異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~ 作:第616特別情報大隊
……………………
──部族代表会議
ギルノールのインタビューはG24Nによって報じられた。
大井はこれまで説明責任は果たし、住民はそれを理解したという見解をずっと発表していたが、それが嘘偽りである可能性が生じてきたのである。
地球のメディアは異世界に開発がちゃんと法に則って行われているのかを疑問視し始め、投資家たちは異世界開発を行っている企業の人権や環境におけるデューデリジェンスを気にし始めた。
大井にとっては望ましくない状況だ。
「現状ではダークエルフたち聖地解放運動にエコー・ワン鉱山を攻撃するだけの戦力はないと、ヴァンデクリフトは分析している」
司馬はエルディリア事務所にて幹部職員を前にそう語る。
「しかし、だ。連中が少しでも武力攻撃を行い、そのことがメディアによって大々的に宣伝されるだけで、エコー・ワン鉱山における開発は大打撃を受けかねない状況だ。この点をヴァンデクリフトとフォンは解決するプランを持っている」
そして、司馬がヴァンデクリフトとフォンの方を見る。
「これは我が社の開発に対する反発であれば問題になることです。ですが、シンプルにエルディリアからの分離独立を企むテロリストとなれば、我が社は無関係でいられます」
「そう、重要なのはこれを我が社の戦争にしないこと。我が社の開発に起因する戦闘なのではなく、エルディリアに問題があり、ダークエルフたちに問題があり、そのせいで起きている戦闘だということにするべきなのです」
ヴァンデクリフトとフォンの意見はそういうものだった。
エコー・ワン鉱山の開発にダークエルフたちが反発して武力闘争に出れば、確かにそれは大井の責任だ。
しかし、ダークエルフたちが勝手に分離独立を目指し、エルディリア政府に反発しているだけならば、それは大井とは無関係である。
「そのために必要なのは表に出すダークエルフたちを作ることです。我々の開発に理解を示しているダークエルフたちをメディアに出し、聖地解放運動は急進的な思想のテロリストだというレッテルを貼らねばなりません」
「再教育センターにいるダークエルフで使えそうなのを探れ」
「了解」
こうして大井側は再教育センターにて従順かつアイナリンド大佐たちに反感を持ったダークエルフをリクルートして、傀儡政権となる組織を樹立。
それが部族代表会議だ。
総督ファレニールの命令で結成が命じられ、総督の下でかつての部族評議会のように活動する組織として編成された。しかし、部族評議会と違って部族代表会議は完全な大井のイエスマンだ。
そこにはギルサリオンのようなかつての部族評議会のメンバーは一切存在しないし、実際にどのような権限があるかも酷くあいまいであった。
「我々は大井による開発とそれによってもたらされる経済的恩恵に満足しています。彼らにはもっと大規模に事業を進めてもらいたいですね」
大井の広報部は、こう語る部族代表会議の議長となった若いダークエルフであるイングロールの発言をSNSからテレビまでの様々な媒体で拡散した。
「開発に反発しているのは一種の民族主義者で、エルディリアとの安定した関係を破壊したいテロリストたちです。連中は自分たちが独裁者として君臨する国を作ろうとしている軍閥でもありますよ」
イングロールはさらにそう語り、さも一般的なダークエルフは開発を受け入れているかのように振る舞った。そんな彼の懐が大井からの贈賄で温まっているのは言うまでもないだろう。
こうして部族代表会議なる傀儡は打ち立てられ、戦争の争点からエコー・ワン鉱山を除外させるという試みは始まった。
「連中は裏切り者だ! やつらに死を! エルディリアからの独立を!」
オロドレスたちは北部の勢力は部族代表会議に猛烈に反発し、大井が望んだようにエルディリアからの完全な独立を叫び始めた。
もはや北部は聖地解放運動の中でもさらに急進的な若い戦士たちが集う、そんな過激な集団となってしまっていた。聖地解放運動の指導者たるアイナリンド大佐も制御できていない、そのような集団である。
「国として独立するには、それなりの勝利が必要だ」
オロドレスはそんな急進的なダークエルフたちに告げる。
「大規模な攻撃を仕掛けるぞ。目標は総督であり大井の傀儡どもだ」
「総督と部族代表会議を?」
「そうだ。まずは総督を狙う。それから部族代表会議だ。侵略者である大井に与すればどういうことになるのかを知らしめ、我々が独立を勝ち取るのに相応しい存在だということを内外に示すのだ!」
「おおっ!」
若い戦士たちにオロドレスはそう語り、オロドレスたちは総督であるファレニールの襲撃を画策する。
しかし、総督ファレニールは太平洋保安公司の小部隊に警護されている。ファレニールは総督でありながら、大井の外部顧問に就任しているためだ。そのため大井の指定する警護対象者リストに名前があった。
小部隊と言えど、現代の銃火器で武装し、いつでも援軍が呼べる彼らは手ごわい。さらに総督の自宅周辺はドローンが常に飛行している。撃墜可能なクアッドロータードローンではなく、高度7000メートル付近を飛行する大型ドローンだ。
だから、オロドレスたちはかなり知恵を絞ることになった。
自宅で襲うのは無理がある。厳重な警備に突っ込むのは自殺も同義。その自殺で目的が果たされるならばいいが、これまでの経験上はそうもいかない。
であるならば、外出先で襲撃を仕掛けるということになるだろう。その点の問題はどうやってファレニールのスケジュールを把握するかである。
その役に立ったのが部族代表会議側についたと思わせたダークエルフたちだった。彼らは従順な振りをしつつ、密かに大井や部族代表会議の情報を盗み、聖地解放運動などに流していたのである。
「ファレニールは今週末、プライベートな狩猟に出かける。同伴者は執事と太平洋保安公司の護衛数名だけだ」
それによって掴んだ情報をオロドレスが告げた。
「我々はここで総督を襲撃し、仕留める。いいな?」
「おうっ!」
以前のパワード・リフト機墜落現場襲撃の件では、たった数名の太平洋保安公司のコントラクターたちを前にオロドレスたちは酷い被害を出した。
だが、それでもオロドレスは襲撃計画を変更しなかった。
「我々は先に狩猟が行われる森に潜み、総督たちを待ち伏せる。やつらが来たら驚く暇もなく射殺してやろう」
恐らく総督たちが到着してからはドローンが周囲を探るだろう。そうなれば奇襲のチャンスはなくなってしまう。そして、奇襲が不可能ならば、地球の兵士たちを前に、ダークエルフは勝ち目がない。
オロドレスたちは入手したスケジュールを信じて、ファレニールが訪れる予定の森に潜み、ファレニールが訪れるのを辛抱強く待った。
これが失敗すればプランBだ。つまりはファレニールの屋敷を数の暴力に任せて襲い、力尽くでファレニール殺害を達成する。
そうなれば戦いの中で聖地解放運動の中でもオロドレスの指導する急進派は戦力を大きく損耗する。だが、それで奇跡的に勝利が得られたならば自分たちに続くものが現れ、戦いを継続する。そうオロドレスは信じていた。
彼らはある種の狂信めいた思想を有するようになっていた。それはオロドレスだけのせいではなく、聖地を奪われたことにもっとも不快な思いをしているナライオンの部族に属する司祭階級の影響もあった。
ナライオンの部族の司祭たちは狂戦士の薬という、以前にもオロドレスたちが使用したドラッグを製造し、それらを戦士たちに配って回ってる。彼らはその薬の中毒性などを完全に無視していることは間違いない。
聖地は奪われ、冒涜されたのに神は何もしてくれない。
司祭階級にとってはどこまでも不都合な事実であり、司祭たち全員が失脚してもおかしくない事実であった。
だから、彼らは大井に天罰を下すことこそが、我々が神から与えられた義務だと考え、その思想の下に先鋭化していっていた。
狂信の空気はそのような事情で生まれた。
……………………