【執事は生殺与奪の権をお嬢様に握られているんだ】 作:クロアブースト
学歴のない荒くれ者ばかり集う冒険者ギルドなんだからこれくらいは強かでも良いよね。
ビジネスホテル、現代で宿泊施設の名でありクラリスお嬢様からダンジョンで仮設移動式宿舎を実施する際に、良い名が無いかと聞かれて前世の知識でクラリスに教えた名である。
ビジネスホテルとは社会人が出張などで宿泊出張やビジネス目的で利用することを前提に作られた宿泊施設である。
宿泊に特化して、サービスやアメニティを最小限に抑えることで、リーズナブルな料金で利用できるのが特徴である。
だがダンジョンというインフラの整ってない環境では野営が基本な環境ではビジネスホテルという快適さは群を抜いている。
「うめぇ!生姜焼きがこんなに美味しいなんて……」
男性冒険者は出された生姜焼きを美味しそうにガツガツ食べる。
野営では日持ちする保存食か、焚き火で焼いた料理しか食べれないので、フライパンと調味料がきちんと完備されたビジネスホテルで作れる料理と比較すれば絶対に旨いのは当然である。
ビジネスホテルでの食事メニューは経費削減の為に、日替わりランチという形式にしてある。
今日のメニューは生姜焼きである。
シャアアアアア!
「お湯が気持ち良い。それにシャンプーも良い匂いね」
ユニットバスのシャワーを浴びて汚れを落とす女性冒険者。
石鹸やシャンプー、ボディーソープ、コンデショナーなども完備しており、ダンジョンでは水場があれば水浴びで汚れは落とせるのだが、冷え切った水を浴びるのは冒険者であってもしんどい。
酷いのはまともな水場が見つからなければ、何日も水浴びをせず行動を強いられる事もあるので悪臭が気にならなくなるレベルでダンジョンを潜る冒険者達は不潔になる事も多い。
女性冒険者達も自然と数日風呂に入らないのがデフォルトになるので、自分達が地上の市民から臭いと思われるのに無沈着になってしまうのも多い。
幾ら見目麗しくても、汗臭いなどの悪臭があれば百年の恋が冷めるというのは良くある話で女性冒険者が引退するまで冒険者以外との結婚相手が見つからないという社会問題は確かに存在する。
「ユニットバスとはいえ、お湯に浸かれるのは久し振りね」
水場があっても水風呂のように冷え切った場所に長時間浸かるというのは苦行だからこそ、ダンジョン内で女性冒険者達でも浸かるという行為からは遠ざかっていく。
そんな中で温度調節出来て自由に長風呂出来る環境は冒険者にとっては至福のひとときだ。
「ふかふかのベッドで寝れるなんてダンジョンに潜りっぱなしだったから久し振りだ!今日はぐっすり眠るぞぉ!」
ベッドの中に入り快眠を宣言する男性冒険者。
ダンジョンとは定期的に魔物がリポップするので、睡眠中でも魔物に襲われないかと気が抜けない。
だからこそ交代制で番を行ったりするのだが、命の危機というのは少なからずストレスに繋がるので眠りが浅くなるし、敵襲で起こされる事もあるので長期間ダンジョンに潜ってる間は睡眠不足になる冒険者達は多い。
だがビジネスホテルではクラリス自ら魔物がリポップ出来なくなる結界などのセーフティゾーンを作れる宝具を持ち込んでいるので、ビジネスホテル内では敵襲以外で襲われる心配は皆無。
特にビジネスホテルでは魔物への敵襲対策に冒険者ギルド経由で交代制で朝昼夜の時間に合わせて最低3パーティーは護衛として雇ってるので彼等が変わりに戦ってくれるので宿泊者は警戒する必要は無い。
因みにクラリスは信頼関係を何より大事にしてるので、ビジネスホテル内で他の冒険者達への窃盗やリポップさせない宝具を奪おうと散策した不届き者は悲しい事になる。
宿泊履歴諸共抹消して即座にアルヴァスが口封じの為に窃盗したパーティはもれなく魔物の餌か、冒険者ギルドが抱える"社会のゴミが宝になる魔法の場所"へ連れて行く為に生け捕りにする。
ビジネスホテルでの窃盗被害は脅威の0%という警備兵の巡回している王都以上の治安維持率なのは余談である。
ビジネスホテルを名乗る通り、宿泊に重点を置いてるのでご飯やシャワーなどの施設、ベッドの質は一般的なものを出ない。
だがダンジョン内という生活苦になりかねない環境で快適に過ごせるというアイデンティティはデカいのだ。
「満足させてもらったよ」
「それは良かったです。またのご来店をお待ちしております」
冒険者はクラリスがダンジョンに連れてきた受付嬢がチェックアウトする客に笑顔で挨拶をする。
「今日も良い仕事をしましたねアルヴァス」
「そうですねお嬢様」
それを眺めるクラリスとアルヴァスである。
クラリスの役割は主にチェックインにおける宿泊させる冒険者の見極めだ。
荒くれ者が多い冒険者の中にはマナーがなっておらずトラブルや器物損壊を起こしかねない者達がいる。
そういう存在をクラリスは直接目視と会話で確認した上で弾いているのだ。
弾く際はルールを厳守させて器物損壊は罰金が出るなどを言った上で泊まるなら客として扱うが、難癖付けて騒いで迷惑をかけ始めたり、罰金を支払わないなどの武力行使を行った場合はもれなくダンジョンで行方不明になるのだ。
ダンジョン内で監視カメラなどないので、迷惑客をビジネスホテルの裏側に連れて行って始末すればそれで済む。
ビジネスホテルの滞在期間は一層毎に1週間。
地下の二、三、四、五と順番に滞在して冒険者を宿泊させ、期間が過ぎたら撤収である。
アルヴァスとしては危険の少ない商売だなと思う。
何せ冒険者達が命からがら魔物と戦い、素材や宝箱の財宝を集めるのに対してこちらは直接金銭のやり取りで即時収入である。
冒険者は素材や宝箱を持ち帰っても換金までやらなきゃ収入にならないのに、こちらは即時収入なので利益が直ぐに出る利点と人界戦術の如く連れてきたスタッフが料理や設備を提供してるだけで冒険者達から金を巻き上げられるのだから安全かつ稼げる金額も多いのだ。
因みにクラリスの冒険者ランキングは序列五位という地位は、一度も他の冒険者達に抜かれる事なく、順当に上がってきた。
クラリスより後に入った新人冒険者達程度が受けられる依頼では、ビジネスホテルで稼げる金額以上の収入を稼ぐなど困難であり、部を弁えず危険な依頼を受ければ自らの命を失うという代償を支払うリスクすらあり得る。
後から抜けれる可能性があるとすれば、竜退治とか出来るレベルの超大型期待の新人か賭博王と呼べる位にギャンブルとかで勝ち続ける位しか抜けないだろうと思われる。
だがクラリスがビジネスホテルをしている中で、嫉妬を向けて侮辱する愚か者というのは偶にだが確かに存在する。
自らの命をベッドにダンジョンまで来て侮辱するとは嘆かわしいものである。
「城下町での宿舎より1割増しだなんて、ぼったくりじゃねぇのか?」
ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべる男がクラリスへ交渉を持ちかける。
ダンジョン地下三層でビジネスホテルをやっていたクラリスへわざわざやって来て、その冒険者らしき男は難癖を付けに来た。
ダンジョンでのビジネスホテルは確かに城下町での宿舎より料金が1割増しなのは事実である。
それに対してクラリスはニコニコ笑顔でクレーマーにも丁寧に答えるのだ。
「適正価格ですわ」
「何処が適正価格なんだよ!城下町より高いんだぞ!」
「当たり前でしょう。ダンジョンで売る以上は移動費や従業員への給料や危険手当も含めた料金にする必要があるのですから。それにダンジョン内では地上と比べてインフラに関しても整備されてないのですから、食材や水と言った消耗品も原則持ち込みです。寧ろ長期保存の手間暇まで含めれば破格かと」
「はぁ!?そんな事でぼったくりが許されるとでも言うのかよ!」
クラリスの言う通り、インフラの整った地上と異なりダンジョン内でのビジネスホテルとはコストが掛かる。
仮設移動式宿舎と名が付くように、設備やら食材や水まで全部事前に調達した上で潜るのである。
その上で移動費や従業員の給料だけでなく危険手当も出さなきゃわざわざ魔物が出てくるダンジョンでビジネスホテルをやるメリットが皆無である。
まあそれで利益を出せるレベルで徹底的なコスト削減方法を確立して実行しているクラリスも大概である。
そんなきちんとした理由にも感情だけで納得いかないと喚き散らす男にクラリスは溜め息を吐く。
「では利益率と給与に必要な額算出してくださいまし」
「利益率ゥ?」
「はい。この商売で移動費や材料費の雑費を全て引いた上でどれ位の儲けが出るのかと社員への給料でどれくらい稼がなければいけないかの数値を出してください」
「な!?」
それは悪夢の証拠提示である。
そもそもまともな教育の受けれてない冒険者をやってる奴に商売で雑費を引いた際に、どれくらいの利益が出せるなど計算が出来る筈がない。
ましてや社員への給料などどれくらい出すかは経営者次第なのだからそこも不鮮明な以上稼がなければいけない金額など分かるはずもない。
因みにクラリスお嬢様は今回の行軍での利益に関わらず事前に支払う給与は商人ギルド経由で口座から支払うように手筈を済ませてる。
つまり仮に今回売上0になろうが社員が食いっぱぐれることはないようにしているというのは経営者の鏡だと言えるのだ。
「根拠もないのに言ったのですわね。冒険者規則、商人へ悪質な妨害行為をした者はイエロー判定を受けることになりますわ」
「なっ!?お前は冒険者だろうが!」
「何を言ってますの?私は冒険者兼商人ですわ。一体何のために商人ギルドへ納税してると思ってますの」
イエローとは冒険者にとってのペナルティだ。
主に窃盗や暴力事件、悪質な迷惑行為で市民へ迷惑を掛けた冒険者達は冒険者ギルドからイエロー判定を受ける。
いわば犯罪歴みたいなもので、依頼者や冒険者達がパーティを組む際に素性に問題ないかの指標になる。
因みに一ヶ月問題行動を起こさなければ解除される執行猶予的なルールもある為、イエローで居続ける冒険者は少ない方である。
因みに商人も基本的に非力な市民扱いなので、冒険者が難癖付けて営業妨害すればイエロー判定は避けられない。
まあ商人ギルドは所属の条件に売上の一部を納税しないといけないので冒険者と商人を掛け持ちする奴など
「ふざけんじゃねぇ!」
「ああ、レッドですわね」
「了解だ」
キレた冒険者が武器を振るおうとした瞬間に、アルヴァスはその瞬間に剣を引き抜き、冒険者の首元に一閃する。
その瞬間、冒険者は血飛沫一つ流さず崩れ落ちる。
アルヴァスは、血飛沫による汚れがクラリスへ掛かるのを避ける為に、細胞の目を通して襲って来た冒険者の頸から下を動かす神経だけ切断したのである。
これで目の前の冒険者は頸から下が自らの意思で動かせない植物人間の出来上がりだ。
そしてレッドとは冒険者ギルドにおける武力行使を市民に振るった場合に与えられるペナルティの最上位。
レッドとはイエローと違って執行猶予期間など無いので判定は消えないし、冒険者ギルドから追放される現役の犯罪者だ。
そしてレッド判定された冒険者は、生死問わずで冒険者ギルドが討伐依頼を出す程、抹消したい存在である。
「後で冒険者ギルドでレッド冒険者を換金に行きましょうか?」
「そうですねお嬢様」
冒険者ギルドは冒険者達への福利厚生が充実している。
冒険者ギルドでは四肢欠損や臓器移植も冒険者が金額を払えば受け付けているからだ。
魔物との戦闘で、四肢欠損や臓器負傷というのが存在している。
外傷や蘇生ならば教会でお布施という名の徴収で回復する事も出来るのだが、四肢欠損や失った臓器を治すのは困難である。
そんな中で安くはないが、きちんと支払えば四肢や臓器の移植手術というのも受けられる。
冒険者ギルドは冒険者の為に、纏まった金が無くても
その理由の一つに冒険者ギルドには"社会のゴミが宝になる魔法の場所"があるからだ。
主にレッド判定受けた冒険者を、表に出さなければ、どう扱おうが問題ないので冒険者や一般市民で四肢や臓器を失った者達にとっては移植可能なパーツになったりと、社会のゴミが勇敢にも魔物と戦って四肢欠損や臓器提供を待つ者達を救い出す手段になる錬金術のような方程式がある魔法のような場所だ。
勿論レッド冒険者は危険なので依頼を出すに辺り『Dead or Alive《生死問わず》』というのは避けられないのだが、なるべく生け捕りや破損が少ない程換金する際の減額は少なくなるので、不必要な惨殺死体というのは減りつつある。
そんな中でクラリスは冒険者ギルドにおいてレッド冒険者を五体満足で無力化して換金しに来るお得意様である。
何せ五体満足かつ、無力化された冒険者など幾らでも使い道がある。
アルヴァスが植物人間と化した冒険者が騒いだり出来ないように、口元を猿轡で塞いで戦利品置き場に持っていく。
因みに冒険者ギルドから依頼されたら、社会のゴミをパーツ単位で綺麗に解体とかもクラリスから命令で何度かやらされた事もあるので手慣れているのは余談である。
「へっ、へっ、へっ。金目のものを置いていきなぁ!」
クラリスの一行の帰り道に盗賊達が待ち伏せしていた。
何せダンジョンという危険な場所でビジネスホテルをやる以上は広告のように冒険者達へ周知しておかないと誰も来やしないので、冒険者ギルドの依頼掲示板に掲載料を支払ってでも、ビジネスホテルの行軍スケジュールは公開されている。
冒険者ギルドに入れれば誰でも何時ビジネスホテルが来るか分かるので待ち伏せするのは容易い。
しかし良識ある冒険者達は、クラリスが新人冒険者時代の頃から新人潰しでセコい稼ぎをしていた先輩冒険者達を次々と死体か行方不明にしているのを知っているので誰もクラリス相手に待ち伏せなんてしない。
やるとしたら盗賊やら貴族経由で雇われた連中か、王都以外から外様でやって来た冒険者位なものである。
「まぁ。アルヴァス、盗賊ですわ。何時ぶりでしょうか?」
「確か前回は無かったので、三ヶ月ぶりですね」
「何笑ってやがる!てめぇらぶっ殺してやろうか!」
パァっと花を咲かせるかのような笑みで話すクラリスにアルヴァスも見慣れた光景故に落ち着いてるのだが、頭領らしき男は嘗められてると思いキレながら叫ぶ。
この男は何も分かってないなと思うアルヴァス。
王都でもレッドの判定を受けた冒険者を始めとした犯罪者が冒険者狩りをして、命を落とす冒険者達は確かに存在する。
特に荒くれ者の多い、冒険者同士が冒険者ギルドの目が届かないダンジョンで口論から殺し合いに発展する事も多くはないが存在する。
多くないのは冒険者殺しは冒険者ギルドの目が届かない場所ならペナルティがないが、噂とは広まりやすいので冒険者ギルドや冒険者達から警戒されて関係構築に難が出るからである。
だがクラリスお嬢様を甘く見てはいけない。
一度でも公の場で侮辱されれば目の前ではニコニコ応対しつつも、脳内では即座に謀殺出来るかのシミュレーションを行い、生かすメリットが殺すデメリットより上回らなければ、必ず謀殺する。
証拠が出ないからレッド判定受けてないだけで、暗黙の了解で冒険者ギルドから良識ある冒険者達は皆知っている。
王都で最も冒険者を殺したのはクラリスなのだと……
「アルヴァスお仕事ですわ」
「かしこまりました。他のスタッフの方々は前に出ないように」
アルヴァスの言葉に他のスタッフは巻き込まれないように後方に待機する。
スタッフの誰一人も盗賊から襲われるのに危機感を抱いていない。
それは盗賊達に襲われる程度、よくあるイベントの一つに過ぎないのと自分達に被害が及んだ事がない安心感から他人事なのだと理解しているからである。
「野郎共!やっちまえ!」
「「「「うぉぉぉぉぉ!」」」」
頭領の言葉と共に襲い掛かる盗賊達。
それに対してアルヴァスは刀を抜刀し、
ズドドドドド!
「え?」
数百m先まで届く斬撃と生じた衝撃波が盗賊達を呑み込み消し飛ばした。
「相変わらずのMAP兵器ですわねアルヴァス」
「これでも加減はしてますよお嬢様」
「この規模でですか?」
目の前には数百m先まで地面が抉れたかのような斬撃痕が残っている。
無論巻き込まれた盗賊達は肉片諸共塵になるまで消し飛ばされている。
「流石は剣聖。一太刀で森羅万象を砕くとまで言われた剣士ですわね」
「いえ、自分はまだまだです」
クラリスの賞賛にもアルヴァスは謙虚に答える。
何せ世界は広いのだから、自分より剣技で上回る存在がいるのだと思っている。
だがアルヴァスは知らない。
彼の剣は最早MAP兵器と呼ばれる破壊規模を誇り、既に人間スケールの剣士ではまともに受ける事すら出来ないことを……
クラリスお嬢様
Not :お淑やかで箸より重い物を持てないお嬢様
YES:謀略で侮辱した者達を漂白して来た漂白系女子
アルヴァス
Not:そこそこ剣術を扱える雑魚(自己認識)
YES:一撃で森羅万象を砕ける剣聖の二つ名を持つ剣を扱える執事
アルヴァス「クラリスお嬢様に否が無いのに、謝罪などさせようものなら大したものですよ。公開処刑された王族の馬鹿息子の二の舞になりたくないなら止めたほうが良い」