「いけっ、ストロング・ゲドー!」
「――――!」
ゼーロの指示を受けて紫の炎の身体で地面が陥没するほど踏みしめ、ゲドーは七海の元へ一瞬で駆ける。
「剣……ならばこちらも武器を使わせてもらいますよ」
七海がそう呟くと、懐から包帯でグルグル巻きにされたナタを取り出して猛スピードで放たれた斬撃と鍔迫り合いになった。
(熱い……見た目通りの炎……!)
「七海っ!」
「近づかずに援護を!」
「っ、了解!」
二つ返事で了承した灰原は小石を拾って呪力を纏わせ、それをゲドーへと飛ばす。
タイミングよくゲドーの剣が小石に弾かれたため、七海は一歩前へ踏み込みながらゲドーの全身を下から7:3に線分した位置へとナタを突き立てる。
「【十劃呪法】」
ちょうどそこはゲドーの首部分になっており、衝撃で首半分が弾け飛びながらゲドーは大きく後退を余儀なくされた。
「まるで肉のような切れ味……」
「七海っ! まだ来るぞ!」
しかし滾る炎で首を治したゲドーは再び剣を振り回しながら七海の前へと躍り出る。
「はいばら」
「ん……」
「お前も、壊す」
ゼーロの周りにはガラスのコップやカッターナイフのような堕魔が合計4体生成されており、それを灰原へと仕掛けていった。
「よっし! どんどん来いゼーロくん!」
「アハハッ! 壊す、遊ぶ!」
そのまま1人と2人の戦闘は長らく続くのだった。
「これからはお前の術式について見識を深めていく」
呪力の多さが功を奏したゼーロの勝利で幕を閉じた模擬戦。散々ゼーロが喜んだ後に夜蛾が彼を呼び止めた。少し休憩を挟んでから取り掛かることになる。一方の家入はゼーロ、七海、灰原を応急処置した後、下の2人と任務に当たることになった。
「お前の術式……堕魔だったか? そいつと私の呪骸は似ているところが多くある。そこで私からいくつかアドバイスをする」
「ゼーロ、もっと、強くなれる……!」
「つまりはそういうことだ。私の術式、傀儡操術は式神よりも基本スペックが高い……だが傀儡操術の弱点の一つに式神と違い、実物があることにある」
「じったい……」
「そうだ。式神の場合は札に閉じ込められるが、私たちの場合は持ち運ぶ必要がある。故にその限りが――」
「札、カード……そっかあ!」
ゼーロが手をポンと叩き、堕魔の1体を呼び寄せて触れると……その身体が1枚のカードに変化した。
「できた! 力、残ってる……!」
(っ……!? 呪骸を式神にした!?)
「もっと、増やす、40枚」
ゼーロが床にカードを広げて続々と手の中からカードを作り出していく。カードには堕魔の姿や先ほども見た《無月の門》から現れた呪霊が描かれており、その下にはテキストのような物が記されていた。
「……何枚か見ていいか?」
「いーよー」
片手間のゼーロから許可を貰った夜蛾は、見たことのあるカードを数枚手に取り、そのテキストを確認していく。
「『堕魔 ドゥスン』。『マフィ・ギャング』、『魔導具』、『各ターン、相手が唱える1枚目の呪文のコストを1多くする』……七海の動きが鈍くなっていた正体がこれか」
それぞれのテキストの解釈を進めていくうちに、《無月の門》を持ったカードにぶち当たった。
(『自分の魔導具が出た時、自分の魔導具をバトルゾーンと墓地から2つずつ選び、このクリーチャーを自分の手札または墓地からそれら4枚の上にコストを支払わずに召喚してもよい』……祓われた堕魔と既に呼び出している堕魔で呼び出すということか? だがこのテキスト通りなら堕魔がいれば何度でも呼び出せることになる……そのための40枚の縛りか——?)
夜蛾がそこまで考えたところで、ゼーロにカードを奪われてシャッフルされてしまう。そのやり方も特異的で、精密な呪力操作でもってランダムに混ぜていた。
(さらにランダム性による縛り……これは味方にとっても厄介な性質の式神使いになりそうだな)
「夜蛾」
「先生と呼べ」
「わかった。先生」
「どうした」
「壊す!」
「……物騒な言い方はよせ。試すなら相手になる」
「じゃあ、試す!」
ゼーロが胡坐をかいて40枚の山札のうちから5枚を引き、対する夜蛾は熊のような人形と共に構える。
「ドゥリンリ!」
(黒電話の呪骸……新たに式神として作られたのか)
ゼーロ自身の呪力を
……はずだったが、ゼーロの周囲に展開されていた薄い『
(結界術だと……そんな技術まで)
「いいカード、もらった」
破壊されたその結界はカードに変換され、そのままゼーロがさらに注射器のような堕魔を手札のカードを1枚消滅させながら召喚する。
「ザンバリー! ……そして開け、無月の門!」
「速い!」
七海と灰原との戦闘を観戦した時よりも早くゼーロは《無月の門》を開く、円陣から現れるのは巨大なムカデの下半身をした人型の呪霊。
「無明夜叉羅ムカデ!」
「ゲジゲジゲジーッ!!!」
ムカデは奇怪な鳴き声を響かせながら尻尾の棘でツカモトを貫く――するとそこから毒でもが溢れたのか、ツカモトを動かしていた呪力が体外へと消えていく。
「アハハハハハ! 壊せ壊せ!」
ツカモトの動きが目に見えて弱まったのを確認したムカデが、その隆々とした両腕をツカモトへと振り下ろして床ごとぶち壊そうとし——
「そこまでだ!」
ゼーロの高笑いが夜蛾の一言で止まり、それに合わせてムカデもまた動きを止める。
「……私の負けだな。ツカモトは後で直すとしよう」
「わーい! 勝った勝った!」
ゼーロは勝利を無邪気に喜ぶも、夜蛾は思案顔で顔を伏せる。ムカデもまた消えてゼーロの山札もまた虚空に消えていった。
「……1つ、聞く」
「んー、なにー?」
「何故……私たちの言う事を聞くんだ?」
それは純粋な質問だった。
ゼーロほどの実力があれば呪詛師として十二分に生きていける――当然推奨などはしていないが――にも関わらず、ゼーロは呪術高専の、夜蛾や七海たちの言葉を理解し、時にはその無邪気な衝動を抑えてまで言う事を聞いていた。おそらくそのような性格ではないだろうに。
「夜蛾、みんな、良い奴。だから、言う事、聞く」
「……それだけか?」
「そうすれば、もっと、壊せる」
口下手に紡がれるのは純粋だけが形を成した答え。『壊す』ために従う……人間というよりは呪いに近い純粋さだった。
(やはり『呪霊を人間にする術式』があると判断して良さそうだな……とはいえ、だ)
夜蛾がサングラス越しにゼーロの姿を捉える……カードを取り出して再び床に広げ、『次はこれ』などとカードの枚数を調整していた――その姿には呪霊のような悪意は一切感じられなかった。
「ゼーロ」
「んー?」
ゼーロは手を止めずに答える。
「その力、何かを壊すのではなく誰かを救うために使ってみないか?」
「それは、ヤダ」
「何故だ?」
「壊す、大事。じゃないと……じゃない、と……」
ゼーロが動きを止める。それを訝しんだ夜蛾が近づいて彼の隣で屈んだ。
「じゃないと、なんだ?」
「…………なん、だっけ……?」
ゼーロが天を仰ぐ。夜ならばきっと月が見えていただろう。