異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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武器

……………………

 

 ──武器

 

 

 司馬からアイリアンに送られたのは口径5.56ミリのベルギー製自動小銃。

 

 まずはその威力を確認するために、司馬はアイリアンとともに、彼の邸宅の庭に出た。そこには許可を得て太平洋保安公司のコントラクターが的を設置していた。

 

 的は甲冑を纏った藁人形で、的が設置された射撃レーンには流れ弾が他所に飛ばないように土嚢が積み上げてある。

 

「この武器の威力をお見せしましょう」

 

 司馬がそういうと、自動小銃を持ったコントラクターは慣れた様子でマガジンを装填し、初弾をチャンバーに送り込むと、安全装置を解除した。

 

 そして、彼は的を狙うと引き金を引く。

 

 けたたましい銃声が響き、ライフル弾が次々に鎧を貫く命中弾を出す。

 

「こ、これは……!」

 

 目の前の光景にアイリアンが目を丸くして驚く。

 

 ほんの数秒で的になっていた鎧はハチの巣になっていてのだから当然だろう。

 

「これが武器なのか? こ、こんな武器があれば戦いは……」

 

「ダークエルフを相手にしても、ヴァリエンティアを相手にしても優位に立てるでしょう。そのことは間違いないかと」

 

「ああ、ああ。その通りだろう。このような武器が以前の戦いのときにあれば、ヴァリエンティアなど滅ぼしていたのだろうに!」

 

 司馬の言葉にアイリアンは感極まった様子でそういった。

 

「こちらの武器は殿下に献上いたします。しかし、これにはいくつかの問題があるのです。お聞きいただけますか?」

 

「無論だ。申すがいい」

 

「はい。こちらの武器は銃弾というものを消費します。弓における矢のようなものです。そのため定期的に銃弾を入手しなければ、ただの鉄の棒となってしまいます」

 

「なるほど。それはどう手に入れればいい?」

 

「我々から購入していただいても結構です。我々はこの手の武器を専門に扱う商社ではないので、専門のものをご紹介することもできます」

 

「ふむ。それだけか?」

 

「他にもございます。殿下、優れた武器はいくらあっても困らないとは思われませんか? それが兵士たちに行き届くならば、いかなる戦場においても勝利の女神が自分たちに微笑むであろうとは確実だとは」

 

 司馬はアイリアンにそう告げる。

 

「この武器の数を増やすべきだと? 売ってくれるのか?」

 

「専門の商社をご紹介します。しかしながら、この武器はそれなりの値段がいたします。その点をいかがされるか、お考えはおありでしょうか?」

 

「それは……困ったな」

 

 ダークエルフはともかくしてヴァリエンティアは明白な脅威であり、軍備を強化することは国益になる。だが、アイリアンもこれまでの戦争のせいで国庫があまり健全な状態にないことは知っていた。

 

「なるほど。それではよろしければ我々が提案するビジネスに乗っていただけないでしょうか? このビジネスで得られる利益はこの自動小銃を何百丁と買うことができるだけの利益を生みます」

 

「なんと! それはお前が前に言っていた金・銀・銅ではない鉱物のことか?」

 

「ええ。その通りです。我々は自分たちが採掘で得る利益の一部をロイヤルティとして、そちらにお支払いする準備があります」

 

 隣国の脅威を煽り、軍事費が必要となったところで、それを満たすであろうビジネスを提案する。とんだマッチポンプだということは司馬も認識していたが、彼がそれに罪悪感を覚えるようなことはなかった。

 

「どの程度の金額になるのだろうか?」

 

「我々の試算ではこの程度です」

 

 既に調査は完了し、どの程度のレアアースが眠っているのかは掴んでいる。それを毎年どの程度採掘し、どれだけの利益が上がるかも、既に計算されていた。

 

「こ、これは……! 桁が違うのではないか……?」

 

 示されたのはエルディリアの年間の国家予算の5倍以上もの金額だった。

 

「いいえ。決して間違いなどではありません。我々のビジネスがスタートすれば、年にこれだけのロイヤルティをそちらに収めることは可能です。だたし、これは採掘が遅滞なく行われた場合に限られます」

 

「そちらでもダークエルフが問題になっているのであったな」

 

「その通りです。問題に対する適切な対処をエルディリア政府にはお願いしたい」

 

 こうやってエルディリア政府を開発に巻き込めば、ダークエルフ問題の矢面に立つのはエルディリア政府となる。それは実に好ましい。

 

「分かった。しかし、これほどの取引となると私の一存だけでは決められない」

 

「では、どなたが?」

 

「やはり我が母にして女王ガラドミア陛下にお願いしなければ」

 

 ここまでは想定済みだ。司馬は女王と取引するつもりだった。

 

「近いうちにお前を女王に謁見させよう。そこには兄である王太子ギルノールや宰相のクーリンディア侯爵も同席する。根回しは私がしておいてやる」

 

「ありがたく存じます、殿下」

 

「お前の頼みとあらば断われないさ」

 

 アイリアンは恩を売っておこうと考えたのかそういっていた。

 

 しかし、ここでアイリアン任せにするほど司馬は楽観的ではなかった。彼は独自に王太子や宰相に根回しすることにした。

 

 宮廷貴族のエレシオール伯爵を頼って、まずは宰相クーリンディアへの接触を目指した。宰相は地球でいうところの内務大臣と財務大臣、また法務大臣すらも兼任しているような人物だ。つまりはかなりの要職である。

 

「そなたがアイリアン殿下の仰っていた地球の商人か?」

 

 クーリンディアは人間にして60歳ほどの男性エルフで、エルフにしては珍しく眼鏡をかけた少しばかり陰気そうな男であった。

 

「はい、閣下。この度はお会いできて光栄です」

 

「殿下と親しくしているそうだな。エレシオール伯爵が言っていたぞ」

 

「ええ。殿下には親切にしていただいています」

 

 クーリンディアは何か確かめるかのように慎重に話を進めていた。

 

「お前は地球製の武器を殿下に紹介し、それを購入するために資金を準備できると言った。隣国であるヴァリエンティアの脅威が声高に叫ばれるときに、だ。これはただの偶然だろうか?」

 

「閣下。優れた商人というのは、商機を決して見逃さないものです」

 

「なるほど。あくまでお前たちの商才というわけか」

 

 ヴァンデクリフトの報告では、エルディリア事務所を監視するように命じたのが、他ならぬクーリンディアだという。この老人は大井を警戒しているようだ。

 

「クーリンディア閣下にはこちらの品を贈らせていただきます。閣下の職務のお役に立てば何よりです」

 

 そういって司馬からクーリンディアに贈られたのは、イギリス製の高級万年筆だ。

 

「ほう。これは素晴らしい」

 

 すらすらと万年筆で文字を書いてみて、クーリンディアは簡単の声を漏らした。

 

「地球ではこのような品を売り込みたいという商人が大勢存在します。だが、いかんせんながら経済的格差のせいでそれが上手くいっていないのです」

 

「武器だけを売りに来たわけではない、と。ふむ」

 

 警戒を解くには武器以外の商品を示し、決して情勢不安を煽ったのが自分たちではないと思わせなければならない。

 

「我々のビジネスは貴国における大きな利益となります。是非ともご検討を」

 

「ああ。地球から有力な武器や、便利な品を買うには金が要る。いや、どのような形であれど国の発展には金がいる。その金が入るのであれば、躊躇すべきではないのかもしれないな」

 

 司馬が丁寧に申し出るのにクーリンディアはそう呟くように言った。

 

「ビジネスを承認していただければ、我々が貴国の発展を支えられるでしょう。そして貴国は我が社の発展を支えられる。我々はともに繁栄していくのです」

 

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