異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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総督襲撃

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 ──総督襲撃

 

 

 フィリアン・カール王室属領総督たるファレニールは、大井の進出でもっとも利益を得た人間であることを否定するものはいないだろう。

 

 彼は今や高級SUVを乗り回し、地球産の高級酒を味わい、地球から招いたシェフたちの料理を貪り、それでいて大井の外部顧問として支払われた報酬からなる莫大な富を抱えている。

 

 そんな彼の仕事は大井のために様々な便宜を図ることと、第二王子アイリアンとの繋がりを保つことであった。もっともアイリアンとの繋がりは仕事というよりも、彼自身が生き延びるための保険であったが。

 

 そして、今回の狩猟もまたアイリアンとの繋がりを強化するためのものであった。

 

 ダークエルフの内通者はその点を見落としていた。ファレニールは確かに休暇として狩猟に向かったが、そこにはアイリアンの代理人であるスーリオン大佐がいたのだ。

 

「やあ、スーリオン大佐。今日は絶好の狩り日和だ」

 

 太平洋保安公司の護衛を受け、高級SUVで狩猟場に現れたファレニールが、既に到着していたスーリオン大佐に挨拶。

 

「だといいが」

 

 スーリオン大佐は副官のみを連れて、いつもの迷彩服とは違う、狩猟用の正装であった。しかし、持っているのはアメリカ製の狩猟用ライフルだ。これもアイリアンから授かったものである。

 

「最近のダークエルフども動きはどうかね、大佐?」

 

「相変わらずだ。エーミール・ルートは依然として攻撃を受けており、ダークエルフどもは諦めるつもりはない。エーミール・ルートはエルディリアでもっとも危険な道だ。そして、アイリアン殿下からは早急にダークエルフによる妨害をやめさせるように言われているが……」

 

「しかし、そのためには戦力が不足している、と」

 

「ああ。戦力不足だ。連中には土着のダークエルフどもに加えて、デックアールヴ旅団から脱走した6000名の将兵がいる。それに対して我々は1個連隊に過ぎない」

 

 ファレニールの問いにスーリオン大佐が忌々し気にそう語る。

 

「大井に増援を頼んでは?」

 

「それは無理だろう。連中ははっきりとは言わなかったが、現状ではこれを我々エルディリアとダークエルフの戦争だとみている。自分たちにとって本来無関係である戦争であるとしてな」

 

「ふむ。しかし、このまま妨害工作が進められて困るのは大井も同じだろうに」

 

「そう、それだ。連中と我々の利害は一致しているはずなのだ。我々にとっての不利益は、連中にとっても不利益なはず。なのにどうして力を貸そうとしないのか。全く理解に苦しむよ」

 

「司馬が言っていたが、政治だそうだ。彼らの世界では民衆が政治を行うと聞いたよ。だから、民衆の意見は無視できないと」

 

「だから何だと言うんだ?」

 

「それが問題なのだよ。いくら大井の利益になることでも、民衆には関係ない。そして、その民衆というのは開発においてダークエルフが一から百までちゃんと納得し、開発によって被った経済的損害を賠償され、不利益を一切被らないことを望んでいる」

 

「馬鹿な! 民衆が商品を求めるから大井は供給しているのだろう。それにそんなくだらないケチを付けるのか? 地球の民衆が何故ダークエルフどもの利益を気にする?」

 

「それが民主主義だそうだ」

 

「愚かな政体だな」

 

 民主主義が非効率な件についてはファレニールもスーリオン大佐も同意していた。

 

「では、そろそろ狩りに向かうとしよう。ゆっくりと政治の話でもしながら」

 

「ああ。あなたからも大井に働きかけてもらいたい。戦力を増強し、ダークエルフどもを一掃するということについて真剣に考えてほしいと」

 

「司馬に伝えておこう。さて、今日はどんな獲物が──」

 

 そこでファレニールが連れていた犬が吠え始めた。

 

「どうした? 何があった?」

 

「総督! こちらへ!」

 

 その犬の鳴き始めた理由を太平洋保安公司の護衛はすぐに突き止めた。ドローンが不明な熱源を捉え、それがファレニールたちの方に急速に接近しているのだ。

 

「敵か! ダークエルフどもだな!」

 

「大佐もこっちへ! 退避します!」

 

 太平洋保安公司の護衛は8名。彼らは急いでファレニールとスーリオン大佐を避難させようとし始めた。

 

 そこで雄たけびが聞こえてくる。

 

「偉大なるダークエルフの戦士たちよ! 大井におもねる総督を血祭りにせよ!」

 

「殺せ、殺せ、殺せ!」

 

 山刀を構えたダークエルフたちが、弓矢を構えたダークエルフたちが、魔術を唱えるダークエルフたちが、ファレニールたちのいる場所に迫ってくる。

 

「車を回せ! 急げ、急げ!」

 

「増援の要請はどうしますか!?」

 

「許可する! 呼べ! 『我々は現在ダークエルフによる大規模な攻撃を受けている。支給増援を求める』だ!」

 

「了解! こちらノーヴェンバー・ツーより本部(HQ)──」

 

 太平洋保安公司の護衛は4名がファレニールたちを乗せる車両を準備し、残る4名はダークエルフたちを食い止めるために布陣した。

 

接敵(コンタクト)!」

 

 そして、自動小銃の光学照準器にダークエルフ性質の姿が映る。

 

 サプレッサーで抑制された銃声がすぐさま響き、ダークエルフたちが高速ライフル弾を受けて地面に倒れる。だが、やはりドラッグを使用している彼らは多少の被弾では止まらず、武器を振り回して迫ってくる。

 

「撃て、撃て! クソ、車両はまだか!?」

 

「こちらに向かっています!」

 

 指揮官が叫ぶのに部下が答えた。

 

「クソ! 矢が届く距離まで迫られました! 撤退命令を!」

 

「分かった! 下がれ、下がれ!」

 

 銃撃を繰り返しながら、太平洋保安公司の護衛は後退していく。既に彼らの手前には矢が降り注ぎ、地面に突き刺さりつつある。

 

「大井の兵隊どもが逃げるぞ!」

 

「逃がすな! 殺せ! 総督を含めて皆殺しだ!」

 

 ドラッグによって興奮したダークエルフは銃弾を恐れることなく進み、退却を試みる太平洋保安公司のコントラクターを狙う。

 

「指揮官! 我々は囲まれています!」

 

「不味い……!」

 

 車両がやってきてファレニールとスーリオン大佐を収容したものの、その車両が太平洋保安公司のコントラクターたちごとダークエルフに包囲されてしまった。

 

 太平洋保安公司側が立て籠もる車両に向けて無数の矢が降り注ぎ、防弾ガラスが嫌な音を立てる。魔術攻撃も叩き込まれるが、一応火炎瓶などに対す対策が施されている車両に影響はない。

 

 だが、このままでは全員殺されるのは時間の問題だ。

 

「増援をもう一度要請しろ!」

 

「了解です! こちらノーヴェンバー・ツーより本部(HQ)──」

 

 銃弾が急速に底を突き始め、それでいてダークエルフの脅威は増す一方の戦場にて、太平洋保安公司側は死を覚悟し始めた。

 

 そのときだ。

 

 パワード・リフト機のエンジン音が響くと、車両に迫っていたダークエルフたちが突然生じた爆炎によって吹き飛ばされる。

 

「来たぞ、友軍だ!」

 

 飛来した太平洋保安公司の2機のパワード・リフト機は地上をロケット弾と機銃で掃射して降下地点(DZ)を確保すると、友軍部隊を降下させ始めた。友軍部隊にはアーマードスーツも含まれている。

 

「無事か!?」

 

「負傷者はいない! 大丈夫だ! だが、ここを切り抜けなければVIPが危ない! それに加えてもう俺たちは弾薬切れだ!」

 

「分かった! 後は任せろ!」

 

 増援の部隊にバトンタッチして戦闘が始まり、ダークエルフの人海戦術を前に現代の火力が牙を剥く。

 

 連続して放たれるサーモバリック弾頭のロケット弾。全てを薙ぎ払う重機関銃。空中で炸裂して鉄球をばらまくグレネード弾。

 

 あらゆる武器がダークエルフに叩き込まれ、ダークエルフたちは初期の勢いを完全に喪失し、士気がみるみる低下し始めた。

 

「やむを得ない……! 撤退だ!」

 

 オロドレス自らがそう命じ、ダークエルフたちは撤退を始めた。

 

 太平洋保安公司と護衛対象に死傷者はいない。

 

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