異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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視察当日

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 ──視察当日

 

 

「ようこそ、大井第二飛行場へ、ギルノール殿下」

 

 広報部門のフォンがそう言って出迎える。

 

 かつての調査拠点であり、太平洋保安公司の基地となった場所。そこが大井第二飛行場として整備されている。

 

 その大井第二飛行場に王太子ギルノール、その護衛の女騎士ミーリエル、第一王女エアルベス、そしてG24Nの記者ユースティスが集まっていた。

 

 このエルディリアにおいて女性の兵士というのは珍しくないようだ。ミーリエルは人間にして20代後半という雰囲気で、エルフらしい整った顔立ちをした長身の女性だった。そして鎧でなく赤い軍服を身に着け、腰にはショートソードを下げている。

 

 エアルベスはそれに比べると呑気なお子様という風体だ。年齢は人間にして13歳前後であり、目に見えるもの全てが珍しいというふうにきょろきょろしている。王女らしいのは、身に着けているドレスくらいか。

 

 だが、彼女たちは問題ではない。本当の問題は言うまでもなくユースティスだ。ユースティスはスマートフォン、タブレット端末、そしてデジカメを持った完全武装状態で、さらには報道(PRESS)を書かれた青いジャケットまで身に着けている。

 

「早速エコー・ワン鉱山にご案内したいところですが、まずは保安上の手続きを」

 

 ここで太平洋保安公司のコントラクターたちは前に出て金属探知機でギルノールたちを探る。当然ながらミーリエルのショートソードとユースティスの取材道具が反応した。

 

「保安上の観点から反応した品はこちらで預からせていただきます」

 

「待って。スマートフォンでハイジャックでもすると思っているの?」

 

「保安上の手続きですので。納得がいただけなければ、ここで待っていてもらいます」

 

「クソ!」

 

 ユースティスのスマートフォンなどは没収され、彼女はなんら記憶媒体を持たないままにパワード・リフト機に乗り込むことになった。

 

 ギルノールたちを乗せたパワード・リフト機は大井第二飛行場を離陸。視察のスケジュール通りに、まずはエコー・ワン鉱山上空へと飛んだ。

 

「凄い、凄い! 空を飛んでいますわ、お兄様!」

 

「ああ。確かに凄いね、エアルベス」

 

 エアルベスはパワード・リフト機が飛んだだけで大喜びしている。実にほほえましい光景であったが、今のギルノールの頭にあるのは、エコー・ワン鉱山がどのように開発されているかだ。

 

「あそこに見えるのがエコー・ワン鉱山です、殿下」

 

 フォンがそう言って指さすのは大地に巨大な穴を穿っているエコー・ワン鉱山だ。遠くからでも巨人のごとき重機が行き来しているのがはっきりと見える。

 

「私の記憶が確かならば」

 

 ギルノールが告げる。

 

「あそこにはダークエルフたちの聖地があったはずだが?」

 

「その点は住民について説明し、理解と協力を得ております」

 

 聖地の件についてはギルノールも事前に調べていた。何せ、ダークエルフはつい最近まで軍人としてアルフヘイム郊外にいたのだ。情報を集めるのはそこまで難しいことではなかった。

 

「聖地があることを認識したうえで開発を?」

 

 そう尋ねるのはユースティスだ。

 

「もちろんです。我が社は怠りなく説明責任を果たし、住民に理解をいただきました。彼らが鉱山開発による影響を受けている分、我々は彼らへの経済的な援助を惜しみませんでしたので」

 

「具体的な援助内容についてお聞きしても?」

 

「病院や学校の整備、またインフラの整備などです。彼らは喜んでいましたよ。さらに詳細な情報が必要であれば、のちほど大井本社にご連絡ください。資料を送らせていただきます、ユースティスさん」

 

「ええ。そうする」

 

 記者というのは決して真実の代弁者などではない。彼らには彼らが伝えたい情報があり、広めたい世論があり、それに従って情報発信をコントロールするのだ。だから、ユースティスがフォンから聞いたままの情報を発信するとは限らない。

 

 とは言え、それはフォンとて同じこと。彼は大井にとって都合のいい事実を捏造して、ユースティスに伝えているのだから。

 

「ダークエルフたちのために学校を? 見せてもらってもいいか?」

 

「空からならば見ることはできます」

 

「地上で見たい」

 

「それは保安上の観点から不可能だと言わざるを得ません」

 

 ギルノールの要請にフォンは首を横に振る。

 

「何故だ? ダークエルフたちは納得し、問題は起きていないのだろう?」

 

「ええ。ですが、治安の悪化が報告されています。弊社従業員への暴行も報告されました。原因は未だ不明です。よって、我々は地上での視察は危険だと判断しました」

 

「それはダークエルフたちが納得していないのではないか?」

 

「原因は不明です」

 

 広報であるフォンの役割は気の利いたジョークをいうことではない。会社の見解を徹底するだけだ。

 

 これはある意味では取り調べと同じだ。かの有名なミランダ警告にある通り『あなたの供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる場合がある』というわけだ。

 

 まして、物事を曲解することには定評のあるメディア記者が同席しているのでは。

 

「では、空からでもいいのでダークエルフたちのために作ったという学校などを見せてくれ。どこにあるのだ?」

 

「はい。もちろんです。予定に入っておりますのでお待ちください」

 

 フォンがギルノールにそう言う中でパワード・リフト機はフィリアン・カール上空を飛行し、ダークエルフのために作られた居住区に向かう。

 

「あちらに見えるのがダークエルフたちの居住区です。学校や病院、電気や上下水道といったライフラインの整った快適な居住区ですよ。彼らもまた開発による恩恵を受けている証でしょう」

 

 フォンはそう自慢げにダークエルフたちを押し込んだ居住区を指す。

 

「ダークエルフは遊牧民だと聞きましたが、一定の場所で暮らすことに何か反発は?」

 

「我々は説明を行い、納得して移住していただきました」

 

「反発はなかったのですか? あったのですか?」

 

「説明責任は果たしたうえで移住は実行されました」

 

 得てしてメディア記者とメガコーポの広報部のやり取りは不毛なものだ。

 

「まあ! とても高い建物があるのね! 王都のようだわ!」

 

 エアルベスはダークエルフために建てられたマンションに注目していた。

 

 無機質に並ぶ10階建てのマンション。自然の色などどこにもなく、マンションはまるで幽霊屋敷のように静かにたたずんでいた。

 

「けど、ダークエルフたちは何をして暮らしているの? お仕事は?」

 

 ここでエアルベスがそう尋ねる。

 

「彼らは学校で職業訓練を受けております。それが完了し次第、我々が整備する工場や農場で働くことができるでしょう」

 

「へえ。あなたたちは何でも作ってしまうのね」

 

「地域社会への貢献は大井の掲げる目標でもありますので」

 

 エアルベスは感心したように言い、フォンはそう言って微笑んだ。

 

 ユースティスの方はエアルベスの指摘で、遊牧民である彼らが本来の仕事である遊牧ができない状態にあることに気づいた。マンションの周りには家畜の姿などない。

 

 この完璧に見えて不自然さがある光景の写真が取れたらとユースティスは思ったものの、カメラの類は太平洋保安公司によって没収されてしまっている。

 

「鉱山開発に現地住民の雇用は?」

 

「現地の警備会社などと契約しております」

 

「それはダークエルフ?」

 

「いいえ。ワーウルフ族という方々です。我々は雇用の多様性を重視していますので。彼らはまたエコー・ワン鉱山の警備にも当たっています」

 

「ダークエルフは今のところ雇用していない、と?」

 

「彼らが望まないのに無理やり働かせるわけにはいかないでしょう? 就労の自由は守られるべき価値観です」

 

「それは確かにね」

 

 ユースティスは納得がいかないものを感じながらも、フォンの発言は全て正確に記憶することに務め、メモに記しておいた。

 

「それではエコー・ワン鉱山の視察に向かいましょう。地上での視察になります」

 

 そして、パワード・リフト機はエコー・ワン鉱山を目指し、そこに着陸していった。ギルノールが望んだ地上での視察の始まりだ。

 

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