アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!? 作:文字の忍者-遅筆
「ジャック!ジャックじゃないか!」
「マーサ……」
雷雨激しいサテライトの空を降り、シグナー一行とついでに僕はマーサハウスへ。目の前でジャックがマーサの手の甲に口づけを行っているのを見物しつつ、さてこれからどうしたものかと考える。
確かダークシグナーとの戦いは早期決戦、タイムリミットは明日の夕暮れまでというシビアすぎるもの。それまでに制御装置を守護する4人のダークシグナーを倒して旧モーメントへ向かわなければならないわけだが……確か記憶の限りならもう一人ダークシグナーが乱入してきた覚えがある。どうだったか……
「……しかしあんたまで来るとは思わなかったぞ、「始末屋」」
『シグナー達の手助けをしろという「仕事」だ、依頼は確実に遂行するのが私のポリシーでね』
「そうか。あんたの実力はよく知ってる、頼りにしてるぜ」
そういえば雑賀も遊星とデュエルした時のメンバーに居たな……なんて思い出す。邂逅したのはほんの少しだが、結構私も印象に残るものらしい。嬉しくないのかと言われれば嘘になるが……やっぱり期待が重い。
『それで……これからどうするつもりだ?こちらから仕掛けるにしても情報が少なすぎる』
「だが奴らもいつ襲ってくるか……そういえばマーサ、サテライトの皆は無事なのか?」
「ああ、それについてなんだけど……」
ひとまずは作戦会議、か。
『……』
(……)
作戦会議……というよりは現状確認はつつがなく終わり、今日はもう遅いということで夕食の時間。ただ……僕は今素顔を晒すわけにもいかないので見張りという名目でパンだけ貰って外に立っていた。ジャックからは「マーサの料理が食えぬというか貴様!」とまた怒鳴られてしまったけど……マーサが彼を止めてくれた。彼女に簡潔に感謝と謝罪をし、「仕事」だと言い訳をして僕は外で見張りをしている……というわけだ。牛尾が絆されるのも頷ける、あの人の懐はどれだけ深いんだろうか。
『……相変わらず無口だな、お前は』
(……)
こんな時にもIKUSAは何も喋らない。まあ口を開くのはいつもデュエルの振り返りだけど……遊星とのデュエル以降それもなくなってしまった。何か怒らせるようなことをしてしまったのだろうかと少し考えてみるがてんで思いつかない。というか彼の人となりすら掴めていないのに地雷を見つけるなんてそもそも無理があるか……仕方ない。
「……あ、美味しい」
他の皆が食事に意識を割かれているのを確認して仮面を外し、パンを千切って口に含む。焼きたてであろうそれは食事会に参加しなかったこと……シチューと一緒に食べれなかったことを後悔するレベルで美味しくてちょっと涙が出てきた。後悔はしたけど意地を張らずに大人しく正体を曝け出してしまえばなんてのは結果論だ、あくまで僕は「始末屋」としてここに居る。「鞍馬衣玖」として関わるのはお門違いだろう。彼らが求めているのはネオドミノの猟犬であってアカデミアの小娘ではない筈だ……ていうかネオドミノの猟犬ってなんだよ、自分で言ってて恥ずかしい。
「……にしても何か忘れてるような……」
……相変わらず本編に関しての知識は所々うろ覚えだ。正直な話明日に短期決戦を仕掛けるのは知っているけど、それはそれとしてそれぞれの対戦相手とデッキくらいしか覚えていない。ただ……今日、ダークシグナーの方からなにか接触があったような気がするんだけど……よく思い出せない。カードの知識はすらすらと呼び出せるのにこういう重要な局面の情報が掘り起こせないのも結構難儀なものである。
『……よし』
パンを食べ終わり、マーサハウスから背を背けて再び仮面を被る。ダークシグナーからの接触があるというのならこの後だ。警戒を厳に……
「ほう?シグナー達を迎えに来たつもりだったが……面白い奴がいるではないか」
『……!』
……しようとしたところで唐突に雷が落ち、マーサハウスの窓が割れる。そしてこちらに語り掛けてくる男の声……来たか、ダークシグナー。
「その身に纏う力……シグナー、そして我らダークシグナーとも似ているが違う。気になるところだが……生憎今用があるのは貴様ではない」
『ダークシグナー……其方にはなくても此方にはある』
「知らぬことだ……おっと、話している間にシグナー御一行も此方に気づいたようだな」
「お前は……!」
どうする、今此処でアンカーを仕掛けても……いや、確か地縛神は展開される地上絵内部の人間を生贄にして召喚される。此処でデュエルを仕掛けるのはとんだ悪手だ。おまけに奴はシグナー以外に興味はないと来た……クソ、どうする!?
「俺が相手をする、ついてこい!」
「いいだろう……」
……僕が迷っている間に遊星がデュエルを引き受けてしまっていた。確かに彼ならそうするだろうし、龍可以外のシグナーから見れば僕はデュエルは強いがただそれだけの一般人と変わりない……道理か。
『私も行こう、他にダークシグナーが居ないとも限らん』
「いや、お前は此処でジャックと共にマーサと子供たちを頼む。もし地縛神が召喚されてしまえばお前も生贄として……」
「遊星とは私が一緒に行くわ、だから貴方も貴方のできることをお願い」
『……了解した』
アキを連れて遊星は行ってしまった……このまま何もできずじまいで終わるのか、僕は?
『……下手に動くは愚策、どう……ん?』
このまま流されるままでいいのかと思案している中、マーサハウスから出てくる3人の少年を目撃した。
『……何処へ行くつもりだ?』
「あいつをやっつけに。俺たちも遊星兄ちゃんの力になる!」
……無茶だ、シグナーどころかデュエリストですらないただの子供が行ったところで地縛神の生贄になるだけ。
『待て、遊星がどうしてシグナーだけで行ったか……分かっているのか』
「わかってるさ!けどあいつはクロウ兄ちゃんや皆を攫った悪い奴らなんだろ!?それをただ遊星兄ちゃんが戦ってるのを待ってるだけなんてできるもんか!行くぞ二人とも!」
『な……待て!?』
言葉による説得は意味をなさず、少年たちは遊星がダークシグナーを連れて行った場所へと駆けだしてしまった。一人だけならアンカーで無理やり捕まえることはできるが……3人は無茶だ、クソッ!
「っ、おい始末屋!タクヤ達を見なかったか!?」
『あの少年たちか?』
「そうだ、知っているならとっとと話せ!」
『……遊星の力になると言って飛び出してしまった。早く向かわなければ……』
「それを早く言え!」
……その通りだ、耳が痛い。
「っ……!」
「マーサ!?」
「任せろぉ!」
……あの少年たちに続いてマーサと牛尾まで闇のデュエルが繰り広げられているであろうサテライト内部へと行ってしまった……最悪だ、僕があの子たちを止めきれていればこんなことに……は……
……あ……
……そうだ、思い出した、このままじゃ……!
『……っ!』
「おい!何処へ行く始末屋!?」
『Dホイールを取りに行く、一刻も早くあいつらを追わねばいかん』
「最初からそうしておけばよかったものを!俺も行く!万が一あいつらとマーサに何かあったら許さんぞ!」
『承知の上だ。私は「仕事」は絶対に遂行する……』
焦った表情と声を仮面で覆い隠し、一秒でも早くフェニックスに乗って後を追う。急げ、このままじゃ取り返しのつかないことになる……!
一気に最高速まで加速したフェニックスの勢いにどうにか耐えながら、僕は道なき道を急いだ。
『マーサ、牛尾、あの少年たちは……』
「おせぇぞ始末屋!俺たちだってようやく此処まで来たとこなんだ!」
闇のデュエルが繰り広げられているサテライトの一角。とにかく急ごうとフェニックスを走らせた僕は並走していたジャックを置き去りにしてマーサと牛尾の所へ追いついた。まだ地縛神は出ていない、猶予は……ある。
「ジュンとミっちゃんは遊星たちの近くに……ただ、タクヤが何処にいるか……!」
『あと一人か……分かった、私が彼を探す』
「事態は一刻を争うんだ!地縛神が召喚されるまでに見つけて連れ帰るぞ!」
『分かっている……』
簡潔に状況確認を済ませて二人と別れ、最後の一人を探す。思い出せ、彼は……何処にいた!?
どうにかして昔の記憶を思い出そうと四苦八苦するなか手当たり次第にビルを駆け上がって少年を探す。この戦いで地縛神が召喚されることは確かなんだ、ジャックと牛尾に激を飛ばされた手前生贄にされましたでは後悔してもしきれない。
『何処に……っ!?』
上がっても上がっても見つからない、このビルではないのかと思考を回し始めていると突然紫色の光が浮かび上がる。あれは確か地縛神召喚の合図、間に合わなかった……いや、記憶の限りなら彼は少なくとも地上絵内部には居なかったはずだ、まだ間に合う……!
『一応屋上までは探して……なっ!?』
一度深呼吸して改めて探そうとした瞬間衝撃でビルが揺れる。かなり大きい……最悪このビルが転倒しかねないぞ、早く屋上まで見て他のビルに飛び移ろう。
「うわぁぁぁぁ……!?」
『!』
そう考えていた最中屋上の方から少年の悲鳴が聞こえた。あれはさっきの……ってことは、屋上!
「っ……おい始末屋!さっきの聞こえただろうな!?」
『ああ、すぐに向かう……』
息を切らしながら階段を駆けあがる牛尾とマーサと合流、屋上へと急ぐ。
「タクヤ!」
「さっきの人……それにマーサ……牛尾の兄ちゃんも……!」
……今にも横転しそうな屋上で、タクヤは淵に掴まってどうにか転落を防いでいた。早く、行かなくては。
『……私が行く、もしもの時は任せた』
「任せたって……おい!?」
このまま何もしなければマーサが彼を助けに行って……地縛神の生贄になる。それはシグナー達にも、子供たちにとっても大きな傷になるし、「始末屋」としての仕事……シグナー達のサポートという仕事を失敗したも同然だ。
だから……此処は僕が行く。
『掴まれ、まだ間に合う』
「う……うん!」
まだ戻れないほどの傾きじゃない。なんとか少年の手を掴み、彼を待つ二人の元へとどうにか歩を進める。
「タクヤ!」
『こっちを先に……私は自力で……っ!?』
「始末屋!?」
なんとか牛尾にタクヤを引き渡した次の瞬間、一際大きい揺れと同時にビルがさらに傾く。これは……
「おい始末屋!掴まれ!」
『……少し厳しい、アンカーでなんとか耐えているとはいえ……今私を掴めばお前まで落ちかねん』
「んなこと気にしてられるか!俺を……俺をカッコいいって言ってくれた奴の前で、他人を見捨てるような真似できっかよ!」
『……』
……転落する寸前にどうにか窓枠にアンカーを噛ませて耐えたが……感触からそう長くは持たない。牛尾の気持ちもわかるが……今お前を失う訳にはいかないんだ。
「始末屋!?」
「あいつ……まさか自分を犠牲に!?」
「そんな……!?」
……シグナー達も心配してくれているようだ。自分は生贄にならないと知っている分、心配させてしまうことにちょっと罪悪感がある。
『ついさっきもしもの時は任せたと言っただろう。私は私の「仕事」を遂行した、お前が気に病むことはない』
「だが……!」
『……すまない、アンカーがそろそろ限界だ』
「なっ……!?」
恐らく傾いた時点で相当ガタが来ていたのだろう。アンカーで掴んでいた窓が窓枠ごと崩れ、欠片が結構な量仮面に降り注ぐ……仮面越しとはいえ、そこそこ痛い。
「始末屋ぁ!?」
「っ……!」
掴む物が消えたアンカーを巻き取り、ただ重力に身を委ねる。このままなら間違いなく地縛神の生贄、そうならなくても転落死という所だが……
……きっとゴドウィン長官があいつを渡したのは、こういう時のためなんだろうな。
「あ……」
「なんだ、あいつの周りに……炎?」
突如として現れた炎が僕を包み、落下速度を緩めていく。
「……なるほど、やはり奴から感じた妙な力……気のせいではなかったようだな」
「妙な、力……?」
やがて落下速度はシャボン玉の如くゆっくりになり、僕はふわりと地面に着地した。
「生贄に……なっていない?」
「それどころかほぼ無傷で着地した……」
「シグナーでもないのに……どういうこと……?」
やはりというべきか、シグナー達からの動揺の声が凄い。
「デュエルの途中に無粋ではあるが聞いておこう……何者だ貴様?」
『何者と言われてもな……ん?」
どうやら破片の打ち所が悪かったらしい、ボイスチェンジャーが故障している。
困った、少々……いやだいぶ予定が狂った。本来であれば正体を晒す予定はなかったのだが……「僕」を知っている者が多数いる都合、これでは隠すだけ無駄だ。
「その声……」
ほらね。
「……仕方ない、今だけ素顔を晒そう。元キング様にも先日言われたことだし……丁度良い」
無造作に仮面を投げ捨てる……訳でもなく、ゆっくりと仮面を外し、フードを脱ぐ。故障したとはいえこの仮面は大事な仕事道具、雑に扱うわけにはいかない。
「お前は……フォーチュンカップの……!?」
「これは驚いた……どんな奴かと思えば、随分とこの場に似合わない女子ではないか」
「似合う似合わない大いに結構、けど僕がこの場に立っているのは事実だ」
ちょっと震える両足を誤魔化すように見栄を切って地上絵の中へ、どうせ戦う相手だ、怯えは見せない方がいいだろう。
「先日ぶりって言えばいいのかな、十六夜アキさん」
「え、ええ……でも本当に……?」
「少なくとも夢ではない。それと……」
「今はデュエル中なんだろ?不安要素は消えた、続けなよ」
……後のことは怖いが、今は考えないようにする。
主人公にはどういう活躍を期待している?
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蹂躙、無双
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いい感じの熱いデュエル
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ギリギリを演じる2枚目