異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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パーティー

……………………

 

 ──パーティー

 

 

 フィリアン・カールの情勢不安が続く中でも、エコー・ワン鉱山は利益を上げ続けている。膨大なレアアースが地球の市場に流されることで、大井エネルギー&マテリアルは莫大な利益を上げていた。

 

 その利益の一部はロイヤルティとしてエルディリア政府に支払われている。彼らは金のインゴットでの支払いを求めたため、それに応じる形で支払いは行われていた。

 

 こうしてエルディリアは一日して億万長者となったのだ。

 

 エルディリアへの進出にしり込みしていた他の地球企業も、エルディリアが潤沢な資金力を示し始めると、進出を強めていった。

 

 そんな地球の企業たちが王宮に招かれ、パーティーが開かれることになった。

 

 司馬も当然招かれている。

 

「我が社は開かれた開発を行っています。透明性のある資金の流れを重視し、開発当事国の発展に寄与しているのです。メディアはいろいろと騒いだようですが、ご覧ください。これだけの企業が今やエルディリアに集っている」

 

 司馬は集まった地球企業の人間たちにそう自慢気に語る。

 

「いやはや。我が社も非民主的な政府と言われてしり込みしましたが、大井さんの言うように決して閉鎖的な国ではなく、今まさに民主主義と自由につい学んでいる国家だという印象を受けました」

 

「まさにです。学校や病院が整備され、急速にこの国は近代化している。我々のビジネスの上での疑念は、現地に来てかなり解決しました」

 

 地球企業の人間たちはシャンパンを片手にそう語る。彼らも大井に劣らぬ貪欲なハイエナどもであり、金の臭いをかぎつけてこの国にやってきた。

 

 彼らが求めるのは利益。それだけだ。民主主義だとか、自由だとか、人権だとかは正直どうでもいいのである。

 

「司馬! 地球企業に私を紹介してくれないか?」

 

 そこでほろ酔い状態のアイリアンが姿を見せた。

 

「もちろんです、殿下。こちらはエルディリア王国第二王子アイリアン殿下でいらっしゃいます。皆さん、どうか殿下に自己紹介を」

 

「光栄です、殿下。私は──」

 

 アイリアンは地球企業に便宜を図るというだけで、どれだけ懐が温まるかを知った。彼は積極的に地球企業に関わり、彼らの進出を促すことで、大井から得たような利益を得ようと思っているのだ。

 

「失礼」

 

 そこで不意に司馬に声がかけられた。

 

 声をかけてきたのは若い女性で、身なりからして地球の人間であることは間違いなさそうであったが、司馬には彼女の顔に見覚えはない。

 

「失礼だが、どなたかな?」

 

「G24Nのシャーロット・ユースティスと言います。よろしく」

 

「ああ。G24Nか。あいにくだが今日は取材に応じるつもりはない。何か情報をお求めならば我が社の広報部に連絡を」

 

 G24Nに関してはエルディリアの情報を政府内部の人間から地球にリークしていたという事実がある。司馬が慎重になるのも当然だといえた。

 

「今日はご挨拶をと思っただけです。ご家族との関係は改善されましたか?」

 

「……記者らしいデリカシーのなさだな。感服だよ」

 

 ユースティスがにこりと笑って尋ねるのに司馬はゆっくりと手を叩いて見せた。

 

「仕事にそれほどまでに熱心なのは、家族があなたを認めてくれないからですか?」

 

「いいかね、ユースティス女史。初対面の相手にそんなことを聞いて回れば、次から誰も君の取材に応じなくなるぞ」

 

 司馬と彼の家族は疎遠だった。司馬は出張の多い職業ということもあって、家にいることは少ないためだ。彼らに妻と息子2名がいるが、彼らと最後に話したのは6か月以上前のことである。

 

「失礼を。では、仕事に熱中されておられるのは、純粋にここでの利益が莫大なものだからですか? エルディリア政府はロイヤルティだけで、一気に地球の中小国家を上回る経済規模になりましたが」

 

「ノーコメント。話があるならば広報部を通すように。以上だ」

 

 司馬はユースティスにそう言い放ち、彼女から離れた。

 

「司馬殿」

 

「これは王太子殿下。殿下も今回のパーティーにご参加を?」

 

「ああ。そんなところだ」

 

 次に司馬に接触してきたのは王太子ギルノールであった。・

 

「少し聞きたいことがあるのだが、いいだろうか?」

 

「何なりと」

 

「ダークエルフたちとのトラブルはどのくらい深刻なのだろうか?」

 

 ギルノールは用心したように声を落としてそう尋ねた。

 

「さほど深刻ではありませんが、トラブルが全く存在しないといえば嘘になります。我々は事業に対する理解を得るために最善を尽くし、現地の経済振興のための事業も立ち上げていますが、いかんせん古い考えの人間はいるものです」

 

「武力衝突が起きているとも聞いているが」

 

「限定的ながら、小規模な事件が起きております」

 

「我が弟アイリアンが狙われたとも聞いたのだが、それも小規模だと?」

 

 おや。どこまで情報をに手に入れているのだろうかと司馬は少し考える。

 

「大した襲撃ではありませんでした。我が社と契約している民間軍事会社(PMSC)とエルディリア陸軍部隊で容易に鎮圧を」

 

「エルディリア陸軍部隊というのは近衛第2猟兵連隊か?」

 

「その通りです。殿下もご存じですか?」

 

「ああ。近代化された部隊だと聞いている」

 

 司馬はアイリアンとギルノールの関係はさほど良好ではないと聞いていた。弟であり、自分より格下のアイリアンが近代化された陸軍部隊を私兵として有しているのは、ギルノールにとって不快なことなのかもしれない。

 

「殿下は近衛第1猟兵連隊の連隊長であらせるとか」

 

「名誉連隊長だ。実際の指揮権はないよ」

 

「なるほど。ですが、近衛はいざとなれば殿下やガラドミア陛下のお命をお守りする部隊です。近衛から近代化されていかれることを、お考えになりませんか?」

 

「今はまだ考えていない。急激な軍の近代化は近隣諸国との緊張の度合いを増し、勢力均衡(バランス・オブ・パワー)にも影響する」

 

「お考えは理解できます」

 

 アイリアンより現実主義者かと司馬は思った。アイリアンは新しい玩具を前にした子供だが、ギルノールの方はそれからもう一歩踏み込んだところを見ている。

 

「では、パーティーを楽しんでいってくれ」

 

 ギルノールはそう言って司馬から離れると、一度パーティーの開かれている広間を出て廊下に向かった。

 

「確認は取れましたか、殿下?」

 

 そこで待っていたのはユースティスだ。

 

「はぐらかされた。だが、衝突がなかったとは言わなかったよ。やはり、大井の開発はダークエルフたちの反発を招き、武力衝突を起こしているようだ」

 

「そうですか。現地に向かうのが一番いいのでしょうが」

 

「大井はエコー・ワン鉱山周辺への立ち入りを規制しているし、武力衝突が事実ならば現地は戦場だ。そのような場所に君を送るわけにはいかない。君は私のブレインでもあるのだから」

 

「そのお言葉は嬉しく思いますが、私はジャーナリストです。事実を示し、人々に考えてもらうのが仕事です。そして事実はフィリアン・カールにある」

 

「今はまだ待ってくれ。セルシウス殿の件を忘れたわけではないだろう。彼もまた事実を人々に知らせようとしたが、彼はどうなった?」

 

「死にました。だからこそです。彼の暴こうとしたものを私が暴かなければ」

 

「……近いうちに私もエコー・ワン鉱山の視察に向かう。そのときに同伴することを許可しよう。それでどうだろうか?」

 

「願ってもないことです。ありがたく受けさせていただきます」

 

「では、のちほどまた会おう」

 

 この時点で大井の保安部門のリーダーであるヴァンデクリフトは、王宮内に地球の知識を漏洩させている人間がいると掴んでいた。大井経由で地球を知ったアイリアンとは別のルートで、大井にとって不都合な事実も流していると。

 

 その人物についての処置は、まだ決まっていない。

 

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