異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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最初の流血

……………………

 

 ──最初の流血

 

 

 若いダークエルフの戦士が考えた奇襲する歩兵と強襲する騎兵の組み合わせは、発想そのものは悪くなかった。

 

 しかしながら、彼は地球と異世界に存在する圧倒的技術格差を考えていなかった。

 

「南に8キロの地点に武装した人間を確認。数は6名。南の森の中を徒歩で進んでいる」

 

 太平洋保安公司が飛ばしているドローンの赤外線(IR)センサーは、森の中を移動するダークエルフたちを探知していた。

 

「さらに西に10キロの地点に騎馬集団。数は8名。こちらに向かっている」

 

「間違いなく狙いはここだな」

 

 太平洋保安公司の川内はARデバイスに表示されたドローンの映像を見て、部下のコントラクターに告げる。

 

交戦規定(ROE)はブリーフィング通りですか?」

 

「ああ。こちらの人員と施設に被害があると想定される範囲で反撃を許可。警告を抜きに、こちらからの先制攻撃は許可しない」

 

「了解。徹底します」

 

 エルディリア政府から認められているのは自衛のための武力行使だけであり、好き勝手にしていいというわけではなかった。

 

 あくまで自衛のため。交戦規定(ROE)もそのように定められている。これから逸脱すれば、法的な制裁を受けることはなくとも、今後の相手方の心証を悪くすることになってしまう。

 

 太平洋保安公司のコントラクターたちはドローンの映像を注視しつつ、自動小銃などの銃火器に弾を込めた。

 

 今度火を噴くのはテーザー銃ではない。ライフル弾だ。

 

「残り1キロです。そろそろ警告を」

 

「分かった」

 

 部下の求めに川内が拡声器をマイクを手に取る。

 

 マイクはこの調査拠点の周囲に設置されたスピーカーに繋がっている。ヘスコ防壁で守られた調査拠点内から上に延びるスピーカーだ。

 

『警告する! 当施設はエルディリア王国政府より自衛の権限が与えられたスタッフによって警護されている! 当施設への侵入や攻撃を試みるものには、最終警告後に実弾射撃で応じる!』

 

 川内はそう接近するダークエルフたちに警告。

 

 彼らは一度気づかれたと思って立ち止まったが、攻撃をやめるわけにはいかないと考えて前進。弓を構え、矢をつがえ、壁に守られた調査地域へと接近する。

 

 太平洋保安公司のコントラクターたちは二重に設置されたヘスコ防壁のひとつ目の壁を盾にして布陣していた。

 

 調査拠点の守りは高く、有刺鉄線に守られ越えることが不可能なふたつ目の壁と、立ったまま射撃可能な射撃時の遮蔽物としてのひとつ目からなる。

 

()はまだ接近してきます。最終警告を実施すべきかと」

 

「最終警告後の手筈は確認できているな?」

 

「射撃許可命令はすぐさま」

 

「よろしい」

 

 川内は手順を確認し、再びマイクを手にする。

 

『最終警告だ! 当施設への接近を止め、武装解除せよ! さもなくば攻撃する!』

 

 川内が最終警告を行ってもダークエルフたちは進み続ける。

 

「射撃許可だ。敵の武装を確認し、武装解除がなされていなければ、撃て」

 

「了解」

 

 太平洋保安公司のコントラクターたちは自動小銃や機関銃の銃口を調査拠点の南側にある森に向ける。茂った木々で薄暗い森の中だが、コントラクターたちはARデバイスの画像補正で鮮明な映像として森の中を捉えていた。

 

 調査地点の南にある森から歩兵が迫るのに、西の平原からは騎兵が同時に迫っていた。川内はそっちにも兵士を配置し、戦闘に備えている。

 

 そして、ついに──。

 

「ブラボー・ツーよりアルファ・リード。敵を視認した。武装している!」

 

 森の中から現れたダークエルフの戦士たちが弓を引き絞ると一斉に調査地点に向けて放った。矢は放物線を描いて調査地点に降り注ぐ。

 

 警報は既に発令されており、作業は中断され、技術スタッフは頑丈な建物に避難していたので危険はないが、今まさに大井は攻撃を受けている。

 

『射撃を許可する。撃て!』

 

「了解!」

 

 川内からの命令が下り、コントラクターたちは引き金を引いた。

 

 光学照準器に移るダークエルフたちに向けて、サプレッサーに抑制された銃声が響き、口径5.56ミリ弾が放たれた。

 

「うわ───」

 

 ダークエルフたちは遮蔽物に隠れることもせず、森から矢を連続して放っていたために、放たれた銃弾は彼らをやすやすと貫いていく。

 

 足に熱い感触が伝わったと思えば、次の瞬間には姿勢を崩して地面に倒れ、そのまま大腿動脈が裂かれたことで大量に出血し、血の海に沈むダークエルフ。

 

 ちょうど頭を撃ち抜かれ、脳漿をまき散らし、死を前にして何も感じることなく即死したダークエルフ。

 

 何発もの銃弾を受けても戦おうとしたが、出血によって倒れたダークエルフ。

 

 ダークエルフの戦士たちは瞬く間に壊滅していく。

 

「クリア!」

 

 結局のところ6名のダークエルフの戦士たちは何もなせず壊滅。

 

 それに遅れるようにして騎兵たちも接近してくるが、やはり現代の銃火器の火力を前に屈した。しかし、こちらでは2名の戦士が生き残り、そのうちひとりは他でもないオロドレスであった。

 

「クソ、クソ! なんてことだ! あの連中にあれほどの力があるとは……! 完全に見誤った……!」

 

 オロドレスはそう言って逃げ去る。彼は迂闊に戦士たちを扇動したことを後悔していたが、それと同時に復讐心をより強く燃やした。

 

 そのころ調査地点の周りにはコントラクターたちがダークエルフの死体を前にしていた。射殺された死体を見るのは彼らも初めてではないが、困ったことに死体をどうするかが問題になっていた。

 

「基本的に遺体は引き渡すことになっている」

 

 川内は部下にそういう。

 

「引き渡してもいい反応が得られるとは思えませんが」

 

「分かっている。そこでこちらで埋葬を済ませるということを考えた。もはや我々の認識としては大井及び太平洋保安公司はダークエルフ及び部族評議会と戦争状態だ。その場合、こちらが勝手に死体を埋葬しても文句は言えない」

 

 戦場での死体の処理は時と場合に応じて異なるが、死体をそのままにしていては友軍の士気にも響くし、感染症が発生する可能性もあった。

 

 だから、さっさと埋めてしまおうという川内の判断はある意味では正しい。そして、ある意味ではこれは隠蔽行為であった。

 

 虐殺が起きた場合、大抵その死体は目の届かぬ地中へと葬られるものだ。

 

「ここには重機もある。埋めてしまうのに1時間もかからんだろう」

 

「手配しますか?」

 

「ああ」

 

 調査に使用されるはずだった重機を使って太平洋保安公司は穴を掘り、そこにダークエルフたちの死体を放り込んだ。死体は次々に穴に放り込まれ、そこに死者の尊厳など存在しなかった。

 

「問題はこれからだ」

 

 既に血は流れ、戦争は始まっている。

 

 保安部門リーダーであるヴァンデクリフトの報告では、部族評議会は大井と正面衝突することを避けるために、総督ファレニールなどに仲介を求めているようだ。しかし、その一方で若い戦士たちが暴走するのを止めることもしていない。

 

 そんな部族評議会の動きは玉虫色で、信用できないと思われてもしかたなかった。

 

 大井側は司馬はエルディリア政府に働きかけて、同国の治安部隊をフィリアン・カールに動員することを取り付けた。動員される部隊には太平洋保安公司もコントラクターを派遣することで決定してる。

 

 しかし、一度流れた血はより多くの血でしか止められないものだ。

 

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