【執事は生殺与奪の権をお嬢様に握られているんだ】 作:クロアブースト
いや、クラリスお嬢様がアルヴァス重宝するだけの理由無いと本当に使い潰すかもしれないからね。
リアリストは使えなきゃポイは標準装備だから仕方ないね。
クラリスは知っている。
アルヴァスがクラリスの謀殺や謀略を行うのに怖いとか恐ろしいと思っているのを。
ていうか堂々と言っているのは減点だ。
そう言う言葉は胸の内にでも秘めておきなさい。
まあ貴方の本心は口にしてくれた方が知れるからありがたいというのもありますけど乙女的にはちょっと納得いかないのである。
だがクラリスがアルヴァスを信頼する理由は、怖いやおっかないなどと口にしても……
「貴方は私の為に死ねるのでしょう?」
「ああ……君が俺を不要と手放さない限りは命を捨てれる。それが俺と君が交わした契約だ」
アルヴァスはクラリスの側にいる限り、味方で居続けるのだから。
クラリスがまだオルコット家で謀略を学んでおり、先日執事見習いとして雇ったばかりのアルヴァスを連れて遠出をしている時に事故が起こった。
突如馬車が通る崖が倒壊して、馬車が崖から落ちて魔物の住まう森まで落ちる事故が発生する。
後に分かった事だが、オルコット家を妬んだ敵対派閥の貴族が仕組んだ謀略であり、オルコット家のお嬢様を亡き者にしようとしたのだ。
クラリスは崖から馬車が転落する中でも狼狽えず、衝撃に備えてクッションなどの緩衝材を手元に引き寄せて衝撃に備える。
オルコット家の教育で貴族社会とは権力闘争で日々謀略により命懸けという教育が行き届いていた。
だが僅か七歳のお嬢様が、悲鳴一つ上げず冷静に備える辺り、オルコット家史上最高傑作と呼ばれる位にクラリスは優秀だった。
(さて、私は生き残れるのでしょうか……)
馬車が落ちる中で、クラリスが思考していたのはこの後に待ち受ける最悪な状況への対処だった。
馬車が転落し、馬車を運転する為に車の外に出ていた大人の男性業者は死亡。
「さて、生き残ったのは私とアルヴァスの二人だけですか……」
「はい」
クラリスが言うように五体満足で動けるのは先日雇った執事見習いとして雇われた七歳の少年であるアルヴァスだ。
彼もクラリスが落下の衝撃に備えるのを見て、悲鳴一つ上げず衝撃に備えて馬車内にあった緩衝材を掻き集めて衝撃に備えたのだ。
だがクラリスの側仕えとして雇っていたメイドやアルヴァスへの教育係を任されていた先輩執事は、咄嗟の状況故に悲鳴を上げる事だけしか出来なかった為に打ち所が悪く即死だった。
「状況は最悪ですね……」
クラリスがそう言うのも無理はない。
寧ろ執事見習いのアルヴァスよりもメイドや先輩執事が生きてた方が良かったまである。
その理由はクラリスと二人きりの状況下で少年であるアルヴァスが自分の為に命を捨てれる覚悟があるとは思えなかったからだ。
人は大人になればなる程しがらみが増えていく。
勉強する程度の学習能力があり、執事やメイドとしてオルコット家へ雇われた者達には仕えるお嬢様を命をかけても守らなければいけないという使命感がある。
その理由として側仕えでありながら、自分だけ生き残ってお嬢様を死なせたなど当主に知られれば一族郎党謀殺されるリスクがあるからだ。
だから本当にヤバい状況になれば見捨てる可能性はあるとしても、まだ再起の目がある内はリスクとリターンを考えお嬢様の生存を考え行動するのだ。
だが執事見習いとはそういう自分の命を捨ててもお嬢様を生かす利点への教育が行き届いてない可能性が高い。
だからこそ執事見習いを貴族達は一人前の執事になるまでは絶対に側に置いたりはしないのだが、アルヴァスの才能に目が眩んで執事見習いの段階で引き抜いたのが裏目に出た。
無能な味方が部隊を危険に晒すように貴族にとって、雇い主を第一に行動出来ない存在とは生存において危険が付き纏う。
魔物や盗賊の囮にされたり、食料などの問題で揉め事で体力の消耗や負傷を起こすリスクを考えるなら連れて行かず一人で行動した方がまだマシだ。
だからこそクラリスはここにアルヴァスを置いて一人で行動する事を決めて放逐する言葉を告げようとする。
「これではまともに生き延びるのは絶望的です。ですから貴方とは……」
「クラリスお嬢様、俺を使って生き延びる方法があれば命令を」
「え?」
アルヴァスはクラリスの言葉を遮り、臣下の如く命令を待つ。
本来雇い主の言葉を遮るのは無礼なのだが、アルヴァスはクラリスから放逐される命令が出る前に命令を待つという意思を示した。
その意思を含めてクラリスは驚愕の声を上げたのだ。
「俺はまだ未熟でこの状況下でまともに生き延びる方法は思い付きません。けれど俺一人がクラリスお嬢様の命令に逆らわず動く事でクラリスお嬢様の生存率が少しでも上がるならそうした方が合理的です」
「確かに私一人で行動するより、アルヴァスが命令に逆らわず動くという前提ならば私の生存率は確かに上がります。けれどこの状況下で自分の命よりも私の命を優先する理由が分からない。何が目的ですか?」
驚愕の声を上げたクラリスだが、アルヴァスの提案を受け入れるには信頼する時間は無かったし、執事見習いの子供故に信用も出来ない。
何か狙いがあるのか、もしくは危機的状況になれば逃げ出す可能性が払拭出来ない限りクラリスは手を取る事はしない。
クラリスから拒絶の意を感じて嘘偽りなく、語る事をアルヴァスは判断する。
それで信用されないならば、その後に考えれば良いと思っているからだ。
「俺は確かに死にたくないし、出来るなら生き延びたい。けれど俺はクラリスお嬢様……オルコット家から賃金を貰ってます」
「賃金……ですか?」
「はい。賃金を貰っている以上は仕事はきちんとこなすのがビジネスです。クラリスお嬢様が快適に過ごせるように賃金貰って雇われたのに、命の危機一つでそれを反故にするのは不当に利益を得ている事になる」
アルヴァスは前世で社会人として働いていた経験がある。
だからこそ労働には対価として賃金が払われる。
その対価が少なければ労働者は不満に思うし、不当に多く支払うならば雇い主に不利益が生じる。
つまりビジネスとしてクラリスお嬢様を見捨てるという事はしないという理論では命令に従うというのがアルヴァスの理であるとクラリスに伝えたのだ。
そして謀略と共に経営学などの知識も学んでいたクラリスはその理を理解する。
ビジネスだからお嬢様を生かすのに最善を尽くすとアルヴァスが言ってるのは確かに納得は出来る。
だが人とは時に理論より感情を優先する生き物である以上は、綺麗事より現実的な判断を降す生き物である。
だからそれだけでクラリスは納得出来ない。
「確かにビジネスとしては理解は出来ます。けれどそれは貴方が自らの命を犠牲にしてでも優先すべき理由としては納得出来ない。貴方の本心を話しなさい」
クラリスはアルヴァスへ嘘偽りなく答えよと告げる。
そこで嘘が混じったり、クラリスが納得出来ない理由ならばその時点でクラリスはアルヴァスに見切りを付けて単独行動に移ると決めた。
疑わしい存在を側に置けるほど今の状況への余裕はクラリスには無いからだ。
「俺の行動指針は三つです。一つは自分が生き残ること、二つはビジネスだから従うということ。そして三つ目は執事見習いとして雇われるに辺り、生殺与奪の権を握られる覚悟で仕えると決めた信念をぶらさないことです」
「え……」
「権力闘争で謀略の日々を生きる貴族に仕えて、生きる為に努力はするし、賃金が払われる限りは命令にも従います。その上で……死ぬならば俺の運命はそこまでだったということでしょう」
クラリスは見誤っていた。
アルヴァスは既に覚悟していたのだ。
貴族に仕えて最善を尽くして尚、自分が死ぬようならばそれが運命だったと受け入れるということを……
「勿論クラリスお嬢様が俺を鉄砲玉として使い続けるなり、賃金が滞るならば俺も契約解除を前提に動きますが、お嬢様の意思と関係無いところで命の危機が訪れた位で俺が命を掛けない理由は無い。それだけです」
アルヴァスのその言葉は本心である。
アルヴァスを使い潰すかの如く雑に扱ったり、理由なく賃金未払いなど雇い主としての責任を果たさないならば契約終了後に即座に契約解除に動くが、裏切りや命惜しさの命令違反はしないと本心で言っている。
ドクンドクン
「……っ!?」
胸の鼓動が高まるのを感じるクラリス。
これは愛情ではなく、ビジネスだ。
そんな事はクラリスの頭でも分かっている。
だがこれは……
自分が危機的状況下でも、自分の為に命を捨ててでも行動するという覚悟を自分と同じく幼い少年が抱いているという事実が愛おしい。
だって
高まる感情を抑える為に一度大きく息を吸う。
貴族足るもの感情の揺らぎで大局を誤る手を打ってはいけないからこそ切り替える為である。
「ふぅ……分かりました。貴方を信用しましょう。それと一つ訂正してください。私は有用な駒を鉄砲玉に扱ったりしません。何故なら鉄砲玉は使えない駒を有用活用する手段であり、有用な駒を鉄砲玉として使う時点で謀略に置いて負けてるのですから」
「申し訳ございません。ではクラリスお嬢様、俺を使って生き延びる為の命令をお願いします」
「分かりました」
そうしてオルコット家から救難部隊が来るまでの1週間をアルヴァスと共に魔物の住まう森で生き残る。
クラリスにとっては貴重な経験だったのは言うまでも無かった。
そして生き延びてオルコット家に帰宅したクラリスは心配していた両親や兄妹達に無事な様子を見せたら、犯人と思われる貴族の特定に注力した。
僅か3日で見つけて、事故から一週間後には謀殺計画まで達成する辺り、クラリスは本当に謀略に愛されている天才と言えるだろう。
そして下手人と思われる貴族が汚職の数々の暴露と王国お抱えの近衛兵によって連行され、国家反逆罪で処刑の準備を行っている中で、漸く腰を落ち着けたクラリスはアルヴァスを呼んで庭で棒切れをお互いに持って相対していた。
「本当にやるんですかお嬢様?」
「ええ……遠慮はいりません。お願いします」
アルヴァスが困惑するのも無理はない。
何せクラリスお嬢様は先日の馬車転落事件で自身の戦闘力不足により何度も危機が訪れたという事実に対してアルヴァスへ稽古を付けて欲しいと言われたのだ。
稽古を付けるというのはまあ良い。
貴族とはいえ、武力が必要な場面は暗殺などをされた時に必須と言って良い。
だが我流で剣を身に着けたアルヴァスから教わるという選択肢はナシだ。
貴族ならば伝手を使って実績ある剣士から真っ当な剣術や対暗殺を想定した実践的なものを学ぶべきである。
反論したい事はまああるのだが、稽古を付けると約束した以上はやるべきだ。
それに自分の我流剣術を教わっていく内に聡明なクラリスお嬢様ならば、自分には相応しくないと見切りを付けるなりする筈である。
そうして稽古を付けるのであった。
クラリスとのやり取り中の心情
アルヴァス「え、マジで馬車が落ちてるぅぅ!やべぇ!死ぬ!あ、クラリス様が緩衝材で備えてるから俺も真似して備えとこう」
アルヴァス「危ない……危うく先に放逐される言葉を告げられるところだった。クラリス様は自分の出した言葉は簡単に曲げないから放逐命令出されたらどんなに説得しても多分通じないだろうからセーフだったな」
アルヴァス「そりゃあ死にたくないけどさぁ。お金貰っておいて命の危機一つで逃げ出すのは違うよなぁ。それに俺は転生したから人生二周目だけど、クラリス様は七歳よ七歳!まだ色恋とか知る前にこんなところで死ぬとか可愛そう過ぎる。だから雇われてる内でクラリス様の変わりに俺が死ぬのは仕方ないよな」
アルヴァス「まさか鉄砲玉の理論を説かれるとか恐ろしいな。つまり俺が使えないと思ったら躊躇いなく鉄砲玉にするつもりかぁ。本当に恐ろしいお嬢様だよなぁクラリス様」
アルヴァス「え?稽古!?我流剣術の自分に!いやいや真っ当な剣術扱ってる剣士から教わった方が良いでしょうよ!魔物退治や対人戦に特化した剣術の方が効率的だし!斬撃飛ばしたり、振り下ろしで鉄槌みたいに押し潰したり、竜巻引き起こすとか全然剣術っぽくないし!え、そっちの方が身に付けたい?う〜ん、まあ適性の有無は分からないけどクラリス様が望むなら引き受けましょうか」
因みにクラリス様は謀略以外も完全無欠の天才なので、冒険者になる前にはアルヴァスから免許皆伝受ける程度は剣術修めてます。