異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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信頼関係

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 ──信頼関係

 

 

 この手の取引でいきなりビジネスの話を持ち出すのは悪手だ。

 

 汚職にまみれた官僚や政治家にとって重要なのはビジネスそのものではないからである。彼らはこちらのビジネスを通すことで、自分たちの懐がどれだけ温まるかの方に興味を持っているのだ。

 

「エルミナルス公アイリアンである」

 

 そういうのはまだ若い18、19歳程度の男性で、笹状の耳を有するエルフである。エルフであるからにして実際の年齢は180歳程度だろう。

 

 彼はエルフらしい整った顔立ちをしており、地球でも俳優やモデルとして通じそうなほどであった。またそのひょろりとした長身をエルディリア王国陸軍の赤い軍服で包み、いくつもの勲章を胸に光らせていた。

 

 このアイリアンは王族であり、それもエルディリアの第二王子である。彼こそエレシオール伯爵が斡旋してくれた今回の取引において、ひとまずの窓口になった人物だ。

 

「この度はお会いできて光栄です、殿下」

 

「うむ。エレシオール伯爵の紹介だからな。無下にもできない」

 

 アイリアンは小さく頷いてそう述べた。

 

「この度は是非とも殿下に献上したい品がありまして」

 

 ここで司馬がそういうと、エレシオール伯爵のときのように大井の警備スタッフがアタッシュケースを運んできた。今回の警備スタッフは見えない形であるが、拳銃で武装している。

 

「こちらです」

 

「これは……」

 

 提示されたのはスイス製の高級腕時計だ。2040年代においても職人がひとつひとつ全ての部品を手作りしているものであり、それと同時に全く時間のずれがないことで知られている。

 

 時計というものを始めて目にする人間であっても目を引くような壮麗さを有する品だ。司馬には既にアイリアンの目が、この高級腕時計から離せなくなっていることが分かっていた。

 

「殿下は陸軍に所属されていると聞きました。軍隊では時間が何よりも大事でしょう。この腕時計ならば、いつでも正確な時刻を知ることができます」

 

「素晴らしい贈り物だ! 感謝しよう、地球の民!」

 

 アイリアンは満面の笑みで時計を受け取った。

 

「よろしければ、これからも様々な地球の品を殿下に紹介できればと思うのですが、いかがでしょうか?」

 

「もちろん構わない。これからも時間を作ろう」

 

「ありがたく存じます」

 

 それから司馬は度々アイリアンに接触し、贈り物を送っては感心を得た。

 

 数ある贈り物の中でもアイリアンが好んだのは、司馬が送った高級SUVだ。

 

 彼は広大な領地や狩場でその四輪駆動のパワフルな車を思う存分走らせ、アウトドアを楽しんでいた。司馬が送った便利なキャンプグッズも彼は気に入り、部下を連れては連日のように遊び惚けた。

 

「いやはや。司馬、お前の贈り物には感謝しているぞ。楽しみがずっと増えた。これまでの人生は今に比べたら灰色も同然だ!」

 

「それは何よりです」

 

 今日は狩場の近くにある別荘でアイリアンは司馬を迎え、別荘のテラスの椅子に腰かけ司馬が送った日本産のウィスキーを味わいながら、満面の笑みを浮かべていた。

 

 地球でも希少価値のある日本産ウィスキーは異世界でも好評だった。どの高官もこの様な贈り物を受け取ると実に好意的になる。

 

 こうしたプレゼントもあり、既にアイリアンにとって司馬は身内も同然になった。食事の際も同席を許すなど確かな信頼関係が存在している。

 

 これには司馬がアイリアンの好むアクティブな趣味に合うようなプレゼントを送り続けたことが功をなしたと言えるだろう。司馬の作戦は順調に進んでいた。

 

「今度は飛行機というものをご紹介しましょう。空を駆けるように飛ぶ乗り物です」

 

「おお。それはまた素晴らしい。しかし、私もお前から貰ってばかりではいささか申し訳ない。ここはお前の願いを何かしらかなえてやろうではないか」

 

 ここで初めてビジネスの話が出せる。数か月かかったが、司馬はこれを待っていた。

 

「殿下。我々はあるビジネスを考えております。殿下が気に入られたSUV。あの商品に必要な金属が、このエルディリアに存在するかもしれないのです。我々はそれを採掘したいと思っております」

 

「ふむ。金や銀でないのならば問題はないが」

 

「金・銀・銅ではありません。それはお約束します」

 

 エレシオール伯爵が言っていたように金・銀・銅の採掘は王家の特権だ。

 

「ならば問題はあるまい。私が関連する大臣に口を利いてやろうではないか」

 

 はははっと笑ってアイリアンはそう請け負った。

 

「ありがたく存じます、殿下」

 

 こうして司馬たちが作った契約書は、その内容が大井側の免責特権や随伴する民間軍事会社(PMSC)の治外法権などエルディリア側に圧倒的に不利だったにかかわらず、エルディリア政府の承認を得たのであった。

 

「契約は成立した。調査はいつでも始められる」

 

 司馬はそうエルディリア事務所にて宣言。

 

「契約書に一切の修正もなく、ですか?」

 

「ああ。王族を丸め込んだ。第二王子だ。彼に都合してもらい、契約を成立させた」

 

 法務部のホンダは自分たちの提案した契約書は流石にそのまま通らないだろうと思っていた。何度かの妥協を行い、修正して、初めて結ばれるものだとばかり思っていた。

 

 しかし、司馬はこともなく、契約を成立させてしまった。

 

「さて、並行して進めていた調査に必要な土地取得の方は完了したか、ホンダ?」

 

「はい。ドローンの運用、重機の集積、技術者の宿舎などを設置するための土地の取得は完了しました。この報告書をご覧ください」

 

 司馬たち大井はまずはドローンによる地形把握によって、レアアースの埋蔵地を突き止めようと考えていた。

 

 そこで大型ドローンが運用可能な飛行場の建設を始めることに。これは第二王子アイリアンへの飛行機のプレゼントというものと並行して行うことで、アイリアンの政治的影響力を行使させていた。

 

「よろしい。可能な限り迅速に調査を開始したい。準備を急いでくれ」

 

「技術部門に急がせます」

 

 ホンダは法務部として契約を得たので、後は技術部門が整備を行うだけだ。

 

「保安部門からもいいでしょうか?」

 

「何か問題か、ヴァンデクリフト?」

 

 ここで保安部門のリーダーであるヴァンデクリフトが挙手。

 

「我々の動きに王国政府の諜報機関が反応している節が見られます。土地買収がきっかけになったのか、または王族への接近を警戒されたのかは不明ですが、このエルディリア事務所を見張る人間もいるようです」

 

「その点の対策は?」

 

「窓に遮蔽カーテンを常に広げておくことや、定期的な盗聴・盗撮対策に実施などでしょう。それからこれから関係する人員が増加しますので、人的情報収集(ヒューミント)にも一応の警戒を」

 

「分かった。保安手続きをマニュアル化し、私を含む全てのスタッフに徹底するように指導してくれ。今の時点で情報が漏洩するのは好ましくない。情報漏洩の可能性は徹底的に潰せ」

 

「了解」

 

 ヴァンデクリフトはこのような保安上の問題への取り組みの他に、調査を行う技術スタッフを警護する民間軍事会社(PMSC)から派遣されたコントラクターとの調整も並行して行っている。

 

 これから飛行場が迅速に整備され、ドローンや技術者が地球から派遣されてくる。

 

 王国政府は未だに何が起きるのかを全く予想していない。

 

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