか苦手な方はブラウザバック推奨。



【執事は生殺与奪の権をお嬢様に握られているんだ】

ダンジョン、それは冒険者と呼ばれる者達が魔物の素材や宝箱から手に入る黄金を始めとした財宝を求めて挑む場所である。

他にも地上を跋扈する魔物の討伐を始めとした依頼や魔王軍なども存在する中世の時代で冒険者達はテリトリーとなる場所を決めて冒険をするのだ。

 

ダンジョンを選んだ冒険者達は、依頼という形式が無い代わりにリポップにより定期的に現れる魔物を倒して素材を得たり、宝箱の財宝を売ることで稼ぐ為にダンジョンの最下層を目指して潜るのである。

だがダンジョンに突如、無数の台車の行列が通っていた。

そしてそこからダンジョンへ台車の荷物を次々と設置していく。

ユニットバス、テーブル、ベッドなど次々と生活家具が設置されていく。

そうして出来上がるのが、仮設移動式宿舎こと通称"ビジネスホテル"の完成である。

 

「アルヴァス」

「はっ!」

 

スタッフ達がビジネスホテルの設備を設置していく中で二人の人影が堂々とその光景を見ていた。

一人は銀髪のウェーブに純白のドレスを着た令嬢ことクラリス・オルコット。

純白の令嬢の隣に出てくるのが黒髪黒目の男性執事であるアルヴァス。

因みに彼こそがこの物語の主人公なのである。

 

「では今日も冒険者らしく、ダンジョンで稼ぎましょうか」

 

クラリスは冒険者ギルドの中でも珍しい、ダンジョンでビジネスホテルを行う異色の冒険者である。

 

 

 

 

「良い紅茶ですねアルヴァス」

「恐縮です」

 

ビジネスホテルが設置されるまでの間、アルヴァスによって臨時休憩場所として用意させた白い丸テーブルで椅子に座りながら、ティーカップの紅茶を飲みながら感想を口にするのは、アルヴァスが仕えるクラリス・オルコット。

冒険者ランキング序列五位の冒険者である。

 

冒険者ランキング、それは冒険者ギルドにおける獲得賞金額の多さによる序列である。

高難易度の依頼程、依頼達成料は高額になり手数料で冒険者ギルドは儲けが出るので序列が高い程優遇される。

ましてや実力もそれに付随して高い傾向にあるので、新人冒険者からすれば憧れの的である。

冒険者はギルドは王都から地方まで各場所にあるので、世界単位では測れないが、最も栄えてるとされる王都に設置された冒険者ギルドで序列五位に至ったクラリスは紛れもなく傑物だ。

 

「こんな平和な日々が続いて欲しいものです」

「そうですね。私も切実に思いますよ」

 

クラリスの談笑に同意するアルヴァス。

何せクラリスに幼少期の執事見習いの頃から生殺与奪の権を握られているアルヴァスとしては本当に平和なままでいてもらわなければ困るのだ。

クラリスは【純白の令嬢】という二つ名を持つお嬢様で人前では一度も怒ったことが無いと言われる程にお淑やかなオルコット家の令嬢だ。

しかしその正体は腹黒女子が可愛く見える程の謀略に長けた漂白系女子である。

彼女が冒険者になる前に通っていた貴族学園では、クラリスが在籍してから卒業するまでに毎年約10名近くの貴族の生徒が水死体を始めとする死体か行方不明になっている。

共通するのはクラリスを侮辱したという点と侮辱してから半年以内に始末されている点である。

勿論貴族を預かる学園である以上、総力を上げて事件解決に向けて捜査したが、証拠が全くと言って良い程出ない。

しかも国やオルコット家から圧力が掛けられ、決定的な証拠が出ない限りはクラリスを拘束してはいけないとまで厳命されてるせいで最有力候補容疑者だったクラリスを学園は容疑者連行が出来ない。

ならばと容疑者絞ろうとしても毎回20名近くの容疑者候補が出る上に始末するタイミングもバラバラなのでクラリスが状況証拠としては上げられても犯人と断定出来る証拠は全く出ないのである。

勿論3年以内に30名以上の貴族の子供達が死亡や行方不明になっておきながら事件解決すら出来なかった学園では校長や教頭などの上層部の再編すら起こったのは余談である。

閑話休題、彼女に侮辱をするということは人生を物理的に漂白されるからアルヴァスは漂白系女子と呼んでいるのだ。

 

そして彼女の数少ない趣味の一つが冒険者であるのだが、今のビジネスホテルをやってるように自分の手で魔物を倒してお宝を見つけるのではなく、冒険者に娯楽としてビジネスホテルを提供して金を巻き上げる事で稼いでいるという異端の冒険者である。

そして台車などで持ってきたビジネスホテルの施設部分の設置が出来て仮設ビジネスホテルが始まると受付用テーブルを置いて彼女は椅子に座って来客を待つのである。

 

「いらっしゃいませ。ようこそダンジョン限定の仮設移動式宿舎"ビジネスホテル"へ」

「本当に宿舎が出来てるのか……」

 

ニコニコ笑顔で接客をするクラリスに、ダンジョン第二層にやって来た冒険者パーティは驚愕の声を上げる。

 

「当店ではダンジョン内でのセーフティゾーン、宿舎の提供をしています。興味があるならばご説明しますがどうなさいますか?」

「あ、ああ……説明を聞いても良いかな?」

「はい。喜んで」

 

そして貴族であるクラリスがビジネスホテルの受付嬢をやっているのである。

貴族が受付嬢の真似事をしてるのかよと思うかもしれないが、口にしてはいけない。

過去にダンジョンや冒険者ギルドでクラリスに直接受付嬢業務をしていた彼女を馬鹿にした冒険者達はもれなく水死体か行方不明になっているのだから……

 

「当店でのサービスは三つ。食事の提供、シャワーやお風呂などの衛生環境の提供、ベッドでの快適な睡眠という娯楽を提供しています」

「娯楽?」

「はい。だってダンジョン内では先程告げた三つは疎かになるのが普通でしょう?だから娯楽なんです」

「うっ……確かにそうだ」

 

男性リーダーらしき冒険者が言うようにダンジョンに潜るに当たって食事、風呂などの衛生、睡眠は確実におざなりになる。

食事は腐らないように保存食などの日持ちするものが殆どで味気ない。

シャワーや風呂はダンジョンにそんなものは無いので、入れないのが普通。

水場があれば水で清めるというのも出来るが、お湯ではなく冷えた水で行うのは快適より苦行に感じるのが普通だ。

睡眠に関しては魔物の跋扈する場所で夜襲を警戒して、誰かが交代制などで寝ずの番をする。

更にベッドや布団などないので寝袋やテントで寝るので大体が硬い床の感触なりで寝にくいのは言うまでもない。

だからこそクラリスは娯楽と言ったのだ。

 

「それにダンジョンでのビジネスホテルは人気でして、常連客もいる位なんですよ。既に今回は予約含めて50名は宿泊予定ですし……」

「そんなに多くの冒険者が宿泊するのか?」

「はい。何せ冒険は危険が付き物ですから、万全な状態で挑みたいという考えの方が多いですもの」

「確かにそうだ」

「それに娯楽と言ったのは嘘じゃありません。何より他の冒険者より優越感が得られます」

「優越感だと?ただ宿泊するだけで何故優越感を感じられるんだ」

「ええ。だって他の冒険者達がダンジョンで苦労して生活している中でダンジョン内で快適に過ごせるのって優越感がありますよね」

「っ、ゴクンッ」

 

他人の不幸は蜜の味という言葉がある。

他人の失敗や不幸を見聞きすることで喜びなどの快感を得ることである。

そして冒険者にとってダンジョンでの生活とは地上での生活より苦しい状況になるのが常識であり、そんな中でビジネスホテルで快適に暮らせるというのは優越感を得られる。

だからこそ娯楽なのである。

 

「リーダー、でもせっかく稼ぎに来たんだから節約すべきだ!」

「あ、ああ……確かにここで金を浪費したらせっかくの準備が無駄になる」

「勿論宿泊するかは自由ですよ。宿泊期間は自由ですから、今回は準備してるから次回訪れた時に試してみてもよろしいですし、ダンジョン最終日にお試しで一日だけ泊まるというのも良いかもしれません」

「一日だけ……」

 

それはお試しという悪魔のワードである。

人は一回だけなら試してみようという誘惑がある。

一回で止めれば良いんだろうと割り切って楽しむという行為は古くからあるのだ。

 

「それに女性だと石鹸などで清めたいと思うのは一度や二度ではすまない筈です」

「確かに……」

「そうよね。早く汗や汚れを落としたいもの」

 

冒険者パーティにいた女性冒険者が賛同の声を上げる。

 

「お風呂以外にも温かいご飯や魔物を警戒せずに柔らかいベッドで寝たい気持ちはありますよね」

「保存食は冷めたものばっかだし、焚き火で温めるにしても準備が手間だったり、まともな飯が喰えない方が多いな」

「疲れた時に硬い地面で寝ると次の日、身体痛いんだよなぁ」

 

男性冒険者も不満の声を上げる。

 

「おいおい、何言ってるんだよ!それを承知の上でダンジョンに潜ってるんだから我慢して節約すべきだろう!」

 

最初に反対した青年冒険者が抗議の声を上げるが、周りからは不満の目を向けられる。

何せ他の冒険者としては進んでダンジョンで修行僧のように苦しい生活をしたいわけではないのだ。

楽が出来るなら楽したいというのは当然の感情である。

 

「うっ……なんだよ。みんなして、俺は間違ってないだろ!」

 

パンッ!

 

「「「「!?」」」」

 

抗議している冒険者が呻いていたのを見てクラリスは拍手をして視線を強制的に向けさせる。

 

「申し訳ございません。これ以上は不満が彼に向くのを懸念して中断させて頂きました。誰だって辛く苦しい生活はしたくない。だからこそ悪くなくても反論をした相手にぶつけてしまうのが人の性ですから、ここはリーダーさんに引き止めて頂こうかと……」

「ああ……確かにお前達の不満も、こいつの反論もどちらも間違っていない。だからまずは感情を落ち着けて話し合うって形で良いか皆!」

 

リーダーの言葉にパーティメンバーは頷く。

それを見ていたアルヴァスは上手いなと思った。

今のやり取りで反論していた青年冒険者はクラリスに助けられた負い目があるので、キツく当たれない。

更にリーダーの顔を立ててまとめさせるのも、冒険者パーティを重んじていると好印象を与えられる。

 

「勿論試してみないと分からないという気持ちもありますから、もし一日だけでも試してみたいとパーティの総意で決まりましたらぜひ宿泊に来てくださいね」

「ああ……皆で泊まると決めた場合はお世話になるよ」

「はい。またのご来店をお待ちしております」

 

そうしてパーティ一党はビジネスホテルから離れていった。

アルヴァスはこれであの冒険者一党は最終日に来るだろうなと思った。

何せ良し悪しとは試してみるまで分からない。

冒険者は未知へと挑む性質がある以上、ダンジョン内での宿泊という未知のイベントは無視は出来ない。

知ってからは試してみるか、利用しないの二択になるわけだが快適な暮らしという誘惑は思いの外強い。

そもそも冒険者とはストレス発散に散在する者が多いのだから、宿泊という真っ当な行為に使うなら罪悪感も湧きにくいのも試す要因になりかねない。

 

「ふふっ。こうやってビジネスホテルに一喜一憂する冒険者を見るのは楽しいですねアルヴァス」

「楽しいかなぁ?」

「私は楽しいですよ」

 

クラリスが本心から言ってるのが伝わる。

だがそれは人が右往左往するのが楽しいという感情に他ならない。

やっぱりクラリスお嬢様はおっかないと思うアルヴァスだった。




簡単なプロフィール

アルヴァス
…主人公でクラリスお嬢様に仕える一般人枠の執事。
前世が現代で気が付いたらファンタジー世界で執事の家に転生していた。
代々仕えるオルコット家の執事になるべく教育がされる。
冒険者になりたいという願望があったが口にすれば、使命放棄と勘当されかねないので、自己鍛錬で剣を振って鍛錬しながら程々のタイミングで執事候補から外れるように暗躍する計画立ててたらクラリスお嬢様に目をつけられ、生殺与奪の権を握られる。
我流の剣術だし、冒険者と言ってもそこそこの収入得られれば竜退治とか魔王倒したりの英雄譚はしなくて良いや位のスタンスなので剣がそこそこ使える程度の雑魚だと部を弁えてはいる。
※剣の腕前は一太刀で森羅万象を砕く程度の実力である。

クラリス・オルコット
階級:冒険者ギルド序列五位
…アルヴァスの仕えるオルコット家のお嬢様。
純白のドレスとウェーブの掛かった銀髪のお淑やかな外見なのだが、腹黒系女子が可愛く見えるレベルで謀略で敵対者の人生を漂白しちゃう漂白系女子である。
学生時代は"受けた侮辱は末代までに晴らします"というスローガンを掲げて、彼女を侮辱した貴族達はもれなく謀殺して毎年10名程は死体か行方不明になるレベルで謀殺していた。
冒険者ギルドで序列五位なのは、ダンジョンでビジネスホテルを行い冒険者達相手に娯楽を与えて金銭を稼いでいるからである。
クラリスへ侮辱した冒険者達はもれなく水死体か行方不明になってるので、彼女を知る良識のある冒険者達は陰口一つ出さないレベルで畏怖されている。
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