やはり怪物は見掛け倒しではなかった。
長い間ここで魔法石を守っていた怪物と、学園に来たばかりの4人では力の差は歴然だった。
やがて、疲労したデュース君が怪物に殴られて吹き飛ばされてしまう。
「デュース君!?大丈夫!?」
慌ててデュース君のもとに駆け寄る。幸い意識ははっきりしているようだった。
その裏でエース君が風を起こし怪物をよろめかせようとする。しかし、怪物に効いた様子はなくエース君もまた吹き飛ばされてしまう。
「本当にこのままだとマズイ……。グリム!炎でアイツを追い払えない!?」
「や、やってみるんだゾ!」
グリムが炎を出して怪物の周囲を取り囲む。しかし、怪物はそれを意にも介さずこちらに近づいてくる。
「ぜ、全然効かねえんだゾ~!」
グリムが泣きそうな顔で私に飛びついてくる。
その時、何かフラッシュのようなものがたかれた。
「魔法石だ……。あの奥に魔法石があるんだ!」
フラッシュの正体に気が付いたデュース君が、顔を明るくしてそう叫ぶ。
しかし、怪物は一層大きな声で私たちを威嚇してくる。
どうやら、私たちが魔法石の存在に気が付いたことに気が付いたらしい。
「みんな、このままだとあいつにやられちゃう!一旦逃げるよ!!」
目的のものこそ見つかったがこのままではジリ貧で全滅する、そう判断した私は即座に退却を宣言した。
今度はエース君も異を唱えず全員で駆け出して行った。
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「はあ、はあ、はあ。なんとか、生きてる。よかった。」
坑道を抜け、空き家まで戻ってきた。
全員ダメージこそあるが、命に別状はないようだった。
「なんだったんだよさっきの!あんなの居るなんて聞いてねーって!」
エース君が殴られた箇所をさすりながら叫ぶ。
「もしかしたら、鉱山が閉鎖された原因があの怪物なのかもしれないね。」
「もうあきらめて帰ろーよ。あんなんと戦うくらいなら退学でいいじゃん。」
エース君は投げやりにそう言った。おぞましい見た目と強大な力に、解決する未来を見出すことができなくなっていたようだった。
「ざっけんな!退学になるぐらいだったら死んだほうがマシだ!魔法石があるのに諦めて帰れるかよ!」
しかし、それを聞いたデュースは声を荒げて止めてくる。彼にとって退学というのは文字通り死んでも避けたい事態であるらしかった。
「俺より魔法ヘタクソな癖に何言ってんだか。行くなら勝手に一人で行けよ。オレはやーめた。」
投げやりな様子を隠すこともしないエース君は、そう言ってこの場を去ろうとする。
「あぁそうかよ!なら腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」
デュース君は歯茎をむき出しにしてそう叫ぶ。
冷静そうなイメージがあったデュース君からはイメージのしにくい表情だった。
「腰抜けだって?誰に向かって言ってるの?」
それを聞いたエース君は振り返ってデュース君をにらみつける。
このままだとマズイと思い、怒りをそらすために二人に質問を投げかける。
「みんなの魔法でどうにかならないの?透明になったりとかそういう感じのやつ。」
その質問に二人は首を横に振る。
「学園長も言っていたけど、魔法は万能じゃない。強くイメージできなければ魔法は具現化できないんだ。」
「パっと思い浮かべた通りに魔法を使うにはかなり練習が必要ってワケ。ぶっちゃけ、テンパってるとミスりやすい。」
「なるほどねぇ。」
どうしたものかと考えていると、デュース君が真剣な表情でこちらに向き直る。
「僕は何とかしてあいつを倒して魔法石を持ち帰る。」
デュース君の決意表明、魔法石を持ち帰るという意思は強いようだった。しかしながら……
「お前さーさっき全然歯が立たなかったのに『何とかして』って何?何度やったって同じだろ。」
あきれた様子のエース君がデュース君にそう言う。言い方の問題こそあるが、私もおおむね同意見だった。
しかし、それを聞いたデュース君はエース君に詰め寄り今にも喧嘩を始めようとする。
「また始まったんだゾ」
これにはグリムもお手上げの様子だった。
それにしても、みんなすぐに喧嘩を始めてしまう。どうしてこうなってしまうのだろうか。
「これじゃあ、全員仲良く退学しかないかぁ。」
今にもつかみかからんとしていたエース君とデュース君がぎょっとしてこちらを振り返る。
「オ、オイ。ユウ。いきなりキツイこと言いだしてどうしたんだゾ。」
グリムにとっても私の発言は意外だったようで、目を丸くしながらそう訊いてくる。
「だってそうじゃないか。申し訳ないけどこのまま同じことをやったって結果は改善できないだろう。時間切れで仲良く退学しかない。」
「じゃ、じゃあどうすればいいんだよ!」
まさか私からも無理だと言われるとは思っていなかったデュース君は顔を赤くしてそう聞く。
「協力しよう。それしかない。」
私がそう言うと二人は目を見合わせてからもう一度こちらを見てくる。先に口を開いたのはエース君だった。
「……この突っ走り真面目クンと?ヤダね。絶対ヤダ。」
それを聞いたデュース君も「俺だってゴメンだ!」と叫び返す。
「みんなの力を合わせよう。時間がないってみんなわかってるんでしょう?」
溜息をついて私は提案する。実際、一人でどうにもならないのであればそれしか手はないはずだった。
「力を合わせるって……。ハッ、何それ寒っ。よくそんなダッセェこと真顔で言えるね。」
エース君は私の提案を鼻で笑った。まさか、協力をダサいことだと言われるとは思っていなかった。
「同感だ。こいつと協力なんか出来るわけない。」
デュース君すらも、協力はできないとそう言い放った。それを聞いて、自分の中で何かが切れる音がした気がした。
「言わせてもらうんだけどさ、」
考えるよりも先に、口が動いていた。後から振り返ると、手が出なかったのは奇跡とすら呼べるかもしれない。
「君たちは物事の優先順位を考えられていなさすぎる。」
「は?」
3人ともキョトンとした様子で私を見つめる。
「そもそも私たちはみんなで退学を避けるために魔法石を持ち帰ろうとしているんでしょう?その目的が一致してる私達が協力するのは当然じゃないか。ダサいだとか仲良くできないだとかそんなことは関係ない。ただ協力すればいいだけなんだから。」
「いや、だから俺は別に退学でいいって……。」
「黙れ。」
「なっ!?」
エース君がこの期に及んでなめたことを言っているので、思わず強い口調で返してしまった。
「大体、この状況に陥っているのは君たちが物事の優先順位を理解しないで適当に行動してるからだ。グリムは掃除が最優先のはずなのにたかが煽られた程度で喧嘩を始める。」
「オレ様なんだゾ!?」
「当たり前だろ。はっきり言わせてもらうけど、僕はこの件の原因の8割はグリムにあると思っているからな。」
「8割!?そ、それよりユウの様子が変だぞ……」
思い出せばどんどん腹が立ってくる。グリムが私の静止を振り切ってエースに絡みさえしなければ、こうはなっていなかったはずなのに。
「窓ふきの時だって、優先すべきは掃除なのにエース君を探しに行ってしまう。いなくなるエース君も大概だ。学園長の刑罰をおろそかにしていいとはとてもじゃないが思えない。」
「そうはいったって、面倒なもんは面倒だろ。お前が言ったようにグリムのせいだろ?俺は悪くない。」
「ああ?お前本気で言ってるの?信じらんないんだけど。」
本当に腹が立つ。このエースとかいう他責思考の塊はいったい何なんだ。
お前だって喧嘩を売ってきて話をややこしくしているというのに。
「もう我慢できない!僕が今まで一度だってお前たちに迷惑をかけたことがあったか!?一度だって君たちに不利益をもたらしたことがあったか!?」
一度決壊したダムからは水は止まらない。声を荒げて3人に詰め寄る。
デュース君が私を落ち着かせようとするが気にも留めず、エース達に言葉を浴びせかける。
「僕は今まで君たちから散々不利益を被った。窓ふきの刑だって受けたし、退学の罰だって受けようとしている。でも僕は一言も君たちに文句を言わなかっただろう!?私にだって責任があると感じていたから文句を言わなかったんだ。なのになんだって?自分は悪くない?人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
3人とも、私をじっと見つめ黙っていた。私には彼らが何を思っているのかはわからなかった。
私は一つ息をつき、エースをにらみつけてこう叫んだ。
「協力するのがダセーとか舐めたこと言ってるけどさぁ、人様に迷惑かけておいてしっぽ撒いて逃げようとする方がよっぽどダセーよ馬鹿野郎!!」
言った。言い切ってしまった。我慢の限界で思ったことを全部言ってしまった。
3人は、突然あらぶり始めた私をキョトンとした表情で見つめるばかりだった。
「ユウジ、なんか人が変わったみたいだゾ……。」
「人がいつまでも物腰柔らかく接してくれるとは思わないことだね。」
グリムは恐ろしいものを見るような目でこちらを見てくる。学生二人はともかくグリムとは今後も関係が続くのが確定しているから、ここで強く出て今後どうなるかは不安だ。だが、今そんなことを気にしている場合ではない。吐いた言葉を取り戻すなんてことはできないのだ。
「で、どうするの?みんな仲良く退学になる?それとも協力して魔法石を手に入れる?」
改めて二人に向き直りそう問いかける。今は魔法石について考える時間だ。
「俺は、やっぱり魔法石を手に入れて退学を回避したい。そのために魔法石を手に入れる。」
デュース君は手を突き合わせてやる気を見せてくる。
今にも喧嘩を始めそうなファイティングポーズ、どこか安心感すら与えるような力強さだった。
「で、エース君は?」
「やればいんでしょ、やれば!ていうか、あんなこと言われて逃げたら俺が悪いやつじゃん。」
「わかれば結構。別に仲よくしようとは言ってないんだ。協力してくれればそれでいい。」
エース君はガシガシと頭を掻くと、爽やかな表情でこちらを向く。
始めたあったときのような、それはそれは爽やかな表情だった。
さっきまで私はエース君のことを怒鳴っていたはずだが、それを忘れたかのような爽やかさだった。
切り替えの早さこそエース君の美徳、ということなのかもしれない。
「で、どんな作戦?」
エース君の問いに、私は笑みを浮かべながら指を立ててこう答える。
「私に考えがある。なんてね。」
気が付いたらユウ君がめちゃくちゃ喋ってました。
突然怒り出すやばい人になっちゃったユウ君ごめんね……。
でも、文句を言わずに我慢してた人からしたらだいぶ加減我慢の限界だと思うんですよね。
作戦立案パートも書いてはいたのですが、悠長になってしまったのでカットと相成りました。