異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

8 / 76
とりあえず投稿できるのはここまでです。


捕虜返還

……………………

 

 ──捕虜返還

 

 

 オロドレスたち捕虜は結局のところ、14日間に渡って法的な根拠もなく拘束された。

 

 民間軍事会社(PMSC)のコントラクターたちは、最初の数日は攻撃に関する情報を得るためにかなりきつい尋問を行ったが、特に組織的な攻撃の動きがないことが判明してからは尋問を繰り返すことはなかった。

 

 しかし、捕虜たちは武装解除された際に先祖から受け継いできた山刀や弓を奪われ、衣服も奪われてオレンジ色のつなぎを着せられていた。このことにオロドレスたちは強い屈辱を覚えていた。

 

 フィリアン・カール総督ファレニールから捕虜返還の準備ができたと連絡があったのは、この14日後のことである。

 

 捕虜返還前に太平洋保安公司側はコントラクターを20名に増員。指揮官の川内は引き続きダークエルフの動向に注目し、今後を判断するとしていた。

 

 そして、捕虜返還はファレニールが指定した今はどの部族も暮らしていない場所にある丘で行われることに。

 

「我々はあくまで過失はダークエルフたちにあるとしているため謝罪などは行わない。それが重要だ」

 

 司馬は捕虜を乗せたトラックを含めた民間軍事会社(PMSC)の車列における軍用四輪駆動車1台に乗り込んで、彼自ら捕虜交換の場に向かっていた。車に同乗しているのは川内と法務部門の責任者ホンダだ。

 

「しかし、向こうはそれでは収まらないでしょう。そのようにファレニール閣下も言っていたのでは?」

 

「もちろん謝罪以外のことはする。こちらから現地住民への寄付として馬を6頭送る。ようやく国連がうるさい検疫を通った馬だ。私は馬について詳しいわけではないが、それなりの金額ではあった」

 

「謝罪に付随する賠償ではなく、あくまで寄付であると」

 

「そう。我々に一切の過失はないのだ。謝罪も賠償もしない」

 

「分かりました」

 

 司馬から説明を受けたホンダが頷く。

 

 司馬はエルディリア政府から調査の許可を得ているという点を重視していた。この土地を所有しているのはエルディリア政府であり、エルディリア王族であり、決してダークエルフではないのだと。

 

 仮にもし、ダークエルフと彼らの部族評議会を取引に含めるとなると、下手をすればエルディリア政府と部族評議会の二重契約になる。それは不味い。

 

 もう既にエルディリア政府との契約が成立している以上、この契約を盾に断固とした態度で臨むしかないのだ。

 

「そろそろだ」

 

 先頭を走る太平洋保安公司の軍用四輪駆動車が速度を落とし始めた。

 

 と、同時に丘の上に伝統的なダークエルフの装束を纏った部族評議会の面々が見えてきた。彼らは弓や山刀で武装した戦士たちを連れている。

 

「クソ。アルファ・リードより全ユニットへ。警告する。部族評議会側は武装した人員を配置している。警戒せよ」

 

『了解』

 

 いくら太平洋保安公司側が自動小銃で武装しているとしても、相手に先手を打たれれば弓矢でも十分に護衛対象やコントラクターを殺害できる。

 

 故にここで太平洋保安公司側は警戒を強めた。

 

 小型ヘリに乗った狙撃手はいつでもダークエルフの戦士たちを狙撃できるように銃を構え、無人銃座(RWS)にマウントされた重機関銃もいつでも射撃可能とされた。

 

「トラブルか、川内?」

 

「ええ。相手が武装しているとは聞いていない」

 

「こちらも武装しているんだ。仕方ないだろう」

 

 川内が苦言を呈するのに司馬は肩をすくめてそう言う。

 

「アルファ・リードより全ユニット。これから護衛対象が降車する」

 

 そして、ついに司馬たちは捕虜返還のために部族評議会を前にした。

 

「おほん。ここに女王ガラドミア陛下よりフィリアン・カール王室属領総督に任じられし、カリスウェル伯ファレニールが大井エネルギー&マテリアルと部族評議会の間で生じた、不幸な事件についての仲介を行う」

 

 ファレニールにも司馬たち大井を司法として裁く権利はない。彼はよってあくまで解決の仲介という立場を取った。

 

 本来の契約では紛争事項が発生した場合には、東京地方裁判所がその解決を管轄することになっているのだが、その対象はあくまで大井とエルディリア政府であり、ダークエルフと部族評議会は対象外だ。

 

「大井エネルギー&マテリアルは捕虜としたダークエルフを即座に返還すると提案している。部族評議会はこれを受け入れ、これ以上の騒ぎを起こすことは避けるべきであろう。両者ともに、どうか?」

 

 ファレニールはそう言って司馬と部族評議会に尋ねた。

 

「大井としては即座に捕虜を返還し、この問題は解決としたいため同意する」

 

「部族評議会としては受け入れられない」

 

 ここで真っ向から意見が割れた。

 

「それは何故か議長ギルサリオン?」

 

 ファレニールはそう言って人間にして70歳ほどの老齢のダークエルフを見る。褐色の肌にミリリエスの部族に属することを示す黄色い塗料で印を塗った男性だ。

 

「このものたちは我らが同胞たちを痛めつけただけではなく、我らが聖地に踏み込もうとしていたのだ。それを話し合わずして、この問題の解決はあり得ない」

 

 その老齢のダークエルフであり、部族評議会の長ギルサリオンはそう主張した。

 

「聖地?」

 

 ここで司馬は怪訝そうな顔をし、ファレニールすら首をひねった。

 

「そう、我々の聖地である霊山だ。あそこに立ち入ろうとしたのを防ぐために、3名の戦士たちは虜囚の身となったのだ」

 

「つまり、我々の事業を妨害するために接近したことは否定しないのだな」

 

「否定はしない。霊山は我らが聖地。その霊山がよそ者によって穢されるのを防ぐためにならば部族全員が戦おう」

 

 司馬が確認するのにギルサリオンはそう宣言。

 

「ごほん。聖地に関する問題はのちに協議するとして、まずは捕虜の返還を実現してはどうだろうか?」

 

「同意する。我々は我々のエルディリア政府との契約に基づく事業を妨害しようとした、いわば犯罪者ともいえる人間が、部族評議会側で裁かれることを期待して、ここで捕虜を引き渡す」

 

 ファレニールがそう提案し、司馬は川内に指示。

 

 オロドレスたち捕虜がオレンジ色のつなぎのまま太平洋保安公司のコントラクターたちによってトラックから降ろされ、部族評議会側に引き渡された。

 

「捕虜の返還はなされたことを、このファレニールも見届けた。では、聖地に関する協議については追って連絡をする。以上である」

 

 ファレニールはそう言ってこの捕虜返還の場を閉めた。

 

「よく戻ってきた、戦士たちよ」

 

 部族評議会側は帰ってきた捕虜を労い、彼らの家族が涙を流して出迎えている。それを見届けずして早々に司馬たちは軍用四輪駆動車に乗り込んでいた。

 

「不味いですよ、司馬さん。宗教問題になりそうです」

 

「我々のスタンスは変わっていない。王国政府こそこの土地の正式な所有者であり、我々はその所有者から許可を得ている」

 

「ですが、地球でもダコタ・アクセス・パイプラインでネイティブアメリカンと揉めたこともありますし、このまま押し通せるとは……」

 

「ホンダ。今回のケースはそれとはまったく異なる。我々には正統性があるし、政治的な後ろ盾もある。今日明日にいきなりエルディリア政府が今の意見を翻すようなことはないんだ」

 

「確かに政権交代による変動のリスクは低いですが」

 

「まあ、形だけでもアリバイは作るべきかもしれない。住民説明会の準備を。我々はこの土地を調査する法的な権限があり、彼らはそれを認めるべきだと。法律用語の分からない連中にも分かるように説明するんだ」

 

「了解です」

 

 司馬の提案にホンダが頷き、早速エルディリア事務所に連絡を入れた。

 

「いざとなれば機関銃と装甲車で退去させるしかない」

 

……………………

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。