異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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調査

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 ──調査

 

 

 エルディリア王国首都アルフヘイムの郊外に大井の飛行場が整備されたのは、司馬がアイリアンの政治的影響力によって調査契約を勝ち取ってから2週間後のことだ。

 

 大井第一飛行場という名の二本の滑走路を備えた飛行場が完成していた。

 

「殿下。こちらが飛行機という乗り物です。飛行機の中の部類としては軽飛行機というものとなります」

 

 司馬は飛行場のエプロンに駐機された4人乗りの軽飛行機をアイリアンに示す。この機体と同時に大井が用意した、日本空軍上がりのベテランのパイロットが恭しくアイリアンに頭を下げて見せた。

 

「おお。鳥のような見た目なのだな。どのようにして飛ぶのだろうか?」

 

「それは是非ともお乗りになってお確かめください」

 

「うむ。そうしよう」

 

 司馬の勧めでアイリアンはパイロットとともに飛行機に乗り込んでいった。

 

「お気を付けて」

 

 かつてアクロバット飛行を行う飛行隊にも所属していた元空軍パイロットの操縦で、アイリアンは思う存分空の旅を楽しむことになる。

 

「司馬さん。ドローンの組み立てが完了しました」

 

「いよいよだな」

 

 大井は今回の事業にかなりの力を入れており、彼らの中では虎の子と言える超大型ドローンをエルディリアに派遣していた。

 

 それは無人機であり、ドローンであるが、もうひとつの呼び名のあるものだ。

 

 成層圏プラットフォーム“ゆりかもめ”。

 

 それはドローンの中では大型なことで知られたRQ-4グローバルホークを上回る大きさで、両翼にはソーラーパネルが装着されている。期待には各種センサーや通信中継機をオプションで選んで装着可能で、衛星の代わりとして機能する。

 

 このエルディリアのある世界でいちいち衛星を打ち上げられない以上、このゆりかもめが衛星の代わりになる。

 

「石井技術リーダー。調査はすぐに始められるのか?」

 

「まずは機体の動作テストを行いますので、3、4日後です」

 

 技術部門のリーダーは石井聡という人間で、カリフォルニア工科大学で地質学の博士号を得たのちに大井エネルギー&マテリアルに入社している。

 

「短縮できないのか?」

 

「下手に急いで事故が発生すれば、結果として採掘はより遅滞してしまいます。ここは確実に進めていくべきです」

 

「そうだな。急がば回れ、だ」

 

 石井の説得に司馬が頷いた。

 

「では、調査スケジュールについて確認しよう」

 

「ええ。こちらへどうぞ」

 

 司馬は大井第一飛行場に整備された技術部門の拠点に案内される。

 

 技術部門はプレハブ式の建物を拠点としており、プレハブと言えどエアコンなどがしっかりと整備された場所に、動員された大井の技術スタッフたちが集まっていた。

 

 中は各種ケーブルから工作道具、他の何まできちんとした整理整頓が行き届いており、大井のスタッフに対する教育が窺える。

 

「調査スケジュールはこのようになります」

 

 石井はそう言って司馬のARデバイスに資料を送信。

 

 そこには目次としてこうあった。

 

 1)上空からのリモートセンシングによる大まかな資源埋蔵地の確認。

 

 2)地上における地質学的・地球物理学的調査。

 

 3)試掘の実施とサンプルに対する化学分析の実施。

 

 このように大まかに3つの段階からなる計画が詳細とともに記されている。

 

「まずはドローンを飛ばして、上空から調査を実施します。これでかなり正確な資源に分布図が得られるはずです」

 

「調査完了まではどの程度の時間が?」

 

「まだそこまでは。しかし、予定としては3か月を目標に考えています」

 

「3か月。これも短縮は難しいか?」

 

「ですね。これでもかなり無茶な人員の運用を行っていますから」

 

「分かった。スケジュール以上に急かしはしないが、遅滞は許されないということを理解してくれ。いつ王国政府の気が変わるか、あるいは競合他社の介入が発生するか、我々にも分からないのだ」

 

「了解です」

 

 巨万の富を生むお宝はすぐそこにあるのだが、それを手にするまでには耐えがたいほどの時間がかかる。それが今の大井の状況だった。

 

 レアアースがエルディリアに眠っているのは間違いない。しかし、それが採算の取れるものなのかは話が別だ。

 

 日本の近海に位置する海底資源がいい例になるだろう。日本近海の海底資源は膨大だと2030年代には分かっていたが、採掘のコストが得られるリターンを遥かに上回っていた。そのせいで開発が行われることはなかったのだ。

 

 今回も得られるリターンをコストが上回れば、採掘の規模は縮小されるか、あるいはキャンセルされるかである。

 

 いくら資源不足であったとしても、資源によって生産される商品が、そのコストによって消費者の手の届かない価格になって意味がない。

 

 そのような事情から、まずは徹底した調査が求められていた。

 

 技術部門は王国政府から同意を得た調査契約に基づいて、ドローンによる大規模な調査をまずは開始。ゆりかもめは合計で6機動員され、2機ずつ飛行させるローテーションで調査は行われた。

 

 近年、資源開発技術は飛躍的に進んでおり、大抵のことは空から見れば分かるほどであった。またAIによるデータ解析も進んでおり、得られた画像など情報をAIの解析にかければ、すぐさま結果が得られる。

 

 そんなドローンによる調査がエルディリア全土に渡って行われた。

 

 そして、結果がエルディリア事務所で報告される。

 

「データを見てください」

 

 石井はそう言って列席者たちのARデバイスにデータを表示する。

 

「ドローンによる調査結果ではエルディリアの国土の南方に巨大なレアアースの埋蔵地があることが分かりました。埋蔵されているのは主にリチウムで、地球上のいかなるリチウム鉱山より巨大です」

 

 推定される埋蔵量のデータを見た列席者たちから驚きの声が上がる。

 

「この南方において地上での調査を行いたいと思いますが、この地域の情勢はどのようなものなのでしょうか?」

 

 石井は保安部門のヴァンデクリフトにそう尋ねた。

 

「まず、そこはフィリアン・カール王室属領という場所です。そして、あまり我々のビジネスにとって都合のいい場所ではありません。これまで交渉してきたエルディリアの人間は全員がハイエルフという種族とされています。しかし、南方に暮らすのはそれとは異なる民族なのです」

 

 ヴァンデクリフトの保安部門は情報部門も含んでおり、エルディリアにおける様々な情報の収集と分析を行っていた。

 

「南方にいるのはダークエルフと呼ばれるものたちで、王国内での一定の自治を認められています。彼らが自治権を有しているのは、歴史的な経緯と兵役などの王国への貢献が認められてのことです」

 

 ヴァンデクリフトがそう報告。

 

「つまり、王国政府とは別に交渉する必要があるかもしれない、と?」

 

「可能性としては。法律の上では国土を有しているのは、あくまで王国政府であり、それも王族による直轄領となっています。しかしながら、その領地に暮らしているダークエルフたちは自治権を有していると複雑です」

 

「よし。ならば問題ない。我々はダークエルフとやらの政治に口出しするつもりはないのだ。用があるのはリチウムの眠る土地であって、そこに暮らす人間ではない。彼らの自治権を脅かすことはないだろう」

 

 司馬はヴァンデクリフトの報告にそう判断した。

 

「念のために調査に赴く技術スタッフには厳重な警護を」

 

「了承する。手配はできているのか?」

 

「既に民間軍事会社(PMSC)と契約しています」

 

「よろしい。その点も王国政府との契約には含まれている。問題ない」

 

 民間軍事会社(PMSC)の武装の許可と治外法権も契約書にはある。

 

「それでは諸君。お宝まではもう少しだ」

 

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