異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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エコー・ワン鉱山

……………………

 

 ──エコー・ワン鉱山

 

 

 地球からの圧力は無事に回避され、採掘に関する契約は締結された。

 

 これを受けて大井エネルギー&マテリアルはフィリアン・カールにおいて最初のレアアース鉱山であるエコー・ワン鉱山の建設に着手した。

 

「オーソドックスな露天掘りで階段式というのが最初のプランだ」

 

 石井技術リーダーはそういって、技術スタッフたちを見る。

 

「で、だ。重要なのは採掘範囲になる」

 

 ARデバイスにフィリアン・カールにおけるエコー・ワン鉱山の範囲が示された。

 

 ダークエルフたちの霊山から幾分か離れた場所にエコー・ワン鉱山は設置される。しかし、それに重ねて表示されるリチウムの分布図は霊山側に偏っていた。

 

「司馬さんとも話し合ったが、やっぱりこの山を掘らないとダメだよ」

 

「しかし、そうなると現地の反発があるかと思いますが……」

 

「ああ。だから、司馬さんがいろいろと手配している。民間軍事会社(PMSC)の増員やエルディリア政府の積極的な関与だ。彼は言っていたよ。『いざとなれば装甲車と機関銃を使ってでもやる』ってね」

 

「それは……」

 

「これが我が社の方針だ。異論があるなら辞表を出すといい」

 

 石井は部下たちにそういって彼らの顔を見渡した。だが、誰も何かを言いだす様子ではなくなっていた。

 

「よろしい。まずは重機の搬入だ。現地組み立てのものもあるから、我々は休んでいる暇はないぞ。さあ、早速仕事に取り掛かれ!」

 

 エコー・ワン鉱山の開発計画はこのようなものであった。

 

 フィリアン・カール王室属領南部において、リチウム採掘を主目的とする大規模な露天掘りの鉱山を設置。これをエコー・ワン鉱山とする。

 

 並行してエコー・ワン鉱山から地球に至るゲートまで道路整備を実施。この道路をルート・エーミールと呼称する。

 

 また現地に対する支援策として首都アルフヘイムとフィリアン・カールにて病院、学校、体育施設などの整備を実施。フィリアン・カールとアルフヘイムを結ぶ道路の整備も実施する。

 

 エコー・ワン鉱山の開発として鉱山そのものの開発と採掘されたレアアースを地球まで運び出すためのインフラ整備。

 

 それに伴う現地への支援としては各種社会インフラと交通インフラの整備。

 

 この方針で開発は行われることとなった。

 

 まずは採掘のために必要な重機の搬入が開始されたのだが……。

 

「よそ者は立ち去れ!」

 

「我々の聖地に足を踏み入れるな!」

 

 重機の搬入のための道路にダークエルフたちが座り込んだのだ。

 

 調査チームや太平洋保安公司の部隊はパワード・リフト機を使って空路で送り込めたが、重機はそうもいかない。重機を乗せたトレーラーはダークエルフたちによって道を塞がれて通ることができず、立ち往生していた。

 

 このトラブルはすぐさま司馬に報告された。

 

「エルディリアの陸軍部隊、それから太平洋保安公司の部隊が投入される」

 

 司馬はそうトラブルを報告した石井に告げる。

 

「エルディリアの陸軍部隊、ですか? それは信頼できるので?」

 

「近衛第2猟兵連隊という事実上のアイリアン殿下の私兵だ。この部隊には既に太平洋保安公司が軍事コンサルタントとして、地球製の武器の取り扱いと戦術について指導している。戦力としては期待していい」

 

 アイリアンに自動小銃を始めて見せてから、契約締結までは時間があった。

 

 その時間で司馬は太平洋保安公司にアイリアンが名誉連隊長を務める、彼の私兵に等しい近衛第2猟兵連隊を軍事コンサルタントとして指導するように依頼していた。

 

「太平洋保安公司が、こちら側の民間軍事会社(PMSC)だけが矢面に立つのは論外だ。エルディリアを巻き込まなければ。そのために多額のロイヤルティを約束したのだからな。この開発の破綻は、エルディリア政府にとっても打撃になる」

 

 司馬はそう説明し、問題のエルディリア陸軍近衛第2猟兵連隊とそれを支援する太平洋保安公司の部隊が投入された。

 

「ここは通さないぞ!」

 

「国に帰れ、冒涜者ども!」

 

 ダークエルフたちの側にも座り込みは事情があった。

 

 まず急進的な反大井派閥を形成したオロドレスが慎重になり始めていたのだ。彼は調査地点を襲撃した際に多数の犠牲者を出したことで、太平洋保安公司の戦力を大きく評価するようになっていた。

 

 さらに部族評議会も戦いになれば多くの犠牲が出ることが明白になったことで、まずは武器に寄らぬ戦いをという選択肢を選んだ。

 

 一度は決裂したオロドレスたち急進派と部族評議会は、ようやく意見の一致を見て、この座り込みを始めたのだった。

 

 彼らが断片的に入ってきた地球の知識に影響を受けたのは言うまでもない。

 

 座り込みによって立ち往生しているトレーラーの車列上空を太平洋保安公司のパワード・リフト機が通過していき、それから部隊が降下する。

 

 降下するのは太平洋保安公司のコントラクターではなく、アイリアンの命令を受けて太平洋保安公司に協力するように言われていた近衛第2猟兵連隊だ。

 

「ふん。ダークエルフどもが王国の土地を我が物顔で……」

 

 パワード・リフト機を降りてきたのは近衛第2猟兵連隊連隊長のスーリオン陸軍大佐だ。彼と彼の部下は伝統的な軍服や鎧ではなく、太平洋保安公司から提供されたデジタル迷彩の戦闘服とタクティカルベストを纏っている。

 

 スーリオン大佐は人間にして40代ほどの体格のいい男性であり、その金髪をオールバックにして赤いベレー帽を被り、目にはサングラスをかけていた。このベレー帽とサングラスは地球の商人から買って気に入った品のひとつだ。

 

 彼はアイリアンのお気に入りの軍人でもあり、司馬からアイリアンに贈られ、アイリアンからスーリオン大佐に贈られた44口径マグナム弾を使用する金メッキのレボルバーを腰のホルスターに光らせていた。

 

 彼の部下たちはベルギー製の自動小銃や機関銃で武装している部隊とテーザー銃や警棒、ライオットシールドなどの低致死兵器で武装した部隊がそれぞれ存在する。

 

「大佐。相手は非武装だ。ここで実弾を使うのは不味い」

 

「分かっている、分かっている。そんな無茶はしない」

 

 太平洋保安公司の軍事コンサルタントが助言するのにスーリオン大佐が頷く。

 

「お前たち! 訓練通りにやれ! 忌々しいダークエルフどもを道路から排除しろ!」

 

「了解です、大佐殿」

 

 スーリオン大佐が命じるのに部下たちのうち、低致死兵器で武装した部隊が隊列の前に出る。

 

 彼らはライオットシールドを構えて古代のファランクスのような隊列を組み、その後方から中国製のクアッドロータードローンが飛行してくる。ドローンはダークエルフたちの頭上に到達し、そこから催涙弾を投下していった。

 

「げほっ! げほっ!」

 

「毒だ! 毒の霧だ!」

 

 催涙弾は30名程度のダークエルフたちに降り注ぎ、彼らの目・鼻・喉を刺激して、行動不能に陥れた。ダークエルフたちは逃げようとするが、次々にドローンが飛来してきては、催涙弾を投下していく。

 

「よーし! 進め! 連中を拘束しろ!」

 

「了解!」

 

 スーリオン大佐はその様子を眺めながら、部下に制圧を命令。部下たちはガスマスクを装着し、ライオットシールドを構えて前進。

 

「やめろ! お前たちはエルフとしての誇りを失ったのか!」

 

「黙れ! 大人しくしろ!」

 

 警棒でダークエルフたちを殴り、抵抗しなくなるまで痛めつけてから、近衛第2猟兵連隊の兵士たちは、ダークエルフたちに手錠をかけていった。

 

「連行しろ! 連れていけ!」

 

 拘束されたダークエルフたちは大井が建設した捕虜収容所──大井は再教育センターと呼称している──に連行されて行った。ダークエルフたちは衣服を剥がれ、オレンジ色のつなぎを着せられ、工事が終わるまで拘束されることとなる。

 

 しかしながら、このあともダークエルフたちによる座り込みは度々発生し、大井によるエコー・ワン鉱山の開発着工を遅滞させていた。

 

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