「昔、薔薇の迷宮に住んでた女王だよ。」
「お?」「ん?」
声をかけてきたのはナイトレイブンカレッジの制服に身を包んだ赤髪の少年。
目元に描かれたハートのスートが特徴的だった。よく見るとベストやブローチなども赤で統一されていた。
「規律を重んじる厳格な人柄で、トランプ兵の行進もバラの花の色も一切乱れを許さない。マッドな奴らばっかりの国なのに誰もが彼女には絶対服従。何故か、お前わかるんだろ?」
ハートの女王について説明した彼は私にそう問いかけてくる。
映画『ふしぎの国のアリス』に登場するヴィランズ、ハートの女王。彼女はトランプのハートの女王として、ふしぎの国を治める。しかし、意地悪な性格からかすぐに家臣などに対して死刑を宣告する。それはなぜかというと……
「……女王の気分を害せば死刑だから?」
これは映画だったか原作小説だったか覚えていないが、単純にハートの女王が物事の解決方法としてそれしか知らなかっただからのはず。と、遠い記憶から引っ張り出して告げる。
しかしそれを聞いた彼は目を剝いてこう返す。
「規則違反をしたからだろ?何を言ってるんだ?」
何やら覚えのない話をされた。規則、なんて映画で語られていただろうか。いやしかし、確かに裁判というのは映画のキーになっていた。もしかしたらそこで法律について制定されていたのかもしれない。
「あー……そうでしたっけ。すみません。うろ覚えで。」
しかし、いくら考えてもそれらしい話を全く思い出せなかった。ひとまず謝っておくと、彼はまだ信じられないような目で私を見つめていた。それほどまでに先ほどの問いを間違えたことは信じられないことらしい。
「そんなことより、オマエは誰だ?」
話を黙って聞いていたグリムが突然割り込んでくる。
確かに突然話に割り込まれたせいで名前を聞いていなかった。
「オレはエース。今日からピカピカの一年生。どーぞヨロシク♪」
エースくんは爽やかな笑みで自己紹介をしてくれた。
「オレ様はグリム!大魔法士になる予定の天才だゾ。こっちの冴えないのはユウ。オレ様の子分だぞ。」
「ユウです。よろしくお願いします。」
グリムが気を使ってか私の分まで紹介をしてくれる。完全になめられてるような気はするが、もはやそれを指摘することはできない。
魔法が使えない身では立場が低くならざるを得ない、ということは少ない経験ながら理解することができていた。
「ユウ?珍しい響きの名前だな。」
エース君は腕を組んで、私の名前に首をかしげる。
確かに今まであった人の名前は「グリム」「クロウリー」「エース」と、西洋の言語由来と見られるものが多い。
日本的な名前というのはほとんどいないのかもしれない。まあ、ディズニーの世界だというならばそのような偏りは十分あり得るのかもしれない。
「確かにそうなのかもしれません。どうやら私の生まれはここから遥か彼方の遠方にあるようですので。」
「ユウはこいつらのことを知ってるみたいだったけど、オマエも知ってるのか?」
てっきり同じ話が語られる。そう思っていたのだが、実際に語られたのは少し、いやだいぶ違うような話だった。
「もちろん!例えばこのライオンはサバンナを支配した百獣の王。生まれながらの王じゃなく綿密に練った策で、玉座を手に入れた努力家だ。」
エースはそう笑顔で語った。間違っているわけではない。何一つとして。確かに策を巡らせて、王の地位を獲得した。それはその通りである。しかしながら、これではまるで……。
「なんかスゲーコイツのことを持ち上げてるんだゾ?さっきユウは、コイツは王様をも殺した悪いやつだっていってたゾ。」
「はぁ?本当に変なこと言ってるよな。ここにいるグレート・セブンに対して、そんなことを言ってるやつ初めて聞いたぞ。」
「グレート・セブン?」
会話がかみ合わない。どうやらエース君は、ハートの女王をはじめ
そして最後に出てきた「グレート・セブン」という聞きなじみのない言葉。
混乱する私をよそに、エース君は話を続ける。
「ここにあるのはグレート・セブンをかたどった石像だ。どの人物も本当に偉大で皆のあこがれの的!すっげークールだよな!」
やや大げさとも言えるような手振りと共にここにいる7人の
キラキラとした笑顔で語っていたエース君は突然口元をニヒルに歪めてこう言った。
「……どっかの狸と違ってな!」
エース君によるグレートセブン解説パートは、主人公による解説と被る点が多そうだったのでカットとなりました。
最初プレイしたとき、エース君がキラキラとした声でヴィランズを解説しているときは本当に何が起きているのかわからず結構怖かったです。本当に話がかみ合っていないような感覚になりました。