いつの間にか青い海の上にいた。立っている訳では無くボートの上だ。さっきまでクソブラックな会社にいたはずなのに・・・。
『それは君が死んだからだ。不運君。』
「不運君?・・・なに、そのあだ名。」
「文字通りさ。小学校へ入学前に親が他界、その後引き取られた親族からの嫌がらせ及び虐待と学校でのイジメ。必死こいて高校卒業をしたと同時に日本で最もブラックとされる場所への就職、その後の奴隷扱い。これを不運と言わずなんと言う?」
「・・・まあ、聞いただけでも不運極めてるな。んで、なんで手漕ぎボートの上?」
『何となくさ。最近、下界の映画にハマっていてね。特に海賊物は面白かったから。』
「へぇ〜。んで、あんた誰?今更だけど。」
『僕は転生課に所属する神様だよ。これでも部長をやってるんだ。本来なら新人に任せる案件だけど、単純に気になったから私直々に見に来たって訳。』
「そいつはいい。んで、俺はどっちに行くの?天国?地獄?まさか出戻りなんて事は無いよな?」
『当然。そんなの面白くない。とりあえず呑みながら話でもしようか。コイツは天界でも値の張る酒だ。』
そう言って渡された瓶を開けて中身を呷るとラム酒の味がする。中身は透明なのに完全にラム酒だ。それに死ぬほど美味い。
『さて、ここからは仕事の話だ。異世界転生は知ってるかい?』
「まあ、ちょっとは。特典?とか言うやつを貰って好き放題するあれだろ?」
『そう、それだ。君にはそれをしてもらう。理由は抽選で選ばれたから。』
「そりゃいいね。で?特典ってやつは何が貰えるの?」
『それは君の決める事だ。強さでも賢さでもなくでも。』
「・・・マジで?個数も無限?」
『出来るだけ叶えよう。君の不運な人生に掛けて。』
「んなもん掛けんな。・・・まあ、とりあえずはジャック・スパロウの運が欲しい。次にジャック・スパロウの持ってたコンパス。」
『いいね。他には?』
「パイレーツ・オブ・カリビアンの黒ひげの持ってた剣。船だけでなく無機物を操る呪いを掛けてくれ。」
『奴隷として働いてた割には詳しいね。どこでそれを?』
「どうせ見てたんだろ?同僚や先輩が話してるのが聞こえたんだよ。それと、パイレーツ・オブ・カリビアンで出てきた全ての船を瓶詰めで欲しい。ブラック・パールやアン女王の復讐号、フライング・ダッチマンも含めて。」
『強情だが嫌いじゃない。他には?』
「物を交換する能力が欲しい。平等は無し。相手の物は神様ですら逆らえない程の物でも関係無し。」
『面白いね、君。てっきり無双したいと言うのかと思ったよ。分かった、授けよう。まだあるかい?』
「戦闘経験を積みたい。出来るだけ多く。後、酒。」
『分かった。以上かな?』
「以上だ。」
『なら、君の新たな人生に祝福を。』
俺は神様とグラスを掲げて飲み干す。飲み干した所で視界が暗闇へ変化した。
だが身体が上手く動かないし何も聞こえない。なるほど、俺は騙された訳だ。まあいい。欲しいものも適当に言っただけだしな。それにこの浮遊感も悪くは無い。
それに、こんなゆったりした時間は初めてだ。いつまでも揺られていたくなる。だがその瞬間は唐突に終わった。硬くも柔らかい何かに着地した。なんだよ、楽しんでたのに。
真っ暗だった視界に突如として映像が流れてきた。映画か・・・?映画館には行ったことは無いが、映画自体は何度か見た事がある。片手で数えられる回数だけど。
そして始まったのは正しく海賊映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』。目的は分からないがどうせ暇なんだ。見てみるとしよう。