思い付きで行動を変えると本当に後ろが変わってくるなぁという学びを得ています。
40枚ぐらいの窓ふきが終わったころ(もちろん窓の上の方は手つかずのままだが)、何やら食堂が騒がしくなっていた。
見るとグリムとエース君が食堂に駆け込んできていた。
グリムがエース君を捕まえるのに成功したらしい、そう思っていたのだが何やら様子がおかしい。
グリムは机の上からシャンデリアに飛び乗っている。
「くそー!ちょろちょろしやがって!」
エース君がグリムに向かって叫んでいるのが聞こえてくる。
「捕まえられるもんなら捕まえてみろ~だゾ!」
「あー、なんとなく察してきた。今度はグリムが逃げてるのか。本当にみんなして……。」
一度はエース君を捕まえたグリムだが、今度はグリムが逃げてそれをエース君が追いかけているらしい。どうしてみんな大人しく窓ふきをできないんだろうか。
いや、よく見るとエース君の横にもう一人生徒がいる。どうやら二人でグリムのことを追いかけているらしい。
私は一度窓ふきの作業を止めて二人の方へ歩み寄る。
近づくと二人が何やら相談するのがわかった。
私が二人の近くまで来たとき、エース君の隣にいた生徒がステッキをエース君に向けてこう叫んだ。
「お前を投げればいいんだ!」
「はぁ?」
ステッキから光が灯ると、エース君が宙に浮く。
「オレのこと投げる気かよ!?やめろマジで!」
エース君は何とか逃れようともがく。しかし文字通り空をつかむだけで逃れることができない。
隣にいた生徒は徐にステッキを振りかぶりグリムの方へ振る。すると……
「「うわああああああああああああああ!!!!」」
エース君がグリムの方へ大砲の玉のように飛んで行った。
グリムがいたところとはつまり大食堂のシャンデリアの上。
そんなところに人を吹っ飛ばしたとなれば、もちろんシャンデリアに衝突する。
大きな音を立ててシャンデリアがグリムとエース君ごと落下してきた。
「二人とも大丈夫!?」
シャンデリアは天井から釣ってあるとはいえ床から数メートルの高さにある。
大けがは免れない……と思っていたのだが二人とも意外と元気そうではあった。
「信じらんねえ!本当に投げるやつがあるかよ!」
「しまった!捕まえた後の着地のことを考えてなかった!」
エース君が声を荒げると、エース君を投げた生徒もしまったという様子で答えた。
いや、問題なのは捕まえた後の着地というかシャンデリアに当たって壊すことだと思うのだけれども。
それにしても、
「みんなこれどうするの?窓掃除をしてるはずがシャンデリアを壊しました、なんてなったら校長先生なんて言うのか……。」
もはやグリムとエース君は忘れているのかもしれないが、私たちは本来窓ふきをしているはずの人間である。
それなのにシャンデリアを壊しているなんてなったらもうそれは烈火のごとく怒るだろう。
「なんて言うと、お思いですか?ユウ君。」
そう、こんな風に。
「ん?あっ、」
後ろには学園長が立っていた。それはそれは、口元をゆがめてこちらをにらんでいる。
「貴方たちはいったい何をしているんですか!石像に傷をつけただけでは飽き足らず、シャンデリアまで破壊するなんて!」
校長は腕を組んで怒りをあらわにする。
私たちが何も言えないでいると校長先生は続けて私たちにこう言い渡した。
「もう許せません。全員、即刻退学です!」
「「ええええええええ!?!?」」
学生二人は思わず叫んでいた。
やや急な判断とは思うものの、やっていることを見ればそこまで怒られても全く文句は言えないように思える。
「そんな!どうかそれだけはお許しください!オレにはこの学園でやらなければいけないことがあるんです!」
エース君を投げていた青髪の生徒が、校長先生にそう言って頭を下げる。
しかし、校長先生は首を振って
「馬鹿な真似をした自分を恨むんですね。」
とあしらった。校長先生の中で、決定は固いもののようだった。
しかし、この生徒は石像を傷つけることには関係はなかった。
自分にこの騒動の責任があるとするならば、彼をかばうことこそ何もできない自分にできる勇逸のことのように思えた。
意を決して一歩前に進み、校長先生に進言する。
「校長先生、こちらの人は石像の件には関係ない人です。どうか考え直してはいただけないでしょうか。」
「いやこれは決定事項です。それにユウ君、確かに君は学生としての地位はありませんから退学になることはありません。しかし、君は私の許可によって学園に滞在することを許されているのです。貴方もこの学園から出て行ってもらいますよ。」
「た、確かに……。」
しかし特に覆ることはなかった。というか、そもそも私も路頭に迷う危機であった。校長先生に人の心配をしている場合ではない、と怒られてしまった。
「しかも、このシャンデリアはただのシャンデリアではありません。魔法を動力源とし永遠に尽きない蝋燭に炎が灯る魔法のシャンデリア。伝説の魔法道具マイスターに作らせた逸品です。」
校長先生は、今しがた壊したシャンデリアがどのような品であったかを説明してくれる。
なるほど、消えることの無い蝋燭のシャンデリアは非常に便利そうでかつ貴重そうである。
「学園設立当時からずっと大切に受け継がれてきたというのに……。歴史的価値を考えれば10億マドルはくだらない品物です。」
「じゅ、じゅうおく……。」
マドルとはこの世界の通貨である。通貨の感覚があまりよくわかっていないが、おそらく日本円に近い数値価値になっていると思われる。
それが正しいとすれば、本当にとんでもないものを破壊してしまったらしい。
「このシャンデリアを君たちは弁償できるというのですか?」
「……」
皆黙ることしかできなかった。
それでもどうにかエース君が口を開く。
「で、でもさ。先生の魔法でパパッと直せちゃったりとか……。」
確かに、魔法と言えば壊れたものの修復!さすが魔法の世界で暮らす人だ!
と思ったのだが、校長先生はゆっくりと首を横に振る。
「魔法は万能ではありません。しかも、魔法道具の心臓とも呼べる魔法石が割れてしまった。魔法石に2つと同じものはない。もう二度とこのシャンデリアに光が灯ることはないでしょう。」
今度こそ、皆で肩を落とした。
打つ手なし。これで皆で仲良く放逐かと思ったとき、校長先生が何かを思い出したようだった。
「そうだ、一つだけシャンデリアを直す方法があるかもしれません。」
「本当ですか!?」
皆でその発言に食いつく。それは我々の前にたらされた蜘蛛の糸であった。
校長先生が説明するには、壊れた魔法石というのは「ドワーフ鉱山」なる場所で採れたものらしい。
そこで同じ性質を持つ魔法石を手に入れることができればシャンデリアを修理することが可能かもしれない。
ただし鉱山が閉山してから時間がたっており、目当てのものがまだ存在しているかどうかは不明であるとのこと。
「僕、魔法石を取りに行きます!行かせてください!」
青髪の生徒がそう叫ぶ。
「いいでしょう。一晩だけ待って差し上げます。明日の朝までに魔法石を持って帰ってこられなければ君たちは退学です。ドワーフ鉱山へは鏡の間の扉を使えば行けるでしょう。」
校長先生はそう言って私たちを見渡し大食堂を去っていく。
青髪の生徒は、それを見送ってから鏡の間へと駆け出して行った。
「んじゃ、パパッと言って魔法石を持って帰ってきますか。」
エース君も行く気になったようで、大食堂から出ていく。
そしてグリムは……
「ハッ!オレ様はいったい何を……」
床から起き上がってきた。どうやらいままでずっと意識を失っていたらしい。
「なんか大変なことになってるよ。説明してあげるから一緒に行こう。」
そういってグリムを抱きかかえ、私も鏡の間へと歩み始めた。
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「あーあ……なんでこんな事になっちゃったかなあ。ついてなさすぎ……。」
エース君は鏡の前でそう言って頭を抱える。
確かに一日で発生するイベントとしては最大級に悪いイベントだろう。
すると青髪の生徒(デュース君と言うとグリムに教えてもらった)が
「ぶつぶつ言っている時間はない。行くぞ!」
と喝を入れ続けてこう叫んだ。
「闇の鏡よ!僕たちをドワーフ鉱山へ導き給え!」
すると、鏡が揺らめきはじめる。そして鏡に吸い込まれて行って……
うっかりデュース君とのエンカウントのタイミングを省いてしまった結果、転移の直前までデュース君の名前を知る機会がないまま進むことになってしまいました。