異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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宮廷内政治

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 ──宮廷内政治

 

 

 大井が持ち込んだフィリアン・カール内戦の調停案について、エルディリア宮廷はもめにもめ始めていた。

 

「ダークエルフに自治を与えるなど! 連中はさらなる反乱を企てているはずです!」

 

「そうだ! そのようなことは絶対に許してはならない!」

 

 女王ガラドミアの保守派は、フィリアン・カールにおけるダークエルフの自治の回復ということに猛反発。一度王室に歯向かったダークエルフに自由を与えれば、それは反乱の準備期間となると考えた。

 

「そもそもアイナリンド大佐は軍法会議で下された刑罰から不当に逃亡している! そのような人間をトップに据えた組織と交渉するなど言語道断!」

 

 アイナリンド大佐が刑務所から脱獄していることも、反発を買う原因であった。

 

 保守派はこのように調停案にとって重要なフィリアン・カールの自治を否定。

 

 またこれとは逆にフィリアン・カールにおけるダークエルフの譲歩に危機感を覚えたのは、ギルノールの改革派だ。

 

「これによってフィリアン・カールにおける大井の支配は固定化するだろう」

 

 ギルノールは側近たちにそう語る。

 

 資源の呪いという現象を恐れているギルノールたちは、エコー・ワン鉱山の閉山はないにしても、事業規模の縮小は望んでいた。大井の影響力は日に日にエルディリアにおいて無視できなくなっており、彼らは一企業がエルディリアを牛耳ることを恐れている。

 

 その点において、これまで水と油だった保守派と改革派の意見が一致した。

 

 彼らは大井の事業縮小か撤退こそが、エルディリアの利益になると結論したのだ。

 

 しかし、これに反発するのはアイリアンたちだ。

 

 アイリアンは既に保守派の庇護を得ておらず、彼は彼独自の開発派閥を率いていた。彼らは大井と地球企業の撤退はエルディリアの滅亡を意味すると考えている。

 

 このような意見が分かれる中で、司馬はアイリアンとの接触を続けていた。

 

「殿下。エルディリア宮廷は結論を出しましたか?」

 

「結論は出るだろうが、それはお前たちにとっていい結論ではないかもしれない。下手をすると私も政治生命が断たれる結論となるだろう」

 

「まさか。我々との契約を破棄するような?」

 

「まさにその通りだ」

 

「なんということだ」

 

 アイリアンが苦々しげに告げる言葉に司馬が呻く。

 

「保守派と改革派の両方にとって、今は大井と地球企業は邪魔者になった。古き良きエルディリアを再びというわけだ。愚かしい限りだが」

 

「殿下の安全は保たれているのですか?」

 

「今のところは。スーリオン大佐の近衛第2猟兵連隊の兵士を護衛にしている」

 

 この状況でアイリアンまで失うことは避けたい司馬の問いにアイリアンがそう言った。彼は近衛第2猟兵連隊の訓練された将兵を護衛にし、暗殺に警戒していた。

 

「……エルディリアにとって我々の撤退は不利益にしかならないでしょう。そのことを理解しておられるのは殿下のみ。ここはひとつ殿下に手で国を救いませんか?」

 

「司馬。まさかお前は……」

 

「ええ。クーデターをやりましょう」

 

 司馬はそう静かに提案した。

 

 司馬にとっては保守派を借りに説得できたとしても、次の国王は大井を憎むギルノールだ。今の継承順位が揺らがない限り、将来において必ず問題が生じることを、彼は認識していた。

 

 だから、邪魔になったガラドミアもギルノールも排除する。クーデターによって。

 

「……詳しい話を聞こう」

 

 アイリアンは声を落としてそう尋ねる。

 

「近衛第2猟兵連隊を中心とした部隊は、少なくとも他のエルディリア軍部隊には敗北することのない装備を持っております。それに加えて太平洋保安公司が支援すれば、エルディリア政府の制圧は容易でしょう」

 

「太平洋保安公司も我々を支援してくれるのだな?」

 

「もちろんです。我々も支援しましょう」

 

 アイリアンの確認に司馬は頷く。

 

「粛清のリスト作りが必要になってくるな。それからクーデターへの根回しも」

 

「協力しましょう。殿下がエルディリアを救われるのです」

 

「ああ。私がやらなければならない」

 

 こうしてアイリアンによるクーデター計画が発足した。

 

 クーデター計画はエルディリア事務所内でも内密にされ、それを知るのは司馬とヴァンデクリフトのみである。

 

 ヴァンデクリフトはエルディリア政府と軍内部の情報収集を進め、集めた情報を分析して司馬に報告。司馬はそこから一部の情報をアイリアンへと渡していた。

 

 アイリアンは自分のクーデターとクーデター後の体制に邪魔な人間のリストを作っていき、それらを粛清リストとした。

 

「近衛第2猟兵連隊の忠誠は間違いなく殿下に向けられております」

 

「よろしい、スーリオン大佐。お前の地位も私が保証しよう」

 

「ありがたき幸せ」

 

 スーリオン大佐もアイリアンへの忠誠は揺らいでおらず、アイリアンのための汚れ仕事をやることに同意していた。

 

 計画の具体案は徐々にできていた。

 

 まず重要なのは海外に王族が逃亡することを絶対に避けること。逃亡した王族を使って領地の請求などの行われ、それが戦争の引き金になるのは望ましくないのだ。

 

 よって、王族はアイリアンに忠誠を誓うもの以外は全員を排除する。

 

「女王、ギルノール、そしてそれらに親しい王族は排除だ」

 

 アイリアンは粛清のリストを作成しながらそう言う。

 

 実の母である女王や実の兄であるギルノールは、もはやアイリアンにとって敵でしかない。彼は容赦なく彼らを排除するつもりであった。

 

「アルフヘイムを一時的に封鎖する必要がありますね」

 

「ああ。アルフヘイムを封鎖し、王宮を制圧。誰ひとりとして逃がしてはならん」

 

 スーリオン大佐が言い、アイリアンが頷く。

 

 彼らのクーデター計画は複数の目標の制圧を計画していた。

 

 ひとつ、軍部隊の制圧。軍務大臣と軍司令官を拘束し、軍が動かないようにする。

 

 ひとつ、政治機能な制圧。宰相クーリンディアを始めとする政治家たちを制圧し、彼らが海外に助けを求めたり、クーデター政権に対抗する政権を発足させるのを防ぐ。

 

 ひとつ、粛清リストに名のある人間の確保。これは言うまでもない。

 

 政治と軍事を制圧することによって政府をマヒさせ、その隙に自分たちが政権を樹立する。一度王宮を制圧して正統性を構築すれば、あとは多少強引な手を使おうが、どうにかなるというのがアイリアンたちの見込みだ。

 

「慎重かつ大胆にやらねば。装備の質において我々は他の軍部隊を圧倒してる。大井の増援もあれば戦闘で負けることはない。あとは指定された目標を逃さないということに注意するだけだ」

 

 クーデター計画は着々と進み、保守派も改革派もこのことに気づいていない。

 

 ただ、このことに気づいている人間が宮廷にもひとりだけ存在した。

 

「アイリアンお兄様」

 

「どうした、エアルベス」

 

 クーデター計画を進めるアイリアンに接触してきたのは第一王女のエアルベス。

 

「お兄様の企てに私も加えてもらえないかと思いまして」

 

「……何のことだ?」

 

「またまた。分かっているのですよ。最近スーリオン大佐とあまりにも多く接触していますし、近衛第2猟兵連隊はアルフヘイムに戻されている。となると……」

 

「待て。分かった。ここでは言うな」

 

「はい。それで加えていただけますか?」

 

 アイリアンは考える。

 

 エアルベスは特に政治的な地位になかったため、粛清リストにも名が乗っていない。彼女を加えても特にクーデターに影響は出ないだろう。

 

「いいだろう。だが、このことはくれぐれも口にするな」

 

「ええ」

 

 アイリアンの言葉にエアルベスはにっこりと笑って見せた。

 

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