ソードアート・ストラトス   作:剣舞士

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えぇ、今回で『夏の準備』は終わり、次からはいよいよ臨海学校編です。




第31話 夏の準備Ⅱ

場所は依然変わらずレゾナンスのショッピング区画。

明日奈と刀奈に連れ回される形で、和人と一夏はそのショッピングモールを歩いていた。

 

 

「どうしてこう、女っていうのは……!」

 

「買い物が好きなんですかね……?!」

 

 

 

二人の両手には、様々な洋服店の袋がいっぱい握られていた。

あれからずっと、四人はいろんな洋服店を歩いていた。夏物セールをやっている店から、一足早い秋物のコーデを取り扱うお店まで。

堪らず二人は近くにあるベンチで休憩を取り、未だ店内でショッピングを満喫中である恋人たちを眺めている。

 

 

 

「すごい荷物ですわね♪」

 

「「ん?」」

 

 

 

突然背後から声をかけられ、振り向く。

そこには、クラスメートであるセシリアが立っていた。

手には買い物袋が握られており、セシリアもここでお買い物中だったようだ。

 

 

 

「セシリアも買い物に来てたんだな」

 

「ええ。というより、どうしてわたくしも誘ってくださらなかったんですの?」

 

「あー悪い……。急いで来てたから、声かける暇がなかった」

 

「むー……。まぁ、いいですわ。わたくしも、ある程度買えましたし……」

 

「セシリアは何を買いに来たんだ? やっぱり水着か?」

 

「いえ、水着は本国から輸送してもらってますわ。買っていたのは、日焼け止めクリームと、後は化粧水と乳液とーーーー」

 

 

その後も続く買い物の品々。

だが、和人があることに気づく。

 

 

「す、凄く多いな……! あれ? でもその割には荷物少なくないか?」

 

 

そう。手に持っている買い物袋が言うほど多くないのだ。

それだけ買ったのならば、両手には持てないほどの買い物袋で埋め尽くされてもおかしくはないのに……。

だが、セシリアはパンッと胸の前で手を合わせる仕草をとると、にっこりと笑って言った。

 

 

 

「ああ……それなら、先ほど車で搬送してもらうように頼んだのですわ♪」

 

((すげぇ……金持ちってすげぇ……!))

 

 

 

セシリアもイギリスの代表候補生。

国からは軍人扱いされている為、それなりの給金はもらっている。

そして何より、イギリスでも有数の資産家だ。15歳という若さで、一大企業の社長として、執務をこなしているのだから、尊敬してしまう。

だが、こういった御令嬢たちの金銭感覚というのには、正直カルチャーショックを受けてしまう。

 

 

 

 

「あれ? セシリアちゃん?」

 

「あら、お買い物?」

 

「ええ、そうですの。お二人も同じなのですね」

 

 

 

 

と、ここで買い物を終えた明日奈と刀奈が戻ってきた。

手にはまた新しい買い物袋が……。

だが、それでも一夏と和人は自然と手を出して、荷物を受け取ろうとする。

ここまでの流れが、もう体に染み付いて離れないのだ。

 

 

 

「あぁ、これは私が持つよ。そんなに重くないしね」

 

「ええ。それに、これは私たちが持っておくべきものだからね♪」

 

「「ん?」」

 

 

 

何のことだと思ったが、二人が出てきた店がランジェリーショップだったので、すぐさま納得がいった。

 

 

 

「あれ? あんた達も来てたんだ……」

 

「ん?」

 

 

今度は一夏の背後から声がかけられる。

一夏が後ろを振り向くと、そこには茶髪のツインテール娘が立っていた。

 

 

 

「おお、鈴。お前も来てたのか」

 

「うん。ちょっと用があってね〜。ほら、あんたもこっちに来なさいよ」

 

 

 

そう言って、鈴は後ろを振り向き、誰かに発言した。

すると、横道にあったトイレの方から、水色髪の少女が出てくる。

 

 

 

「簪ちゃんッ!!!!!」

 

「うわぁっ!? も、もう、くっつかないでぇ!!?」

 

 

簪の姿を見た途端、刀奈が飛びつく。

隙があるならすぐにでも簪に抱きつくのが、最近の刀奈の行動パターンだ。ALOでも、現実世界でも同じ。

そして最近は背後から抱きつき、頬を当ててスリスリするのがマイブームらしい。

 

 

「えぇー、いいじゃんいいじゃん! お姉ちゃんともっとスキンシップしようよぉ〜♪」

 

「は、恥ずかしいから……っ!」

 

「あはは……。そう言えば、お前たちが一緒って言うのは珍しいな」

 

 

そう、一夏の言う通り、簪と鈴がセットで歩いているのを見るのは初めてかもしれない。

 

 

 

「あぁ、買い物行こうと思ったら、簪も行くって言うからさー。だったら、一緒に行こうってなったのよ」

 

「そうだったのか……にしても……相変わらずお前は身軽だな」

 

「相変わらずって何よ……! それにいいじゃない、セシリアみたいにバカみたいに買うより、倹約生活してる方が」

 

「なっ!? 鈴さん、“バカみたい” とはどういうことですの?!」

 

「何よぉ、って言うか、あんた本当に買ったもの全部使い終わるんでしょうね?」

 

「当たり前ですわ。それに、別に今日明日で使い切るものではありません。月単位、年単位のつもりで買ってるんですのよ」

 

「はぁー、金持ちの金銭感覚ってわからないわ……」

 

「だいたい、鈴は人の物を勝手使うくせに、偉そうなこと言わないでくれますこと?」

 

「はぁ? この間「貸して」ってちゃんと言ったじゃない……!」

 

「どこがですか! と言うより、使ってから「貸して」と言われても困りますわ!」

 

 

 

こちらも相変わらずの関係だ。

決して仲が悪いわけでも、特別にいいわけでもないのだが、コンビとしては、いい関係性を築いていると思える。

 

 

 

「なんだ、やけに騒がしいと思ったら、お前達か」

 

「みんな考えることは同じってことだね」

 

 

 

そこへ、再び第三者たちの声が……。

その声のする方に視線を移すと、そこにはブロンドとプラチナがいた。

 

 

「シャル! ラウラまで……!?」

 

「なぁーんだ……あんた達も来てたんだ」

 

「にしても、見事に専用機持ちが集合したな」

 

 

 

和人に言われて、改めて周りを確認する。

白式、月光、閃華、ミステリアス・レイディ、ブルー・ティアーズ、甲龍、リヴァイヴカスタムⅡ、シュバルツェア・レーゲン、打鉄弐式……。

世界最強の兵器であるISの、それもそのパイロットの個人的にパーソナライズを施された専用機ともあれば、普通の汎用型のISなんて物より、圧倒的に戦闘力が高い。

そして、これならば国一つ、いや二つ三つと簡単に転覆し、制圧できる戦力だろう。

 

 

 

「これだけ集まれば、壮観だな……」

 

「全くですよ……戦争が起きたら、正直勝てるかどうか……」

 

 

 

“剣技” においては、他の者には負けない自信がある。

が、これが “戦争” となれば話は別だ。

いくら卓越した剣技や剣術を駆使しようが、戦争規模での攻撃には敵わない……。

だから、いくら一夏と和人が常人離れしているとはいえ、もしこの場にいるメンバーと戦争になれば、百パーセントの確率で敗北するだろう。

 

 

 

「まったく……やけに騒がしい一団がいると思えば……お前達だったのか」

 

「「ん?」」

 

「あらあら、皆さんも買い物ですか?」

 

「山田先生!」

 

「それにちふーー織斑先生」

 

 

 

これまた身近な人達に出会ってしまった。

一組の担任にして、一夏の姉で世界最強のIS乗り。ブリュンヒルデこと織斑 千冬と、副担任で、実は元日本代表候補生にまで上り詰めた経歴をもつ秀才。山田 真耶の二人だった。

 

 

 

「今は勤務中じゃないですから、先生じゃなくてもいいですよ」

 

「お前達はここで何をしているんだ? まぁ、大方は水着を買いに来たんだろうが……」

 

「「そ、その通りです……」」

 

「臨海学校でハメを外したくなる気持ちはわかるが、それでも臨海学校は授業の一環だからな。

ハメを外し過ぎないようにしろよ。お前達専用機持ちには、それぞれ役割があるんだからな」

 

 

授業中とは雰囲気が違うが、それでも千冬の言う言葉には、ドシっと体に響く物がある。

世界最強の名は伊達ではないようだ。

 

 

 

「そう言えば、お二人も買い物ですか?」

 

「あ、はい、そうなんですよ。私たちも、水着を……」

 

「山田くんの場合は、水着がきつくなったそうだからだ」

 

「ちょっ! 織斑先生、そんなこと言わないでいいですよぉ〜!」

 

 

 

慌てる真耶。

だが、その慌てふためく行動をする度に、真耶自身も苦労していると言う大きな胸が、幾たびも上下したり弾んだり……。

最近女子の間で聞いた話だが、山田先生のISスーツのサイズが、日に日に大きくなっているとかなんとか……。

おかげでスーツ代がかさむとぼやいていたらしい……。

そんな事はつゆ知らず、そんな状態で弾みまくる胸を見ながら、その場にいた三人だけが、凄いジト目で凝視していた。

 

 

 

「なに、あれ……?」

 

「気にするな……あんなのは脂肪の固まりだ」

 

「そう、だよね。気にしたら負け……だよね?」

 

 

 

この世の非情を恨む者たち。

鈴、ラウラ、簪だ。三人だけは、真耶の揺れる胸に敵意を持ち、自身の胸を隠すように腕を組む。

 

 

 

「ふ、ふん! 見てなさいよ……あたしだっていつかは……」

 

「まぁ、今のうちに育ったところで、いずれ歳を重ねれば、垂れてくるだけのことだ」

 

「そうだよね……今がダメでも、将来はきっと……っ!」

 

「凰さんたち、聞こえてますけど!?」

 

 

 

 

未来への希望を捨てない三人と、それを見て涙目になりながら抗議をする真耶だった。

 

 

「さてと、山田くん。我々もそろそろ……」

 

「あ、ああ〜! すみません織斑先生、私、買い忘れたものがありまして」

 

「なに?」

 

「ですので、急いで買ってきますね? あっ、桐ヶ谷くん」

 

「は、はい?」

 

「ちょっと荷物が多くなりそうなので、手伝ってはいただけませんか?」

 

 

 

和人を見ながら、なにやら含みのある笑みを浮かべる真耶。

そしてその意味を理解したのか、和人が納得したような顔で笑う。

 

 

 

「わかりました。じゃあ、行きましょうか」

 

「え、ちょっと、キリトくん?!」

 

「ほらアスナも、一緒に行くぞ! お前たちも!」

 

 

 

お前たちと一括りにしたが、それは一夏以外のメンバーの事を指していた。

何故自分たちも?……と思ってい他のだが、これは刀奈が意図を察し、みんなを誘導する。

 

 

 

「はぁーい! みんな一緒に行くわよー!」

 

「え? ちょっと何よ!?」

 

「わ、わたくしもですか?!」

 

「ん〜……荷物持ちとはあまり気が進まんが……」

 

「仕方ないよ。ほら、ラウラも簪も、一緒に行くよ!」

 

「は、は〜い」

 

 

 

皆が一様に去っていき、取り残されたのは一夏と千冬の二人のみ。

千冬は「はぁ……」とため息をつき、一夏は「ん?」と頭を捻っては、和人たちの背中を見送った。

 

 

 

「なんだったんだ……?」

 

「まったく、余計な気遣いを……おい、一夏」

 

「ん?」

 

「行くぞ」

 

 

 

 

スタスタと前を歩く千冬を見ながら、一夏は後を追いかける。

先ほど、千冬は “一夏” と呼んだ……。普段なら、ここは “織斑” と呼び、それは今の状態が “姉弟” としてではなく、“教師と生徒” としての関係で呼んでいる。

だが、ここで “一夏” と呼んだのは、今がプライベート……ただの一姉弟としての関係だということを示しているのだ。

それは、一夏もなんとなく察し、普段と同じ様に接する。

 

 

 

「なるほど……そう言うことね」

 

「ああ……まったく、真耶も余計な事を」

 

「いいじゃんか。それに、千冬姉とこうやって買い物とか、ガキの頃以来だしな」

 

「あぁ、そうだな……」

 

 

 

姉弟水入らずの自由時間。

普段から会っているし、会話だってするが、それは教師と生徒との関係性があっての事。

こうやって、普通の姉弟として話したのは、ラウラの一件で、道場で剣を打ち合ったとき以来だろうか。

 

 

「それで、千冬姉は買い物したのか?」

 

「いや、これから買いに行くところだ。私も臨海学校に行くのに、肝心の水着を買っていないのを思い出してな。

そのために真耶と来たというのに……はぁ……」

 

「つまり、これは俺が千冬姉の水着を選べって事だよな……。あんまり期待しないでおいてくれよ?」

 

「あぁ、そうしておこう……。恋人とはいえ、あんな破廉恥な水着を着させようとするお前の目を信じないように……な」

 

「ぶふっ!? 見てたのかよ!」

 

「あぁ、“たまたま” な」

 

「どんな “たまたま” だよ?!」

 

「しかし、楯無もあんなに恥じらう顔ができるとはな。だがそれでも、惚れた男の言ったものには気を使うか……。

相も変わらず、幸せな事でなり寄りだな」

 

「そこまで見てたんじゃねぇか! 何が “たまたま” だ、確信犯じゃねぇか!」

 

「はっはっはっ♪」

 

「…………」

 

 

 

恥じらう一夏の顔が面白いのか、珍しく愉快に笑う千冬。

だが、これこそが本当の彼女の姿であるのを、一夏は知っている。

世界人々には、凛々しく、逞しい女性像であり、優しく微笑む聖母のような千冬の事を知らないものが大勢いる。

人を魅了する剣技、強者としての雰囲気や面持ち。それだけが千冬の全てではないと、一夏は知っている。

だから、普段からもそう言う彼女でいてさて欲しいと、一度思った事があったが、本人はそのつもりは更々ないらしい。

そして二人は、目的の場所へと着いた。

先ほど刀奈たちと行った店とは雰囲気が異なり、ここにはシンプルではあるが、大人の雰囲気に合わせた水着が多く飾られていた。

 

 

 

「…………よくもまぁ、こんな店を知ってたな」

 

「ここも私ではなく、真耶が調べていた店だ」

 

「山田先生が?」

 

「あぁ……。あいつは存外に、ファッションなんかには結構うるさいぞ?」

 

「へぇ〜。意外……でもないか。でもあんまりうるさくはなさそうだけど……」

 

「そう思うだけだ。あいつはいろんな物に興味を持っては、いろいろとやってみるという行動力を持ってるからな。

まぁ、あれがあいつの長所でもあり、短所でもあるんだがな」

 

「頑張り屋なだけだろ?」

 

「そこは否定せんさ……。なんせ、日本代表候補生まで上り詰めたんだ……そこまで行くのに、どれだけ頑張らないといけないのか、今のお前ならばわかるだろう」

 

「ああ……だから、すごいと思うよ」

 

 

 

一夏の身近にいる少女たち。

それぞれいろんな過去があり、それを乗り越えて今の彼女たちがあるのだ。

セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪……。それぞれがそれぞれの思いを胸に刻み、果てない努力をした結果が、代表候補生という名誉ある地位に上り詰めた証拠だ。

それより上にいる千冬や刀奈は、さらにその上を行く努力を惜しまなかったに違いない。

国の威信をかけ、国の代表として戦った姉と戦っている恋人。自分も、そうなりたいと思った。

 

 

 

「まぁ、実力だけで勝ち取れる地位ではない……実力、器量、人格……国によって様々だが、それが揃った上で、国の顔役となる」

 

「なるほどね……なら、俺も頑張ってみるか」

 

「ふん……まぁ、せいぜい精進する事だな」

 

 

 

自慢の弟の目標を聞いたところで、千冬と一夏はお店に入っていった。

中にはすでにお客さんでいっぱいだった。それも女性客ばかり……正直ここに二人で入るのは躊躇われたが、スタスタと御構い無しに千冬が入っていくため、一夏も後を追わざるをえない。

 

 

 

「さて……どういうのがいいか……。一夏、お前はどういうのがいいと思う」

 

「はっ?! 何で開口一番で俺に聞くんだよ」

 

「異性からの意見は参考になると、真耶が言っていたのでな。あいにくここにはお前しか異性がおらん」

 

「うーん……俺もよくわからん。千冬姉がいいと思ったやつを選べばいいんじゃないか?」

 

「まぁ、そうなんだが……。では、これとこれではどちらがいい?」

 

「ん〜」

 

 

 

 

差し出された水着は二つ。

白いビキニタイプの水着。

清潔感溢れる飾り気のない、シンプルでスポーティーな水着だった。

もう片方は黒いビキニタイプの水着。

こちらは大人の魅力漂う仕様になっているのか、ところどころがレース生地になっているため、実際の布地よりも露出度が高いように見える。

 

 

 

「さぁ、選べ」

 

「何で上から目線なんだよ…………。うーん……」

 

 

 

一夏はじっくりと考えた。

どちらが千冬に似合うかを……。そして導き出した答えは、やはり “黒” だった。

白も存外に似合っているのだが、千冬は刀奈に負けず劣らず……いや、圧倒的にスタイルは抜群だった。

ならば、刀奈と同様、大人の魅力路線で選んだほうが、絶対に映えるというものだ。

だが、ここで一つ心配事が……。

 

 

 

(うーん……刀奈もそうだけど……千冬姉もスタイルいいし、近寄ってくる男どもが多いだろうなぁ……)

 

 

 

そして知る人ぞ知る超がつくほどの有名人。

容姿もスタイルも申し分ない。好条件の女性に、飛びつかない男性はいないだろう。

だからこそ、一夏は心配になる。たった一人の家族である姉の今後が……。

 

 

 

「そうだな……白ーー」

 

「黒だな」

 

「へ?」

 

 

 

何も……いや、答えた瞬間に否定された。

 

 

 

「いやいや、俺は白の方がーー」

 

「いいや、お前は黒がいいと思ったんだろう? ならば黒でいいと思うが?」

 

「いやいや! だから俺はーー」

 

「嘘を吐くな……お前は昔から気になった物や良いと思った物を先に注視する癖があるからな……。

この私がそれくらいの事を見逃すと思ったのか?」

 

「ううっ……」

 

「まったく……私がそこいらにいる有象無象の輩に簡単に靡くとでも思ったか?」

 

「いいや……むしろ近寄ってきたのなら、返り討ちにしそうだけど」

 

「ふんっ。心配されんでも、相手くらいを見極める目は持っているさ。お前が心配するまでもない」

 

「ならいいんだけどなぁ〜」

 

「なんだ? 自分はもう恋人をつくったからと余裕を見せているわけか……なるほど、確かに現状ではお前に分があるだろうがな」

 

「おいおい……誰もそんな事言ってないだろう……!」

 

 

 

 

これもまた珍しい。

千冬が少しいじけている表情など、今までに見た事がなかった。

 

 

 

「わかったよ! 何も言わない……。だから機嫌直せよ」

 

「ふん。わかればいい……では、私は会計をしてくる。お前は先に、あいつらのところに戻ってもいいぞ。

楯無が隣にいないと寂しいだろ?」

 

「なんでそうなるんだよ! でもまぁ、カタナがすぐそばにいないのは、なんだか違和感があるけどな」

 

「あーわかったわかった。惚気るなら他所でやれ」

 

「だからそんなんじゃ……はぁ、わかったよ。じゃあ、俺は先に行くからな」

 

「あぁ……。門限までには戻れよ?」

 

「わかってるよ」

 

 

 

不思議と笑顔になる二人。

何故なのかはわからない。でも、こうして二人でいるのは久しぶり過ぎて、なんだか楽しいと感じたのは確かだった。

その後、一夏は店を出て、店が立ち並ぶモール内を少しばかり歩く。

 

 

 

「久しぶりのお買い物は楽しかった?」

 

「ん……カタナ」

 

「ふふっ……どうだったの、千冬さんは楽しそうだったけど……」

 

「あぁ。まぁ、ちゃんと水着も選んだしな」

 

「へぇ〜……♪」

 

「な、なんだよ……」

 

「なんだか笑いあってる二人が新鮮だったからねぇ〜」

 

「カタナも見てたのかよ……」

 

「も?」

 

「あぁ……千冬姉も俺たちが水着買ってたのを見てたらしい……」

 

「うえっ?!」

 

 

 

一夏の発言に珍しく動揺する刀奈。

一気に顔は赤く染まり、体が若干震えていた。

 

 

 

「え? じ、じゃあ、もしかして……この水着を買ったのも……?」

 

「あ、あぁ……。その、見られてた」

 

「うっそぉ〜〜!」

 

 

 

どうしようもなく恥ずかしい。

自分の彼氏の姉。もっと言うなら、学園の教師である千冬にそこまで見られていたのだから……。

 

 

 

「はぁ……絶対何か言ってくるわね……」

 

「ああ見えて、千冬姉もからかうのが好きだからな……」

 

「からかわれるのは嫌いなのにねぇ〜」

 

「だな」

 

 

 

まぁ、その時はその時だろう……。

刀奈は一夏の左手を掴むと、一夏の指に自分の指を絡めて手をつなぐ。いわゆる恋人繋ぎ。

 

 

 

 

「あっ!」

 

「ん、どうしたの?」

 

「そう言えば、俺も買い忘れたものがあったんだ。悪りぃカタナ、ちょっと付き合ってくれないか?」

 

「私は別に構わないわよ。ほら、早く行きましょう?」

 

「悪い、恩にきる」

 

 

 

二人はそのままモール内を散策し、お目当の店を見つけた。一夏は一度刀奈と握っていた手を外し、店の中に入っては店内をぐるりと回り、探していた買い物を済ませた。

その品物が入った袋を握りしめ、一夏は店を出て刀奈と合流する。

 

 

「ごめん、お待たせ」

 

「そんなに待ってないわ。それより、何買ってたの?」

 

「ん? これをな」

 

 

そう言って、一夏は刀奈に買った物を見せる。

すると、刀奈は首を傾げたが、すぐに何かを悟ったような感じだった。

 

 

「そう言えば、もうすぐ……」

 

「そう。しかもちょうどなんだよ……だから、買いに行く時間がなかったから」

 

「そうね。それに、喜びそうな物を選んだわね」

 

「まぁ実際、似合うと思うしな……。さて、それじゃあ帰ろうか」

 

「そうね。買った洋服もちゃんと来てみたいし♪」

 

 

再び二人は手を握って、モールの外へと向かって歩き出した。

と、その時。

一夏の目の前で、見知った顔に出会った。

 

 

 

「お兄、ちゃんと持ってよね。落っことしたら承知しないんだから……!」

 

「お前なぁ……いくらなんでも買いすぎじゃね?」

 

「中学最後の夏なんだもん! みんなと遊んでられるのも今年までだもん!」

 

「お前の学校、大学までエスカレーター式で上がれるだろうが……」

 

 

 

ともに赤毛の茶髪にバンダナと、いつも通り変わらないスタイル。

兄妹で仲良くお買い物……いや、兄はただの荷物持ちとして派遣されたのだろう。

男として、一夏はその苦労が共感できてしまった。

 

 

 

「よう、弾。それに蘭も」

 

「はい?」

「ん?」

 

 

一夏が声をかけると、二人はほぼ同時にこちらを向いた。

現実世界において、一夏と一番親しい友人。

五反田 弾とその妹の五反田 蘭。

一夏の家の近所にある定食屋の息子と娘で、シャルとラウラが転校してくる前なので、だいたい6月になる前に会った。

 

 

「おお、一夏!」

 

「い、一夏さん?!」

 

「オッス!」

 

「こんにちは。弾くんは久しぶりね」

 

「あ、いやぁ〜どうもどうも楯無さん! お久しぶりですねぇ〜」

 

 

 

ペコペコと頭を下げて刀奈に挨拶をする。

刀奈とは、以前一夏の見舞いに行った時に会っている。

もっとも、その時一夏と刀奈は同じ病室で、周りが恥ずかしいと思うほど、ラブラブな雰囲気の中心にいたわけだが……。

 

 

 

「にしても、凄い量だな……! もしかして、全部水着とかか?」

 

「いや、大半はセールで売ってた夏物の洋服と、秋物が少し……でもよ、こっちは全部水着と海関係のものだ」

 

 

 

わかりやすく言うなら、弾の両手には買い物袋が両手で六つ。

右に持っていたものが洋服類。だが、今にもはち切れそうなくらいパンパンだ。左手は水着とサンオイルなどの海で使う用品などなど……こちらは少量ではあるが、それでも多いくらいだ。

 

 

 

「それにしても多いわね」

 

「えっと、その、私は学校の友達と、少しばかり小旅行をするので……」

 

「なるほどねぇ〜」

 

「あっ、えっと……楯無さん、ですよね? 私は五反田 蘭って言います」

 

「あぁ、ごめんなさい! 更識 楯無です。よろしくね、蘭ちゃん」

 

「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 

 

少し緊張した面持ちで、刀奈と握手を交わす蘭。

本当ならば “刀奈” と名乗りたいとところだが、一夏や家族以外の人間に、真名を知られるわけにはいかない為、弾や他の皆には “楯無” で通している。

 

 

「でも、水着ってそんなに使うか?」

 

「蘭曰く、“勝負水着” と “ウルトラ勝負水着” と “超ウルトラ勝負水着” と言うのがあるらしい……」

 

「…………蘭は、一体何と戦うつもりなんだ?」

 

「さぁ? 俺にもわからん。だがーー」

 

「ん?」

 

 

 

弾が力一杯両手の拳を握る。

 

 

 

「妹に手を出す男は……俺が纏めてフルボッコにしてやるよーーーー!!!!」

 

「………………そうか、頑張れよ」

 

 

 

シスコンここに極まり。

 

 

 

「じゃあ、俺たちはそろそろ戻らないと……。モノレールの時間もあるしな」

 

「そっか。じゃあまた今度……家に食べに来い! 今度は楯無さんを連れてな」

 

「私も待ってますからねぇー!」

 

「おう! ありがとう!」

 

「また今度、お伺いしまーす!」

 

 

 

弾たちと別れて、二人はレゾナンスを出る。

 

 

 

「フゥ〜買った買ったぁ〜♪」

 

「凄い荷物だな……。もしかして、俺が千冬姉と買い物してた時に買ったのか?」

 

「うん。IS学園に入学してから、サイズの合う服があんまりなかったからね……。これでオシャレし放題ね♪」

 

「そっか……荷物、持つよ。重いだろ?」

 

「ありがとう。じゃあ、これだけ……」

 

 

すでに一夏の両手は買い物袋でいっぱいだったが、それでもなお持とうとするのが一夏の良いところだと常々思う。

そんな優しい彼の隣で寄り添って歩く。

 

 

 

「いよいよだな……」

 

「そうねぇ……」

 

 

 

いよいよ臨海学校。

それが終われば、一学期が終了し、夏休みとなる。

ALOでも、夏限定のクエストやイベントが開催される為、楽しいことが盛りだくさんだ。

 

 

 

「夏休みは、現実でも向こうでも、いっぱい楽しいことやろうね♪」

 

 

刀奈が屈託のない笑顔で言ってきた。

彼女のこう言う顔が、一夏はとても好きだった……。

 

 

 

「あぁ……いろんな所に行って、いろんなことをしよう……!」

 

 

 

甘い雰囲気に包まれながら、二人はモノレール乗り場へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

学園生たちは、各々臨海学校の準備やら、学園から出た課題などに精を出してた。

学園内の施設などは暗く、特にISの操縦訓練をやるアリーナには、誰一人としていない。

この時間帯になると、教師もほとんどが自室に戻っている為、ここで誰かと鉢合わせることもないのだ。

そんな暗がりのアリーナの観客席付近で、一人の生徒が立っていた。

生徒とわかったのは、その少女がIS学園の制服を着ていたからである。

長身に年不相応にも思えるふくよかな胸部。長く綺麗な黒髪を、後ろで一本のポニーテールでくくっている少女。

その少女の手にはスマフォが握られており、どうやら誰かと話しているようだ。

 

 

 

プルル……プルルルル……プルルルルーー

 

 

 

『もすもすひねもすぅ〜! ハァーイ! みんなのアイドル、篠ノ之 束だよぉ〜〜〜♪』

 

「ぐっ!」

 

 

開口一番のハイテンション且つ、イラッとさせるセリフを叩き込まれ、少女のスマフォを握る手に力が入る。

そのままスマフォを耳から遠ざけ、電話を切ってやろうかと思ったが、電話の向こうから慌てた声が聞こえてきた。

 

 

 

『わぁっ!? 待って待って! 待ってよ箒ちゃぁ〜ん』

 

「……姉さん…………!」

 

 

 

電話をかけていた少女。篠ノ之 箒がかけていた相手は、自身の姉であり、ISの生みの親である篠ノ之 束だった。

今までかけることはないと思っていた電話番号……。

だが、今回ばかりは頼りたいと思ったのだ。どうしても、それが必要だと思ったから……。

 

 

 

『やぁやぁ、久しいねぇ〜! 箒ちゃんの方から連絡してくれるなんてぇ。束さん感激だよぉ〜♪」

 

「姉さん、話があります」

 

『うんうん、わかってるよぉ〜! 欲しいんだよね、箒ちゃんの専用機が』

 

「っ!? 何故、私はまだ何もーー」

 

『分かるよぉ〜。だって束さんは、お姉さん、だからね♪」

 

 

やたらと “お姉さん” の部分を強調していったが、今はそんな事どうでも良い。

 

 

 

「それで、姉さん。その、専用機の事なんですが……」

 

『うん! 大丈夫、任せといてよ! 箒ちゃんたち、今度臨海学校があるんでしょう? その時に持っていくよ!』

 

「ん……どこでそんな情報を……。まぁ、その……すみません、ありがとうございます」

 

『んもうー……そこは「ありがと♪ お姉ちゃん♪♪」って言ってくれも良いのにぃ〜」

 

「絶ッ対ッ嫌ッです!」

 

『うへぇ、そこまで嫌がらなくても……。まぁ、いいや。とにかく、持っていくらね! 期待して待ってて』

 

「はい……」

 

『今回のはとてもいい出来だよ! 最高にして規格外、そして “白と並び立つ者” それの名はぁ〜』

 

 

 

ゴクリと唾を飲み込み、箒はその機体の名を聞いた。

白と並び立つ者……一夏と共に並び立つ存在。

その名は……

 

 

 

『紅椿ーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたでしょうか。

次回からいよいよ臨海学校!
夏のアバンチュールを楽しむIS学園生たちと、その後に待っている超弩級の事件。
お楽しみに!


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