異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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延焼

……………………

 

 ──延焼

 

 

 オロドレスの暗殺を機に勃発した共和国陸軍内の内戦。

 

 ダークエルフが同胞たちと血を流し合い始めたのは、聖地解放運動のアイナリンド大佐にも知らされていた。

 

「よりによって……」

 

 アイナリンド大佐はそう小さく愚痴る。

 

「共和国陸軍はこのまま消滅ですか?」

 

 そう尋ねるのはアイナリンド大佐の下で取材を続けているユースティスだ。彼女は未だに地球の人間の心を揺さぶるような絵を取れていなかった。

 

 ただ、フィリアン・カールにおける情報を発信することだけは続けており、その情報は短いながらニュースの経済コーナーで取り上げられている。

 

「そうならないようにしたいな。できれば、こちらに取り込める分には取り込みたい。オロドレスがいかに愚かであったとしても、我々と目的を同じくし、大井と戦っていたものたちだ。彼らの消滅は純粋な戦力の減少だ」

 

 急進派として暴走していたオロドレスも、大井と敵対しているという点では、聖地解放運動と同じであった。今後共和国陸軍が消滅してしまうならば、大井はそれだけ負担が軽くなり、今度は聖地解放運動をターゲットにするだろう。

 

「これから共和国陸軍の穏健派とコンタクトを取って、彼らをこちらに引き入れることを始めなければ」

 

「それの作戦に同行しても?」

 

「構わないが、危険だぞ?」

 

「危険は承知です」

 

 ユースティスは今もなお心を揺さぶる残酷な()()を探している。

 

「分かった。手配しておく」

 

 こうしてユースティスも共和国陸軍の部隊との接触現場に向かうことに。

 

 しかし、ここで既に問題は起きていた。

 

 共和国陸軍の中でも特に過激な一派が、聖地解放運動への攻撃を試みたのだ。名目は『聖地解放運動の臆病者を罰し、自分たち真のダークエルフによる聖戦を完遂するため』というものだった。

 

 共和国陸軍から聖地解放運動は攻撃を受け、いよいよ混乱は拡大しつつある。

 

 そもそも彼らはそんなことに武器を使っているような余裕はないはずだったのだ。アフシャールが死亡してから武器の流入はストップしており、全体的な物資不足が起きていたのだから。

 

 それでもパフォーマンスが必要だとする過激派たちは無差別に攻撃を繰り広げる。

 

 彼らはもはや他者を攻撃することでしか、求心力が維持できなくなっていた。

 

 リンスィールもそんな戦いの中にあった。

 

 彼も中国製の武器を持ち、興奮作用のある薬草の煙を吸い、そうやって戦っていた。

 

 皮肉にも彼が最初に殺した相手は大井や太平洋保安公司の人間ではなく、同じダークエルフであった。

 

「リンスィール! 撃て、撃て!」

 

 上官からの命令が下り、リンスィールは無我夢中で銃の引き金を引く。

 

 リンスィールの体には大きすぎる銃火器は、反動も凄く、リンスィールの放った弾は明後日の方向に飛んでいくが、それでもかまわなかった。リンスィールたちが牽制射撃を行っている間に、別の部隊が側面を突く予定なのだ。

 

 リンスィールたちはローミオンという元参謀の起こした真の共和国軍という派閥に加わっており、彼の派閥に敵対する他の派閥と交戦を続けていた。

 

 銃の引き金を引き、そうやって殺し、殺し、殺し……。リンスィールにとって平和な時代はずっと昔に過ぎ去った。

 

「よし! 勝ったぞ! 俺たちの勝利だ!」

 

 もう勝利も素直に喜べない。これは同胞同士の殺し合いじゃないかとリンスィールは思うからである。

 

 こんなのは聖戦でも何でもない。獣の殺し合いだ。

 

「おい。聞いたか?」

 

「何をだ?」

 

 補給から戻ってきた兵士が告げるのにリンスィールの上官が首を傾げる。

 

「聖地解放運動の連中が、俺たちの仲間を寝返らせているらしいんだ。このままだと俺たちは聖地解放運動の腰抜けどもに取り込まれちまう」

 

「俺たちが弱っている隙を狙って……。卑怯なやつらめ!」

 

 男の言葉に皆が怒りを示す。

 

「ローミオン司令官も聖地解放運動を討つべしとなっている。近いうちに聖地解放運動への攻撃が行われるだろう。備えておけよ」

 

「ああ」

 

 最近の敵は大井でも、エルディリアでもなく、ただただ身内であるはずのダークエルフになってしまっている。

 

「やつらから武器を奪えばもっと戦えるぞ」

 

「そうだな。聖地解放運動は戦ってないんだ。武器は必要ない」

 

 リンスィールはそれは違うと思った。聖地解放運動だって大井の車列(コンボイ)を襲うなど戦っていた。

 

 それに聖地解放運動にはまだエルミアがいるはずだ。

 

 村に帰れなくとも、せめて聖地解放運動には帰りたいとリンスィールは思った。

 

 しかし、今や共和国陸軍は狂犬となり、あらゆるものに噛みつき、吠えたてている。こうなった犬は殺すしかないと言うのに。

 

 そして、終わらない内戦が続く中、リンスィールたちは派閥のリーダーであるローミオンに呼び出された。リンスィールの部隊が特別だったからというよりも、ローミオンに使える駒が限られ始めているからだ。

 

 真の共和国陸軍は戦力を減少させつつある。かつての味方の交戦によって。

 

 いや、真の共和国陸軍だけではない。かつての共和国陸軍の下でともにあったが、今は独立して交戦中の全ての派閥がその戦力を減少させつつあった。

 

「来たか、我らが勇士たちよ」

 

 ローミオンはかつてはオロドレスの参謀だった男で、アフシャールが手配した民間軍事会社(PMSC)から近代的な戦い方についての教育も受けた男だ。

 

「諸君も既に知っての通り、聖地解放運動の腑抜けたちが、共和国陸軍の兵士たちを買収している。聖地解放運動は勇敢な戦士たちを飼い殺し、ダークエルフを弱体化させる民族の敵だ」

 

 嘘だとリンスィールは心の中で叫ぶ。

 

「連中を罰しなければならない。そのために君たちには作戦に参加してほしい」

 

「ローミオン司令官。具体的には何を?」

 

「諸君らには我々の戦士たちをたぶらかす聖地解放運動を攻撃してもらう。ただし、連中には君たちを自分たちの陣営に引きずり込めると勘違いさせておかなければならない。分かるか?」

 

「なるほど。不意を突くのですね?」

 

「その通りだ」

 

 リンスィールの部隊は聖地解放運動側に着くと見せかけて、彼らを攻撃するのだ。

 

「君たちが勇気を示せば、聖地解放運動は我々の戦士たちの真の勇気を恐れ、もう二度と我々の戦士たちをたぶらかそうなどとは思わなくなるだろう」

 

「了解です、司令官」

 

「君たちの部隊には期待している。装備もいいものを与えておこう」

 

 ローミオンはそう言って今は物資が少なくなる中で、ロシア製のレーションや中国製の比較的新しい銃火器、それに迫撃砲などをリンスィールの部隊に与えた。武器庫からそれらが持ち出され、供与されたのだった。

 

 ドローンも与えられ、FPV型のドローンが配備された。このドローンもピークに比べるとずっと数が減り、今や贅沢品となっている。

 

「それから君たちの部隊には何としても任務をやり終えてもらいたいので、これを与えておく。有効に活用してくれ」

 

 そう言って渡されたのは爆弾ベストであった。

 

「……! 本気ですか……?」

 

「ふん? 君はこのまま共和国陸軍の猛者たちが聖地解放運動で飼いならされるのを良しとするのか?」

 

「い、いえ。そういうつもりは……」

 

 ローミオンが詰め寄るように尋ね、リンスィールの上官がそううろたえる。

 

「敵の手には何ひとつ渡してはならない。子供のひとりだろうとな」

 

 そう言ってローミオンが見るのはリンスィールだった。

 

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