それ〝最強〟ってことじゃんか   作:渚 龍騎

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凄い好評でランキングとかにも載りました。ありがとう御座います。なのですぐに書かないとと思って書いたので、ちょっと抜けてる部分あるかもですけど。


三話 異世界から人が来た!

 

 

「だからですね、宇宙っていうのは一つじゃなくて無限に存在しているっていうのが多元宇宙論──所謂マルチバースと呼ばれるものです」

 

 

 八畳程の和室で机を囲みながら、丸眼鏡を掛けた少年は目の前の少女に向けて真剣にその知識を語る。だが少女は齎される話の規模に付いて行けず、頭がパンク寸前だった。

 

 

「話が大規模過ぎてついていけんわ……」

「それじゃあ、もう少し規模を小さくしましょう。つまりは、地球という世界が無限に存在してるんです。そこではありとあらゆる可能性が存在してます。例えば、そうですね……」

 

 

 机にぐったりと倒れ込む少女の為に、少年は万感の想いを募らせながら分かりやすい例え話を試行錯誤する。そこで脇に座っていた桃色の髪の少女が間に入って口を開いた。

 

 

「つまりは、私と高倉君が結婚してる世界があるかもってことなのね!」

「えっ、ちょっ、白鳥さん!?」

 

 

 白鳥と呼ばれた少女──白鳥 愛羅(アイラ)は派手な妄想を決め込んで、高倉 健の隣に腰を下ろす。身体を寄せては、頬を少し赤く染めていた。

 その時、机に伏せていた綾瀬 (モモ)は反射的に顔を上げて飛び上がる。なにやらかなり焦った様子で顔を赤くしながらも、愛羅を指差して声を荒げた。

 

 

「あ゛あ゛ぁ゛!? お前ぇなに言ってんだ!」

 

 

 野太い声で驚愕するモモが、アイラを高倉から引き剥がす。だが決して離れようとしないアイラに高倉は苦笑する。それを見たモモはアイラを強く引きながら、高倉を指差して睨んだ。

 

 

「なにニヤけてんだクソメガネ! さっさとコイツから離れろよっ!」

「えぇっ!? ニヤけてなんかいませんよ!」

 

 

 慌てて首を振って否定する高倉だが、そんな言い訳を聞くはずもなくモモはアイラとの取っ組み合いを開始。互いに額を当て合って、アイラは眼前の恋敵に歯軋りした。

 

 

「アンタやる気!? そっちこそ私と高倉君の結婚生活の邪魔をするんじゃないわよ!」

「何が結婚だこのクソだらあ! お前にオカルンのなにが分かるんだって、えぇっ!?」

 

 

 相も変わらず取っ組み合いを始めるアイラとモモの二人を、高倉は必死に宥めようとするが、二人の火花と威圧に弾かれてその喧嘩を収めるどころかヒートアップするばかりだった。

 

 

「ああ、もうダメだ……星子さん帰って来ないし……どこ行っちゃったんだろ……」

 

 

 二人の喧嘩を止めることができずに諦めて肩を落とす高倉。普段であれば、他の人間が喧嘩を止めるのだが、今日は誰一人としていない。以前よりも自分の性格を前に出せるようになったとはいえ、二人の圧力には未だ敵わない。

 

 

「ぐぬぬっ、さっさと離れろよ!」

「そっちこそ離れなさいよっ!」

 

 

 二人の取っ組み合いを傍観することにした高倉が溜め息をついた直後、綾瀬家の扉が勢い良く開かれてバットを担いだ星子が煙草を咥えたまま帰宅した。

 

 

「うるっせえぞ! なに騒いでんだお前ら!」

「あっ、ばあちゃんお帰り」

 

 

 星子とターボババアの乱入により、二人の喧嘩は一時休戦となる。モモ、アイラ、高倉の三人が星子へと視線を向けた時、モモだけが星子とターボババア以外に客人がいることを(オーラ)で察知した。

 人や物に宿るそれぞれの(オーラ)──モモだけが見えるその輝きは、今回だけ妙に違っていた。星子の後ろにいるその(オーラ)は、今まで見たこともない程に()()だった。

 

 

「おじゃましまーす」

 

 

 聞き覚えのない声が適当な挨拶で廊下の奥から響く。そして扉の影から、猫背になっている男がポケットに手を入れたまま姿を見せた。

 星子と同じ純白の髪色、190センチはある巨躯に細く長い手足。男は家の中にも関わらず、サングラスを掛けている。そしてサングラスを僅かに下ろすと、その奥から覗く宝石のような瞳で三人を見下ろし、子供染みた笑顔を浮かべた。

 

 

「よっ、はじめまして」

 

 

 軽い挨拶でこの場を流す男に呆気に取られ、三人は互いに見合う。きょとん、とした表情を浮かべては男を一瞥。再度お互いを見合ってから、モモが驚愕で声を上げた。

 

 

「──ばあちゃんが男連れて来た!! しかもめっちゃイケメンだし、なに誑かしたの!?」

「おうモモ、お前ぇ少し表でろ」

 

 

 ありもしない冗談を驚愕しながら言い放つが、それに対して星子は煙草を咥えたまま溜め息を吐く。そして男の方に親指を向けながら、その名前を語った。

 

 

 

「──こいつは五条、別の世界から来た人間だ」

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

「つまり五条さんは、宇宙人の技術で蘇って、その宇宙人に僕たちの地球が狙われてるからわざわざ助けに来てくれたってことですか?」

「んー、まあ簡単に言うとそんな感じかな」

 

 

 五条から施された説明を高倉が端的に纏めると、彼は顎に手を置きながら肯定。すると高倉は突然「いいなぁ!!」と声を大にして羨ましがった。

 

 

「おぉオカルンどうした!?」

「だって宇宙人に蘇らせられたんですよ!? しかも全く関係ない世界を助ける為にわざわざ危険を冒してまで、異世界から来てくれたってカッコ良すぎるじゃないですかぁ!!」

「おいおい、ウチらこの前その宇宙人たちに殺されかけたじゃんか。まだそんなこと言ってるの?」

「それとこれとは別ですよ! 五条さん、宇宙船ってどんな感じでしたか!?」

 

 

 先程までの態度とは一変。狂ったように食いつくオカルン──高倉の発言にモモは僅かに引いている。だが五条は彼に驚きながらも指を一本立てて、笑顔を浮かべながら答えた。

 

 

「まんま映画みたいな感じの宇宙船、でっかいホログラムのスクリーンとか、もう地球じゃ見られないようなテクノロジーばっかでさ!」

「おぉぉぉぉ!! 五条さんもっと詳しく教えてください!」

「いいよ、まずね蘇る感覚は最悪でさー。こうなんか、ジェットコースターで落っこちる感覚がずっとするわけ。もう気持ち悪くてしょうがなかったよ」

 

 

 五条と高倉の二人だけで盛り上がる間に割り込んで、モモが「ちょいちょいちょい」と二人の会話を制する。目を輝かせる高倉の大好きなオカルト話を遮るのは少しばかり気が引けたが、完全に逸れてしまった話を元に戻した。

 

 

「申し訳ないけど、そういう話じゃないでしょ?」

「す、すいません。つい、盛り上がってしまって」

 

 

 モモは小さな声で「ウチも宇宙人に拐われた事あるのに……」と前髪を弄りながら不満げに呟く。万感の想いを馳せながら溜め息をついたモモだったが、気持ちを切り替えてから切り出す。

 

 

「でもさ、宇宙船ってカシマレイコが全滅させたんじゃなかったの?」

「カシマレイコって?」

「ばあちゃんでも倒せない最強の妖怪だよ」

 

 

 鏡を用いて幾千万の宇宙船をたった一人で全滅させた最強の妖怪カシマレイコ。五条はなぜか〝最強〟という言葉に反応して「へえ」と興味を示していたが、誰かがそれに気が付くことはなく高倉が思考を巡らせながら口を開いた。

 

 

「恐らくですけど、ジブンたちが出会った宇宙船部隊とは別にいるのかもしれないですよ。五条さんの言うことが正しければ、色んな世界で〝最強〟の個体を集めて勢力を上げてるらしいですから」

 

 

 五条の語った宇宙人とはまた別の宇宙人である可能性も高いが、彼が接敵した宇宙人とモモらが戦った宇宙人との見た目が一致している。恐らく同じ宇宙人の別部隊と考えた方が良いだろう。

 

 

「そんなん来たら勝てっこないじゃん……」

 

 

 モモらが戦った宇宙船部隊ですらも、下手をすれば死ぬ可能性があった程の強敵ばかりだった。バモラやカシマレイコの助太刀がなければ、確実に誰かが命を失っていた。そこで高倉は疑問を浮かべる。対面に胡座をかいている五条を見つめ、それを投げかけた。

 

 

「そういえば、五条さんも宇宙人に召喚されたって言ってましたよね?」

「うん、そうだね」

「ってことは五条さんも異世界での〝最強〟ということになりませんか……?」

 

 

 高倉の疑問に五条は「ふっ」と微笑みを溢してから、自信満々にそれに答えた。

 

 

 

「──もちろん。僕、最強だよ」

 

 

 

 笑みを浮かべてそう告げる五条。モモら三人は「おおっ!」と目を輝かせて声を漏らしていた。だが五条は僅かに後ろに倒れてから「でもね」と盛り上がっている三人に向けて言葉を付け足した。

 

 

「今の僕は前よりも制限掛かりまくりでさ。すっげー弱体化してるっぽいんだよね」

 

  

 それでも最強なのは変わらないけどね、と自信満々な態度は変わらずにへらへら笑う五条。そのあまりの自信に三人は互いに見合って、アイラが思い切って問い掛けた。

 

 

「そんなに自信があるってことは、よっぽど強い能力なんでしょ? どういう能力なのよ」

 

 

 「試して見るかい?」──そう言って、五条はゆっくりと立ち上がる。そして「ちょっと借りるよ」と棚の上に置かれていたボールペンと消しゴムを手に取り、玄関から外に出て行く。三人は困惑しながらも五条の後についていくと、五条はモモとアイラにボールペンと消しゴムをそれぞれ渡した。

 

 

「じゃあ、それを僕に向かって投げてみて」

「いいの?」

「もちろん。全力でね」

 

 

 五条の発言に二人は見合って困惑する。だが直ぐに頷き、モモはボールペンを、アイラは消しゴムを握り締めて構える。「後悔すんなよ!」と怒声の如きモモの声が響いた直後に全力投球。星子の教えのもとでプロ野球並の投擲センスを発揮した二人の投球は、狙い過たず五条に突っ込んでいく。

 

 五条は高速で飛んで来る消しゴムとボールペンを見つめたまま受け止めようとする動作すらしない。ボールペンは当たってしまえば怪我をする可能性もある。だが五条はポケットに手を入れたまま笑っていた。

 

 飛んで来た二つの物体に向けて、五条はマニュアルで術式を発動。物体の質量、形状、そして速度から危険を判別。消しゴムを対象から外し、ボールペンのみを危険物と判断する。その結果、消しゴムは五条の頭に当たって宙を舞い、ボールペンのみが無下限の術式に弾かれて空中に静止した。

 

 

「す、すごい……」

「えっ、なにそれ……」

 

 

 傍観していた高倉が目の前の出来事に感嘆の声を漏らす。消しゴムとボールペンを投げた当人の二人──モモは驚きの声を上げ、アイラは想像していなかった眼前の光景に目を疑いぽかんと呆けてしまっていた。

 

 五条は頭上に弾かれた消しゴムを軽くキャッチして、空中で静止しているボールペンを手に取る。前もこんなことあったな、と昔の記憶に耽りつつも五条は華麗な指捌きでペン回しを披露しながら驚愕で呆けている三人に歩み寄った。

 

 

「これが、僕の無下限呪術」

 

 

 得意げに語った五条を見上げて、高倉は下がった眼鏡を上げる。聞き慣れない〝呪術〟という言葉に首を傾げながらも、その異能がどういった原理なのかまるで理解できなかった。

 

 

「これはどういうことなんですか……?」

「僕の術式は至るところにある〝無限〟を現実に持ってくるんだ」

「〝無限〟ですか?」

「そ、今のはニュートラルな無下限。僕に近づくほど遅くなって、最終的には辿り着かなくなるの」

 

 

 アキレスと亀みたいな、と無下限呪術の説明に付け足すがモモとアイラはまるで理解できていない様子で、なんとなくついてこれたのは高倉だけだった。

 高倉は五条に向けて手を伸ばす。だが今回は無限に阻まれることはなく、五条に触れることができた。

 

 

「前は無下限が常時自動で危険を判別して弾いてたんだけど、この世界に来た影響でそれもできなくなって、無下限を出しっぱにすることも無理になったんだ。だから、今は手動だよ」

「そ、それでも凄いですよ五条さん……」

 

 

 五条は昔ほどじゃないと自嘲して言っているが、最強と自負するだけのことはある。どれだけの実力を隠しているのかは不明だったが、高倉には彼がとんでもない逸材にしか見えていなかった。

 モモは冷静に能力を調べている高倉と五条を横目に何が起こっているのか理解できず、恐らく理解不能仲間であるアイラに目を向けた。

 

 

「アイラ、あれの意味分かった?」

「さっぱり」

「悔しいけど、アンタと同じだわ」

 

 

 珍しく意気投合した二人は、理解することを諦めて高倉と五条の横に並ぶ。五条の無下限呪術に関心を寄せている高倉の真剣な表情を見つめ、モモは意を決すると顔を僅かに寄せた。

 

 

「ねー、オカルン。これってつまりはどういうことなの? ウチさっぱり分かんなくてさ」

「簡単に言うと、五条さんにはどんな攻撃も当たらないってことです」

「げ、なにそれ……そんなのチートじゃん」

「はい、チートです」

 

 

 モモの疑問に答えて振り返ると、眼前に彼女の顔があって驚愕しながら高倉は飛び退く。そんな彼の様子を楽しむモモだったが、そんな彼女の頬も僅かに赤い。目を逸らす高倉はズレた眼鏡を直して、照れ隠しをしながら五条を呼んだ。

 

 

「ご、五条さんはその無下限のバリア以外に、な、何かあるんですか?」

「あとは呪力で身体能力を強化したり、無下限で〝収束〟と〝発散〟の反応を作ったりできるよ。今は収束しかできないけどね」

 

 

 そう答えた五条は「それよりも」と、高倉の顔をまじまじと見つめ始める。息が掛かるほど近くに顔を寄せて行き、モモが目を見開くが彼は興味深く「へえ」と声を漏らしてから離れた。

 

 

「高倉って言ったっけ? 君の中になにかいるね。あー、それと白鳥も」

 

 

 二人は五条にそう言われて僅かに目を見開く。五条はサングラスの奥にある六眼で、二人の中にある()()()()の流れを看破していた。

 二人には存在して、モモには存在していなかった異物。二人には似通った共通点が一つだけあった。

 アイラは珍奇なものでも見るような表情で首を傾げた。

 

 

「なんで分かったの?」

「眼が良いからね。呪力以外にも、霊力ってのが見えるらしい」

「そんなものまで見えるのね。というより、さっきから言ってる()()っていうのはなんなの?」

「そっか、こっちの世界じゃ呪術師はいないのか」

 

 

 五条以外の三人は聞いたことのない言葉に首を傾げる。五条がいた世界と、今いる世界とでは根本的な部分は似ていても、かなり違った要素が多く存在している。呪霊、妖怪、呪力、霊力、事様々な部分が五条の認識とは違っていた。

 

 

「僕の世界では、人間から溢れた負の感情が具現化して、呪霊っていう怪物になる。それを僕ら呪術師が、負の感情から生まれてる呪力で祓うんだ」

「なんか、ウチのばあちゃんみたい。霊媒師だし」

「確かに、星子さんと似てるかもね。ただ、呪術師の術式──謂わば能力は、生まれながらに持ったものだから、術式が無い人もいる。才能がほぼ八割ってところかな」

 

 

 『もしかしたら格好良い術式を身につけられる』と考えていたモモや高倉は、五条の説明でそれが不可能であることを悟り、僅かに肩を落とした。

 五条は六眼で得られた情報から、三人にも何かしらの術式に近い異能を持っていることは理解していた。ボールペンを華麗に回しながら、三人に向けて「君らはどんな能力を持ってるわけ?」と問いかけた。

 

 

「超能力」

「ターボババアのスピード」

「髪の毛」

 

 

 淡々と能力を答えた三人の中で、モモだけが五条にその力の断片を見せる。五条の眼にはモモの背中から不可思議かつ巨大な腕が現れて石を持ち上げていたが、その他の者からは念動力の如き力で石を浮かび上がらせているように見えていた。

 

 

「これは面白い。なんでも掴めるの?」

「まあ、(オーラ)があれば大体なんでも掴めるかな」

「オーラ?」

「その物体とか生き物に宿ってるエネルギーみたいな?」

 

 

 へえ、と興味津々に眺めていた五条は、次に高倉に目を向ける。高倉は逃れられないと察するや直ぐに自身の内側に存在している霊力を解放していき、その姿を変身させた。

 高倉の雰囲気が一変し、五条は漠然とだが既視感を覚えた。

 

 

「興味深い……これって元から持ってた能力なの?」

「萎えるぜ……そんな大層な力なんて持ってないっていうのによぉ……ターボババアの呪いが身体に残っちまってなぁ……」

「急に性格変わり過ぎじゃない?」

 

 

 途端に性格が変わった高倉に困惑していると、モモが「変身するとネガティブになるの」と言われ、そういうものなんだと勝手に解釈して理解する。そしてターボババアの名前に疑問を抱いた五条は首を傾げた。

 

 

「ターボババアって、あの星子さんが連れてた招き猫の事だよね? あれ、いったい何者なの?」

「妖怪だよ妖怪。招き猫になってるのは話せば長くなるんだけど……簡単に言うなら、ターボババアの力だけがオカルンに残って、意識は招き猫に移っちゃってんの」

「じゃあ、今はターボババアの力を借りてる状態なわけね」

 

 

 「まあ、そんな感じ」と頷くモモ。高倉はターボババアの呪いを抑え、変身を解除する。下がった眼鏡を直す彼を見つめてから、アイラの方へと目を向けると、彼女は溜め息をついた。

 

 

「私のも高倉君と変わらない。アクさらの(オーラ)が中に入ったおかげで、変身できるようになったわ」

「アクさらってのは? それも妖怪なの?」

 

 

 アイラは少し沈黙すると、ゆっくりと言葉を飲み込んでから顔を上げる。その表情は明らかに優しく、柔らかに微笑んでいる。それが何故なのかは五条に分からなかったが、彼女は小さく答えた。

 

 

「妖怪だけど……私を助けてくれた、もう一人のお母さん」

「なるほど。色々と事情がありそうだ。けど、良いお母さんだったみたいだね」

 

 

 アイラはなにも答えない。だがその優しげな表情を見る限り、言葉による答えはいらないと感じた。

 五条は腰を曲げてアイラの顔を覗くと、特に気になっていた疑問を率直に投げた。

 

 

「やっぱ君も変身するとネガティブになるの?」

「私はならないわよ」

 

 

 五条は三人のことを理解して「三人とも面白いね」と口にする。見たこともない能力に興奮を隠し切れない様子だ。変身を解除した高倉が汚れた眼鏡を服で拭いてから掛け直した。

 

 

「ところで、これからどうしますか?」

「宇宙人がまた攻めて来るかもしれないんだもんね……またウチらで特訓?」

「五条さんが元の世界に帰れる方法も探さなきゃですよね」

 

 

 相手がまたどんな戦力で襲って来るのかも分からない。また特訓をして能力をパワーアップさせることも考えなければならない。五条 悟という最強の戦力を得てしても、自分らの能力を上げておくに越したことはない。

 

 

「ま、それもいつかは見つけられるっしょ。それじゃあ、特訓を怠らないこと! 以上!」

「またそんな適当なこといって……」

「なんだ? やる気か?」

「私がリーダーってことを忘れないでよね」

 

 

 またもやモモとアイラの喧嘩が勃発する、その直前で五条が手を上げた。

 

 

「あー、あのさ、僕はどこに寝泊まりすればいい?」

 

 

 その疑問に高倉とモモは揃って「あっ」と声を漏らす。まるで気にしていなかったが、五条の生活を誰かが見なければならない。モモは頭を掻きながら溜め息をついた。

 

 

「それじゃあウチに泊まりなよ。バモラもいるし、一人増えたところであんま変わんないでしょ」

「おー、助かるよ」

 

 

 面倒事を買って出てくれたモモに感謝の言葉を口にする五条。その他所で高倉だけは、僅かに納得のいかないといった表情を浮かべていた。

 それに気がついたモモは高倉の腕を取った。

 

 

「オカルンも今日は泊まって行きなよ。五条の歓迎会でもやろうよ」

 

 

 その言葉に高倉は顔を揃えるパアっと明るく笑顔を浮かべて「はいっ!!」と頷いた。そしてモモは少し顔を俯かせるアイラを見つめて、彼女の手も取った。

 

 

「アイラも来なよ。人数多い方が盛り上がるんだから」

 

 

 アイラはモモに手を取られて、僅かに顔を明るくさせるが、直ぐに表情を切り替え、喜びを感情に押し込んでから口を開いた。

 

 

「ま、そんなに言うなら行ってあげてもいいわ」

「じゃあ来なくていいぞー」

「あっ、ちょっと待って!」

 

 

 名残惜しむこともなく手を離して、歩き去っていくモモ。アイラは慌ててその背中を追いかけた。

 

 

「てか、婆ちゃんどこ行った?」

「星子さんなら、ターボババアと買い物に行くって直ぐ出掛けて行きましたよ」

「婆ちゃん、五条の歓迎会やる気満々じゃん」

「分かるんですか?」

「何年一緒にいると思ってんの?」

 

 

 「あのクソババアの考えなんて手に取るように分かるわ」と肩を竦めながら語るモモだったが、星子はそんなこと知らずにスーパーへ向かう途中で盛大なクシャミをしていた。

 




ふと釘﨑の簪って五条の無下限を無視できるんじゃないかなって思った今日この頃です。呪力を帯びてるから無下限に弾かれるんですかねあれ。

追記
簪じゃなくて、共鳴りだった。
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