異世界で資源を開発する話。 ~いかにして地球企業は異世界を征服するに至ったか~   作:第616特別情報大隊

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もう10日ぐらいは不定期更新です。申し訳ない。


住民説明会

……………………

 

 ──住民説明会

 

 

 大井エネルギー&マテリアルは調査予定地域の住民に向けた説明会を開くと告知した。それは総督ファレニールを介して部族評議会側に伝わった。

 

「やつらは聖地に立ち入るのを諦めたのでしょうか?」

 

 その通知を聞いた部族評議会のダークエルフのひとりが議長ギルサリオンに尋ねる。

 

「その可能性はある。だが、総督のファレニールとしてもここ数年で赴任したばかりで、かつ我々を野蛮人と密かに笑い、我らの文化を知ろうともしなかったものだ。そのような男を抱き込んだ大井というのは信頼できん」

 

 ギルサリオンはそう言った。

 

「しかし、大井は戦士たちを拘束した詫びとして馬を差し出しましたよ」

 

「あれは詫びではないと言っていた。『企業から地方自治体への善意による寄付』と言っていたか。あくまで戦士たちを辱めたことや聖地に無断で立ち入ろうとしたことについて謝罪するつもりはないようだ」

 

 司馬が用意した馬6頭は部族評議会に引き渡されたが、司馬を含め大井側は一切謝罪や賠償の言葉を口にすることも、文章にすることも避けた。

 

「我らシルヴァリエンの部族の戦士たちを辱めた報復をすべきとの声が、若い戦士たちの間で広まっている。このままでは若者たちが独自に行動を始めるだろう。部族評議会は弱腰ととられないようにすべきだ」

 

 そういうのはシルヴァリエンの部族の指導者で、彼の部族に属するオロドレスたちは帰還するやいかように自分たちが侮辱されたかを語り、その話を聞いた若い戦士たちは怒り心頭という様子だ。

 

「なし崩しに戦争になることは避けねば。今は我々が祖先が勝ちとった平和なのだ」

 

 このフィリアン・カールとそこに暮らすダークエルフたちがエルディリア王国に下るまでには、長い歴史があった。

 

 ダークエルフたちは古来からずっとフィリアン・カールに暮らしていたわけではない。彼らはこのフィリアン・カールを民族的、宗教的な聖地としながらも、今のエルディリアの版図を含めた広い地域を遊牧民的に移住しながら暮らしていた。

 

 そして、時が過ぎエルディリア王国が成立すると、彼らとの戦争が起きた。領内の土地の所有者を明確に定めたエルディリアに対して、ダークエルフたちは自分たちが遊牧を行ってきた場所だと反発したことがきっかけだ。

 

 最初のころの戦争は、強力な騎兵を有するダークエルフたちが優位であった。しかし、人口は圧倒的にエルディリア側が多くあり、さらに時代が過ぎれば工業力の面でも差がつき始めた。

 

 何度もの戦争でダークエルフたちはその勢力圏を削がれながら、徐々にフィリアン・カールへと追い詰められていった。

 

 そして、フィリアン・カールを巡る血まみれの戦いが起きた。

 

 ダークエルフは自分たちの聖地を渡すまいと徹底して抵抗した。エルディリアも夥しい戦死者を出し、王たちは征伐を繰り返したが、失敗し続けた。

 

 その結果、エルディリアはダークエルフたちと交渉をし、ダークエルフが兵役を務めることで王国臣民として認め、彼らの聖地フィリアン・カールはエルディリア王室の保護するところとなったのだ。

 

 このような血まみれの歴史があり、さらにはエルフ、ダークエルフという長命な種族だからこそその記憶は新しくある。そのため部族評議会では、ここで大井と彼らと契約したエルディリア政府を敵に回した戦争をすることは避けるべきという意見が強い。

 

「若者たちの説得は部族評議会の役目。何としても無計画な戦争は避ける。この住民説明会という場で我々の立場を明らかにし、明確に聖地への立ち入りを拒否することで、部族評議会は決して弱腰ではないと示す」

 

「承知した。そのようにしよう、議長ギルサリオン」

 

 こうして部族評議会は住民説明会に臨むことに。

 

 住民説明会は保安上の観点から、ファレニールが有する農場で行われることになり、大井と太平洋保安公司は準備を進めていた。

 

「ヴァンデクリフト。聞きたいことがある」

 

 現地には司馬やホンダの他に保安部門のリーダーであるヴァンデクリフトもいた。

 

「何です、司馬?」

 

「もし、部族評議会と全面対立した場合、我々は採掘を諦めなければならないか?」

 

「それはどういう意味です? 法的に、倫理的な問題を考慮しておられるので?」

 

「いいや。純粋な軍事力とそれにかかるコストの観点からだ」

 

 つまり司馬は部族評議会と戦争をした場合でも軍事的に勝利でき、かつ採算は取れるのかとヴァンデクリフトに尋ねているのだ。

 

「全面戦争になった場合ですか。いろいろと考えてはありますが、まず我々が矢面に立たないことが重要かと」

 

「矢面に立つにはエルディリア政府か」

 

「ええ。エルディリア政府に我々との契約を守るように訴え、彼らをダークエルフたちに対する立ち退きを含めた法的措置の実行役とします」

 

「悪くないアイディアだ。具体的な計画をホンダと考えておいてくれ」

 

「了解です、ボス」

 

 エルディリア政府を上手く使って住民の不満をそちらへ運ぼうという計画が、ここからスタートしていく。

 

「住民説明会開始まで間もなくです」

 

 そこでホンダがやってきてそう告げる。

 

「ぬからずやろう。警備に問題は?」

 

「問題は報告されていません」

 

「よろしい」

 

 今回の太平洋保安公司が警備に当たっている。彼らは小型ヘリで上空を飛び、牧場の周辺にAI制御のドローンを周囲に飛ばし、さらには銃火器で武装したコントラクターをあちこちに配置してた。

 

 そして、そんな牧場に設置された住民説明会の会場にダークエルフの部族評議会の構成員たちが集まっている。

 

 白いシルヴァリエンの部族を示す印。赤いナライオンの部族を示す印。黄色いミリリエスの部族を示す印。それぞれがそれぞれの部族を示す印を褐色の肌に塗料で付け、彼らは厳めしい顔をして住民説明会が始まるのを待っていた。

 

「では、これよりフィリアン・カール王室属領における我が大井エネルギー&マテリアルの事業についてご説明いたします」

 

 そう説明を始めるのは司馬でもホンダでもなく、広報部門のダニエル・フォンだ。フォンはARデバイスを持たないダークエルフたちのために、昔ながらのプロジェクターを使って資料を展示した。

 

「我々大井エネルギー&マテリアルはエルディリア政府の許可を得て、このフィリアン・カールに埋蔵されているレアアースについての調査を行っております。レアアースとは金・銀・銅とは異なる貴重で価値のある資源です」

 

 レアアースについて詳しく説明しても、この世界の住民には理解できないとして、大井が何を目的としているかは簡単に説明された。

 

「この調査はフィリアン・カールの図に示す地域で行われる予定ですが──」

 

「聖地が含まれているぞ!」

 

 プロジェクターが地図を表示するのに部族評議会のひとりが叫んだ。

 

「やはり聖地を侵すつもりなのか!」

 

「出ていけ!」

 

 部族評議会側から猛烈な反発が生じ、フォンはどうしたものかと司馬の方を見る。

 

「まだこれは予定です、皆さん。あなた方に配慮して別の地域の調査に移る可能性もあります。我々もあなた方の信仰を侵害することは望んでいません」

 

 司馬はマイクを取ってそう約束した。

 

 そこで太平洋保安公司のコントラクターたちが突然動き出した。

 

「どうした、川内?」

 

「さきほどドローンがこの牧場に接近する武装した騎馬集団を確認した。すぐに退避することを勧告する」

 

「また間の悪い時に……」

 

 太平洋保安公司の川内が警告し、司馬は苦々し気な表情を浮かべた。

 

「保安上の問題が生じたため、説明会は打ち切らせていただきます。ご出席いただきありがとうございました。のちほど希望者には資料を送付させていただきます」

 

「待て! まだ聖地に関する問題が解決したわけではないぞ!」

 

「失礼します」

 

 司馬の指示を受けてフォンは一方的に住民説明会を打ち切り、スタッフは太平洋保安公司のコントラクターに護衛されて会場となっているファレニールの牧場を去る。

 

 そののちにやってきたのはオロドレスたち若い戦士たちで、彼らはやはり住民説明会の場で司馬たち大井のスタッフを攻撃しようとしていたことが分かる。

 

 交渉は今は決裂状態だ。

 

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