私達は学園長室を後にして寮に向かっていた。グリムは未だに嬉しそうにスキップしていた。
一方のエース君とデュース君は退学のプレッシャーから解放されたからか、非常に疲れ切った顔をしていた。デュース君に至っては特大のため息をついていた。
「デュース君、そんなに大きなため息ついてたら幸せが逃げちゃうよ?」
「そうはいったって、退学が免除されたんだ。力も抜けるさ。」
私の問いに答えたデュース君は、そう言ってより一層大きなため息をつく。背中がどんどん丸くなっていき、その姿は小さくなっていくように見えた。
正直私は雑用係としての実感も学園に所属している実感もなかったから緊張感はそこまでなかった。でもデュース君は自らも望んでこの学園に来た生徒なのだから、退学にかかるその緊張感は途轍もなかったのだろう。
そう思うと、巻き込まれてしまったのはちょっと申し訳なく思う。謝るべき人がいるとするならばそれは私じゃなくてグリムとエース君だと思うし、それをわざわざ言うことはしないけれども。
しばらく皆が無言で歩いていると、エース君が何かを思い出したようで私に問いかける。
「それよりユウはナイトレイブンカレッジ生になるんだろ?勉強とか大丈夫なのか?」
学園長から告げられたビッグニュース、一つはエース君たちの退学免除でもう一つがこれ。
私とグリムが正式にナイトレイブンカレッジ生になるのだ。
学園長からそれについて説明されたときは「これで私のちゃんとした居場所ができて友達もできる」なんて思った。しかし冷静に考えるとここで学ぶのは魔法に関するあれこれ。
エース君に言われて急激に不安になってきた。魔法の勉強ってどういうことをするんだろう。語学ってあるのかな。私今日本語で話してる気がするんだけど、文字ってどうなってたっけ。そういえば私はまだ書物を読んだ記憶がない。
というか魔法の勉強って何やるの?座学レベルだったとして魔法が使えない私に理解できるのかな。元の世界でやってた数学とかってある?
そもそも私はこの世界の初等教育を受けていない。そんな私にカレッジでの勉強を対応できるのか。
考えれば考えるほど自分がやっていける気がしなくて顔を真っ青にしていると、ご機嫌そうに先行していたグリムがこちらを振り返りニッと笑う。
「大天才のオレ様がぜーんぶ完ぺきにこなして学年主席になってやるから安心するんだゾ!」
そうだ。二人で一人、私はこの小さな生き物とこの学園で運命共同体となるのだ。私が弱気になって落ちこぼれたらグリムにも迷惑が掛かってしまうのだ。それなのに自分が引っ張るぞ!と豪語するグリムは本当に頼りがいのある生き物だった。
私は「頼りにしてるね。親分。」と言ってグリムの近くにしゃがみ、その頭を撫でた。グリムは顔をとろけさせて撫でられていた。
こうやってるとグリムはなんだか猫みたいだ。結構かわいい。言動がかわいいかは諸説あるけれど。でも、ちょっとビッグマウスなところ含めてグリムなのだ。それがかわいいのだ。きっと。
「困ったことがあったら俺たちに頼ってくれよ。」
「オレも!?ま、ユウには助けてくれた恩があるから全然いいけどな。」
デュース君とエース君もそう笑いかけてくれる。
一緒に冒険をしてくれた二人が力を貸してくれると言ってくれてなんだかうれしくてはにかんでいると、エース君がまたあのニヤッとした笑みを浮かべてデュース君の方を見る。
「というかお前バカっぽいのに大丈夫なのか?」
「なっ!お前には言われたくない!」
なんか気が付いたらまた二人とも喧嘩を始めた。なんというか、これを改善するのにはまだまだ時間がかかるのかもしれない。
「なんで二人ともすぐに喧嘩するの……。どうどう。」
多分二人と友達になる以上この仲裁は何度も経験するんだろうなと思いながら、何とか二人をなだめる。でも冒険してた時とは違って険悪な雰囲気は感じない。この二人も確実に仲良くなってはいるのだろう。
落ち着いたところでデュース君が、そういえばと制服の胸元のエンブレムを指さす。
「俺たちはハーツラビュル寮所属だが、お前たちの寮の名は?」
寮の名前、そんなものあっただろうか?学園長の話の中で、建物の名前を思い出そうと首をひねっていると、グリムが顔をしかめながら答える。
「オレ様たちはずっと使われてなかった寮に住んでいるんだゾ。さしずめ"オンボロ寮"ってトコだな。」
「オンボロってなんかイメージ悪い名前だよね。ハーツラビュルみたいにかっこいい名前がいいけど……。まあ思いつかないしオンボロ寮って名乗るのかな。多分。」
グリムの「
そんなことを話していたらいよいよエース君たちと私達での分かれ道にまでたどり着いてしまった。今にも解散だ、という雰囲気になったとき私はあることを思い出して3人を呼び止める。
不思議そうな顔をした3人に、私は手元にあるものを掲げながらこう言った。
「3人とも。帰る前に私の初仕事、やってもいい?」
そして私は手に持っていたゴーストカメラを3人に向けた。
オンボロ寮の私の自室にはアルバムがある。入学して以来借りたゴーストカメラで撮った日常の写真を記録するアルバム。その1ページ目にはある一枚の写真が貼られている。
写真には「私とグリムのナイトレイブンカレッジ入学が決まった日」とメモが書かれている。
そしてその写真には、満面の笑みのグリム、エース君、デュース君が写っている。
今もこの写真を見ると、3人がこちらに手を振ってくれるのだ。
これにてプロローグ終曲です!
ここまで見てくださってありがとうございます。
ここから1章深紅の暴君編が始まります。今のところ3章まではプロットが完成しているのでこのまま書き進めたいなと思っています。
果たして1章編を書ききるのと、私がゲーム6章をクリアするのはどちらが先になるのでしょうか。私は今のところ全く6章がクリアできる気がせずに絶望しています。
もしよろしければ、1章編以降もよろしくお願いします。