異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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停戦交渉

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 ──停戦交渉

 

 

 自爆ベストを纏ったダークエルフの少年の映像。

 

 ユースティスが撮影したそれが地球に流出したことで、地球の関心がフィリアン・カールに向き始めた。

 

 大井による強引な開発の事実は、今は隠せているが暴露されるのは時間の問題だろう。これまでユースティスは目立たないながら、フィリアン・カールの情勢を知らせ続けていたのだから。

 

「忌々しいことになった」

 

 司馬はエルディリア事務所にて苦々しそうに告げる。

 

「ええ。厄介なことになりました。地球のメディアは今頃になってフィリアン・カールの開発に問題はなかったのかと書きたてています」

 

「対応は?」

 

「フィリアン・カール内戦の原因はダークエルフとエルディリア政府の自治を巡る問題であって、我が社の開発とは無関係であるという広報対応を繰り返しています。ですが、聖地解放運動が問題になりそうです」

 

 司馬の問いにフォンが答えて、彼がヴァンデクリフトの方を向いた。

 

「聖地解放運動に動きがみられます。恐らくこの機会を逃さずに、我々の開発によって彼らが武装蜂起したのだという、彼らの方針をアピールするものと思われます。アイナリンド大佐はあくまで焦点をフィリアン・カールの鉱山開発に絞っています」

 

「クソ。ここに来て共和国陸軍を弱体化させたツケを払う羽目になるとは」

 

 共和国陸軍がいたときは彼らが問題を都合よくひっかきまわしてくれた。

 

 聖地解放運動がどれだけ問題は鉱山開発にあると訴えようと、今は亡きオロドレスの共和国陸軍は独立を声高に叫び、紛争の焦点がエコー・ワン鉱山に向けられるのを妨げてくれていた。

 

 今やその共和国陸軍は存在しない等しく、まともな聖地解放運動だけが残った。

 

「このままでは我々の開発が原因で戦争が起きたということになってしまう。これを阻止する方法はひとつだ。早期の戦争の終結。これだけだ」

 

 戦争を終わらせてしまえば、地球のメディアがこれ以上フィリアン・カールに注目することはなくなるだろう。戦争を終わらせるしか、問題の悪化を防ぐ手段はないという司馬の意見は正しい。

 

「しかし、どのようにして戦争の終結を?」

 

「聖地解放運動と交渉する。聖地は返せないが、他の金銭的補償ならば行うと」

 

「上手くいくでしょうか……」

 

「いかせなければ、地球のメディアは我々をサンドバッグにすることだろう」

 

 こうして大井は方針転換し、聖地解放運動への譲歩を行うことに。

 

 しかしながら、大井には聖地解放運動への交渉チャンネルが存在しなかった。そのためまずはそれを確保することから話は始まる。

 

 そのためにドローンが空を飛び、聖地解放運動の部隊を捜索する。成層圏プラットフォームたるゆりかもめも動員され、聖地解放運動の拠点を探した。

 

「連中の拠点が分かり次第、爆弾ではなく、軍使を送る」

 

 司馬はそう言っていた。

 

 彼らはあくまで交渉のために聖地解放運動のダークエルフたちを探している。

 

 幸か不幸か近衛第2猟兵連隊がアルフヘイムに撤退しているのも、大井にとって理想的な状況であった。彼らがいれば講和交渉を妨害するのは目に見ている。

 

 そのアルフヘイムでも問題は進行中だった。

 

「アイリアン殿下。いくらなんでも奴隷制を廃止するというのは……」

 

 それはアイリアンが言いだした奴隷制の廃止についての論争だ。

 

 アイリアンは地球の企業が進出を躊躇う理由となっている、エルディリアの奴隷制を廃止したがっていた。奴隷制を廃止しても、地球資本による開発が進めば、アイリアンは十分に恩恵を受けることができる。

 

 それから分裂した共和国陸軍の残党は未だに人身売買で資金を得ているので、それを潰すこともできるのだ。

 

 しかしながら、そのような利益があっても、農奴などの形で奴隷を保有し、自分の領地で働かせている貴族たちは奴隷制の廃止の提案に反発している。

 

 確かに貴族たちも大井から袖の下などを受け取っていたし、加えて言うならば王室が得ていたエコー・ワン鉱山のロイヤルティの分け前も受け取っていた。

 

 だが、彼らは今も主な収入源にしていうのは領地での農業なのだ。

 

「いいか。これから我々はどんどん地球の企業と資本を導入して発展するのだ。奴隷制を廃止してもどうにかなるというのは、奴隷がいない地球が証明している。悪感情しか抱かれない奴隷制などさっさと廃止すべきだ」

 

 アイリアンは宮廷でそう主張を続けていた。

 

 全ての貴族がアイリアンに反対してはおらず、一部の貴族たちはこの意見に賛同していた。そういう彼らは大井の開発でエーミール・ルートなどが通り、領地が発達した人間たちだ。

 

 地球の技術と資本がエルディリアに導入されれば、エルディリアのあちこちにエーミール・ルートのような立派な道路ができ、港ができ、エルディリアの発達とともに自分たちも富むと考えていた。

 

 派閥は今や3つに分裂している。

 

 ギルノールの改革派、アイリアンの開発派、そして女王ガラドミアの保守派。

 

 アイリアンは宮廷での工作を進め、ギルノールもそれに対抗している。だが、保守派には積極的な動きはない。

 

 だが、それでも最大派閥は保守派だ。彼らは絶大な権力がある。何せ、女王ガラドミアがついているからだ。

 

「なかなか上手くいかないものだ。結局は母上が動かなければ、この国の政治は動かないというところだな。全く!」

 

 アイリアンがそう愚痴る相手はスーリオン大佐だ。

 

「殿下。少しばかり不穏な情報を手に入れています」

 

「何だ、大佐?」

 

「ヴァリエンティアとの戦争は終結に向かいつつあるのはご存じでしょうか?」

 

 スーリオン大佐がまずそう尋ねる。

 

「ああ。戦線が膠着したので、話し合いで解決する段階に入ったと聞いているが、それのどこが不穏な情報なのだ?」

 

 エルディリア=ヴァリエンティア戦争はエルディリア軍がリンファリエル川東岸を奪還し、それから川を挟んでにらみ合いが続ているそうだった。

 

 戦線は膠着し、動きそうにないと分かった段階で両国の外交官が行動している。

 

「女王陛下はヴァリエンティアとの戦争が終結するということで、大井に対して行動に出るようです。具体的にはロイヤルティの大幅な引き上げか、事業の撤退かを強いるだろうとのことで……」

 

「馬鹿な! 大井を追い出すというのか!?」

 

 スーリオン大佐の報告に思わずアイリアンが叫ぶ。

 

「落ち着かれてください、殿下。殿下の行動にも原因があるのです。女王陛下は明らかに殿下が反奴隷制を掲げるのを快く思っておらず、殿下にそのような思想を植え付けたのは大井であると思われています」

 

「クソ。そういうことか……」

 

 ガラドミアにとって重要なのは国家の繁栄ではなく、自分の王座が守られること。それを妨害するものがあれば、たとえ莫大な利益をもたらしてきた大井であろうと排除されるだろう。

 

「まさかここにきて兄上と母上の意見が一致するとはな。ともに大井を追い出そうというわけだ。これまで莫大な収入をもたらしてくれた金の卵を産むニワトリを、目障りだからという理由で追い払うと」

 

 愚かしいとアイリアン。

 

「大佐。我々は何かしらの対策を取らなければならないぞ。大井が出ていけば、他の地球資本も逃げ出してしまう。そうなれば我々は破産だ」

 

「ええ。政治的な働きかけは必要であるかと」

 

「それはその通りだ。だが、それ以外にも備える必要がある」

 

「それ以外……」

 

 スーリオン大佐がその意図を知って冷たい汗を流すのにアイリアンは黙ったまま、じっとスーリオン大佐を見ていた。

 

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