「命乞い?してみろよ!聞いてやるぜ!色々聞いてきたからなァ~オラッ!金目のものを置いていくか殴られろ!」
剣でも斧でもナイフでもない。丸太だ、丸太を振り回している。野盗の類が丸太を振り回しているのは聞いたことがない。もっとこう……兵隊崩れとかじゃないのか?いや今の兵隊さんは皆魔王軍と戦っているはずだ。その考えは失礼だろう。
いやいやそういう話じゃない。いくら辺鄙な田舎の山中といえど丸太振り回す野盗は聞いたことがない。
申し訳ない。聞いていた、聞いていたが実際に目にすると野盗かどうかも怪しかった。背格好はちょっと俺より大きいのが気になる。あっ次の丸太は俺かもしれない。引っこ抜かれちゃう。
獣の皮をはぎ取って被っているせいか異臭がすごい、下処理をして衣類にするというのにこんなのが平気な人類は聞いたことがない。というか野党をやっているなら他の人間の服を奪わないのだろうか?そんな疑問すらぶっ飛ぶ具合にびっくりする。
そのくせ真っ白い歯を見せて獰猛な獣のようにこちらを嘲り笑っている。獲物を前に舌なめずりをしている野獣だが健康的な歯が光る。
しかしそんな状況でもヘンテコなヤツならあるいは……いやそう来なくてはならないという気持ちも湧いてくる。
「助けてくれ!」
「おうおうそれで~何で助けなければいけないんだア~?教えてくれよォ~」
「人類を助けてくれ!世界には勇者が必要なんだ!」
「ンンッ~?ン~~~~~~~???お前は何を言ってるんだ??」
話は色々遡る。
魔物と呼ばれる人類の脅威が活性化、それ即ち魔王の出現が周知されてから2年の時が経った。
最初は様々な国の軍隊が活性化した魔物と戦っていたが次第に組織化されていく魔物の軍隊、魔王軍との戦いは熾烈を極め人類は劣勢ながらもなんとか持ちこたえていた。人々はいつか魔物の脅威が去り平和が訪れると信じて日々を過ごしていたが一向に良くならない状況に諦めにも似た空気が蔓延。滅びの時をゆっくりと迎えるしかないのではないかと考える者達まで出て来た。
そうではないはずだ。そんな絶望の中で滅びていいはずがない!人類はまだ負けてはいない……勝ってもいないが。
この世界を救ってくれるものがいるはずだ。御伽噺に出て来た勇者がどこかに……
「お前がなろうっていうのか?その勇者様に。」
「いや俺はなれない。そんな力ないし。」
「ならいいじゃねぇかどこかの誰かに任せておけば……いるならもうやってるだろうし。いなければいないでまぁ……そういうこったろうよ。」
「そうだな……そうだ、そうだよ。でもまだ出てきていないだけかもしれない。俺は勇者を探しに行くことにした。止めないでくれ。」
「教会じゃ酔っ払いは相手してくれないぞ。」
日々の労働の後に酒場で幼馴染相手にこの世の不満をぐちぐち話していたら酒の勢いでつい出てしまったが悪くない。これは悪くない。日々動物の世話と畑弄って食べ物作って教会に祈りに行く生活はまぁいい。まぁいいんだがこの世がどうも不安をバラまいている中では気が苦しい。もちろん毎日のんびり暮らしているわけではない、必死に生きている。だが明日人類が滅びるかもしれないなんて不安な気持ちを抱えていくのはもう嫌だ、うんざりする。
「よぉし、よぉし!俺は勇者を探しに行くぞ!この世界を救う勇者を見つけてみせる!平和な世界を取り戻すんだ!」
「マスター、お勘定。こいつもうだめだわ。」
「アレンさん普段はいい人なんですけど、時折ヘンテコな方向に話を持っていきますね……大丈夫でしょうか。」
「酒の勢いだよエヴァさん。真面目なんだよ、酔ってても兵隊になろうって言わないのは分を弁えてるよ。」
そうですねぇと困ったものを見るような顔を向けてくるのはカウンターでワインを飲んでいた教会の聖職者エヴァ。俺らとは二つ上のお姉さんだ。この辺鄙なド田舎の村に赴任してきたときは男衆から珍しがって大人気だったが今では受け入れられてれっきとした村人となってる。
ちなみに俺と幼馴染のカーターもその男衆の連中だったが仕事のある日課に戻っていく中で年齢が近いのか話す機会も多く、俺は俺で仕事終わりや合間に説法や都会の近況や筆記を教わっていた。娯楽の変わりであったが中々に教え方がうまく結局繁忙期でも通う程になっていたわけだが……
「そういわけだよマスター、エヴァさん!近隣でさぁなんかすごいやつの話を聞いてないか?そいつが勇者かどうか、勇者になれるか見てくるぜ!」
「仕入れの時でも聞いたことはねぇな……あとこれ以上は出せないぞ酒」
「そうですねぇ……隣村の教会の人から山で野党が出ている、とは聞きましたが獣とも人ともつかぬものだとか……大木を振り回すようですし魔物かもしれませんよ。」
困ったときの情報源は酒場と教会と相場が決まっている……はずだ。それみたことか、エヴァさんから重要な話が舞い込んできた。人生やろうと思えばなんだってとんとん拍子に来るものじゃないか。これは出だしがいい。
「よぉし!よぉし!それじゃまずはその野党からだ!魔物でもいい!魔物と戦うのが人間だけだって誰が決めた?魔物だって勇者になれるぜ!」
「そりゃもう無茶苦茶だよ……マスター、こいつもう連れて行くから……」
「気をつけてな。お前らなんだかんだこの村でもいい年齢のヤツらで最後の連中なんだから危ないことはやめとけよ。」
「本当にお気をつけて、まぁ酔いがさめたら忘れているかもしれませんしね。」
そうして妙案が湧いてきた俺は翌日早朝起きたら早速軽く身支度を整えて隣山まで出発。
親父には一言言ってきた。
「勇者を探しに隣山に行って来る。」
「あぁ気をつけてな。暗くなるまでには帰って来いよ」
そうして今、隣山に出てくる魔物とも獣ともつかない野党と呼ばれる存在と対峙している。
人間だろうと思ってたが甘かった、魔物とも獣ともつかない人っぽいやつだ。ちょっとこれは困った……いや困っていない。そうしておきたい。
「木を振り回すほどの力がありながら追いはぎなんてもったいない!勇者になろう!!!なってくれ!君なら剣の勇者になれるはずだ!なって人類を助けてくれ!!!」
「お前は何を言ってるんだ?なんてお前の言う事を聞かないといけない?お前は今俺に殴られようとしているんだぞ?」
ぶぅんという音がする。した、音が後にしたぐらいに振られた丸太はそのまま飛んで行って別の木にぶつかってへし折れた。すごいパワーだ……これだけのパワーを人間……でいいんだよな?人間が野盗でいるというのはもったいなさすぎる。というかなんでこんな辺鄙な田舎の山中にいるんだ……おかしくはないか?
「それ程の力があるんだ!特別な才能じゃないか!どうしてこんな奪ってばかりの野盗に……」
「そりゃ楽だからだよ。奪って食って寝る、今のところ負けなしだからな。兵隊も来ないし楽なもんだよ。」
「う~んそれはそうだ。でもこの先負けるかもしれない。」
「お前にか?お前も丸太みたいになりたいのか?それともならない強いやつなのか?そりゃすごい、やってみようぜ。わからせてやる。」
「いや、魔王だ。どんなに強くても魔王には負けるかもしれない。」
「魔王。」
ピタッとケモノ野盗の動きが止まる。表情も止まる。そこは考えているところなんだろう、名前を出してこの反応ということは今の世情については聞いているのか知っているのか理解しているだろうことが察せられる。やはり魔王の影響で野盗になっているのだろうか。
「兵隊や腕っぷしのいいヤツがここに来ないのも魔王軍との戦いに駆り出されているからだ。それはいい。だがここは他の村へ行く山越えの道でもあったから仕方なく利用していた人もいたが、こんな時代だ。出来ないなら別の方法を探し始めている……最近人通りがいなかったから俺みたいな手ぶらに近い男にも襲い掛かったんじゃないのか?」
唸るように考え始めているケモノ野盗。どうやら当たりらしい。山の麓の村ではこのケモノ野盗対策で安全のために迂回ルートを探し始めていると聞いていた。教会に寄ると色々と教えてくれたが討伐や調査の依頼を出しても返事がないもので諦めて苦労してでも冬前の交易に出たかったと聞いている。ありがとうエヴァさん、司祭様とのお話でお名前使わせていただきました。
「じゃぁさぁ!腹減った俺がさぁ!お前食うために襲ってのはどうなんだ、えぇ!?」
「人は殺していないと聞いていた。だから勇者になれる資格はある!人食ったら終わりだぞ!」
イラついたようにその辺の木へ握りこぶし大の石を投げるケモノ野盗、すごい木の幹に貫通しかかってる。投石だけで魔物を殺せるんじゃないのか?うううん是非とも勇者にしたい、そういう勘が働く。勇者をスカウトするのは未経験だが……ピンとくるものがある。君、勇者やってみないかと。
「いつか奪うものもなくなる。魔物もやってくるかもしれない。魔物から奪うのもいい、だがその頃には魔王軍がここまでやってきたことになる。魔王軍と戦い、魔王と戦う……なら、勇者になろう!勇者になって魔物と戦い、魔王軍と戦うのと変わらないはずだ!いや違う!勇者は違う、人類を救う勇者になってくれ!」
「お前の言う事何一つわからねぇんだけどよぉ!!!」
ケモノの野盗であったが、獣のように唸り声をあげて身をよじる姿は完全に混乱している……ように見えるがそうではない。話をなんとなくでも理解できているから困惑しているのだ、そのはずだ。説得する余地はある、あとは何か一押しするものがあればいい。欲しがっているものを渡す、そういうちょっとしたものでいい。
「そうだ、勇者になるならないにしてもお腹空いているなら問題ないよ。うち農家だから当分まだ食べ物に困らないし。芋食べよう芋。これ干してあるやつ……」
腰の革袋から葉で包んだ蒸した芋を乾燥させた保存食を取り出す。甘味がそれとなくあり、豚脂を塗っているので腹持ちはそこそこある。差し出すと奪い取るように……いやひったくって齧り始める。味はそこそこなのだが硬いのが欠点のそれをガシガシ食べていく姿、健康な歯があってのものだろう、勇者の相とみる。
「うちに来てくれ、勇者やろう、な!勇者!お腹空いているんだろう!」
「ン~~~~~~~~~~~~~~~~わからないけど、まぁ……わかったよ!やるよ勇者!」
「よぉし!よぉし!1人目の勇者だ!よろしく!とりあえず村にいこう!」
その異臭など気にもせず手を取り握手を交わし、歓迎の喜びを伝える。幸先はいい、こんな才能あふれるパワーが野盗で終わっていいはずがない。勇者にならなくても一角の武人にだってなれるはずだ。そうであっても世界は少しよくなるかもしれないのだから。
こうして餌付けに成功したケモノ野盗、野良勇者候補生を引き連れて俺は村に戻った。
暗くなる前には戻る約束していたしな。みんな驚くに違いない、こんな才能あふれるやつが来るのだから。
「カーター、エヴァさーん。戻ってきたよー勇者候補生連れて来た!」
「うわああああああああああああああ魔物だあああああ!」
「一体何を連れて来たんですかアレンさん!?」
夜の帳が落ち始める時、村にカーターの悲鳴が響き渡ったことを合図に喧々と騒がしくなり大騒ぎになってしまった。
勇者となりえる候補生を見つけて来たというのにとんでもない反応である。いやでも短い間でも慣れてしまったこの異臭というか獣臭は確かにひどい。俺もひどすぎてエヴァさん以外にも滅茶苦茶怒られてしまった。
ひとまず身を清めなさいとエヴァさんにしこたま怒られ急遽湯を沸かされケモノ野盗と共に体を洗い温めていくことになった。俺は外で、ケモノ野盗は教会でである。夜風が村に入り始めた外はだいぶ厳しかったがカーター曰く
「マジで野盗をスカウトしに行くやつがいるか。俺まで親父さんに怒られたんだぞ。」
「いや親父はいいって言ってくれたし大丈夫かなって……」
「昼過ぎても帰ってこないもんだからあの親父さんが血相変えて来たんだぞ、後でちゃんと謝っておけよな。まったく。」
ざっぶざぶどっぷと浸かる贅沢なことはできない。沸かした湯で体を拭い、髪を洗い身を清め終わったが服に至っては獣臭がひどいので捨てることになるかもしれない。悲しいが勇者スカウトのためである。残った湯で煮てる間に着替えが終わると教会の方からエヴァさんとケモノ勇者候補生が出てくる。出て来た、はずだ。何か呆れ気味の態度であるエヴァさんより背の高い、俺よりも高いだろうケモノの野盗崩れの勇者候補生。
夜風に撫でられ湯気と共に流される銀の髪に獣の耳に尾、なにより……
「アレンさん、本当によくわからず連れて来たんですね……」
「カーター、こいつは獣人ってやつなのか。初めてみた。」
「そうじゃねぇだろアレン!こいつは……」
「あぁ、あぁ!?あぁ!女性だな!女性だったのか!?!?!」
「アレンさん!!!!」
またまたエヴァさんにしこたま怒られた。木桶で頭を殴られたのは初めてだ。
最初にスカウトした剣の勇者候補生は獣人の女性。
なるほどパワーがよく出てくるわけだ。勇者にはもってこいってことだな!