文章を書くのって難しい。
「……どっかの狸と違ってな!」
「ふなっ!?」
本当に突然、エース君は意地悪い笑みを浮かべてそうグリムのことを嘲ってきた。
「イヒヒっ、もう笑うのを我慢するの無理!お前、入学式で暴れて捕まってた狸だろ?入学式でも笑いをこらえるの大変だったんだぞ!」
先ほどまで話していたエース君とはまるで別人かのように、人を嘲る笑いをするエース君。
確かに入学式の出来事であれば、新入生は皆あの出来事を見ていて不思議はない。
そしてその視線は私にも向いてくる。
「そしてお前は闇の鏡に呼ばれたのに魔法が使えないやつ!二人そろって入学できずに雑用係とか、ダセー。」
もう本当に一切隠すことなく私たちのことをバカにしてくる。
「なっ、そこまで言いますか……。まあ、確かにいろいろトラブルを起こしたのは事実なのですが……。」
「しかも『グレート・セブン』も知らない世間知らず!本当に信じられないぜ。幼稚園からやり直すのをお勧めするわ。」
さすがにここまで言われると心に来るものはあるが、事実ベースで話されてしまうとなかなかこちらも強くは言い返せない。
何より、魔法が使えないという一点が自分をひどく弱気にさせていた。それだけではなく、自分にはこの世界で必須の常識が完全に欠如していることもわかった。自分の立場というのは、自分が思っていた数倍は弱いものだったらしい。
意地悪な笑みを浮かべて詰めてくるエース君と対峙して徐々に呼吸が荒くなるのを感じてきた。これほどまでに悪意に満ちた言葉を掛けられるのはとても久しぶりで、頭がうまく回らなくなっていた。
何も言い返すことができなくなった私を尻目に、エース君は学園の建物へ向かい始めこう告げる。
「んじゃ、オレは君たちと違って授業あるんで!せいぜい掃除頑張ってね、おふたりさん♪」
私はさっていくエース君のことをただ茫然と見ていることしかできなかった。が、突然足元から何かが飛び出す。
「言わせておけば、失礼なことばっか言って!もう怒ったゾ!」
足元にいたグリムが声を荒げてエース君にとびかかり、彼に向かって炎を吐き出した。
「うわっ!あぶねえだろ!なにすんだよ!」
エース君はとっさに炎を躱してこちらに向き直る。
手元から赤い宝石の付いたステッキを取り出してグリムの方をじっと睨む。
「グリム!いきなり人に向かって炎を吐くのはよくないって!」
「オレ様をバカにするからだ!アイツの爆発頭をもっと爆発させてやるんだゾ!」
「学園長から騒ぎを起こすなって言われてのをもう忘れたの!?」
完全に喧嘩になることを察した私はどうにか体を動かしてグリムの目の前に立ちふさがる。
ここで学園の生徒をトラブルを起こしてしまえば、私たちが学園を追い出されるのは想像に難くない。
なんとかしてトラブルになるのを止めることが私の役目だった。まさか、初日の朝一からその仕事が発生するとは思っていなかったが。
「うるさいゾ!子分がオレ様の邪魔をするんじゃないゾ!」
「あっつい!!」
しかしその決意はあっという間に霧散してしまう。
グリムは躊躇なく炎を私に向けて放ってくる。
直撃こそ避けられたが、命の危機を感じるほどの熱さが肌を焼く。
挙句の果てに、腰を抜かして動けなくなってしまった。
グリムは私が動けなくなったのを見て私を超えてエース君の方へ近づいていく。
「この狸、俺とやろうなんていい度胸じゃん。それに比べて、炎にまかれた程度で腰を抜かして動けなくなるなんて、本当にダセーな。マジでこの学校に向いてねえぞ。」
エース君はもはやあきれた様子で私を嗤う。
しかしすぐに視線をグリムに向けて、グリムに挑発する。
「ほら、かかってこいよ!!全身チリチリのトイプードルにしてやる!」
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それからの二人の戦いは正直私にはあまり理解できなかった。
グリムが炎でエース君に襲い掛かるのに対し、エース君は風を魔法で起こしていなしていた。
風の力で炎が消されたり流されたりするので、エース君に対してあまり炎の攻撃は届いていないようだった。
「ん?けんかか?」
「いいぞ!もっとやっちまえ!」
気が付いたら二人の周りには人だかりができていた。騒ぎを聞きつけた学生たちが野次馬となっていた。
外野の人数が増えるとともに、二人の戦いも激化していった。
戦いは何も魔法の領域だけではなかった。
「そんなへろへろの火の玉あたるかってーの。」
「なんだと!覚悟するんだゾ!」
エース君は余裕そうな表情でグリムのことを煽る。グリムは煽り耐性が全くないのかすぐ挑発に乗ってさらに炎を吐く。
完全にエース君のペースになっているが、グリムはそのことには全く気が付いていないようだった。
外野の声もどんどん大きくなり、戦いも最高潮になってきた。
グリムが「これで決めるゾ!」と叫び一際大きな炎をエースに浴びせかける。
「何度やっても同じだっての!風で矛先を変えてやれば……」
エース君も負けじとより強い風を起こして風を横にそらす。
炎は風に乗って……
「あっ」
通路のわきにあったハートの女王の石像に襲い掛かった。
「あー……ハートの女王の石像が黒焦げになってる……。というか、ほかの石像も汚れちゃってるよね……。」
「なーっ!!やばいっ!!」
エース君は頭を抱えてハートの女王の石像を燃やしたことに慌てていた。
騒ぎを起こしただけでなく石像を汚したとなれば、もう怒られるのは避けられないだろう。
「グリム。もうやめよう。いろいろ汚しちゃってるから、校長先生に謝りに行かなきゃ……」
ここは、こちらから先手を打って謝るしかない。そう思い、グリムを引っ張ってその場から離れようとした。
しかしながら、たくさんの野次馬がいる騒ぎを先生が見逃すはずがなかった。
「こらー!!!なんの騒ぎです!」
「うわあ、校長先生……」
「げっ、学園長……」
生徒の波をかき分けて現れたのは校長先生。
目元こそ仮面で隠れて見えなかったが、その声色から怒っているのは火を見るより明らかだった。
「早く逃げろっ!」
グリムがとっさに走り始めて、エース君もそれに続こうとする。
しかし、その逃走は校長先生の鞭によって妨害される。
鞭に撃たれた二人は痛みでその場に蹲ってしまう。
「この私から逃げようなんて100年早いんですよ!それにしてもユウ君、つい先ほど『騒ぎを起こすな』と言ったばかりのはずですが?」
二人がもう逃げないと判断したのか校長先生は私にそう聞いてくる。
私はどうにか立ち上がって校長先生をじっと見据える。
「はい。おっしゃる通りです……。」
しかしなにも言い訳ができず、頭を下げることしかできなかった。
「これではグリム君を監督しているとは言えませんよ。」
校長先生はじっと私の方を見つめて、そういってくる。喉元まで、私にはグリムが魔法を使うのを無理やりに止めることができない、と出かかったけれどそれを口にすることはできなかった。
余計なことを言って先生の機嫌をより損ねることは避けたかった。
「しかも騒ぎを起こすだけでなくグレート・セブンの石像を黒焦げにするなんて。君はよほど退学にされたいと見えます。」
「ちょっ!それは勘弁!」
今度はエースにも説教をする先生。初日にしていきなり退学がちらついたことにエース君は大層驚いた様子だった。
校長先生はエース君から名前と所属を聞き出して(本名はエース・トラッポラというらしかった)、少し考えた後私たちに向けこう宣言する。
「トラッポラ君、グリム君、ユウ君。3人には罰として窓ふき100枚の刑を命じます!」
グリムとエース君は非常に不服そうにしていたが、校長先生は放課後に大食堂に集合するように告げると去って行ってしまった。
事態の終結を察したのかあるいは始業の時間が近づいてきたのか、野次馬の生徒たちもこの場を去っていった。
「はあ、もうトラブルしか起こらないな……。」
それからもエース君とグリムはお前が悪いと言い合っていたが、やがて授業に間に合わなくなると言ってエース君がその場を去っていった。
「……グリム?トラブルを起こさないようにって言われてたよね?」
「でも、あいつが馬鹿にしてきたのが悪いんだゾ!」
むすっとした表情で地べたに座っているグリムは、エース君こそすべての責任を負うべき人物だと思っているようだった。
私はしゃがんでグリムと目を合わせながら
「まあ確かにエース君が先に馬鹿にしてきたのは事実だと思う。私も意地悪を言われて嫌だったから。でも、だからと言って暴力行為に訴えていいわけではないと思うよ。エース君も悪いけど、火を吐いたグリムも悪い。私も一緒に窓ふきするからしっかり働こう?」
私は自分の監督責任を棚に上げてグリムを諭した。
本当は「私こそ何もしていない」「君たちを前に私にできることなんてなかった」と思っていた。しかし、それを口にすることはできなかった。多分、グリムがそれを聴いたらまた余計な怒りを起こすと思ったのだ。
グリムはしぶしぶと言った様子で立ち上がり、メインストリートの葉っぱを掃除し始めた。
窓ふき100枚の刑は放課後。私たちは先に与えられていた仕事をこなし始めた。
ちょっとずつ、話の流れを原作からずれていきます。
が、最終的にどこまでずれるのかはわかりません。基本的に見切り発車でお送りしているためです。