【執事は生殺与奪の権をお嬢様に握られているんだ】   作:クロアブースト

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冒険者ギルドはホワイトなイメージ戦略と教育が行き届いてるよね。
クラリスお嬢様はそんな経営戦略にも配慮出来るお方。
平方根の法則で部を弁えない受付嬢相手にもきちんと漂白してくれるお得意様なのです。



冒険者ギルドとクラリスお嬢様

冒険者ギルドに入った受付嬢はまずビジネスマナーを徹底的に叩き込まれる。

冒険者とは武力で成り上がった者達だ。

勿論最低限の道徳はあるが、傲慢だったり馬鹿にされたり見下すような事があれば暴力に走るかもしれない。

勿論ペナルティがあるから安易には襲われないが、そのペナルティが降される前に重症や屍になるのがお前達になるかもしれない。

だからこそ、冒険者を侮らないように冒険者ギルドの定期講習は必ず受けろと厳命されている。

受付嬢が冒険者ギルドで破格の給料や福利厚生を受け取っているのはそれ程に危険や責任が問われるからである。

 

クラリスは絶対に侮辱するなと……

 

「おいお前達!クラリスが戻って来るぞ!絶対に失礼の無いようにするんだ」

 

ギルドマスター自ら受付嬢やギルドの運営に関わる事務員に声をかけていく。

今日はクラリスが一ヶ月に及ぶダンジョンでのビジネスホテルで荒稼ぎした後に戻って来る日である。

無数に湧いてくる新人冒険者達は自己責任なのだから良いのだが、日々人材不足などの問題が付き纏う冒険者ギルドでクラリスの機嫌を損ねて欠員が出るのは避けたい。

クラリスは直接の侮辱や暴力を振るわれる事が無ければ謀殺しない位に弁えているのだが、逆に言えば弁えない輩は躊躇いなく謀殺する。

自分は例外だろうと侮った連中は件並み死体か行方不明かの仲間入りをした。

例を上げるなら、先輩冒険者、受付嬢、王国近衛兵、ダンジョン以外での依頼人、当時冒険者になってまだ序列が低かった頃にクラリスより冒険者ランキングが上だった序列10位、金持ちのボンボンだった貴族、先代副ギルドマスターなどが例に上げられる。

自分の方が目上と思い上がって侮辱の言葉を吐けば、クラリスは笑顔で人生を漂白するのである。

中でも一番びっくりだったのは傲慢だったが王族の王位継承権を持っていた継承権8位の馬鹿息子。

まさかクラリスを「冒険者風情が!」と馬鹿にした途端に一ヶ月後には国家転覆罪で王族の地位にありながら公開処刑される事になるとは冒険者の誰もが想像していなかった。

冤罪なのかは知らないが国王すら引き止めず公開処刑が決まってる時点でクラリスの謀略は王族でも殺せるというのが冒険者や冒険者ギルドの見解だ。

絶対に機嫌を損ねてはいけない相手である。

 

 

 

「ごきげんよう」

 

クラリスから石鹸などの清潔な香りが漂う。

受付嬢の苦行の一つにダンジョンに潜った冒険者達は風呂やシャワーを浴びれない事が多いので基本臭いのだ。

ギルドへの報告に来る前に人と会うのだから、きちんと風呂に入ってから報告に来いよと思ったのは一度や二度ではない。

因みに良識ある冒険者はこういう気遣いとかしっかりしているので査定でも加点されている。

逆に腕っ節が良くてもそういう人としてのマナーが出来ない奴はダンジョン以外の依頼を持って来る依頼人とは絶対に合わせられないので、誰でも出来るような依頼以外は回ってこないのである。

 

(これが序列五位のクラリス様なの!?)

 

話は戻るが、異臭慣れしている受付嬢だからこそ驚愕する。

ダンジョンに一ヶ月近く潜っておきながら、異臭どころか清潔な香りがする。

本当に貴族のようにきちんと清潔な状態で訪れる辺り、彼女は冒険者であると同時に貴族としての誇りを損なって無いのだと理解する。

冒険者の中で最も清潔かつ外見も整った『純白の令嬢』と二つ名が付くだけはある。

彼女の謀略を知らない後輩冒険者や見るだけならばと良識ある冒険者達が理想の冒険者の名前を上げるならクラリスが上がるのである。

まあ下卑た目線やセクハラをしようとすれば、身を持ってクラリスからの制裁が降るのは余談である。

 

「ようこそお越しくださいましたクラリス様」

「あら、私は一介の冒険者なのですからクラリスさん位で良いですのに……」

「いえ、冒険者の方々に敬意を払うのは当然です。申し訳ございませんが様付けで呼ばせてください」

「構いませんよ」

 

クラリスは穏やかに答える。

因みに冒険者相手への呼び方に関してのルールは存在しないので基本"さん付け"が多い。

だが先輩受付嬢達から、クラリス相手には目上の相手だと忘れないように"様付け"を徹底しろと受付嬢である彼女は念押しレベルで教わった。

ここでクラリス相手にクラリスさんでなく、クラリスと呼び捨てにした時点で、冒険者に敬意を払えない受付嬢失格と下されるだけならまだ良い。

後程ギルド経由で指摘が入るだけなので次回に活かせる。

だが呼び捨てにした場合は部を弁えず自分が目上なのだと増長してクラリスの不況を買って行方不明になった受付嬢達は複数人存在する。

だから先輩受付嬢達は、クラリス相手には絶対"様付け"を忘れるな!人生終了したくないならクラリスと応対するなら相応のマナーが必須と覚えておきなさいと言われてたのだ。

 

「これが今回のダンジョンで稼いだ金額の手数料分です。お納めください」

「ありがとうございます」

 

少袋いっぱいの金貨を渡される。

そもそもダンジョン内で商売をしたところで、納税義務など冒険者ギルドには存在しない。

クラリスが稼いだ金額の一部を手数料として渡すのは、冒険者で魔物を殆ど狩らずにダンジョンで荒稼ぎしているから冒険者ギルドへのせめてもの還元という事や有事の際には味方になってくださいといういわゆる賄賂である。

だが冒険者ギルドとは冒険者の仲介をする事で素材や財宝の買い取りなど冒険者が稼いだ金額から運営費などを賄ってる組織なので納税という形で渡されてる以上受け入れるのは当然である。

その為、クラリスは冒険者ギルドへ賄賂した事実などないまっさらな経歴を持っているし、きちんと納税をしてルール違反をせず模範的行動を心掛けるクラリスへ融通がきくのは自然な事である。

クラリスが行方不明になった冒険者を殺した元凶だとか根拠もなく口先だけの冒険者の意見など絶対に通さない事だってあるし、そんなクレーム対応をさせられた受付嬢が疲労故に事務業務でサラッとイエロー判定の冒険者リストに意見を上げた冒険者が混ざるミスだって起きてしまう。

 

 

「そう言えばいくつか換金して欲しい錬金素材がありまして……」

「!?……分かりました。ギルドの奥にお持ちください」

 

クラリスの言葉に表情を固くした受付嬢は、冷静にクラリスが持って来た錬金素材をギルドの奥にある"社会のゴミを宝に変える魔法の部屋"に従者の執事であるアルヴァスと一緒にクラリスと案内する。

そもそも錬金素材など冒険者ギルドでは買い取りしていない。

つまり錬金素材とは隠語なのである。

 

 

 

「これが錬金素材の換金額がきちんと確認してくれ」

「分かりました。ありがとうございます」

 

ギルドマスターがニコニコ一括現金払いで錬金素材へ永久就職が確定したレッド冒険者達を買い取る。

彼等は手足や臓器を失った冒険者達を救う為に尊い犠牲になるのも厭わない連中である。

その証拠に涙や鼻水を流しても悲鳴一つ上げたりはしない。

猿轡で口元が塞がってる事など些細な事だ。

 

「実は新人受付嬢の短期研修を頼みたい」

「構いませんよ。ですが私への研修依頼に関しての少々頻度が多いのでは?」

「そりゃあ新人の研修で第一指名されるのがぶっちぎりでクラリス様だからな!」

「まぁそういうなら……ですが研修依頼を出すならきちんと依頼料と便宜はお願いしますね」

「分かってる。中立な依頼料と上乗せよりは便宜の方が良いってのが変わってるけどな」

「金銭は競争相手が出ない限りは安定して稼げます。それに冒険者は冒険者ギルドと仲良くしておくのが望ましい。いざ冒険者同士のいざこざがあった時に仲介してくれるのは冒険者ギルドなんですから」

「つってもクラリス様が冒険者ギルドへのいざこざで仲介だなんて一度もした事ねぇけどな」

「あくまで保険ですよ。それに部を弁えないのは冒険者だけじゃありませんから」

「そうだよなぁ。冒険者ってのは腕っ節が強いだけの人間なんだ。人として尊重出来ない受付嬢はうちとしても居られても困るからな」

 

ハッハッハと笑うギルドマスターとふふっと笑うクラリス。

アルヴァスはこの光景を見て、冒険者も受付嬢もクラリスを敵に回したらろくな目に合わないだろうなと再確認するのであった。

 

 

 

新人受付嬢は必ず一度だけ冒険者達の護衛を受けてダンジョンに潜る短期研修がある。

受付嬢が思い上がらないようにということ、冒険者達が最前線でダンジョンに潜る猛者であるという理解を深める為である。

勿論入社前にきちんと短期研修があると説明した上で承諾書を出させてるので、仮病などで研修をバックれたとしても研修が終わるまでは冒険者ギルドの受付はさせないので、雑務と研修生に合わせた労働基準法を守った最低限の給料しか与えられない。

だからこそ受付嬢は一度は必ずダンジョンに潜る必要があり、冒険者ギルドは短期研修の受け入れ先を冒険者に依頼する。

 

「つまり新人受付嬢が入ったこの時期は受け入れ先を上位冒険者に依頼してたって事か……」

「そして白羽の矢が立ったのが私という事でしょうね」

 

換金が終わったので、ギルド近くにあった宿舎の部屋で寛いでいるクラリスとアルヴァス。

確かにビジネスホテルというものを扱っているのだが、ダンジョンで散々やったのだから休養が必要なのと、地上でビジネスホテルをやれば地上で宿舎をやってる市民へ迷惑をかけると配慮したクラリスが連れて来たスタッフ一同分も含めて宿舎の予約をしたのである。

 

「短期研修って言っても基本的には冒険者ランキングの上位層だろうなぁ。まず魔物から守ってくれる信頼実績で上げるなら上位層は外せないだろうし」

「既婚者や男性ソロじゃないのも大事ですよアルヴァス。短期研修なのに冒険者に襲われて貞操を失うなんて事、受付嬢なら絶対に避けたいでしょうし……」

 

冒険者ギルドは冒険者ランキングに伴ってまず序列の高い上位陣かつ、女性としての安全面が確保出来そうな冒険者達に声を短期研修を依頼として交渉する。

ここで性格に難があったり、上位冒険者と過ちを侵して研修後に産休に入られたら目も当てられない。

いや産休は冒険者ギルドのホワイトなイメージ戦略の為に絶対取らせるのだが、あくまで自由恋愛であってギルドの短期研修で結ばれたり、襲われる事態は絶対に避けたいので新人受付嬢達に受け入れ先を提示する前に弾くのは当然である。

 

「でも高給取りかつ生活に不便の無い地上暮らしの受付嬢にダンジョンでの生活はしんどいだろうに……」

「ええ。新人の受付嬢達は食べられれば何でも良いという状況を経験した事があるんでしょうか?」

 

クラリスが懸念した通り、ダンジョンでは魔物で喰える存在は確かにいる。

ダンジョンの地下と言っても洞窟だけじゃなく草原や砂漠など多種多様な気候が階層事に存在しているからだ。

定期的にダンジョン内の気候変更はある事だが、問題は食料問題。

ダンジョン探索中に事故で持って来た食料が紛失や使えない事態になったりしたら現地調達が必要になる。

一般人には生きた動物を目の前で解体してから食べるというのもキツかったりする。

 

「そういう意味では私達はあの馬車転落事故で幼い頃に過酷な食事事情に慣れておけたのは良い環境でした」

「俺としてはクラリスお嬢様が動物解体だけでなく、虫食まで許容出来たのは凄いなと感心しましたよ」

「進んで食べたい訳ではないですが、生きるのに必要なら当然ですよ」

 

穏やかに話す二人だが、当時の状況は最悪だった。

7歳の少年少女が魔物の住まう森で一週間助けが来るまで自給自足で生活しなければならない。

毎回食べれる動物だけが魔物ではなく、そもそも食べれないスライム系統の魔物とか昆虫関係のモンスターとかかなりいた。

 

「あの時は毒判定無ければ俺が虫を食べれば良いと思ってましたよ」

「それは駄目ですよアルヴァス。主従関係というのは一蓮托生なのですから、命を捨てる選択以外は苦難を分かち合うのは当然です。それにこう見えてもちょっと……虫ってどんな味なんだろうって興味はあったのですよ?」

「まあ虫なんて貴族どころか一般市民でも食べる経験ほぼないですからね」

 

クラリスがお嬢様にしては我儘とは無縁というか強かな精神力を持ちすぎなのだが、要は一般市民として育った受付嬢が虫食とか耐えられないだろうと二人は思ってるのだ。

 

「だからこそ私が短期研修で指名率一位なんでしょうね」

「ビジネスホテルやってるから、限りなく地上での食事に近いですからね」

 

宿舎で虫料理を出すのは、余程凝った宿舎でもなければまず出さない。

それに食事だけでなく風呂やベッドまで付いてるなら絶対に選びたがるのは当然だ。

 

 

 

今回クラリスとアルヴァスは同室だ。

執事とお嬢様故に別室、というか男性スタッフの部屋にでも混ざろうかと思ってたアルヴァスだが経費削減と護衛がお嬢様から離れるリスクを鑑みて同室にしなさいと命令されたのである。

決してクラリスがアルヴァスと同室で一夜の過ちを期待してとかでは断じていない。

 

「私、抱き枕が無いと寝れないので付き合って頂けますかアルヴァス?」

「クラリス様、未婚の男性と同室でも拙いのに、同じベッドの中は流石にアウトですよ」

「あら、アルヴァスは私を襲ってしまうのかしら?」

「魅力的なのは認めますが、主従関係ですから絶対に襲いません」

「むぅ……まあそういうところも好きですから良いですけど」

 

若干拗ねたように言うクラリスだが、アルヴァスは分かっている。

手を出したら、理性の効かない狼だと即座に殺処分される事を……

 

「クラリス様、俺だって男なんですからクラリス様が魅力的過ぎて劣情を抱くのは許してください」

「そういうのは据え膳食わぬは男の恥というのを実行してからにしてくれませんか?」

「それって理性効かずに女に手を出した奴の台詞ですよね」

「でも男らしいのでは?」

「俺はそういう言い訳じゃなくてきちんと同意の上で抱きたいんです」

「!?………じゃあ同意が貰えるまで我慢してくださいね」

 

アルヴァスの誠実な言葉に顔を真っ赤にしたクラリスは胸元に顔を寄せて隠す形で抱き枕にするのだった。




保存食とかに慣れた冒険者でも余程の事が無ければ虫は食べないけど、それ以外喰えない位に切羽詰まってたら食べます。
良識ある冒険者は大体が先輩冒険者が着いた時に、「長生きしたいなら一回は経験しておけ、いざという時にその経験一つで選択する事が生存に繋がる事がある」と比較的安全な状況で教わるからです。
未知と既知では虫料理を食べれるかの抵抗感変わりますからね。
え?本作で虫料理出すかって?
ビジネスホテルがメインだから受付嬢の短期研修とかじゃなきゃ出さないかな(無慈悲)
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