異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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無関心

……………………

 

 ──無関心

 

 

「どうしてこのニュースが報じられないんですか!?」

 

 G24Nの記者ユースティスは宿泊しているホテルの一室でそう叫んでいた。

 

 彼女はギルノールとともにフィリアン・カールの難民キャンプを取材し、そこにあったものをカメラに収めてきた。そして、それらを纏めた記事を映像を本社に送信したのだが、本社からは報じられないと言われたのだ。

 

『金網の向こうの難民や立ち並ぶ粗末なテント。確かにそれらは悲劇だ。だが、あまりにもありふれた悲劇なんだよ。分かるだろう? こういうのにはもうみんな慣れきっていて、大して新鮮にも感じない』

 

「……!」

 

 ユースティスの上司が述べるように、確かにその通りだった。

 

 難民の悲惨な状況というのは、判を押したように同じ光景なのだ。

 

 金網の向こうに飢えた子供たちがいて、粗末なテントが並び……。

 

 これまで地球のありとあらゆるメディアはあらゆる悲劇を毎日のように報じ続けた。誰も口にはしないかったが、悲劇は金になるからだ。

 

 だが、どんなお涙ちょうだい物語も百回聞かされたらうんざりするものである。地球のメディアは悲劇を報じすぎ、もう地球の民衆はよほど残酷な悲劇でない限りは、反応しなくなっていた。

 

 まして、それが地球ですらない、誰も知らないような異世界のどこかとあっては反応など望めるはずもない。

 

『君の送ってきた映像は報じるような時間はないよ。ネットに個人的に流してもらってもいいが、大した反応は見込めないだろう』

 

「しかし、現地の開発は危機的なもので……」

 

『なら、それを示すもっと具体的な情報と映像をくれ。よくある難民キャンプの映像なんかじゃなくて、だ。分かるな?』

 

「……はい」

 

『なあ、ユースティス君。この件は諦めて、もうそろそろこっちに戻ってきたらどうだ? ワシントンD.C.担当の記者に空きができる。君はこっちで活躍した方がキャリアが構築できると思うがね』

 

「もう少しだけこっちで頑張らせてください」

 

『そういうなら無理に止めはしないよ』

 

 そう言って上司との電話は切れた。

 

「クソッタレ!」

 

 電話が切れたと同時にユースティスがスマートフォンをベッドに投げ付ける。

 

「でも、確かによくある絵だって印象はあった。報じられないかもしれないって。だけど、大井が無茶苦茶をやっている証拠のひとつにはなると思ったのに……!」

 

 今のところユースティスは大井の開発による被害を暴こうと必死だったが、それは全く功をなしていない。

 

 大井は巧妙に自分たちに非人道的な行為を隠している。それに加えてエルディリア政府も陰謀に加担し、事実を隠蔽している。

 

 大井とエルディリアの取引で動いている額は凄まじい。そのせいで潤う関係者が多く、そのことが事実の隠蔽に繋がっていた。

 

「何かもっと象徴的な絵がほしい。どれだけ悲劇を見てきた人間でもぐっとくるような、そんな映像。だけど、フィリアン・カールを自由に取材できるわけでもないし、どうやったらそんな映像が……」

 

 そこでホテルの部屋の扉がノックされ、ユースティスが警戒する。ユースティスの前任者であるセルシウスが殺されたと思しき後では、警戒するのは当然といえた。

 

 彼女は密かに持ち込んだ口径9ミリの自動拳銃を握り、ドアに向かう。

 

「どなたです?」

 

「ミーリエルです、ユースティス殿」

 

「ああ。ミーリエルさん」

 

 訪れたのはギルノールの護衛騎士であるミーリエルだった。ユースティスは安心して部屋の扉を開く。

 

「難民キャンプの報道についてはどうなりましたか?」

 

「全然だめです。報じる価値はないと言われました」

 

「そうですか……」

 

 ユースティスが答えるのにミーリエルが肩を落とす。

 

「では、これはいい知らせかもしれません。我々は聖地解放運動と接触するつもりです。彼らの指導者であるアイナリンド大佐が交渉のチャンネルを持っておきたい、と」

 

「本当ですか!? その、私も同行できますか?」

 

「当然です。ですが、殿下は流石に同行できませんので、安全については保証できません。よろしいですか?」

 

「もちろんですよ」

 

 ここにきて大スクープのチャンスが回ってきた。

 

 現地の反政府勢力から大井が何をやってきたかを聞き出せれば、それだけでニュースにできるはずだ。

 

「それでは出発は7日後です。準備なされていてください」

 

「ええ」

 

 こうしてユースティスにチャンスが巡っていたとき、彼女が映像に取ったが報じられなかった難民キャンプではリンスィールの生活が続いていた。

 

 彼は友達になったエルミアの案内で青空教室に参加していた。

 

「いいかい。この問題はこうやって解くんだ」

 

 教師役をしているのは太平洋保安公司のコントラクターのひとりで、名前をテオ・パウエルといった。彼はこの難民キャンプの管理者でもある。

 

 この世界での戦争を仕事と割り切っている川内たちと違って、パウエルは傷ついた子供たちに共感していた。彼らの喪失感を少しでも満たしてやりたいと思い、こうして青空教室を始めたのだ。

 

 傭兵やコントラクターが全員が全員、戦争の犬というわけではないということだ。

 

「では、この問題の答えは?」

 

「はい!」

 

 子供たちは競って手を上げる。

 

「じゃあ、リンスィール君」

 

「5!」

 

「正解だ! いいぞ!」

 

 パウエルが褒めるのにリンスィールは笑みを浮かべる。

 

 パウエルの妻は学校教師であり、パウエルは彼女からどうすれば子供たちが進んで学びたくなるかを教えてもらっていた。彼が場を盛り上げていくのに、子供たちも寂しさを忘れ、問題に熱中していた。

 

「さて、そろそろ終わりだね。みんな、お菓子を持って帰っていってくれ」

 

「わあ!」

 

 子供たちの楽しみのひとつは青空教室の終わりに配られるお菓子だ。チョコレートであったり、キャンディーであったり、グミであったり、パウエルが準備したお菓子を子供たちは手にしてテントに戻る。

 

「物好きですね、パウエルのやつ」

 

「いいんじゃないか。未来の聖地解放運動の聖戦士が生まれることを防いでくれることになるかもしれないし」

 

「おいおい。あの子供たちが大人になるまでここにいるつもりはないですよ。金が入ったらすぐに出ていく予定なんですから」

 

 しかし、子供たちのことを考えているようなコントラクターはパウエルぐらいものもで、他のコントラクターはただの仕事にそこまで熱を入れていなかった。

 

 そして、そんな難民キャンプから離れたエルディリア事務所では司馬がフォン、ヴァンデクリフト、川内を前にして打ち合わせを開いていた。

 

「例のG24Nの取材だが、地球で報じられた形跡はありません」

 

「本当か?」

 

「はい。どのメディアにもそれらしき情報はなく、G24Nはどうやらこの問題に興味を失いつつあるように思えます」

 

 司馬が確認するのにフォンはそう報告した。

 

「いい傾向だな。ここでのことはありきたりな悲劇になりつつある」

 

「後は人々がエルディリアやフィリアン・カールという言葉から悪感情を連想しないようにイメージを構築していく必要があるでしょう。大衆が抱くイメージというのは馬鹿にできませんからね」

 

 イメージには事実は必要ない。良くも悪くも『こういうことに違いない』という思い込みだけで十分だ。

 

 そして、人々は事実を調べず、イメージだけで物事を判断することだってある。そういう面では広報の仕事は自分たちにとって都合のいい事実を構築することにあった。

 

「地球のメディアにはこちらのディスインフォメーション戦略によって、偽りの事実が構築されています。このままこれを進めればダークエルフたちは傲慢なテロリストであって、迫害されている民衆ではないと印象付けられます」

 

「分かった、そのままその方向で進めてくれ」

 

「了解」

 

 こうして事実を調べるということを知らぬ民衆たちが流血を知ることはない。

 

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