異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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移行された権力

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 ──移行された権力

 

 

 聖地解放運動という組織ができたのは、部族評議会が総督ファレニールの命令で解散させられてからだった。

 

 部族評議会という指導者たちを失ったことで、ダークエルフたちは離散しようとしていた。それぞれが戦うことや、逃げること、あるいは降伏することを選ぼうとする中で、それらの意志を統一する組織が必要とされていた。

 

 そして、その組織を始動する人間はカリスマが求められた。この絶望的な状態でも、決して諦めず、活路を見出し、そこに部族を導く存在が。

 

「聖地解放運動をここに組織する」

 

 そう宣言するのはアイナリンド大佐だ。

 

 彼女こそが部族評議会に代わる新しいダークエルフの抵抗運動(レジスタンス)を組織した人物である。

 

「我々は決して聖地を奪還することも、このフィリアン・カールから歓迎されぬよそ者を駆逐することも諦めない。我々は戦い続ける。ありとあらゆる場所で。ありとあらゆる手段を使って!」

 

「おお!」

 

 アイナリンド大佐の言葉にダークエルフたちが声を上げた。

 

 彼女が組織した聖地解放運動にはシルヴァリエンの部族、ナライオンの部族、ミリリエスの部族が分け隔てなく参加していた。

 

 聖地解放運動はアイナリンド大佐を最高指導者とし、彼女に権力は集中された。オロドレスたち若い戦士たちもこれに同意している。

 

 これは部族評議会への失望故に起きたことである。部族の若者たちはもう弱腰の指導者にこの戦争を任せる気はないのだ。

 

「まずは拠点を設置することからだ」

 

 アイナリンド大佐は拠点を設置すべきだとして、フィリアン・カールの東部へと部族を移動させた。そこには険しい山岳地帯と隣国に繋が小さな道がある。

 

 その隣国の名こそヴァリエンティアだ。

 

 長年、エルディリアと対立関係にあったこの国と、アイナリンド大佐は接触しようとしている。敵の敵は味方というわけだ。

 

 聖地解放運動は東部山岳地帯に家畜を運び、武器を運び、生活の拠点を構築した。彼らの多くからすれば慣れない山岳地帯でのだったが、ナライオンの部族のものはこの東部山岳地帯でも生活をしてきた。

 

 ナライオンの部族が指導して井戸が掘られ、家畜の放牧できる場所が割り当てられ、聖地解放運動は急速に拠点を構築していった。

 

 元が一定の居住地にこだわらない遊牧民であったことも幸いしたのだろう。彼らが東部山岳地帯で構築した拠点はなかなかのものであった。

 

「よし。ここに拠点を設置しよう」

 

 さらにアイナリンド大佐はドローン対策にトンネルを活用することにした。山に穿たれたトンネルを補強し、そこに司令部を設置。空からではアイナリンド大佐や司令部スタッフを捕捉できないようにする。

 

 実際太平洋保安公司が運用するドローンはよりお広域を調査する、戦闘機ほどのサイズのドローンでも東部山岳地帯の動きを見逃していた。

 

「我々はこれからどのように戦うのですか、アイナリンド大佐?」

 

 そして、拠点が整備されたのちに戦士たちがアイナリンド大佐に尋ねる。

 

「地球の技術は驚異的だ。銃火器という武器、ドローンという使い魔の目、車両という機械の馬。それらに対処しなければ勝ち目はない」

 

 銃火器は弓に勝り、ドローンは奇襲や待ち伏せを困難にし、車両は馬に勝る。

 

「これに対抗するには敵を上回る知恵を絞るか、あるいは敵と同じものを手に入れるかだ。現状、我々が取れる手段は前者のみであり、後者については今後可能性を見出していくことになるだろう」

 

「しかし、知恵で上回ると言っても、どのように戦えばいいのでしょうか?」

 

「方法はある。この地に我々がいる限り」

 

 そして行われたのが使役する猛禽類によるドローンの襲撃だ。

 

 太平洋保安公司が飛ばしているドローンを攻撃し、監視網に穴をあける。そのような襲撃を繰り返し、敵が異常事態に慣れて、異常事態が常態と化し、油断するのを待つ。

 

 それから襲撃を仕掛けた。

 

 それがあのフィリアン・カール野戦キャンプ襲撃事件だ。

 

 実を言えばアイナリンド大佐は未だにエルディリア陸軍の一部の将校とつながりがあった。彼らはアイナリンド大佐たちダークエルフが軍で果たした役割を覚えており、できることならば助けたいと思ってくれたのだ。

 

 それによって密かにアイリアンがキャンプを訪れる情報が流され、ダークエルフたちはそれを襲撃するに至ったのである。

 

「襲撃は失敗か」

 

 アイナリンド大佐はアイリアンがまだ生きているという情報と、襲撃に向かった戦士たちが捕虜になったという情報を手に入れ、やや落胆して見せた。

 

「ですが、大佐。敵の拠点に打撃を与えたのはこれが初めてです! このままならば我々はきっと勝利することができますよ!」

 

「まだ楽観はできない。早く我々も敵の武器を手に入れるなどしたいところだが」

 

 やはり敵の技術的優位はそう簡単には崩せないとアイナリンド大佐は認識している。こちらが知恵を絞っても、敵に技術的な優位からくる装備の潤沢さには、なかなか抵抗することができないと。

 

「方法を変えてみるか。敵にとって守りの固い場所ではなく、弱い場所を突く」

 

 アイナリンド大佐はそういって作戦を練り直し始めた。

 

 エコー・ワン鉱山そのものやフィリアン・カール野戦キャンプのような軍事施設は、当然ながら守りが固い。これらは地球ではハードターゲットと呼称されるものである。

 

 それにいくら正面から挑んだところで、無用の損害を出し続けるだけ。

 

 敵の守りの薄い部分で、限定的にせよ対等に戦える環境を作らなければならない。それが唯一の勝利への道だ。

 

「大佐。ヴァリエンティアの連中が来た」

 

「ああ。分かった。すぐに行く」

 

 ここで来客が訪れた。ヴァリエンティアから来たエルフたちだ。

 

 アイナリンド大佐は司令部のあるトンネルを出て、来客の待つ天幕へと向かった。

 

「ようこそ、遠路はるばるフィリアン・カールまで」

 

「ふん。前置きはいい。状況を確認したい、ラニエルの獅子よ」

 

 ヴァリエンティアから派遣されてきたのは軍人で、アイナリンド大佐のことをラニエルの獅子と呼んだ。彼女はラニエルの戦いににちなんだその名で、ヴァリエンティアから恐れられ、畏敬の念を払われていたのだ。

 

「我々はエルディリアと決裂した。今のところはな。エルディリアは我々の果たしてきた貢献を忘れ、聖地と我々の土地をよそ者に売り払った」

 

「本当か? エルディリアも愚かなことを……」

 

「ああ。実に愚かだ」

 

 ダークエルフたちの脅威を知るのは、彼らと長年戦ってきたヴァリエンティアに他ならない。彼らは戦場にデックアールヴ旅団が現れれば、退却を検討するほどにダークエルフたちを恐れていた。

 

「敵の敵は味方というだろう。我々は確かに争ってきたが、我々ダークエルフは別に貴国が憎くて戦っていたわけではない。ただエルディリアが我らを守ると約束したから戦っていただけであり、その約束は今や破られている」

 

「なるほど。だが、お前の目指す最終的なゴールは何だ? それをまず聞こう」

 

「フィリアン・カールのエルディリアからの独立」

 

「我々としてもそれは利益になるな」

 

 憎きエルディリアの土地が分離独立し、これまでは戦士として名高かったダークエルフたちがエルディリアから離れるならば、ヴァリエンティアにとっては絶好の戦争の機会となる。

 

 しかし、これはアイナリンド大佐の本心ではない。

 

 彼女はエルディリアから独立するつもりはなかった。

 

「それではそのために我々に支援をせよと言うのだろう」

 

「ああ。武器や食料、医薬品を都合してもらいたい」

 

「兵士は?」

 

「我々だけで十分」

 

 補給なくして戦争は続けられない。そして、聖地解放運動のようなゲリラにとって補給はなかなか難しい。

 

 そのためゲリラたちがまず求めるのは聖域だ。エルディリアが手出しできない海外領土から補給を受けることで、エルディリアは補給を断てず、聖地解放運動は行動を続けることができる。

 

「いいだろう。取引成立だ」

 

「ありがとう」

 

 ヴァリエンティアの軍人とアイナリンド大佐はそういって握手を交わした。

 

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