異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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汚れ仕事

……………………

 

 ──汚れ仕事

 

 

 オロドレスの位置と行動パターンを太平洋保安公司の部隊は確認した。

 

 そのことをオロドレスはまだ把握できずにいる。

 

「クソ。武器が足りない」

 

 オロドレスは報告された武器の備蓄を聞かされて唸る。

 

「アフシャールが殺害されたのが、痛手になりましたね……」

 

「ああ。彼は我々の戦いに賛同してくれていた人間だというのに」

 

 大井によるアフシャールの殺害が、オロドレスたちの軍事物資購入に影響していた。まだ次にフィリアン・カールの武器市場に参入してくる武器商人はおらず、また共和国陸軍は過激すぎてヴァリエンティアからの支援もない。

 

 オロドレスたちには苦しい時代が始まっていた。

 

「しかし、我々は諦めてはならない。フィリアン・カールの独立のために戦うのだ。聖地を奪った大井を罰し、やつらを招いたエルディリアに思い知らせ、我々優秀なダークエルフがフィリアン・カールの真の支配者となるのだ」

 

 オロドレスはまだフィリアン・カールの独立という夢を諦めていなかった。彼は大井も太平洋保安公司も、そしてエルディリアも追い出して、フィリアン・カールをダークエルフの国にするつもりであった。

 

「今は耐え忍ぶが、いずれ反撃のチャンスはやってくる。その時を待て、同志たち」

 

「了解です」

 

 オロドレスがそうダークエルフの戦士たちに訴えたときだ。

 

 警報の角笛が響いた。

 

「何が起きた?」

 

「ドローンが全てダウンしました。原因は不明です!」

 

「敵襲か。クソ、全員武装して警戒せよ!」

 

 パトロールや偵察に使用されているドローンが突如として制御不能になり、全てが墜落した。共和国陸軍のドローンオペレーターのその報告にオロドレスは敵の襲撃だと考え、警戒を命じる。

 

 そう、間違いなく襲撃だ。現在、北部山岳地帯上空をドローン化された電子戦機が飛行しており、その所属は太平洋保安公司である。

 

 電子戦機のジャミングによってドローンの遠隔操作が妨害され、共和国陸軍のドローンはその全てが無力化された。

 

 そして、ドローンという目を失った共和国陸軍のダークエルフたちが潜む山岳地帯に向けて、八神たちは接近していた。

 

「偵察部隊はオロドレスの位置を把握し続けています。やつは間違いなく、この洞窟にある司令部にいます」

 

「よろしい。電気メスのように静かに患部を切り取ってしまおう」

 

 部下の報告に八神はにやりと笑って前進を命じた。

 

 彼らは通常のものより持続時間の長い光学迷彩を使用しており、そのおかげでかなり高度な隠密(ステルス)が実行できていた。

 

 共和国陸軍の混乱の中で、八神たちは密かにオロドレスが潜む洞窟に向かう。

 

 静かに、静かに。

 

 しかしながら、既に無線通信手段も喪失しているオロドレスたち共和国陸軍は、定時連絡なども困難になっており、警戒網は存在しないも同然だ。

 

 八神と3名の部下はオロドレスに向けて進み続け、そして洞窟の入り口が見てきた。

 

「洞窟の入り口に2名、歩哨です」

 

「排除して進む」

 

 中国製の銃火器で武装したダークエルフが洞窟を見張っているのに八神がそう指示。

 

 熱光学迷彩で静かに接近したコントラクター2名が歩哨の口を押さえ、喉をナイフで裂く。鮮血が舞い上がり、歩哨は音もなく崩れ落ちた。

 

「さあて。いよいよお楽しみの時間だ」

 

 そう言いながら八神はスタングレネードを構える。

 

「3カウント」

 

 3──敵はまだ八神たちがここまで近くにいることを知らない。

 

 2──八神たちが装備する口径12.7ミリ電磁ライフルは当たれば即死だ。

 

 1──ここにいるコントラクター全員がオロドレスの死を望んでいる。

 

「ゴー」

 

 八神の手からスタングレネードが投擲され、激しい閃光と炸裂音が響いたのちに、八神たちが一斉に洞窟に突入していく。

 

「て、敵襲、敵襲──」

 

 スタングレネードで制圧された司令部の人員は武器を取ろうとするが間に合わない。次々に電磁ライフルで射殺されて行き、洞窟の中が血で染まっていく。

 

「オロドレスと思しき人間を確認」

 

「生体認証しろ」

 

 スタングレネードで制圧されたダークエルフたちの中から、コントラクターがオロドレスと思われる人間を見つけ出した。

 

「生体認証完了。間違いなくオロドレスです」

 

「オーケー。では、始末しよう」

 

 オロドレスと判明した男に電磁ライフルの銃口が向けられる。

 

「クソ、地球の冒涜者どもめ……! 呪われろ……!」

 

「そういうオカルトは信じない性質でね。申し訳ないが」

 

 八神はそう言い、オロドレスの胸と頭に2発撃ち込んだ。それによってオロドレスの胸に大穴が空き、頭が消し飛ぶ。

 

「殺害を完了。離脱するぞ」

 

 それから未だに混乱が続く共和国陸軍の拠点である北部山岳地帯を、八神たちは侵入した時と同じように静かに離脱していく。

 

 幽霊のように静かに彼らは抜け出し、何事もなくパワード・リフト機の迎えに合流して離脱していったのだった。

 

「オロドレスは死亡しました」

 

 エルディリア事務所にてヴァンデクリフトが司馬に報告。

 

「厄介者がひとり消えたな」

 

「ええ。これで共和国陸軍は求心力が低下するでしょう。しかし、彼らの思想からして聖地解放運動には合流しない。ひとつの組織として崩れ落ちていきます」

 

「上出来だ」

 

 共和国陸軍はこのまま瓦解するだろう。フィリアン・カールにおける抵抗勢力のひとつが消滅するのだ。

 

「しかしながら、すぐには共和国陸軍も倒れないでしょう。有力な指導者がオロドレスの他にいないとしても、残党は暫く行動するはずです。それも武器弾薬が続く限り、でしょうけれども」

 

「残党の掃討は今は難しい。近衛第2猟兵連隊を始めとするエルディリア軍部隊はリンファリエル戦域に投入されている」

 

「ええ。分かっています。戦力に余力が生まれるまでは待ちましょう」

 

 こうしてオロドレスは死に、彼の作り上げた共和国陸軍は瓦解を始めた。

 

 誰が次の指導者になるかの争いが始まり、政治的争いが軍事的衝突に変化する。共和国陸軍の所属だった戦士同士の戦いが起き、大井や太平洋保安公司が手を下すまでもなく、彼らは瓦解していく。

 

 そんな争いの中にリンスィールもいた。

 

「オロドレスさんが殺されただって!?」

 

 リンスィールの所属する部隊は北部山岳地帯から離れた位置にいて、情報は遅れて入ってきた。彼らは既に共和国陸軍が内部崩壊をし始めているのに、今になってオロドレスの死を知ったのだ。

 

 それを知らせたのは補給将校を担当するダークエルフで、リンスィールたちが補給のために戻ってきたときに、そのことを知らせた。

 

「ど、どうするんだよ? 俺たちの指導者はオロドレスさんだろ……」

 

「それが後釜に誰が座るかで味方同士で撃ち合っている。俺たちも争いに巻き込まれる前に逃げた方がいいのかもしれない」

 

「けど、それじゃあ地球の侵略者どもを追い払えないだろう!」

 

「今はそれどころじゃねえよ!」

 

 男たちが言い争うのをリンスィールは聞いていた。

 

 できれば帰りたい。静かな故郷の村に。しかし、その故郷は今や存在しない。

 

「お前たちは参謀だったローミオンさんのことは知っているか? 彼は次のリーダーに相応しいと俺は思うんだ。彼のために戦わないか?」

 

「そうなのか? どうする?」

 

 情報を知らせてくれた男の言葉に、男が他のメンバーに問いかける。

 

「ローミオンさんが指導者になれば、フィリアン・カールは取り戻せる。協力してくれ。他の連中じゃあ、求心力がなくて共和国陸軍は瓦解してしまう。後の戦いを聖地解放運動の臆病者たちには任せられないだろう?」

 

「分かった。俺たちも戦いに加わろう」

 

 こうしてリンスィールたちもオロドレスの去った共和国陸軍の中で繰り広げられる内戦に取り込まれて行った。

 

 この戦いに未来はあるのか……。

 

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