異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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飛び切りの絵

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 ──飛び切りの絵

 

 

 ユースティスは聖地解放運動の部隊に同行している。

 

 彼女の同行している部隊は、共和国陸軍から人員を取り込むための活動を行っている部隊で、寝返りそうな部隊を探しては自分たちの側に引き入れていた。

 

「やはり食料事情から転向するものが多いな」

 

 ダークエルフたちはもともとは遊牧民だ。あちこちを旅して、家畜を育てながら生活の糧を得る。

 

 しかし、フィリアン・カールの混乱によって遊牧が行えなくなり、彼らは家畜を育てることができず、食料を手に入れる手段を失っていた。

 

 これまで戦いに全力を注いてきた共和国陸軍では、食料はアフシャールのような武器商人頼りになっていた。それが途絶えた今において、彼らが飢えに苦しみ始めたのは当然だといえるだろう。

 

 なので、今もヴァリエンティアから食糧支援を受けている聖地解放運動は食料を与えることを提案して、共和国陸軍の部隊を寝返らせていた。

 

「中隊長殿。共和国陸軍から寝返りたいという部隊が新たに連絡してきました」

 

「よし。向かおう」

 

 ユースティスの同行する部隊は、新しく寝返りを申し出てきた人間への接触に向かう。落ち合う場所は北部山岳地帯に近い場所だ。

 

「油断するなよ。ここは共和国陸軍の拠点に近い」

 

 聖地解放運動と共和国陸軍は今では交戦状態だ。彼らから無警告で攻撃を受けても、文句が言えるような状態ではなかった。

 

「そろそろです」

 

 そう報告が入り、ダークエルフたちは身構える。

 

「連絡のあった部隊がいるようです。どうしますか?」

 

「私が向かう。他はここから援護してくれ」

 

「了解」

 

 部隊の指揮官が自らが、共和国陸軍の部隊に接触しに向かい、他は隠れて援護することになった。ユースティスも隠れた場所からカメラを構える。

 

 共和国陸軍側の部隊は見えている限り、4名だけだ。

 

「子供もいますね」

 

 ユースティスは共和国陸軍の部隊に子供がいることに気づいた。聖地解放運動でも子供兵を補助に使っていたが、共和国陸軍も事情は同じらしい。

 

「諸君。君たちが聖地解放運動へ加わることを望むものたちだな」

 

「そうだ。我々はそちらに加わりたい」

 

「いいだろう。理由は何だ?」

 

 聖地解放運動側の指揮官が共和国陸軍の指揮官に尋ねる。

 

「食料が不足している。そのせいで我々は戦えない」

 

「そうか。ならば、信じるとしよう。我々とともに来るといい」

 

 聖地解放運動側の指揮官がそう言ったとき、共和国陸軍の部隊が目配せするのが分かった。そのことに聖地解放運動の戦士たちが警戒を強める。

 

「撃てえ!」

 

 隠れていた共和国陸軍の部隊が一斉に聖地解放運動部隊の指揮官に射撃し、彼が無数の銃弾によって薙ぎ払われる。

 

「クソ! 騙し討ちだ!」

 

「撃て、撃て!」

 

 隠れていた聖地解放運動側も射撃を開始し、場は瞬く間に戦場になった。

 

「ドローンが突っ込んでくるぞ!」

 

「クソ──」

 

 共和国陸軍の部隊はドローンでも武装しており、FPV型ドローンに爆弾を積んだものが突っ込んできては炸裂する。

 

 しかし、数において優位だったのは聖地解放運動の方だ。彼らは共和国陸軍の攻撃に耐えながら、確実に報復し、彼らを退けていった。

 

「退くな、退くな! 裏切り者たちを殺せ!」

 

 共和国陸軍はいつものように興奮作用のあるドラッグを使っており、それによって高めた戦意で狂戦士のごとく戦う。

 

「迫撃砲!」

 

 聖地解放運動側はさらに迫撃砲も動員し、砲撃を実施。敵を撃破しながら、前方へと前進し始める。それを受けて共和国陸軍も前方に出ていく。

 

「フラアアアアアアアアァァァァァァァァ────────ッ!」

 

 聖地解放運動と共和国陸軍の両方の戦士たちが山刀を手に突撃し、肉弾戦に至る。血が舞い散り、肉が切り落とされ、死が訪れる。

 

「よし。片付いたな……」

 

 勝利したのは聖地解放運動。彼らの周りには共和国陸軍の将兵の死体の山だ。

 

「そこにまだ子供がいる」

 

「子供だろう? 保護しておこう」

 

 そう言って聖地解放運動の将兵が戦場でうずくまっている少年の方に向かう。

 

「君、大丈夫か? 今から安全な場所に──!」

 

 そこで聖地解放運動の人間が気づいた。

 

 少年は爆弾ベストを纏っている。

 

「待て! やめろ! 早まるんじゃない!」

 

 少年はさらに起爆ボタンを手にしていた。

 

 そう、彼はリンスィールだ。共和国陸軍が残したサプライズプレゼント。

 

「これは……!」

 

 ユースティスはその様子をカメラで撮影し続けている。

 

 興奮作用のあるドラッグでぼうっとしたリンスィールの目は、それでも生きたいと望んでいるのが分かった。彼は今も生を望み、未来に希望を持っている。彼は死にたいなどとは欠片も思っていない。

 

 だが、彼の体にはその生を完全に否定する爆弾ベストがあって、外せないように南京錠で固定されている。

 

 何というグロテスクな光景だろうか。

 

 ユースティスは必死になってその様子を撮影し続けた。

 

「ボタンをこっちに渡すんだ。いいね?」

 

 聖地解放運動の人間が必死にリンスィールをなだめるが、彼は応じない。

 

「我々とともにくれば、食べ物はいくらでもある。お腹が減っているんじゃないか? そうだろう? さあ、ボタンを渡すんだ」

 

 リンスィールはじっと周りを囲む人間たちを見る。

 

「頼むから。お願いだ。それを──」

 

 爆発が生じた。リンスィールの体は粉々になり、鉄球を仕込んだ爆薬が爆発。周囲に殺戮の嵐を吹き荒れさせた。

 

「なんてことだ……」

 

 生き残った人間が思わずそう呟く。

 

「これが私の求めていた悲劇……」

 

 ユースティスのカメラにはリンスィールが自爆する瞬間までの映像が、しっかりと残されていた。その様子をユースティスは一度再生して確認したのちに、地面に向けて激しく嘔吐した。

 

 こんなものを私は求めていたのか? こんなグロテスクなものを!

 

 確かに私は衝撃的な絵を求めたが、ここまでとは言っていない!

 

「大丈夫か、ユースティスさん?」

 

「え、ええ。これからどうしますか?」

 

「仲間が多くやられた。我々は一度撤退する」

 

「了解です」

 

 そして、ユースティスたちも撤退することに。

 

 彼女は南東部の山岳地帯でネット環境を整えると、すぐさまリンスィールの絵をG24Nに向けて送った。だが、彼女は返信のメールもろくに見ず、アイナリンド大佐に会いに向かった。

 

「私のここでの仕事は終わりました」

 

「そうか。できることをしてくれたと思っているよ」

 

「……ええ」

 

 そして、ユースティスはアルフヘイムへと戻った。

 

 その後、彼女が送った映像は注目を浴びた。

 

 異世界でありながら、地球と同じように子供が兵士として動員されているということに人々は驚き、その子供が爆弾ベストを纏っているというグロテスクな光景に人々は悲しみを覚えた。

 

 リンスィールの生きたいと望む瞳の輝きも、人々に問題を提起した。

 

 G24Nが公開した情報は、こうして大きな反響を呼び、ユースティスが撮影したリンスィールは『自爆ベストの少年』として有名になった。

 

 ユースティスも一躍有名人になったものの、彼女にはそれを喜ぶ気はなくなっていた。彼女はアメリカに帰国後、アルコールにおぼれ、家に引きこもる生活をするようになってしまったのだ。

 

 彼女は言っていた。

 

『あの少年の顔が、網膜に焼き付いて離れない』

 

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