異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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戦列に加わる

……………………

 

 ──戦列に加わる

 

 

 難民キャンプを解放しに来たというダークエルフたち。

 

「地球の侵略者たちは死んだ! お前たちは自由だ!」

 

 ダークエルフの戦士たちは、そう言ってパウエルの死体の首を切断しようとする。

 

「やめて!」

 

「その人は悪い人じゃない!」

 

 子供たちがそれに思わず声を上げる。

 

「そうなのか?」

 

「その人は僕たちによくしてくれたよ。他の人たちとは違う」

 

 ダークエルフの戦士たちは手を止めるとナイフを仕舞い、パウエルの死体を横たえると持っていた布をかぶせて、祈るように目を閉じた。これは彼らなりに死者に敬意を払った形だ。

 

「では、ここから出るぞ。すぐに地球の連中が来る」

 

 ダークエルフの戦士たちはそう言い、難民キャンプにいたダークエルフたちが、難民キャンプを出ていく。

 

「エルミア、行こう」

 

「うん。行くしかないね」

 

 リンスィールは勇気を振りしぼってそう言い、エルミアがリンスィールに続いて、難民キャンプのゲートを出た。

 

 ダークエルフたちは難民キャンプの難民たちを連れて、彼らが作った新しい拠点へと向かう。それは聖地解放運動の拠点である南東部の山岳地帯とも、共和国陸軍の北部の山岳地帯とも異なる、中部の山林にあった。

 

 そこにはリンスィールたちにとって懐かしい天幕などはなく、やはり洞窟か、人工的に作られたトンネルにダークエルフは居住していた。

 

「ここをこれから我が家だと思ってくれ」

 

 しかし、ダークエルフの戦士たちが難民を救出したのには理由がある。

 

 その理由が分かることがすぐに起きた。

 

「諸君、私は聖地解放運動の指導者であるアイナリンドだ」

 

 拠点にアイナリンド大佐が訪れたのである。

 

「我々はともに戦う戦士を求めている。戦えるものは戦わなければ、フィリアン・カールに平穏は永遠に訪れない。諸君の力を貸してほしい」

 

 そうである。聖地解放運動は戦力補充のために、難民キャンプを解放したのだ。

 

 というのも、聖地解放運動と共和国陸軍のふたつの派閥の対立は激化していた。例のイラン人の武器商人アフシャールにそそのかされてソフトターゲットへのテロ路線へと走ったオロドレスたちは、もはやアイナリンド大佐とは全く相容れない存在となった。

 

 戦える若い戦士──戦力はふたつの派閥で取り合いになり、流石のアイナリンド大佐も情勢を危惧していた。

 

 もはや動員可能な人員はほぼ動員している。となれば、と難民キャンプに目を付けたのが、今回の難民キャンプ解放に繋がっているのだ。

 

「戦えるものは戦列へ! ともにフィリアン・カールを救おう!」

 

 アイナリンド大佐の呼びかけに解放された難民の中でも若いものたちは歓声を上げた。彼らは難民キャンプでの暮らしを屈辱だと感じていたのだ。

 

「僕も戦う!」

 

「戦うぞ!」

 

 子供たちも勇気を示そうと手を上げる。

 

「僕はどうしよう……」

 

 リンスィールは熱病じみた空気の中で、考え込んだ。

 

 確かに太平洋保安公司はリンスィールの家族を奪った。だが、同じ太平洋保安公司のパウエルたちは決して悪い人間ではなかった。

 

 彼らに殺されたくないが、彼らを殺したくもない。

 

「無理に戦う必要はないよ」

 

 そんなリンスィールにエルミアが言う。

 

「いつか戦争は終わるんだから、待っていればいいんだよ」

 

「そう、なのかな……」

 

 リンスィールの結論が出ない間に、志願者たちは聖地解放運動に加わった。

 

「やはり子供を使うしかないか……」

 

 アイナリンド大佐は報告された志願者の情報を聞いて険しい表情を浮かべていた。

 

「人が足りません。兵役に適した戦士たちの多くはオロドレスたちにつきました。こちらには元デックアールヴ旅団の将兵か、あるいは女子供ばかりで……」

 

「子供を使いだせば、相手に子供を攻撃する口実を与えることになる」

 

「それでも戦えるものが少なすぎるのです」

 

 アイナリンド大佐の副官はそう訴えた。

 

「……そうだな。どの道、連中は女子供の区別もなく殺している」

 

 アイナリンド大佐はそう呟いた。

 

 事実、マイク・フォースはダークエルフとみれば発砲しており、民間人か否かを区別せずに殺している。マイク・フォース側は子供も戦力としてカウントしている節が既にあったのだ。

 

「アフシャールと連絡をとって武器の購入を。忌々しいが王夏が撤退した今はやつしか地球製の武器を手に入れる手段はない」

 

「了解」

 

 ここでアイナリンド大佐はヴァリエンティア頼りの後方支援を改めようとしていた。彼女はダークエルフたちが製造方法を伝えてきていた薬物を密輸することで、ヴァリエンティアからの資金援助以上の活動資金を得ていた。

 

 その興奮作用があり中毒性がある、密輸された薬物はヴァリエンティアやその周辺国に広まり、地球の人間の手にも渡った。

 

 地球の人間は同じ地球の人間を殺すための金を、ドラッグの代わりに支払ったのだ。

 

 未だ戦争は続ているが、これが終わる様子は一向にない。

 

 リンスィールたちはドラッグ製造のための手伝いを始め、母が医者であったこともあり、薬草の見分け方に詳しいリンスィールは役に立った。

 

「これでいいのかな……」

 

 リンスィールは薬草を集めながらそう呟く。

 

 集めている薬草は危険なものだと母から教わっていた。人を狂わせてしまう、毒草であると。なのに、リンスィールはそれを集めている。

 

 それにエルミアとも離れ離れになってしまった。彼女は薬草について知らないから、別の作業に従事していて、ほとんど会うことはできない。

 

 リンスィールにとっては寂しい日々が続いた。

 

 それから暫くして転機が訪れた。

 

「リンスィール。君は優秀だと聞いたよ」

 

 アイナリンド大佐がリンスィールの下を訪れたのだ。

 

「君のおかげで我々は助かっている。大勢が救われているんだ。君はナライオンの部族の子供だろう。両親は医者か?」

 

「母が医者でした」

 

「なるほど。その技術をもっと生かしてほしいと思っている。君を衛生兵に任じたいのだ。前線で倒れる仲間を救う仕事だ」

 

「前線で……」

 

 これまでリンスィールは戦いには加わっていなかった。少なくとも前線で戦うことはしていない。だが、それが求められている。

 

「君は大勢を救えるヒーローになれる。仲間たちは君を尊敬するだろう。大勢が君を讃えて、君は立派な戦士になれる」

 

 リンスィールはそう言われるとなんだか前線で戦うこともいいようなことがしてきた。それにリンスィールとて、両親を太平洋保安公司に殺されたことを完全に忘れたわけではないのだ。

 

 太平洋保安公司にもいい人がいるから殺したくはない。だが、仲間たちを助けることならば、彼らを殺さずに復讐を成し遂げられるかもしれない。そうリンスィールは考え始めていた。

 

「分かりました。やります!」

 

「よし。君は勇敢な子だ。頑張ってくれ」

 

 こうしてリンスィールは衛生兵となった。

 

 彼には銃は与えられず、その代わりに地球から入手した医薬品が与えられる。先輩の衛生兵たちから使い方を教わり、リンスィールはその使い方を会得すると、いよいよ前線へと出ることになった。

 

 彼はエーミール・ルートを襲撃する部隊に加わり、前線に向かう。

 

 未だに戦争の焦点はエーミール・ルートであった。大井にとっての広大な弱点であり、レッドファング・カンパニー動員後も安定しない場所だ。

 

 襲撃は繰り返され、ときとしてレッドファング・カンパニーに返り討ちにされる。

 

 リンスィールはそんな戦いに加わった。

 

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