異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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死の商人

……………………

 

 ──死の商人

 

 

 スーリオン大佐が得た情報からドローンがまず飛ばされる。

 

 安物のクアッドロータードローンと違って高度7000メートルを飛行する戦術級ドローンは撃墜できない。そのはずであった。

 

「なっ……。ドローンからの通信途絶だと……。撃墜された……?」

 

 ドローンの地上誘導ステーションにいた太平洋保安公司のコントラクターが戸惑ったように告げる。ドローンからの映像が途絶え、モニターは真っ暗になっていた。

 

「馬鹿な。連中にドローンを撃墜する方法などない」

 

「しかし、ダメです。ドローンからの通信は完全に途絶えています」

 

 これが不吉な兆候だった。

 

 太平洋保安公司はドローンからの映像がないことで、問題の森林地帯が本当に取引場所なのかを把握できず、作戦の実行に躊躇する。

 

「我々が制圧してくる。そちらがやる気がないのなら我々だけでやる!」

 

 だが、スーリオン大佐はそう主張し、問題の場所に近衛第2猟兵連隊を向かわせた。

 

 彼ら近衛第2猟兵連隊は装甲車で地上を前進する。先頭には軍用四輪駆動車で、ストライカー装甲車がその後に続いていく。

 

 これまで通り、彼らを攻撃できるものなどない。そう思われていた。

 

 しかし──。

 

 軍用四輪駆動車の後ろを進んでいたストライカー装甲車が突如として爆発。炎上する装甲車から火だるまになった近衛第2猟兵連隊の兵士が転がり落ちる。

 

「な、何事だ!?」

 

 スーリオン大佐がうろたえるのも束の間、さらに装甲車が爆発炎上。

 

「大佐! 下がれ、下がれ! 自爆型ドローンの攻撃だ!」

 

 太平洋保安公司の軍事コンサルタントがすかさず叫ぶ。

 

 そう、今のは爆薬を搭載し、上空から降下してきた徘徊型兵器とも呼ばれる自爆型ドローンン攻撃だ。地球ではとてもポピュラーになって、戦場に出没するのは珍しくもない兵器だが……。

 

「どうしてだ! どうしてダークエルフどもがドローンを持っている!?」

 

 疑問点はそこだ。大井に援助されている近衛第2猟兵連隊と違って、聖地解放運動はドローンなど持っていなかったはず。

 

「分からん! だが、連中がドローンを持っているのは事実だ! 今回は下がるぞ! このままじゃ皆殺しにされる!」

 

「クソッタレ! クソが!」

 

 軍事コンサルタントの助言でスーリオン大佐は撤退を指示。近衛第2猟兵連隊は這う這うの体で森林地帯手前から逃げ出したのだった。

 

「近衛第2猟兵連隊の撤退を確認!」

 

「勝利だ!」

 

 クアッドロータードローンを飛ばし、近衛第2猟兵連隊の装甲車が下がっていくのを確認したダークエルフたちが歓声を上げる。

 

 そうなのだ。彼らは自爆型ドローンだけでなく、安い観測用のクアッドロータードローンまで装備していた。

 

「やりましたね、アイナリンド大佐!」

 

「ああ。明確な勝利だ」

 

 アイナリンド大佐も勝利に笑みを浮かべていた。

 

「気に入ってもらえたかね、ラニエルの獅子殿?」

 

 そう尋ねるのは地球の人間だった。ビジネスマンらしいスーツ姿をしているが、靴はアウトドア用にものを履いている。そして、同様の恰好をして、ドイツ製の自動小銃で武装した護衛が2名だ。アラブ系とアジア人。

 

「気に入ったよ、(ワン)(シア)。お前の与えてくれた武器は、とても強力なのだと実感できた」

 

「それは何よりで」

 

 この王夏という男。この男は武器商人──いわゆる死の商人である。

 

 地球の中古兵器市場から武器を購入し、それをアイナリンド大佐たち聖地解放運動へと売却している人物だ。

 

 先ほどのロシア製自爆型ドローンも、太平洋保安公の大型ドローンを撃墜した地対空ミサイル(SAM)も王夏が入手し、販売したもの。

 

「それで、王夏。訓練の方は進んでるんだろうか?」

 

「ああ。全員が銃火器の扱いを取得しつつある。迫撃砲などの武器も。これまでのように装甲車を持っているというだけの相手に負けるようなことはないだろうさ」

 

「では、順次ヴァリエンティアから帰国させて戦列に組み入れよう」

 

 王夏が与えたのはドローンや地対空ミサイル(SAM)だけではなく、銃火器もだった。同じように中古兵器市場に流れていたアメリカ製の自動小銃や機関銃などを売却していた。

 

 しかし、その訓練はこの南東部の山岳地帯で行われていない。

 

 訓練は隣国ヴァリエンティア領内で行われていた。

 

 聖地解放運動にとってヴァリエンティアは聖域だ。太平洋保安公司も、近衛第2猟兵連隊も許可なく越境して、ヴァリエンティアにいるダークエルフを攻撃できない。そうであるが故に聖域だった。

 

「ああ。これでようやく敵に対抗できるようになったな……」

 

 アイナリンド大佐は感慨深そうにそう呟く。

 

 特に現金収入がないアイナリンド大佐たち聖地解放運動が、地球製の武器を入手できたのには理由がある。それはもはや簡単に想像がつくように、隣国ヴァリエンティアによる支援でった。

 

 隣国ヴァリエンティアでも触媒としてかかせないプラチナ鉱山が見つかっており、そこから得られる利益で地球の金が入った。

 

 その金を密かにヴァリエンティアはアイナリンド大佐たちに流し、アイナリンド大佐は同時に斡旋してもらった地球の武器商人たる王夏に接触して武器を購入したのだ。

 

「そっちに金がある間は我々は友人だ。またの取引を期待している」

 

「このまま戦果を拡大できれば、考えよう」

 

 王夏はそう言って護衛を連れて立ち去り、アイナリンド大佐は地球製の武器を組み込んだ作戦を考え始めた。

 

 一方の大井と太平洋保安公司側はこの脅威を前に慎重になりつつある。

 

「敵は間違いなく地球製の武器を入手しています」

 

 ヴァンデクリフトが司馬にそう報告。

 

「不味いな。これまでは技術格差で押しつぶせたが、そうもいかなくなるというわけだ。我々はどうするべきであると考える?」

 

「武器の供給源を断つことが必要でしょう」

 

「そのためのプランはもうあるのか?」

 

「いえ。まだです。ですが、そのために必要なものは分かっています。ゆりかもめを太平洋保安公司側に提供してください。それによって地上を広く偵察し、ダークエルフたちの動きを見定めます」

 

「ふむ……」

 

 ゆりかもめは以前エルディリアでレアアースのリモートセンシング調査を行った際に使われた成層圏プラットフォームだ。モジュールを組み替えることによって、地上の軍事的偵察を行うこともできる。

 

「分かった。許可しよう。やってくれ」

 

「了解」

 

 こうして太平洋保安公司側にゆりかもめが提供される運びとなった。

 

 しかし、すぐに結果がでるわけではない。何とも航空偵察を行い、その画像をAIによる解析に欠けることによって初めてダークエルフたちの動きが分かるのである。

 

 偵察飛行は繰り返される。聖地解放運動が保有する地対空ミサイル(SAM)は射程の短いMANPADSであり、成層圏プラットフォームを撃墜することはかなわない。

 

 それどころかまともな地対空レーダーを保有していない聖地解放運動には、成層圏プラットフォームが自分たちの頭上にいることにすら気づけていなかった。

 

 ゆりかもめはそうやって情報を入手していき、ある事実に気づいた。

 

「この南東部のヴァリエンティアに続く道路をトラックが移動している」

 

「近代的な車両だな。武器を運んでいるのはこいつに違いないだろう」

 

 南東部の山岳地帯とヴァリエンティアを続く道路を数台のトラックが頻繁に行き来しているのを、太平洋保安公司は掴んだ。

 

 そう、その車両こそがアイナリンド大佐が購入した武器を輸送しているトラックだ。

 

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