異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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従軍記者

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 ──従軍記者

 

 

 ユースティスがアルフヘイムから姿を消した。

 

 その情報は彼女を監視していたヴァンデクリフトから司馬に伝えられた。

 

「それで? あの女はどこに行った?」

 

「分かりませんが、いくつかの有力な候補があります」

 

「教えてくれ」

 

 司馬がそうヴァンデクリフトに尋ねる。

 

「ひとつは地球に戻ったということ。G24Nのユースティスの上司は彼女にワシントンD.C.での仕事があると話していました」

 

「それなら万々歳だな。忌々しいG24Nの記者は去った、と」

 

 ヴァンデクリフトの言葉に司馬はそう言う。

 

「もちろん、それならば喜ばしいことですが、別の可能性もあります。フィリアン・カールに潜入している可能性です」

 

「もっとも最悪のケースだな。しかし、フィリアン・カールは危険地帯だ。いくら勇敢でも記者がひとりで乗り込むとは考え難い。まして、現地のの地理的なことについては、まだ地図も発行されていないのだから」

 

「ええ。誰かが手引きしなければ不可能ですが、彼女はギルノールと懇意にしています。そして、ギルノールの護衛騎士であるミーリエルという女性が、どうやらフィリアン・カールで聖地解放運動と接触しているようなのです」

 

「なるほど。そういうことか。ギルノールはまだ我々の開発を邪魔する気だと」

 

「その可能性は否定できません。エルディリア王宮は現在ふたつの派閥に分かれています。第二王子アイリアンの派閥と王太子ギルノールの派閥です」

 

 ヴァンデクリフトが説明を続ける。

 

「アイリアンの派閥は言うまでもなく、我々に協力的な保守派です。彼らは我々が提供する場偉大なロイヤルティを重視し、それによってこれまで通りの政治体制を維持しつつも、一応近代化を進めることに前向きです」

 

 アイリアンは自ら大井の窓口になり、大井から莫大な金銭を得たために、大井による開発に非常に前向きであった。

 

 また一応政治的には既得権益を守る保守派であるのだが、開発で得られた資金でエルディリアを近代化することにも前向きだ。

 

 それとは反対なのがギルノールの派閥で、彼らは大井による開発の恩恵を受けておらず、また大井について不信感を抱いている。

 

 政治的には改革派で、権力を持ちすぎた宮廷貴族たちから権力を剥奪し、権力が生んでいた利益を民衆に還元することを目指している。

 

「これは短期的に見ても、長期的に見てもリスクだな」

 

「そうですね。短期的にはギルノールがフィリアン・カールの内情を暴露することで、再び地球からの圧力がかかりかねません。長期的に見ても王太子として次期国王になるギルノールは政治的リスクとして存在します」

 

「しかし、流石に王太子ともなれば手が出せないだろう。まずは駒の方を消すべきかもしれないな」

 

「猟犬を動かしますか?」

 

「いや。フィリアン・カールにいるのであれば、戦闘に巻き込まれたという形で処理できるだろう。八神に依頼しておく。見つけたら、殺せと」

 

「了解」

 

 こうしてフィリアン・カールにいるマイク・フォース指揮官の八神にユースティスの殺害命令が下された。

 

 そのころユースティスはアイナリンド大佐の聖地解放運動と行動を共にしていた。

 

「あの人間、信頼できるのか?」

 

「アイナリンド大佐が信頼したんだ。信じるさ」

 

 彼ら聖地解放運動の戦士たちは、まだ地球の人間というユースティスに不信感を抱きながらも、アイナリンド大佐の指示でユースティスを護衛している。

 

 そして、彼らは太平洋保安公司の掃討戦の被害に遭った村に向かっていた。

 

「ここだ。手ひどくやられている」

 

 村と言っても井戸があるくらいで、後は天幕で生活していたダークエルフたちがいた場所。そこは無数のサーモバリック弾が叩き込まれ、地面は黒く焼けている。

 

 天幕は爆風で吹き飛ばされ僅かな切れ端しか残っていなう。

 

 しかし、もっとも目に入るのは死体だ。

 

 ダークエルフたちが焼け死んだ死体。引きちぎれた死体。射殺された死体。さらには無数の家畜の死体も散らばっていた。

 

「酷い」

 

 ユースティスはそう言いながらもスマートフォンでその様子を撮影した。

 

「大井の連中は見つけたダークエルフたちを手当たり次第に襲っている。黒い鳥でやってきて地上を炎で包み、悪鬼どもを地上に放つんだ」

 

「つまり民間人の虐殺を?」

 

「ああ。近衛第2猟兵連隊と一緒に聖地解放運動とも、共和国陸軍とも無関係なダークエルフたちを殺している」

 

 ユースティスは考える。

 

 このニュースの衝撃度はベトナム戦争中のソンミ村虐殺事件並みはあるだろう。民間軍事会社(PMSC)と政府軍による民間人の大量虐殺なのだから。

 

 しかし、ユースティスは上司の言葉を思い出す。

 

 地球の人間は悲劇や惨劇に慣れてしまっているという言葉だ。ソンミ村虐殺事件は20世紀では大ニュースであっただろう。

 

 だが、21世は2040年の今において、この手の虐殺はありふれたことになっている。シリアや南スーダン、ミャンマー、ウクライナ。虐殺は今や取り立てて珍しいものでもない。世間を2、3日騒がせる程度で、それが過ぎれば人々から忘れられる。

 

 報じる価値があるのは、おぞましい事実と呼べるものだ。ここに散らばる焼死体よりグロテスクとすら思えるような、そんな事実が必要だ。

 

 しかし、それはどういうものだろうか?

 

「他にも襲撃された場所はありますか?」

 

「あちこちで襲われている。我々はこれから同胞たちに避難を呼びかけるつもりだ。大井は手当たり次第に殺しているから、彼らを安全な場所に移さなければ」

 

「同行しても?」

 

「ああ。大佐から同行させるように言われている」

 

「ありがとうございます」

 

 ダークエルフたちの窮状を地球に知らせるだけが自分の仕事ではないと思いながらも、ユースティスはダークエルフ寄りの施行をし始めていた。

 

 しかし、ユースティスはメディアの情報発信は平等ではなく、公平であるべきだと考えていている人間だ。

 

 お金持ちや権力者の意見と他の弱者の意見を同列に報じては、格差は解消しない。それどころか資金力のある彼らはメディアによらない力で、より権力を構築していくだけである。

 

 ときには貧しかったり、病気や障害があったり、少数派の民族や宗教であったりと言った弱い人間の肩を持って、彼らの意見を強い人間のそれより多く知らせるべきだ。彼女はそう考えていた。

 

 だから、自然と彼女は弱者の側であるダークエルフの肩を持っていた。

 

 それと同時に商業メディアの記者であるということも忘れていなかった。彼女は情報を売って金を得る仕事だ。その情報に価値がなければ売ることはできない。だから、彼女はインパクトのある()()を求めた。

 

 ちょっとした悲劇に価値がなければ、より残酷な悲劇を求めるだけ。

 

 このような商業メディアを悲劇に群がるハイエナと呼ぶ人間もいる。

 

 ピューリッツァー賞を得た有名な写真『ハゲワシと少女』を撮影したケビン・カーターはこのような批判にさらされたが、しかしピューリッツァー賞を得たことが全てだ。悲劇には人々は注目する。それがより残酷であるほど。

 

 だから、ユースティスも悲劇を求める。人々が遠い国の出来事としてショッピングモールに流れるさらさらとした単調な音楽のように無関心に聞き流すのではなく、心を動かされ、涙を流すような悲劇を。

 

「伏せろ!」

 

 そこでダークエルフの戦士が声を上げ、ユースティスもすぐに伏せた。

 

 上空をパワード・リフト機が飛行していく。太平洋保安公司のマイク・フォースを乗せた黒いパワード・リフト機だ。

 

「クソ。連中、またどこかを襲うつもりか……!」

 

「襲撃が起きてる場所に向かえませんか?」

 

「無理を言わないでくれ。やつらが動いたということは近衛第2猟兵連隊や他のエルディリア地上軍も動いている。危険だ」

 

「分かりました。では、襲撃が起きた直後の映像を取らせてください」

 

「正気か?」

 

「ええ。至って正気です。私には、いえ我々にはそれが必要なんです」

 

 麻薬中毒者のように悲劇を求めるユースティスをダークエルフたちは不気味なものを見る目で見たのだった。

 

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