異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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メディア・キャンペーン

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 ──メディア・キャンペーン

 

 

 石井は調査結果を携えて、エルディリア王国王都アルフヘイムへと戻ってきた。

 

「やはり、あの場所に埋蔵されているリチウムを主にするレアアースは素晴らしいものでした。埋蔵量にしても、純度にしても、かなり有望なものです」

 

 エルディリア事務所にて、石井は興奮した様子で各自にARデバイスに調査データを送り、そう語った。

 

「つまり、採算は取れるということだな」

 

「ええ。たとえ開発に100億ドルほどコストかかっても、十分に利益は生じます」

 

「よろしい。諸君、次は採掘に向けて動くことになる」

 

 石井の報告を受けて司馬はそう宣言。

 

「まず王国政府と契約しなければならない。第二王子であるアイリアン殿下はまだ我々に友好的だが、どうもファレニールからフィリアン・カールにおける騒動について王室に報告が行われたとの情報がある。ヴァンデクリフト、説明を」

 

 ここで情報部門も統括するヴァンデクリフトが説明を求められた。

 

「はい。ファレニールの周辺に我々は資産(アセット)を構築しています。それから得られた情報では、ファレニールが王室に向けて『フィリアン・カールの情勢は大井が訪れてから悪化の一途をたどっている』と報告しています」

 

「ファレニールは抱き込んだのでは?」

 

「彼は二重の忠誠を抱いているということです」

 

 列席者のひとりが尋ねるのに、ヴァンデクリフトが肩をすくめてそう返す。

 

「このような事情があるため、採掘に関する契約では、調査に関する契約ほど楽観的になれない。より多くの政府関係者を抱き込む必要があるだろう」

 

 司馬はそう言って、ARデバイスに情報を表示。

 

 そこには複雑怪奇なエルディリアの権力についての情報があったが、その頂点に立っているのは間違いなく女王ガラドミアであった。

 

「ここで抱き込むべきは女王ガラドミアだ。女王さえ抱き込めば、王室と政府から異論が出ることはまずないと我々は分析している」

 

「女王ですか?」

 

「そうだ。しかし、彼女に迂闊に他の役人や王族のような贈賄で当たるのは、相手に侮辱されたと感じさせるリスクもある。そこで我々は契約の中に女王の利益になるものを含めようと考えている」

 

 司馬はそう説明する。

 

「一定のロイヤルティを相手方に?」

 

「そうだ。相手にとっては金・銀・銅と違って掘っても利益にならない鉱物が、いきなり高価値の品に一変するわけだから断る理由もあるまい。それにこうすることで、鉱山の開発にエルディリア政府を完全に巻き込める」

 

 鉱山から算出される利益の一部を王室に収めることを司馬は考えていた。

 

 これはこれまでの賄賂とは大きく違う。賄賂のように短期的な効果で終わるものではなく、鉱山が利益を上げ続ける限り、王室を取引に引き込んでおくことができるのだ。

 

 つまり、鉱山がダークエルフたちによって脅かされれば、それは大井にとってだけのリスクではなく、エルディリアの財政にとってのリスクにもなる。

 

 当然だろう。石井が言っただけの利益を生む鉱山なのだ。それだけの利益から僅かなロイヤルティを得るだけでも、この世界の国家としては途方もない財産が生まれることを意味する。

 

「相手は絶対にこれを断らないはずだ。確信がある」

 

「ええ。今の王室財政は危機的だという情報がありますから」

 

 ここでヴァンデクリフトがそう告げる。

 

「王室財政はここ数十年続く隣国ヴァリエンティア王国との安全保障上の問題から、大量の軍事費を消費し続けてきました。今では停戦が成立していますが、将来的にどこまでこの平和が続く変わらない以上、すぐさま財政を立て直す必要があります」

 

 エルディリアにはヴァリエンティアという隣国があり、不幸なことに両国の関係は決して良好とは言えなかった。

 

 領土や王位を巡る戦争に次ぐ戦争。出費に次ぐ出費。それによってエルディリアの財政は悪化の一途をたどっていた。

 

 そうであるが故にエルディリアは財政を立て直す必要にあり、大井が提案する契約を飲むだろうと分析されていた。

 

「なるほど。そうであるならばフィリアン・カールにおける反ダークエルフ・キャンペーンと同時に隣国の脅威を煽る反ヴァリエンティア・キャンペーンを展開してもいいかもしれませんね」

 

 ここで広報のフォンがそう提案した。

 

「よろしい。それぞれが自分やれることは何だろうとやってくれ。我々は何としてもフィリアン・カールにおける開発を成功させなければならないのだ」

 

 改めて司馬はそう宣言し、彼らは暗躍を始めた。

 

 まず動いたのは後方のフォンだ。彼は地球におけるメディア・キャンペーンとして各国の政治家に対するロビーイングを行いながらも、人権団体や環境団体を利用した。

 

 人権団体にはダークエルフがいかに閉鎖的で、非民主的で、そして差別的かを広めた。彼らがカースト制度に似た階級制度を有していることを喧伝し、このような体制は一刻も早く改善されなければならないと訴えて回った。

 

 環境団体はもっとやりやすかった。彼らは地球温暖化を招いた石油業界を恨むのと反面に再生可能エネルギーや核融合発電を推し進めた()()()()な企業である大井を昔から歓迎していた。

 

 これからもクリーンエネルギー政策を進めるにはレアアースは必要だと訴えるだけで、環境団体は簡単に味方になった。彼らがダークエルフは石油会社に雇われているという出所不明の情報すら信じた。

 

 そのような地球におけるメディア・キャンペーンはテレビや新聞、さらにはSNSという媒体で広められた。

 

 しかし、エルディリアにはそれらは存在しない。

 

 そのことがフォンたちを悩ませ、そして彼らは解決策を探った。

 

 いくつかの解決策は地球のファンタジー小説から得られた。それは実に原始的ながら、効果のあるものであった。そう、すなわち吟遊詩人に歌を作らせて、民衆や貴族に広めるということだ。

 

 吟遊詩人には酒場で歌うものから、宮廷に招かれて歌うものまでさまざまなものが存在する。そのことにフォンと広報スタッフは目を付けた。

 

 吟遊詩人に大金を払い、彼らにダークエルフの野蛮さを歌わせ、ヴァリエンティアの残忍さを歌わせた。

 

 酒場で、貴族の屋敷で、宮廷でダークエルフが王国に与えてきた流血が歌われ、ときおりそれに対応した太平洋保安公司やエルディリアの勇敢な兵士の戦いが歌われる。同じようにヴァリエンティアについても王国民の敵意を煽る歌が歌われた。

 

 彼らは言わば地球におけるネット配信者のようなものだと、大井の広報スタッフは考えていた。そして、ネット配信者は企業にとって都合のいい情報を流してくれる広告でもあった。

 

 フォンが企画した異質のメディア・キャンペーンは徐々に成功し、王国の世論を動かすことに成功していた。政治的な力のない民衆から、政治的な力のある貴族まで、さまざまな人間がフォンが広めた意見を信じ込み始めている。

 

 そのメディア・キャンペーンの成功を受けて、司馬は再び第二王子アイリアンに接触した。司馬とアイリアンは定期的に接触しており、その度に司馬からアイリアンに贈り物が献上されていた。

 

「司馬。聞いたか。ダークエルフたちは憎きヴァリエンティアと手を結ぼうしているそうだ。連中は信用ならないと私は昔から思っていた。未開の野蛮なダークエルフどもが我々を裏切るのは時間の問題だとな」

 

「ええ。殿下も国難にあっては前線に立たれるお方です。そうであるが故に我々から殿下に贈り物があるのです」

 

「ほう?」

 

「こちらの品です。地球における武器である自動小銃という武器になります」

 

 司馬が準備したのは、旧式ながら地球で作られた自動小銃であった。

 

 彼は武器と資源の取引にするつもりだ。

 

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