異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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フィリアン・カール王室属領にて

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 ──フィリアン・カール王室属領にて

 

 

 石井技術リーダーを中心とした地上調査チームは、大井第一飛行場をパワード・リフト機で飛び立つと、南部フィリアン・カール王室属領へと向かった。

 

 現地で行うのは、まず調査拠点の設営。

 

 調査やその警護を行うスタッフの寝泊まりする宿舎はもちろんとして、サンプルの分析を行うための機材を設置する場所などが設けられる。

 

 これも法務部門のホンダが王国政府からの土地取得を行った。

 

 しかし、このことからトラブルは始まる。

 

「ここで間違いないのか?」

 

「間違いない。直に王国政府から土地の管理を任されている人間が来る」

 

 石井が調査拠点の設営予定地である平原を前に尋ねるのに、法務部門から派遣されていた人間がそう告げた。

 

 先に述べたように、このフィリアン・カールはエルディリア王族の直轄領であり、法務部門がこの土地を所有する王国政府と交渉して取得している。

 

 だが、現地には王国政府から現地の統治を委任された総督がいる。

 

 つまり、このフィリアン・カールは王室、総督、そして現地のダークエルフの自治政府と3つの権力が混在している場所なのだ。

 

 調査チームと地球の建設会社が到着し、設営許可を待つ中で、遠くから蹄の音が聞こえてきた。それから車輪の回る音が聞こえ、見てみれば馬車が道とも言えぬ道を走って、石井たちの下に向かっていた。

 

「あれか?」

 

 石井が怪訝そうに馬車を眺めるのに馬車は間違いなく石井たちがいる場所に向かってきた。そして、ゆっくりと速度を落としながら、石井たち調査チームの前で止まる。

 

「お前たちは王都から連絡がものたちだな。頭が高いぞ。こちらはフィリアン・カール総督であるファレニール閣下である」

 

 若く、小柄で、小役人じみた顔立ちのエルフがそう言って紹介するのは、人間にして40代ほどの中年エルフだ。見事なカイゼル髭をしているのは貴族らしいが、その装いはあまり立派とは言えないものである。

 

「ごほん。ファレニールである。このフィリアン・カール王室属領総督にして、カリスウェル伯爵である」

 

 そう言ってファレニールは石井たちを見渡す。

 

「ご丁寧にありがとうございます。我々は大井エネルギー&マテリアルのものです。この場所に調査拠点を設営する許可を得ているのですが、確認していただけますか?」

 

 石井はそのようにファレニールに尋ねると、ファレニールは答えず、ファレニールを紹介した若者が咳ばらいする。後で石井たちは知ったが、彼はファレニールの執事だったらしい。

 

「閣下はわざわざ出向いてくださったのだ。執務が大変お忙しい中で、貴重なお時間を割いてくださったのである。それに対してお前たちは何もしないのか?」

 

 なんとまあ! ここまで露骨に賄賂を要求するとは、と第三世界での勤務も長い石井でも呆れた。最近はアフリカでも資金の透明性とやらで、この手の贈賄はそこまで大胆に行われないのにと彼は思った。

 

「もちろん閣下にご足労いただいた件については、これを贈らせていただきます」

 

 しかし、石井が呆れる中で法務部門のスタッフがそう言い、武装した警護スタッフがいつものように小型のアタッシュケースをファレニールの執事に差し出す。中には金のインゴットがぎっしりと詰まっている。

 

「こ、これは……」

 

 ファレニールの執事も思った以上の賄賂に驚き、ファレニールも驚き、は何か言おうとしては酸欠した魚のように口をパクパクさせていた。

 

「もし、閣下がこれからは長期的に、このように拙い我が社の面倒を見ていただくために、外部顧問になっていただけましたら、さらなる報酬をお支払いしますが、いかがでしょうか?」

 

 ああ。これは司馬さんの入れ知恵だなと法務部門のスタッフが交渉するのを見て、石井は思った。あの人は今回の事業にかなり力を入れている。

 

 今回は場所が場所だけに資金の透明性がどうのこうのという問題がない。あの人は金で買えるものは全て買って、何としても資源開発をやるつもりだ。そう石井が感じたのも無理はなかった。

 

「か、閣下は前向きに検討すると仰っている。また設営は許可する。で、では、今日は失礼する!」

 

 ファレニールの執事はそう言い、ファレニールとともに馬車で去った。

 

「聞いたな、諸君。設営開始だ、急げ、急げ!」

 

 資材は既に運び込まれており、調査拠点の設営が慌ただしく始まる。

 

「いいんですかね、石井リーダー。あの手の賄賂は会社もいい顔をしないんじゃ」

 

「大丈夫だ。経営陣のお気に入りである司馬さんがやることだから。それにこの世界の人間を真っ向から相手にしてたら、10年経っても何も開発できないだろう」

 

「それはそうかもしれませんが」

 

「司馬さんは金で買えるものは買うつもりだ。だが、問題は……」

 

「問題は?」

 

 石井が口ごもるのに部下が尋ねる。

 

「金で買えないものが必要になったとき、どうするかだよ」

 

 そう、金で買えないものが必要になった場合、この贈賄合戦は通じない。それどころか場合によっては逆効果になる可能性があった。

 

 ともあれ、調査拠点の設営は1日で終わった。

 

 周囲にはへスコ防壁と呼ばれる強固な壁で覆われてる。これで調査チームは自分たちが関与すべき試掘地点以外の場所から、自分たちがどう思われているかを考えなくてよくなるのである。

 

 さらにはパワード・リフト機や通常のヘリコプターの離発着が設けられた。

 

 宿舎、分析室、通信室、医務室、ヘリポートと、一通りの物が揃った。

 

 後はもうひとつ。

 

「太平洋保安公司のものだ。これからそちらの警護に当たる」

 

 警備スタッフとして民間軍事会社(PMSC)が到着した。大井系列の民間軍事会社(PMSC)である太平洋保安公司から武装したコントラクターが10名だ。

 

 太平洋保安公司は改定モントルー協定において、正規軍と同等の扱いを受ける会社として認定されているが、今回は派遣されてきたコントラクターは迷彩服を纏った軍人らしい恰好ではなかった。

 

 彼らの多くは黒やカーキ色のシャツにカーゴパンツかジーンズを履いて、その上からボディアーマーやタクティカルベストを付けた民間軍事会社(PMSC)スタイルの恰好をしていた。

 

 また武装はカービン仕様の自動小銃と自動拳銃。どちらもこの小部隊で使う銃弾は統一しており、口径5.56ミリNATO弾と口径9ミリ弾だ。それから穏便な制圧のためのテーザー銃と手錠を保有している。

 

 そんな彼らは装甲化された軍用四輪駆動車と小型ヘリまで持ち込んでいた。

 

「調査チームの石井だ。よろしく頼む」

 

「ああ。いつから地上での調査を?」

 

「設営が終わったら、可能な限りすぐだ」

 

「その前に保安手続きの確認をしたい。いくつか重要な注意点がある」

 

「分かった。調査チームのスタッフを集める」

 

 太平洋保安公司側の指揮官であり、元日本情報軍大尉である川内大和という人物の求めで、調査チームを対象にした保安手続きの確認が行われることに。

 

 調査チームはできたばかりの会議室に集まり、ARデバイスを装着。

 

「まず機密保持手続きは、あなた方の知っての通りだ。いかなるデータも外部に流出させないように。今回の契約では現地政府との情報共有も禁止されている」

 

 機密保持手続きはこれまで大井で仕事をしてきた人間ならば知っている内容。

 

「注意すべきはこの地域には王国政府の治安組織がほぼ存在しないこと。ここはダークエルフが組織する部族評議会が総督の下で統治を行っており、治安組織もその下にある民兵が行っている」

 

 ここはダークエルフの自治が行われていると聞いていたが、治安も彼ら任せだということに調査チームのスタッフたちは少し驚きを見せた。

 

 しかし、よく考えれば地球でもその地域に暮らす人種が治安や安全保障を担っていることはあった。イラク戦争後のクルド人自治区などがそうだ。

 

「なお、司法も部族評議会が行うが、我々は王国政府との契約で免責と治外法権を約束されている。彼らに我々を拘束する権利はない。現地の民兵に拘束されそうになった場合は、すぐ我々警備スタッフに通報を」

 

 それから他に何点かの注意事項が通知され、川内は保安手続きの確認を終えた。

 

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