異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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ソフトターゲット

……………………

 

 ──ソフトターゲット

 

 

 テロ攻撃にはふたつのターゲットがある。

 

 ひとつは軍事基地や政府機関と言ったもので、それらは警備の厳しさからハードターゲットを呼称される。

 

 一方はスポーツスタジアムや人の集まるレストランと言った警備の薄い場所で、それらはソフトターゲットと呼称された。

 

 アフシャールが指示したのはそのソフトターゲットへの攻撃だった。

 

 作戦に動員されたダークエルフたちは6名。

 

 それぞれが早朝の人にあふれた市場、乗合馬車乗り場、やはり人の多い食堂、地球の人間も宿泊する高級ホテル、観光客が多い中央広場に向かった。

 

 彼らの体には10キロの爆薬を詰めた爆弾ベストがあり、顔は見られないようにフード付きのコートを纏っていた。一見して普通の商人にも見えるようにリュックサックを背負っている。

 

 そして、何より彼らは死を恐れていなかった。

 

 ダークエルフたちは時計を見た。爆弾を起爆するタイミングは会わせる手はずだ。

 

 時刻は刻々と起爆の時間に迫り、ダークエルフたちの額に汗が浮かぶ。

 

 そして、0700(マルナナマルマル)

 

「聖地万歳!」

 

 6名のダークエルフは爆弾を起爆。ボールベアリングなどを詰めた爆薬が炸裂して──地上に地獄が生み出された。

 

「ああ! ああ!」

 

「誰か助けて……!」

 

 肉と血が周囲に滅茶苦茶に散らばり、うめき声と叫びが不協和音を奏でる。

 

 生じた死傷者は第一報では150名。それだけの負傷者を収容できる病院は未だ首都アルフヘイムにも存在しない。怪我人は治癒魔法の使えるものが癒そうとするが、その数も全く足りていない。

 

 エルディリア事務所にも知らせはすぐに入り、事務所付近は太平洋保安公司の部隊によって緊急封鎖され、スタッフの安否確認が始まった。

 

「不幸中の幸いですが、我が社のスタッフに被害者はいません」

 

 危機管理のヴァンデクリフトがまず報告。

 

「ですが、他の地球企業には被害が出たようです」

 

「クソ。想定しておくべきことだったな。連中がこの手のテロに出ることは」

 

 地球では定番の自爆テロだ。奇策というわけでもないし、想定できる範囲のことであったはず。しかし、司馬たちはダークエルフまでもが、この手のテロに出るということを想像できていなかった。

 

「さらに同様の攻撃が起きることに警戒しなければ。ヴァンデクリフト、エルディリアの治安当局と協力できるか、ホンダと話し合ってみてくれ」

 

「了解。エルディリアの治安当局と言うと衛兵隊ですね」

 

「ああ。連中に対テロ訓練を施せれば文句はない」

 

 今のところ大井が太平洋保安公司を使って訓練を施したのはエルディリア軍の部隊に限られていた。治安部隊にはまだ何の兵器の供与も、訓練も行われていない。

 

 だが、これからもダークエルフによるテロが続くならば、治安部隊も訓練しておくべきであろう。

 

「ひとついいですか? 犯行声明などは出ているのでしょうか?」

 

 そう尋ねるのはフォンだ。

 

「聖地解放運動から分離したフィリアン・カール共和国陸軍が先ほどビデオメッセージを総督ファレニールに送ったそうです。状況から考えても虚偽の声明ではないかと」

 

「しかし、我々は聖地解放運動に武器を供与している人間を買収したはずです。どうして彼らはまだ武器を?」

 

「恐らくは別の人間が介入しているのでしょう」

 

「いやはや。これではきりがありませんね……」

 

 ホンダはヴァンデクリフトの報告にそう言って唸った。

 

「確かに武器の供給が制限できないのは望ましくない。少なくともフィリアン・カールから他の場所に武器が流出するのは避けたい。どうにかできないか?」

 

「難しいかと。フィリアン・カールに面するエルディリア領が狭ければ、分離壁を建てるなどの解決策もありますが、この境界線は無視できないほど広いのです」

 

「そうであるからにして24時間兵力を張り付けておくのも難しい、か」

 

「そうなります」

 

 エルディリア=ヴァリエンティア国境を封鎖できないように、フィリアン・カールを他のエルディリア領から隔離することも難しかった。

 

「できるのは治安部隊を教導し、テロ対策を徹底することぐらいでしょう。監視カメラの導入なども必要になるかと」

 

「待ってください。この事務所を守るためならば分かりますよ。けど、我々がアルフヘイムの治安に責任を持つ必要はないのでは?」

 

 ヴァンデクリフトの意見にフォンがそう指摘した。

 

「もちろんだ。これは我々の本来の仕事ではないが、もしこのままアルフヘイムの治安が悪化し続ければ、決してビジネスにいい影響は出ない。エルディリア政府に恩を売る形で実行するつもりだ」

 

「それならばいいのですが」

 

 そんな指摘に司馬がそう言い、フォンは納得した。

 

「次のテロでは我々の中からも犠牲者が出る可能性がある。このエルディリア事務所の守りを固めるのはもちろんのこと、外出するスタッフには必ず太平洋保安公司の護衛を付けてくれ」

 

「分かりました、ボス」

 

 このような対策を大井が取ろうとしたのも束の間、次の攻撃が3日後に起きた。

 

 今度は馬車に大量の爆薬を詰んだものを利用したテロで、攻撃目標になったホテル街では3軒のホテルがほぼ全壊し、地球の人間を含む犠牲者が出た。

 

 こうして急速に治安が悪化し始めたのに、地球企業は連名でエルディリア政府に治安回復を求める陳述書を提出。それを受けて大井が提案していた治安部隊への教育や装備の更新が行われることに。

 

 首都アルフヘイムの治安維持を担うのは王都衛兵隊で、彼らに大井は様々な装備を提供した。軍と同じ自動小銃などの銃火器や防弾仕様の軍用四輪駆動車、爆弾解体用の無人地上車両(UGV)、そして軍用犬など。

 

「王都は今は城壁に囲まれています。それは利点です」

 

検問(チェックポイント)は展開させやすいな」

 

 治安部隊にはまず爆弾探知のための訓練が施された。

 

 爆弾探知のために訓練された軍用犬の使い方。不審な人物の見分け方。爆弾を発見した場合の対処方法などなど。

 

 アルフヘイムは城壁で囲まれており、市内に入れる経路は限られているために、テロリストの侵入は防ぎやすかった。大井による本格的な治安部隊への支援が始まってから、爆弾テロの件数は大きく減少しつつある。

 

 今でも小規模かつ散発的なテロは起きているが、かつてほどの勢いはない。そして、それも減少に転じつつある。

 

 ただこれらのテロによって地球企業の進出は遅れ始めていた。企業の担当者たちは異世界での不安定なビジネスに慎重になり、投資家たちも以前ほど楽観的ではなくなってしまっている。

 

 そういう意味ではテロは効果があったといえるだろう。

 

 しかしながら、大井は依然として撤退する様子はない。彼らはエコー・ワン鉱山を掘りつくすまで、エルディリアにいるつもりだ。

 

 そういう意味では攻撃は失敗だった。

 

「むしろ我々からしてみれば、相手の攻撃目標が広域かつ多勢力にばらけた分、エコー・ワン鉱山やエーミール・ルートの保全に成功し、いい傾向なのかもしれません」

 

 ヴァンデクリフトはそう分析していた。

 

「残酷だが、認めなければならない事実だな」

 

 司馬にしても大井の財産が保全されることは最優先だ。もちろん、そのために統合的な治安の確保が必要になるとしても、その全てに大井が責任を持つ必要はないと分かっている。

 

「しかし、依然としてフィリアン・カールでは地球製の武器が猛威を振るいつつあります。エコー・ワン鉱山とエーミール・ルートの保全のためには、太平洋保安公司の部隊をアップデートする必要もあるでしょう」

 

「必要なことは何でもやってくれ。エコー・ワン鉱山は金の生る木だ」

 

「了解です、ボス」

 

 そして、再び戦いの舞台はエコー・ワン鉱山とエーミール・ルートが位置する紛争地帯──フィリアン・カールへと戻る。

 

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