異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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ペリカン・ダウン

……………………

 

 ──ペリカン・ダウン

 

 

 エーミール・ルートでの小競り合いが続く中、事件は起きた。

 

 太平洋保安公司が運用し、地球と行き来する大井の技術スタッフを乗せたパワード・リフト機──コールサインはペリカン・シックス・ツー──が墜落したのだ。

 

 墜落の原因は機体の整備不良であって、ダークエルフたち聖地解放運動が撃墜したわけではない。だが、墜落の事実を知った聖地解放運動は群がるように、墜落したパワード・リフト機に向けて押し寄せてきていた。

 

「撃て、撃て!」

 

 墜落現場では墜落の際に負傷しながらも生き延びた太平洋保安公司のコントラクターが押し寄せるダークエルフたちに向けて銃撃を繰り返していた。

 

「こちらユニフォーム・ゼロ・ワン! 輸送機が墜落した! 墜落現場にはダークエルフどもが押し寄せている! 援軍を寄越してくれ!」

 

「イーズリー指揮官! 敵がさらに来ます!」

 

「クソッタレ! 迎え撃て!」

 

 ジェイク・イーズリー元アメリカ海兵隊軍曹によって指揮される小規模な護衛部隊は、墜落で生き残った3名が、同じく生き乗った技術スタッフ4名を守ろうと必死に聖地解放運動のダークエルフたちと戦っていた。

 

 彼らが装備しているのはカービン仕様の自動小銃と自動拳銃だけで、手榴弾も機関銃もなかった。パイロットが墜落時に死亡したペリカン・シックス・ツーは非武装で、ドアガンの類も装備していない。

 

「クソ、クソ! 弾薬がもうほとんどない! これが最後のマガジンだ!」

 

「援軍は!?」

 

「まだだ!」

 

 やがて矢が墜落したパワード・リフト機に突き刺さり始め、機体の中にイーズリーたちは身をひそめる。炎の魔術も飛来し、墜落した機体が揺さぶられる。

 

「捕虜になったら頭の皮を剥がれるってマジですかね!?」

 

「さあな! 生き残ることだけを考えろ!」

 

 墜落した機体の影から銃だけを出して射撃し、イーズリーたちは抵抗を続けるが、ダークエルフたちは無数に押し寄せてきた。

 

「進め、戦士たち! 我々に勝利を!」

 

 そう、ダークエルフたちを鼓舞するのはオロドレスで、彼は以前虜囚の身になった辱めを、墜落した機体にいる太平洋保安公司や大井の人間を拘束して雪ぐつもりだ。

 

「降伏しろ、地球の侵略者たち! そうすれば命までは取らない!」

 

 ダークエルフたちは矢を浴びせながら、オロドレスがパワード・リフト機に向けてそう降伏を勧告する。

 

「降伏なんぞクソ食らえだ。撃て!」

 

 イーズリーはそう吐き捨ててオロドレスを狙って銃撃。弾は当たらなかったが、オロドレスの不快な降伏勧告は中断された。

 

「おのれ! 進め、進め! 傭兵どもは皆殺しにしろ!」

 

「おおっ!」

 

 オロドレスはそう叫び、ダークエルフの戦士たちが前進する。

 

 彼らは墜落した機体のすぐそばまで前進したが、そこでイーズリーたちが自動拳銃で応戦し、さらに犠牲を出した。

 

 しかし、イーズリーたちが抵抗できたのは、そこまでだった。

 

 彼らはダークエルフたちの矢を浴び、山刀で切り倒され、イーズリーを含む太平洋保安公司のコントラクター3名は全滅した。

 

「出てこい、地球の侵略者ども!」

 

「こ、殺さないでくれ……」

 

 技術スタッフはダークエルフたちによって拘束され、縄で縛り上げられた。

 

「こいつらの死体を馬に繋げ!」

 

 さらにオロドレスは戦死したイーズリーたちの死体を馬に繋いで引きずりまわした。彼らの死体は辱められ、その様子にダークエルフたちが歓声を上げる。

 

 しかし、その様子は上空に到達したドローンによって撮影されていることに、彼らは気づいていなかった。

 

 ダークエルフたちが太平洋保安公司のコントラクターを殺害し、大井の技術スタッフを捕虜にしたという情報は、すぐさまエルディリア事務所にて危機管理担当のヴァンデクリフトから司馬に伝えられた。

 

「どうするべきだ? 向こうから何か要求は?」

 

 大井は世界各地で活動している多国籍企業であり、国によっては誘拐が多発する場所もあった。そのため幹部職には誘拐が発生した場合の対応についてマニュアルが叩き込まれている。

 

 決して相手を無駄に刺激せず、要求を聞くこと。それが第一だ。

 

「要求はありません。敵は恐らく技術スタッフを処刑するとみています。少なくとも太平洋保安公司のコントラクターたちは全員が殺害されています」

 

「なんてことだ」

 

「彼らには我々に要求を伝えるチャンネルがありません。我々も要求に応じると返すチャンネルがなく、交渉はとても困難な状態にあります」

 

 そう、部族評議会が機能していたときは、まだ交渉のチャンネルは存在した。だが、今や部族評議会は解散させられ、総督ファレニールは明確に大井の側についたことから、両者の間に交渉チャンネルは存在しないのだ。

 

「人質を救出しなければならない。もし、処刑されるようなことがあれば、メディアがこの件を報道して、大ごとになる可能性がある」

 

「分かっています。太平洋保安公司を人質救出のために動員する準備を整えています」

 

「すぐにやってくれ。それからどんな人間でもいいから、交渉できる人間を。相手と接触できれば文句はない。交渉可能なチャンネルを探ってくれ」

 

「了解」

 

 司馬の命を受けてヴァンデクリフトが手配を始める。

 

 総督のファレニールにも頼んでみたが、彼は無理だと返した。拘束している元部族評議会議長のギルサリオンも協力を拒否。

 

 その間にも拘束された技術スタッフの命は脅かされている。

 

「川内指揮官。太平洋保安公司のコントラクターの遺体を回収しました。ダークエルフの連中、首を切断してエーミール・ルートの傍に……」

 

 太平洋保安公司のエコー・ワン鉱山付近に設置された拠点──かつての調査拠点では、コントラクターのひとりが指揮官の川内に、先の戦闘で死亡したイーズリーたちの死体を回収したことを報告していた。

 

「クソッタレ。あの忌々しいクソ野郎どもめ」

 

「俺たちは仲間の敵討ちはできないんですか? あんな風に仲間を痛めつけられるだなんて俺には我慢できません」

 

「人質がいる。それを解放してからなら、何をしてもかまわない」

 

「こっちも拘束しているダークエルフどもを殺すぞと脅しては?」

 

「不必要に相手を刺激するなとの通達があった。無理だ。だが、人質奪還のための部隊は編成されつつある。そいつらが上手くやってくれることを祈ろう」

 

「……了解」

 

 ヴァンデクリフトは人質奪還のための精鋭を招集した。

 

 その部隊の指揮官は元アメリカ海軍DEVGRU所属の大尉のワイアット・ウィットロックという男性であり、彼の下に11名の元特殊作戦部隊の将兵が集った。

 

「諸君。これより我々は不当にも拘束された民間人をテロリストから救出する」

 

 ウィットロックは海軍時代にも各地で発生していたアメリカ人を標的とした誘拐事件を解決してきた実績がある。中でも2030年代にサウジアラビアで起きたアメリカ大使館人質事件では、見事全ての大使館スタッフを救出していた。

 

「現在、友軍情報部が人質の居場所について確認を行っている。それが判明し次第、我々はすぐに行動を開始する」

 

「了解」

 

 救出作戦は大規模なものとなり、このウィットロックが指揮する12名の部隊の他に、緊急即応部隊(QRF)として太平洋保安公司の部隊が待機。さらにはレッドファング・カンパニーもいつでも動員可能なように手配された。

 

 さらに偵察部隊として4名ずつからなる部隊が6チームが墜落現場を中心に、連れ去られた技術スタッフの行方を追った。それらは軍用犬の生物学的構成要素を生物模倣(バイオミメティクス)した無人地上車両(UGV)も動員している。

 

 その軍用犬の鋭い嗅覚を備えた無人地上車両(UGV)はトレーサードックと呼称されており、捜索救難任務に使用されてきた。

 

 そして、彼らのうち1チームが、フィリアン・カール北部の山岳地帯に入った。聖地解放運動が拠点を置く南東部とは違う山岳地帯だ。

 

「見つけたぞ。問題の技術スタッフたちだ」

 

 彼らはついにそこで人質を発見した。

 

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