異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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譲歩と妥協

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 ──譲歩と妥協

 

 

 大井が聖地解放運動を相手に交渉の窓口を持つことができたのは、あの映像の報道から大体7日後のことだった。

 

 大井は法務部の弁護士と太平洋保安公司の護衛を送り込み、講和の準備があることを聖地解放運動側へと通達した。

 

「大井が講和を持ち出してきた」

 

 アイナリンド大佐が部下たちに告げる。

 

「まさか。信用できません!」

 

「そうです! また何かの罠に決まっています!」

 

「応じるべきではありません!」

 

 部下たちは一斉に猛反発する。

 

 大井はこれまで汚い手を使ってきた。彼らが警戒するのは、過剰反応などではなく、当然の反応だった。

 

「だが、我々とて永遠には戦えない。ヴァリエンティアはもうすぐエルディリアと講和するそうだ。決定的な勝利や敗北があったわけではない。疲弊しきったからだ」

 

 エルディリア=ヴァリエンティア戦争は戦線の膠着と両軍の疲弊が、講和に向かう理由となり始めていた。近代的な戦争のもたらした被害は甚大で、経済的、人的損害はこれまでの戦争が子供の喧嘩に思えるほどだ。

 

「そうなればヴァリエンティアから我々への支援も途切れるだろう。我々はまた弓と魔術で戦うということになってしまう。だからこそ、我々も講和について考えなければならないのだ」

 

 ヴァリエンティアが疲弊しきってエルディリアと停戦すれば、ヴァリエンティアはエルディリアとすぐに敵対することは避けたいだろう。開戦の口実にされるようなことも避けるはずである。

 

 つまりはヴァリエンティアがダークエルフたちを支援することに後ろ向きになるということ。それがアイナリンド大佐が危惧していることであった。

 

「よって私は大井の軍使を受け入れ、講和の条件を探りたい。それでいいだろうか?」

 

「大佐殿の決定であれば従います」

 

「ありがとう」

 

 聖地解放運動の主力は元デックアールヴ旅団の将兵だ。彼らはアイナリンド大佐への敬意と忠誠を持っていた。

 

 そして、アイナリンド大佐が軍使の受け入れを決定してから、ことは動き出した。

 

「交渉チャンネルはこれでできたのだな?」

 

「はい。聖地解放運動は我々と話し合う準備があり、まずは停戦を申し入れています」

 

 エルディリア事務所にて司馬が確認するのに、法務部のホンダが報告。

 

「停戦に文句はない。すぐさま太平洋保安公司に敵対行動の停止を」

 

「はい。しかし、従来の護衛(エスコート)などの業務は続ける必要があるかと」

 

「それはいいが、交戦は可能な限り避けてほしい。ここに来て無駄に問題をこじらせたくない。我々には平和が必要だ」

 

 ヴァンデクリフトの発言に司馬はそう求めた。

 

 彼らはこうして停戦し、話し合いの準備が始められた。

 

 結果を急ぐ司馬は自らが交渉に向かう意欲も示しており、彼はそうであるからにして、アイナリンド大佐と直接対話することを求めていた。

 

 だが、軍事的な敵対状態にあった大井と聖地解放運動のトップがいきなり会談するのは難しく、まずは会談のための会談が行われ、条件を固めていく作業が進む。

 

 そうして、ようやく両陣営のトップである司馬とアイナリンド大佐の会談が実現にこぎつけたのであった。

 

 司馬はパワード・リフト機で南東部の山岳地帯付近にある、古いエルディリア軍の城塞を訪れた。彼を警護するのは事前に通知していた太平洋保安公司の1個小隊のみだ。

 

「相手はまだ来ていないのか?」

 

「ドローンがこちらに向かっているのを捉えています。罠ではないでしょう」

 

「だといいのだが」

 

 司馬は待った。

 

 それから馬で聖地解放運動が馬でやってきた。騎乗したダークエルフたちの数は12名。ちゃんと事前に通知されていた規模を超えていない。

 

「久しぶりだな、司馬」

 

「まずは交渉に同意してくれたことに感謝する、アイナリンド大佐」

 

 アイナリンド大佐が下馬して司馬に挨拶し、司馬はそう切り出す。

 

「我々としても平和を望んでいる。これ以上いがみあっても得るものはないだろう」

 

「平和を望むという点では我々も同意するし、そちらの合意が得られるよう譲歩もするつもりだ」

 

 ここにきてようやくダークエルフと大井は譲歩しあうことに。

 

「しかしながら、譲れないのはエコー・ワン鉱山の閉山だ。それだけは不可能だ。他であれば移住政策の停止やエルディリアによるダークエルフの迫害停止、これまでの損失に対する金銭的補償は行える」

 

「聖地は諦めろ、と」

 

「分かっていることだろう。そちらにとっても」

 

 大井がエコー・ワン鉱山を明け渡すはずがないというのは、アイナリンド大佐にも分かっていた。エコー・ワン鉱山はギルノールから聞く限りでも、あまりにも膨大な利益を生み出しているのだから。

 

「では、聖地に関しては我々が譲歩しよう。エコー・ワン鉱山に小規模な礼拝施設を併設してくれるだけでいい。エコー・ワン鉱山の閉山などは求めない」

 

 アイナリンド大佐も現実を見て、そう譲歩。

 

「お互いにこうも話が通るなら最初から話し合うべきだったな」

 

「血が流れたからこそ、こうして話し合えるのだ」

 

 司馬が言い、アイナリンド大佐は真剣な表情でそう述べた。

 

 それから金銭的な補償についてや、フィリアン・カールにおけるダークエルフに自治の回復などについて話し合いが行われた。

 

 そこで問題になったのは、エルディリア政府の反応だ。

 

 エルディリア政府は今になってダークエルフの自治など認めるものだろうか?

 

「エルディリア政府には我々から説明をし、納得してもらう。彼らも無駄に内戦をやって、疲弊することは望まないだろう」

 

「しかし、連中と我々は今は完全に決裂している。下手に自治を任せれば、分離独立に動くことを警戒されるのは当然だと思うが、その点にも対処できるのか?」

 

 司馬はそうアイナリンド大佐に提案したが、彼女はそう疑問を呈する。

 

「エコー・ワン鉱山は我々とエルディリア政府の契約の下で開発されている。我々がその点を翻さない限り、エルディリア政府はフィリアン・カールが分離独立すると、そこまで懸念はしないはずだ」

 

 大井がダークエルフたちに自治を与えることに賛成しても、大井はエルディリアとの契約を変更しない。エコー・ワン鉱山はあくまでエルディリア領内のものであり、フィリアン・カールはエルディリア領であるという見解に変更はないのだ。

 

「そうであるといいのだが」

 

 アイナリンド大佐は一部納得はしたが、これまでのエルディリア政府の強引な手法を考えると、そこまで楽観的にはなれなかった。

 

「では、我々はエルディリア政府を説得する。交渉の続きはそれから」

 

「ああ」

 

 一度司馬とアイナリンド大佐は別れ、司馬はエルディリア事務所へと戻った。

 

 それから司馬はすぐにアイリアンへと接触。

 

「フィリアン・カールの内戦は終結する可能性があります」

 

「本当か? それはいい知らせだが……」

 

 永遠に続きそうだったフィリアン・カールの内戦が突如として終結するかもしれないという司馬の報告に、アイリアンは期待を見せながらも、疑問も抱いていた。

 

 何故突然に?

 

「ダークエルフたちはエコー・ワン鉱山に含まれる聖地返還については取り下げ、我が社からの金銭的補填とフィリアン・カールにおけるダークエルフの自治を求めています。それがなされるならば、戦闘を完全に停止すると」

 

「フィリアン・カールの自治か。それはまた面倒だな」

 

「彼らが分離独立をすることを恐れているならば、それは無用の心配です。フィリアン・カールのエコー・ワン鉱山は引き続き我が社とエルディリアの契約の下で、開発が続けられるのですから」

 

「私は大井のやることをさほど警戒していないよ。お前たちには確かな信頼を持っている。しかし、だ。他の人間たちはダークエルフ問題について、やや穿った見解を持っているようなのだ」

 

 アイリアンは司馬にそう語った。

 

「宮廷の一部は猛反発するだろう。宮廷の一部はお前たちが利益だけではなく、間違った考えも持って来ていると考えている。女王陛下はその点に不満をお持ちだ」

 

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