異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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反応がなくなってきた……。


難民キャンプ

……………………

 

 ──難民キャンプ

 

 

 リンスィールが収容されたのは部族代表会議の管轄になる難民キャンプだった。

 

 もっとも警備と運営は太平洋保安公司が行っており、事実上の太平洋保安公司の施設だが。それでも部族代表会議は難民たちを自分たちの陣営の構成員扱いしていた。

 

 難民キャンプはいい環境とは決して言えなかった。難民キャンプからの出入りは、聖地解放運動や共和国陸軍の潜入工作員がいることを恐れて禁止されており、難民キャンプは過度な収容によって混乱していた。

 

 それでも食事はしっかり出たし、医療もある。

 

 だが、両親のいないリンスィールは孤独だった。

 

 彼は割り当てられたテントで寝起きし、食事をして、寝るだけの日々。友達も太平洋保安公司によって殺し尽くされてしまっている。彼は本当に孤独だった。

 

 今日も朝起きて、朝食をもらうために列に並ぶ。

 

 難民キャンプにも子供はいるが、みんな理由があってここにいる。リンスィールのように両親を亡くしていたりという理由だ。そうであるが故に彼らの表情は暗い。

 

 それはとても友達になろうとは言いだせないような空気の中だった。

 

「君!」

 

 そこで声がかけられたのにリンスィールが振り向くと、そこには見知らぬ女の子がいた。リンスィールと同じようにダークエルフであり、彼より少しほど年上で背が高い。

 

「君はナライオンの部族?」

 

「う、うん。君はシルヴァリエンの部族だよね?」

 

「そう。戦士ではなく子供だけどね」

 

 女の子がそう話すのにリンスィールは少し緊張した。

 

「名前は?」

 

「……リンスィール」

 

「私はエルミア。よろしくね、リンスィール」

 

 唐突ではあったが、リンスィールはエルミアという少女に出会った。

 

 彼らは朝食を受け取ると、同じ場所で食べることに。難民キャンプの中はテントでいっぱいで空いているなどほとんどないが、そんな中でもエルミアは涼しくて過ごしやすい場所を知っていた。

 

 それは太平洋保安公司の事務所がある場所のすぐ外で、扉からクーラーの冷気が漏れてきて、幾分か涼しかった。それに太平洋保安公司のコントラクターたちは、エルミアが来るのはいつものことのようで見逃していた。

 

 朝食はクラッカーと野菜と肉のスープと果物だ。

 

「君は狩りはしたことある?」

 

「あるよ。練習してたから」

 

「捕らえた獲物はどんなの?」

 

「ウサギとか……」

 

「私は大きなシカを取ったことがあるよ」

 

「凄い!」

 

 エルミアが自慢するのにリンスィールは羨ましげに彼女を見る。

 

「でも、僕たちもう狩りはできないのかな……」

 

「そんなことはないよ」

 

「だってここから出られないんだよ?」

 

「戦争が終われば出れるよ」

 

「戦争はいつ終わるの?」

 

「分からないけど、多分地球の人たちが勝って終わるよ」

 

「僕たちは負けるの?」

 

「質問ばっかり!」

 

 リンスィールが問いを重ねるのにエルミアは果物のリンゴをかじった。

 

「ここでもできることはあるよ。罠の作り方を練習したりとか。勉強も教えてくれるって言っているし」

 

「勉強って何をするの?」

 

「商人みたいに計算をしたり、文字を習ったりするの」

 

「へえ」

 

「後で案内してあげるね」

 

「うん」

 

 リンスィールたちがこのような会話をしていたとき、この難民キャンプの外を歩く人間がいた。司馬たちだ。

 

「難民キャンプは収容上限に達したと聞いているが」

 

「これ以上広くはできませんよ。太平洋保安公司は人手不足です」

 

 司馬が言うのに川内が首を横に振る。

 

「太平洋保安公司からエルディリア政府に管理を委任できないか?」

 

「連中が捕虜収容所でやらかしたことを考えるならば、あまりお勧めはできませんが」

 

「クソ。しかし、他に方法がない。例のG24Nの記者が難民キャンプを見せろと言っている。例によってギルノールがそれにエルディリア政府として許可を与えようともしているんだ。この収容過剰が見られるのは不味い」

 

「別の場所を見せればどうです? 上手くいっている移住地などもあるでしょう」

 

「そうしたかったが、誰かがこのフィリアン・カールの情勢をギルノールに流している。内通者がいるぞ。ヴァンデクリフトが言うにはエルディリア軍内にギルノール派の将校がいるだろうということだ」

 

「分かりました。できる範囲で収容過剰を解決しておきます」

 

「頼むぞ」

 

 得てして民間の刑務所などはコストを重視しすぎて待遇が悪くなるものだ。

 

 この難民キャンプも太平洋保安公司がエルディリア政府から請け負って運用しており、事情は同じ。さらに彼らは実際には行っていないサービス分も請求する過剰な請求によって大金を得ていた。

 

「無理ですよ、川内大尉。人員が足りません」

 

 難民キャンプを管理する太平洋保安公司のコントラクターがそう告げる。

 

 太平洋保安公司は人員数についても、実際にいない人間をカウントして、過剰請求を行っていた。そのせいであらゆる業務が慢性的な人手不足に陥っている。

 

「どうにもならないのか?」

 

「例のマイク・フォースに人手を取られてますし、我々もレッドファング・カンパニーもです。レッドファング・カンパニーの方でも人員の募集をかけているようですが……」

 

「少しでいいんだ。今の状況から少しだけ改善されるだけでいい」

 

「その少しを達成できる人手がないんです。何せ、今の規模でもみんなひいひい言ってますから」

 

 マイク・フォースを中心とする部隊がダークエルフへの掃討戦を強めたことで、太平洋保安公司全体で人手不足が加速していた。何かあればマイク・フォースの支援に回されるために、とにかく人がいない。

 

「どれくらい人がいればいい?」

 

「1個中隊かそれ以上。欲を言うならばいくらでも人がいてほしいですよ」

 

「分かった。本社に問い合わせてみる」

 

 川内は自分より上位の階級だった人間の派遣も含めて本社と交渉した。

 

 しかし、本社は契約更新には大井及びエルディリア政府との交渉が必要ということで、数か月先まで待てと回答。そんなには待てないという川内に本社は現地雇用のスタッフならば増員できると言った。

 

 つまりはレッドファング・カンパニーを頼れということ。

 

 川内はレッドファング・カンパニーの団長ヴォルフに相談し、彼にもっとレッドファング・カンパニーを増員できないかと尋ねた。

 

「そいつは大丈夫だぜ。なんたってあんたらは支払いはいいし、後方支援も万全だ。こっちに加わりたいって人間は大勢いる。そういう連中を集めていいんだな?」

 

「ああ。できれば、質は維持してほしい。お前たちは最良の傭兵だからな」

 

「そう言われちゃあ張り切るしかないな!」

 

 レッドファング・カンパニーはそれから増員され、同じワーウルフ族の傭兵たちが集まった。彼らは銃火器を扱う訓練を受け、各部署に配置された。

 

 特にマイク・フォースにて太平洋保安公司の1個小隊を交代。マイク・フォースは生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)1個小隊とレッドファング・カンパニー2個小隊と編制となった。

 

 そして、ローテーションから外された1個小隊分の戦力が難民キャンプに配属。

 

 わずかながら人手を得た難民キャンプはやや拡大した。

 

 しかし、特に食事の質が良くなったわけでもないし、相変わらず難民は過剰収容気味だったし、問題はとても多い。

 

 それでも少しは改善したと川内は司馬に報告。

 

「フォン。例のG24Nの厄介者が難民キャンプを見せろと言っている。君はどうするべきだと思う?」

 

 エルディリア事務所にて司馬が広報のフォンに尋ねる。

 

「正直、何を見せても批判する記事を書かれますよ」

 

「そんなことは分かっている。だが、見せなかったらどうなる?」

 

「憶測で見せられない理由を書きたてられるでしょうね」

 

「クソ。じゃあ、見せた方がマシだな」

 

「見せるならば準備は万端にしておきましょう。自分が手配しておきます」

 

「頼むぞ」

 

 今の時点でG24Nのユースティスを暗殺するというオプションはなかった。先に死んだセルシウスの件からあまりにも時間が経っていない。こうも連続して記者が死ねば、それそのものがニュースになってしまう。

 

「最終的には消すしかないかもしれない」

 

 しかし、それでも司馬はそう考えていた。

 

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